第53話 大満足



 そして三つ目の、『家の種』。これを見つけた時には、興奮を隠しきれなかった。


 何故ならこの種は、一粒でお城と同等の値段がつくといわれるくらい、高価で稀少なアイテムだったからである。

 後から考えてみるとこの膨大なお宝の中からよく、風が吹けば飛んでいきそうなほど小さな一粒の種を見つけられたものだと思う。


 それは一見して、見過ごしてしまいそうな場所に隠されていたて、初めにグランディールが違和感に気づいた。

 金銀財宝の詰まった一際豪華な部屋の、壁に掛けられていた絵の内の一枚が これといった特徴もないのにやけに気になって仕方がなかったらしい。


 そこでアンドレアも自分の目で見てみたのだが、何がそんなに彼を惹き付けているのか分からなかった。


 首を傾げていたら、じっと見つめていた彼がその絵をおもむろに取り外したのである。

 そして絵をひっくり返して調べ、裏側に描かれた模様に幻覚が掛けられているのを発見する。さっそく解いてみるとそこにはひとつ、魔方陣が描かれていた。


「まぁ、凄いっ。気づけませんでしたわ!」


「ふふふっ、これは期待出来るかもしれないよ?」


 魔力を流してその魔方陣を解いてしまうと、今度は小さな扉のようなものが現れた。この奥に何かが隠されているらしい。

 これも魔法を使って鍵を解除してみると、そこから小さな木の箱が転がり出てきたのである。


 どうやらこれが宝箱らしいが、何の変哲もない普通の木箱に見える。


 せっかく手間隙掛けて見つけたものがこれかと、二人は少しがっかりしたのだが、期待しないで開けてみると、そこには麦の粒によく似た茶色くて地味なものが一つ、入っていた。


 まさか、本当に麦ということは無いだろうが、アンドレアにはただの種にしか見えなかった。


 しかし、手にとって調べていたグランディールが、これこそが『家の種』だ、貴重なお宝だと興奮したように教えてくれたのである。


「これが、『家の種』……」


「ああ、大発見だっ。使い方もとっても簡単で、魔力さえあれば育てられるんだよ」




 好きな場所に植えて魔力を与えるだけで、ジャックと豆の木ばりに一気に急成長し、人の住める家になるそうだ。

 その際、魔力を注いだ者が想像した通りの屋敷へと変化するという嬉しい仕様になっている。


 勿論、使用者の魔力量によって創造できる大きさに違いはあるし、維持するにも魔力が必要なのだが、竜の膨大な魔力があればどんな家でも思いのままだ。


 その上、この『家の種』には、他にもまだ夢のような機能があるらしい。家そのものがまるでシルキーのような意識を持つんだとか。


 具体的には、全自動の家事システム付き、部屋の模様替えどころか全面建て替えも一瞬で楽々、いくらでも可能、維持管理の人出もいらず、快適に暮らせるというもの……凄い機能だ。







「まさか、『家の種』が実在していたなんて……。てっきりお伽噺だと思っておりましたわ」


「無理もないよ。母から聞いた話では、地上では滅多に見ないといっていたからね。竜の島には普通にあるものらしいけど」


「竜の島、ですか……」


「そう。竜の……私達の故郷だ」




 竜の島というのは、竜族が暮らしている魔法で空に浮かせた島のこと。


 不可視の魔法が掛かっているので地上からは見えないため、幻の島とも呼ばれている。


 一ヶ所に留まらず世界を気ままに浮遊しているらしく、他種族が自力で辿り着くのはほぼ不可能なのだが、そこでは『家の種』のような不思議な進化を遂げた存在は珍しくないらしい。




 それというのも竜というのは魔法的生物で、その場にいるだけで体内に収まりきらない魔力を常に放出しているのだ。そんな竜がたくさん住まう島では、大気中に含まれる魔素が濃い。


 その膨大な魔力の恩恵を受けて、元々地上にあった動植物達も強化され、独自の進化を遂げているんだとか。


 そんな特殊な環境で進化した植物の内の一つが『家の種』で、意思を持った今ではドリアードの一種だと考えられているらしい。



「その竜の島が原産なんですのね」


「そうだ。いずれは君を、私たち竜の故郷であるその島に、連れて行きたいと思っている。私の背に乗せてね。一緒に行ってくれるかい?」


「光栄ですわ。是非、お連れくださいませ」


「ああ、約束だ。私もまだ、生まれてから一度も訪ねたことがないから楽しみなんだ」


「そうなんですのね。わたくしも楽しみです」


 竜の島に招かれるのは、選ばれた一握りの人達だけだが、アンドレアは竜の半身となったので、彼と一緒ならいつでも行けるという。その日が待ち遠しい。



「それとこの『家の種』だけどね。百年ほど経つと花を咲かせて種が取れるんだ。中々増えないから、余計に稀少価値が高いんだろう」


「百年先に、ですか。気の長い話ですわねぇ。ではこの種からも、時が経てばいずれ取れるようになるのかしら?」


「いや、地上では魔力濃度が薄いからね、竜の島じゃないと無理だと思うよ」


「それは少し残念ですわねぇ」


 伝説級のお宝の種が、更にお宝を生むというのは夢想で終わってしまったが、それでも凄いものには違いない。


「でも、これこそ今一番私達に必要なものだ。多分、この種は母が竜の島を出るときに持ってきたものだろう。大切に使わせてもらおう」


「ええ、そうしましょう」




 グランディールの巣の場所さえ決まったら、真っ先に使用することになる。


 彼はまだ若い竜なので、竜が使える空間拡張魔法はまだ未習得なのだが、これさえあれば安心だ。

 水竜の彼にとって居心地のよい水辺さえ見つけられれば、すぐに巣作りが開始出来る。


 空間縮小も拡張も自由自在に操れる『家の種』さえあれば、魔力を注ぐだけで、アンドレアと暮らすのに理想的な住まいに、勝手に調整してくれるのだから……。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る