第37話 報告



「どうじゃ? まだ連絡はないかのう……?」


「落ち着かれてくださいませ、大神官様」


「そうは言うても、王都の空に、聖女様誕生の光の柱が立ってからもう、随分になるのじゃぞ? 遅くはないかのう……まだかのう?」


「もうっ、大神官様ったら。その質問何度目ですかっ。ほらっ、ウロウロなさらずお座りくださいっ」


「しかしのう……」


「きっと、もうすぐですって!」


「さっきもそう言っていたではないか……まだかのう?」


「大神官様っ」




 まず、待ちくたびれてワチャワチャしている様子の向こう側の音声が聞こえていた。


 次に鏡のように滑らかな双子石の断面に、ボンヤリとした映像が浮かび上がってくる。


 ズラリとひしめき合う人影が徐々に形を結び始めて……。


 さほどかからず大神官をはじめ、アンドレアについてきた専属侍女や護衛達の姿をハッキリと映し出した。



「……っ!?」


「「おおぉぉぉっ!?」」


「やっと繋がったか!!」


「アンドレア嬢っ、聖女様!!」


「お待ちしておりましたっ」




 ――通信が繋がった瞬間……。


 今か今かと待ちかねていた人達から、次々と興奮した声があがり、それらはあっという間に大歓声となって、こちらまで届いた。


 待ちに待った聖女誕生に随分と興奮し、盛り上がっているようだ。


 大勢を一度に映し出すには小さな双子石の断面に、ギュッとひしめき合う笑顔の人々を微笑ましく眺めながら、それに応えて口を開きかけた、その時……。



 ――ヌッと、巨大な影が頭上を覆った。



 アンドレアの一歩後ろにいたラグナディーンが、いつの間にか竜体に戻っていたようだ。


 竜族はむやみに人前で変化ヘンゲした姿を見せないため、通信機器に映し出される前にと、人型を解いたのだろう。小さな家程もある大きな竜の体がすっぽり入ってしまうくらい、この部屋は広いのである。


 美しい青銀の鱗を纏う水竜は、アンドレアを巻き込んで押し倒したり傷つけたりしないようにと、注意深く大きな身体を丸めると、ソッと顔を近づけてきた。


 すると必然的に通信具にも映り込むこととなり、更に歓声が大きくなる。


 滅多にお目にかかれない自国の守護聖獣のお姿をアップで拝見できたとあって、向こう側はもう祭り騒ぎである。




 ――はしゃぐ気持ちは分かるが時間がない。


 軽く手を上げて静まるようにと合図をし、皆が落ち着くのを暫し待つ。


 通信機は魔力を激しく消費する上に制御の難しい魔道具で、伝達する距離や速度、精度全てが使用者の能力に左右される。


 アンドレアはその身に聖女として認められるほどの魔力量を内包しているから余裕があるのだが、対して受信側……大神官達がいる方の人材はいささか心許ない。


 起動し続けるには、双方向で同等の魔力が必要になるため、魔力量の多い神官達を揃え、分担して注いでいるはずだ。しかし、魔力の質には一人ひとり個性があって波長が違うため、その分調整が難しく負担は大きいだろう。


 無理なく接続する時間には限りがあるはず……手短に伝えたい。




「大神官様はじめ、皆様方……まずはご報告が遅れたことをお詫びいたします」


 そう言ってアンドレアは、画面越しに軽く頭を下げる。


「この度、我が国の守護聖獣様に正式な聖女として認めていただき、無事に契約を結んだことを、ここにご報告いたします」


 そして簡潔に、一番渇望していたであろう情報を伝える。


「おおぉっ、ようやくこの時が来ましたなっ。お祝い申し上げます、聖女様っ」


「「「おめでとうございます!!!」」」


「皆様、ありがとうございます」


 祝福を一身に浴び、ニッコリときれいに微笑んだ。




「何とめでたいことかっ。聖女様、早速ですが、聖女就任を祝う式典の打ち合わせなど、お話ししたいことがたくさんありますのじゃ。直接、お会いできますかの?」


「大神官様、その事なのですが……今は大神官様に大至急、ご相談申し上げたい重要な案件がございますの。申し訳ございませんが皆様には一旦、席を外していただきたいのです……」


 と、やや強引に人払いを求めた。


「全て、聖女様のお望み通りに……」


 大神官が迷うことなくそう言ったので、神殿関係者はすぐ引き下がってくれたのだが……公爵家からついてきた者たちは少し、渋る様子を見せた。


 なので、後で必ず手紙を書くからと約束して、渋々納得してもらったのだった。





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