第24話 一方、その頃王城では……




 ◇ ◇ ◇




 ――時は少し遡り、キャメロン公爵家の兄妹達が王城の舞踏会場から揃って退出していった……そのすぐ後のこと……。




 王城では、国王陛下の命令を受けた近衛騎士による、今回の騒動を引き起こした者たちの捕物が、迅速に行われようとしていた。


 捕縛の対象者達を全員、確保するまではと、会場に来ていた貴族たちはその場に足止めされたが、皆、唯唯諾諾と従った。

 優秀な近衛騎士団が動いたとなれば、さほど時を要せず取り押さえられるであろうことは分かっていたためだ。


 それよりも、先程の婚約破棄騒動を巡って互いに情報交換するのに忙しく、案外、退屈とは無縁の待ち時間を過ごしていたので、なし崩し的に今夜の舞踏会が中止になったことを聞かされた時にも、特に不満は出なかった。




 一方、舞踏会会場から真っ先に逃走したドリー男爵令嬢を始め、すぐさま後を追いかけて行った第一王子を筆頭とする取り巻きの青年貴族ご一行を確保するため動き出した近衛騎士たちには、とある注意事項が伝達されていた。



 ――ドリー男爵令嬢に近づく際は必ず女性騎士を同行してから向かい、無闇に近寄らない事……と。



 彼女の妙な力の虜にされてしまっては堪らないからだ。近衛騎士はほぼ男性で占められているため、ミイラ取りがミイラになってしまわないようにという、配慮からだった。


 取り調べて事の真相を明らかにする必要があるが、今回は高貴な身分の方も混ざっているので、なるべく無傷で取り押さえるようにとも厳命されている。

 厄介な事になったと思いながらも、彼らは任務を忠実に遂行するために捜索を開始した。




 ――いくら広い王城といえども、配備されている騎士達の監視の目から逃れることは不可能に近い。


 今夜は元々、第一王子の婚約式を祝う前夜の舞踏会が開かれるということもあって、主要な貴族が揃って参加していた為に、会場周辺には特に、いつもより警備兵の数が増員されて万全の警備体制が引かれていた。


 王城全体にも対魔法結界が掛けかけられているため、今、城の中で魔法を使えるのは事前に決められた区域だけだ。

 ドリー男爵令嬢たちにも、魔法を使って逃げるという手段が取れない事は分かっているはずなので、そう遠くへは行っていないだろう。


 それに、近衛騎士の中でも限られた階級の者だけは、城を覆う強力な魔法結界を妨害出来るという、専用の魔道具を携帯している。

 そのため例外的に魔法が使え、探知魔法なども発動出来るので有利なのだ。彼らを発見するのも時間の問題といっていい。




 警備の騎士や兵士達からの目撃情報も次々と集まってきていることも手伝って、予想通りあっという間に居場所を割り出すことに成功すると、女性騎士を多めに揃えてから現場へと急ぐ。


 第一王子達は、この警備体制の中ではやはり、王城から逃げ切れないと考えたらしく、招待客らが帰るのに紛れて出て行くつもりだったようだ。


 それまでは隠れていることにしたらしく、舞踏会場からほど近い、王城の一室に立てこもっていた。




 騎士達の一団がその部屋の前に到着し、近づいていくと、何やら扉越しにも揉めている男女の声が聞こえてくる。


 先に駆けつけていた者に話を聞くと、どうやら連行しようとする警備兵に驚き、振り切って逃げたらしいドリー男爵令嬢を庇って成り行きでこの部屋に隠れたはいいものの、どの勢力が自分達を捕まえようとしているのかが分からず、混乱状態に陥っているらしい。


 ――何をやっているんだ……。


 この方達には隠れている最中だという自覚がないのだろうか……その場にいた皆が、呆れにも似たそんな思いを共有した瞬間だった。




 とりあえず扉越しに説得を試みるも応じなかったため、上官に許可を取った上で扉を壊して中に押し入ることにした。


「きゃぁぁぁっ!?」


 なだれ込んできた騎士達を見て悲鳴を上げた彼女を、その場にいた青年貴族たちがとっさにその背に庇った。


「さあ、第一王子殿下。ドリー男爵令嬢をこちらに渡していただきましょう。彼女には捕縛命令が出ております」


「そ、そんなの嘘よっ!? ロバート様ぁ~、わ、私……怖いわっ。助けてください!」


 ヒシッと第一王子にしがみつき、 はらはらと涙を零しながら悲痛な声で訴える。


「ま、待てっ。お前達、捕縛対象をキャメロン公爵令嬢と間違っているのではないか!?」


「そうです! 彼女は何もしていませんし、むしろあの傲慢な公爵令嬢に、散々な目にあわされた被害者なんですよ!? むしろ保護対象ではないのですかっ」


「そうだそうだっ」


 興奮して騒いでいる彼らの言い分を、一応は聞いている振りをして、その間に隙を突いて女性騎士達がドリー男爵令嬢をさっさと確保した。


「いやぁ~!?」


「あっ!?」


「ちょっ!?」


「ユーミリア!?」


 ごちゃごちゃと騒がしく主張していた彼らも、ユーミリアが捕縛されたことに気づいたようだ。


「待てよっ。何故ユーミリア嬢だけ俺たちから引き離すんだ! 何処へ連れていく気だ!?」


「国王陛下のご命令です、従っていただきましょう」


「痛っ! うぅぅっ……離してよっ。ロバート様ぁ~、この女の人酷いんですぅ。思い切り掴まれて、腕が折れそうなの……」


「……っ! ユーミリアっ。おいっ、彼女は私の婚約者で王子妃になる令嬢なんだ。お前たちが乱暴に扱っていい女性ではないよっ」


「か弱い女性一人に寄ってたかってなんてことをっ。彼女を離してください!」


「……連れて行け」


「ああっ、ロバートさまぁ、助けてください!」


 女性騎士に命じて、泣きわめくドリー男爵令嬢に魔力封じの魔道具を装着させると、素早く部屋から連れ出した。


「ユーミリア!」


「おい貴様っ、殿下のご指示に逆らうのか!?」


「……陛下のご命令だと申し上げたはずです。……それでも、庇われますか?」


 逆らえば貴方達もただではすみませんよという意味を込めて言った。


「……っ! い、いや、悪かった。だが、彼女に乱暴しないでくれ。繊細でか弱い女性なんだ」


「……皆様が大人しくこちらの指示に従ってくださるなら、善処しましょう」


「わ、分かった。皆もいいな?」


「は、はい」


「私も殿下に従います」



 ――こうしてあっけないほど簡単に、逃走していたドリー男爵令嬢達を取り押さえることに成功したのだった……。





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