第26話 話し合い
「まあ、とりあえず妥当な線でしょうな」
「ドリー男爵令嬢への処罰はともかくとして、他は少々甘い気も致しますが……よろしいかと」
この処置に、水面下での駆け引きを終えた二人の男が、同意を示して頷き合った。
加害者であるレオンの父、宰相であるパーシー侯爵と、被害者のアンドレアの父であるキャメロン公爵である。
「しかし、こうなる事態を予測できなかったとは言わせませんよ、陛下」
「ようやく捕らえられたと思えば、既に十分、混乱を招いてしまった後だとは……はぁ、手の施しようがない……」
「……二人とも、そう責めてくれるな」
この三人は幼馴染みでもあるということもあり、実に遠慮がない。
今のように他人の目がない時には、普段から遠慮のない付き合いをしており、王もまたそれを許している。
だが今回は、その友情にひびが入りかねない事態だったためについ、辛辣にもなる……。
「……王たるもの、どれだけ疑わしくとも確たる証拠も無く動くことはできない。だがまさか、ロバートがこのような愚かな騒動を引き起こすとは思わなかったのだ。考えうる中で一番最悪の結末だ」
国王は、ふぅ……と疲れたようにため息を吐き、無念そうに頭を振った。
「公爵家からは、彼の令嬢が危険だという独自に調査した資料をお渡ししてあったはずです。今まで引き離す機会はいくらでもあった……表沙汰にせずに解決できる機会がっ」
「……ああ、そうだな。今夜はそれを思い知ったよ」
キャメロン公爵の詰問に、力なく国王が答えた。
「こうなる前に、病気療養とでもして無理にでも引き離しておれば、殿下の名誉も守られたでしょう。対処が早ければ、穏便に引き返せていたかもしれません。殿下のためを思うならそうすべきでした!」
キャメロン公爵とて、娘の婚約者であり、幼馴染の従兄弟が唯一愛した女性の忘れ形見であるロバート王子には、出来ることなら幸せになって欲しかったのだ。
国王に懇願され、ロバート王子が八歳の時から後見人を務めてきたが、その時からずっと見守ってきたのだから……。
もちろん今回、愛娘との婚約を一方的に破棄したことは許していない。
しかし、こんな騒動を起こす前に周囲が対処してやるべきだったのではないか……そうすれば娘の名誉も守られ、必要以上に傷つかずに済んだことだろう、と主張した。
「……余はどこか半信半疑だったのだ。それに結婚を前にして、いい社会勉強になるとも思った。これから公務で色仕掛けを受ける機会も多くなるだろうから、対処の仕方を学んでくれれば……と。まさかあやつが僅か半年であそこまで……たかが一人の女ごときに、王族としての責務を放棄するまでになるとは……」
国王は悲しそうに目を伏せ、諦めきれないような複雑な心情も滲ませながら、先程見た、愛する息子の信じたくない暴挙を振り返った。
彼の中でのロバート王子の評価は、成長するにつれ責任感が芽生え、気を張り詰めている様に痛々しさを感じたもものの、同時にそれに耐えうる強さを得ようと、もがき苦しみながらも成長しようとしている姿で止まっていたのだ。
同じく愛しい子を持つ親としては見ていて辛い部分もあるが、処分を下さねばならない。
「こうなったからには、殿下には一度宮廷から離れて頂いた方が、よろしいのかもしれません」
「宰相……」
「ロバート王子の御身を守るためです。これから王妃様の権勢がますます強くなるでしょうから」
「……確かにな」
「第二王子殿下は王妃様の言いなりです。それは殿下の婚約者の令嬢も同じ事……王妃様の息がかかった派閥出身ですから」
「ああ、そうだな。だからこそ、王妃派に対応すべくキャメロン公爵令嬢との婚姻を進めていたというのに、あやつは……。こうなってはもう仕方がない。 一度は阻止した余が言うべきことではないが……この国のためにも是非、アンドレア嬢には神竜様の聖女になっていただきたい」
「キャメロン公爵には、国の都合でご息女を振り回し申し訳ないと思いますが……私からもお願いします。目に見える形の枷が必要なのです」
「はぁ……仕方、ありませんね」
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