第25話 父として……



「陛下、たった今、近衛長官から全員捕縛したという連絡が入りました」


「そうか……ご苦労だった、宰相」


 ドリー男爵令嬢を始め、婚約騒動を起こした者たち五名全員を無事に捕縛したという連絡を受けて、とりあえず室内にはホッとした空気が流れた。


「さて。この始末、どう決着をつけるか……」


 騒動起こした内の一人、第一王子の父でもある国王は頭を抱えていた。


 王城の奥まった一室にあるこの部屋は、現在人払いがされており室内いるのは国王と、国王の従兄弟であるキャメロン公爵の他に宰相のパーシー侯爵だけだ。奇しくもここにいる三人が三人共、今回の騒動の被害者と加害者の父親だった。


 隣室には、第一王子と一緒になってアンドレア・キャメロン公爵令嬢を、軽率にも確たる証拠も無しに糾弾した面々の家長が集められていたが、この話し合いには参加させていない。


 宮廷魔術師の一員であるバース伯爵、白の騎士団長のブクナー子爵、新興貴族であるキース子爵……。


 彼らも皆、今宵の舞踏会に出席しており、息子達の処分が決まるまでは退出することも許されず、城内にとどめ置かれている。




 そして、彼らの息子達を現在の状況まで追い込んだユーミリア・ドリー男爵令嬢の父親であるドリー男爵はというと……。

 子爵位以上にしか参加資格がない今宵の祝いの席には、爵位が低く出席出来なかったので、王都にある男爵邸へ至急参内を促す使者を……近衛小隊を送り出したところだ。追っ付けやってくるだろう。


 普段は闊達な国王なのだが、今夜は第一王子の仕出かした不始末に相当頭を悩ませているようで、眉間には深いしわが刻まれている。


「神竜様のお手を煩わすまでもないでしょう」


「そうですね。彼の方は殊の外、聖女候補であるアンドレア嬢を愛しみ、慈しんでおられる。ヘタに刺激すると、国を揺るがす事態になりかねません」


「魔術師長官も例の令嬢が黒だと断言しております。さっさと黒の塔に放り込んでしまいましょう」


「……そうだな」


 宰相とキャメロン公爵の進言に国王も頷く。




 ――そこで近衛長官が呼ばれ、迅速に命令が下された。


 まず、第一王子は王城内にある自室へと軟禁。


 その他の取り巻きの青年貴族たち……宰相の三男、宮廷魔術師の息子、白の騎士団長の次男、子爵家の跡取りといった面々は、近衛騎士団の宿舎へ連行され、聴取されることになる。


 ドリー男爵令嬢に関しては、怪しげで不可解な魔法を使って次々と男性を操った容疑が掛けられている事から、直接接触する人員と収容場所には細心の注意が払われた。


 厳重に管理する必要性が高いため、これ以上被害者を出さないように魔力封じの魔道具を付けさせた後は、魔術師の塔の隣に並び立つ、黒の塔の一室に隔離することとなった。




 ――この二つの塔は通称、双子塔と呼ばれており、そっくり同じ形で隣同士に建てられているが外観の色だけが違う。


 白く塗られた右側のが魔術師達のいる塔で白の塔、左側の黒光りしているのが黒の塔と言って、特に危険な魔術関連の罪人を収容する施設として使われている。



 ――その黒の塔は、各部屋の窓も明かり取り程度しかなく、出入り口も一ヶ所だけ。



 それも地上部ではなく、なんと五階部分にあり、白の塔から空中に伸びるアーチ型の橋を通らないと入れない構造になっている。つまり、魔術師達のいる塔の内部を通らないと連絡橋まで辿り着けないのだ。


 白の塔には、この国の最高峰の力を持つ魔術師を集めた、魔法省の本部が置かれているということもあり、彼らを欺き脱走することは実質的に不可能だと言われている。


 そんな施設に収容されているのは、魔法を使って外道な行いをした罪人……例えば、禁呪などを用いて甚大な人的被害を出し、世の中を混乱させたと判断された危険人物などである。


 一度入れば、二度と出てくることは叶わないと言われている、罪人の塔なのだ。


 今回、ドリー男爵令嬢が詳しい調査結果を待たずに一人だけこちらへと移されたのも、被害が深刻だからだ。

 一緒に捕縛された青年貴族達以外にも、複数人と係わりがあることも分かっており、ついには第一王子まで毒牙にかけた罪は大きいとされたのである。





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