第52話 三つの宝
今までに見つかったのは、嵌めるだけで姿を消せる指輪や、羽織るだけで空を飛べる外套、魔力を流せば怪力になるブレスレット、光を灯すとその光が届く範囲に魔物を寄せ付けないランプ等々。
変わったものでは、広げるだけで人数分の食事が出てくるテーブルクロスなどもあった。折角なのでいただいてみたら、普通に美味しかった。
人の手で作られた物から、ダンジョンの宝箱から出てきたのではないかと思われるような物まであり、見ているだけでも楽しかったのだが……。
「そうなんだよ。でも今一つ、これといった決め手に欠けている気がするんだ」
「まあ。では、もう少し他の部屋も見てみましょうか?」
「ああ、そうしよう」
そう話し合って部屋から出ると、やはりというかまた、来た道がいつの間にか変わっていた。
これもすっかり慣れてしまったのだが、竜の魔力を吸収し続けた結果、飽和状態になって空間が歪んだためだ。
上手い具合に大切なお宝を守る防衛機能を果たすとわかってからは、嬉々として意図的に宝物殿へと余剰魔力を集める設計に変更したため、余計に複雑な空間になり、こういった影響が顕著に出た。
四方八方に自在に伸び縮みする廊下や、変則的に昇降を繰り返す階段、そんな階段を決められた順序で渡らないと辿り着けない階層。
他にも、一定時間が経つと消えてしまう扉や、入り口と出口が一方通行の続き部屋などもあった。
その中でも特に印象的だったのは、トリックアートのような幾何学模様が壁や天井にまで一面に描かれた長い通路で、そこに隠されていた部屋をみつけるのには手間がかかった。
当初、この場所は目の錯覚を利用して方向感覚を狂わせる効果を狙って作られたそうだが、そこに神竜達の設置した魔道具の罠や空間の歪みなどが加わったことで、厄介な空間に進化してしまっていたのだ。
アンドレアなど、立っているだけでも足元がおぼつかずにグラグラしてしまい、歩けなくなるほどだった。グランディールは干渉を受けなかったので、彼女だけ目をつぶって通り抜けようとしたのだが、結局、彼に抱き上げられて移動するはめになってしまって、恥ずかしくて大変だった。
ともかく彼女一人では、室内だというのに何度迷子になるか分からないような所だというのは間違いない。
難易度が高過ぎて、泥棒の入る余地など無いのではないかなと思ったアンドレアだった。
「それにしても部屋数が多いですわね。あとどのくらいあるか、お分かりになります?」
「う~ん。迷路になっているし、常に空間が動いているから全体像が掴みにくいんだ。とにかくまだ、いっぱいあることはわかるんだけど……」
「そうなんですの」
「あ、でも迷っていないから大丈夫だよ。次はこっちだ」
「はい」
空間が歪んだ不思議な室内を、グランディールに手を引かれるまま進み、お宝満載の宝物殿の中を行ったり来たりしながらああでもない、こうでもないと色々相談し、納得するまで見て回った結果、ようやく三つに絞ることが出来たのだった。
――彼女たちが選んだのは次の三つのアイテム。
『身代わりの指輪』、『合わせ鏡型の転移装置』というダンジョン産の魔道具と、『家の種』という稀少な魔法植物の種だった。
まず一つ目の『身代わりの指輪』。見た目は何の変哲もない金色のシンプルな指輪なのだが、その効果は大きく、人の手では作り出せないことからダンジョン産と思われる。
指輪を嵌めている人物の命の危機を、一度だけ肩代わりしてくれるというもので、役目を終えると砕ける仕様らしい。
これはグランディールが強く望んで選んだ物だ。
「是非、身につけていて欲しい。勿論、君は私が全力で守るつもりだ。でも、父の話にもあったように、万が一と言うことがある」
「グランディール様……」
これは先程、彼の父親が怪我を負った原因となる話を聞いたときのことを言っているのだろう。
一瞬だけ目を離した隙に半身の命を奪われてしまい、狂ってしまったという悲しい竜の話。
例えばその時、これを身に付けていたなら、死ななかったかもしれないのだ。
「私を救うと思って……お願いだ」
ラグナディーンからのお祝いだし、二人で使えるものがいいからと、初めは反対しようと思っていたのだが、そう言われると断れなかった。
「はい、お望みのままに……」
「ありがとう、アンドレア」
アンドレアが承諾するのを聞いて、ホッとしたように微笑むと、左手を取り、ちょっと考えてから中指に指輪を嵌める。
装着する前にはブカブカでサイズがあっていなかったので心配したが、流石は魔道具。
指に嵌めた瞬間に縮んで、しっかりと収まった。サイズ調整の魔法が掛かっていたらしい。
これで使用されて砕け散るまで、人為的には抜けないという。
それから二つ目に選んだ『合わせ鏡型の転移装置』だが、これもダンジョン産のもので、二枚で一組になっている鏡だった。入り口と出口に取り付けて使うようだ。
使用回数の制限はないが登録者制限はあり、予め登録された魔力の持ち主しか通れないので、安全性も高い。
アンドレアがグランディールの伴侶となっても、聖女の仕事は続行するのに必要だからというのが、選ばれた理由だ。
「これがあれば、聖女としての仕事をするために神殿に通うのに便利だろう?」
「そうですわね。一瞬で移動できますもの」
グランディールとラグナディーンの住まいにそれぞれ設置すれば、安全に新居と神殿を行き来できる。
彼は飛ぶことが出来るので必要ないかもしれないが、ただ、両親に会うために自分で飛んで行けば竜の巨体はどうしても目立ってしまう。
なので、気兼ねなく移動が出来る手段があるのは嬉しいからというので、アンドレアも賛成したのだった。
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