第51話 宝の山



 そう思っているのに、剥き出しの好意を真っ正面から向けられてしまうと、恋愛に関しては耐性がないせいもあって、すぐに彼のペースに巻き込まれてしまう。

 それに、好きな人にされるお願いは思った以上に嬉しく、抗うのが難しいのだ。くすぐったい気持ちになるが、これではいつまで経っても進めない。


(いけませんわ……わたくしがしっかりしませんと。二人きりに拘っておいでですし、下手したらこの方、ずっとここにいようとか言い出しかねません。お母様も、手綱を握るには最初が肝心だと仰っていましたし……)



「さあ、もうよろしいでしょう?」


「まだ足りない。もうちょっと……」


 決心したものの、再び条件反射で頷いてしまいそうになる自分を叱咤し、彼の腕の中に収まったまま、気持ちを傷つけずに何とか出来ないかと考えた。そして、彼の気を惹きそうな提案を思いつく。


「グランディール様。だったら、早く巣作りのためのお宝を取りに行くべきですわ!」


「え?」


「だって、そうでしょう? 貴方様の巣が出来れば、それこそ、その……誰にも邪魔をされずに、ふ、二人っきりでいくらでも過ごせるではありませんかっ」


「あっ」


 恥ずかしそうに顔を赤らめ、言葉に詰まりそうになりながらも、何とか最後まで言ったアンドレアの提案を聞いて、ハッとしたようだ。どうやら目先の状況に浮かれて、忘れていたらしい。


「……そうだね。どうしてそんな簡単なことに気づかなかったんだろう。じゃあ、急いで探しに行こう!」


「はいっ」


「少し待ってもらってもいいかな。確か、あれは……」


 俄然、やる気になった彼は、意識を集中するように目を閉じた。


 内包魔力を解放して、探査の波を広げていく。


 いくら、空間に歪みがあると言っても、どちらへ進むべきかは、必ず何らかの形で示されているのだ。ここから抜け出す、最短の道を探知していくと……。


「分かった。こっちに進めばすぐ出れる。行こう」


 そう言うと、彼の右手がスッと伸ばされ、さりげなくアンドレアの左手を取った。




 その際、指を絡ませる形でしっかりと繋がれてしまったので、どうしても左手を意識してしまうが、それどころではないと言うか、ちょっと問い正してもいいだろうか?


「……やけにあっさりと近道が見つかりましたのね?」


「あ、ああ。ゴメン、アンドレア。その、この世界に二人だけしかいないというようなこの場所の雰囲気が手放しがたくてさ……」


「つまり、こんなに歩かなくても良かったと?」


「実は、そうなんだ……怒ってる?」


「ええ、とっても」


 どうりでやけに落ち着いていたわけだ。アンドレアはその言い分を聞いて少し呆れ、軽く睨んだ。




 思いがけずアンドレアが半身と分かり嬉しかったのだが、全然二人っきりになれなかったことに焦れて、少しでも長く一緒にいたかった。

 そのために、近道があるのに知らない振りをしていたんだと告白した彼は、彼女に叱られシュンと項垂れる。


 その姿にちょっと可愛いかもしれない……と思ってしまったが、ここで甘い顔をしては今後のためにも良くないので、外見だけは少し怒ってますというフリを続けたアンドレアだった。



 まあでも、人の考えが読める竜には隠し通す事などできないので、彼女の心の内などバレバレだったのだが……。

 現に、さっそく許してしまったことが伝わってしまい嬉しそうにされたので、あまり意味がなくて何だか負けた気になる。


(全く嘘がつけないと言うのも、こう言うときには困ってしまいますわね……)


 悔しがった彼女にフイッと視線をそらされ、幸せそうな笑顔から一転して、ガーンという悲壮な顔になったグランディール。

 せっかくの美貌が台無しになってしまった瞬間を見てしまったアンドレアは、思わず笑ってしまった。そして二人は仲直りしたのだった。




「この扉の向こうが、本当の宝物殿の入り口だよ」


 ここまで無駄に長い距離を歩いてきたが、最後は呆気ないほど早く訪れた。グランディールが見つけた近道を通ってようやく、白一色の何もない空間を抜けたのだ。目の前に出現した極彩飾の扉が、やけに目に眩しく感じてチカチカする。


「まあ、ようやくですのね」


「はい、そうです……」


 彼が能力を出し惜しみしなければ、もっと早く来れたのだが……。ただ、一人で入ったら正解に辿り着ける気がしなかったので、神妙に答える彼をそれ以上弄るのはやめたアンドレアだった。


「……少し、休もうか?」


「いいえ、大丈夫ですわ。ここまま進みましょう」


「分かった」


 重そうな扉をまた、魔力を通して開けると、入り組んだ回廊が見えた。ここからが本番だ。グランディールに導かれるまま、奥へ奥へと進む。空間の歪みも、仕掛けられた罠も危なげなくかわしながら、一つ一つの部屋を見ていく。


「どう? 何か欲しいものはあったかい?」


「いえ、それが……どれも素晴らしくて。目移りしてしまって、目が回りそうですわ」


「ふふっ、まだまだいっぱいあるんだ。ゆっくり悩んだらいいよ」


「はい。グランディール様はいかがですか?」


「う~ん。すぐに巣で使えるものがいいんだけどね。中々、決めかねている」


「ラグナディーン様の宝物殿だけあって、多種多様なお宝がありますものね」


 美しい絵画や家具、豪華な装飾品なども大量にあったが、それに加えて様々な機能を持つ魔道具もポツポツと混じっていた。

 二人は今後作る予定のグランディールの巣で使うために、そうした魔道具の中から何かいいものが無いかと探しているのだった。





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