第23話 専属侍女の想い
二人の兄や侍女たちの勧めで、早めの就寝をしたアンドレア……。
専属侍女のティナとライラは、部屋を下がってからも、今夜、女主人の身に起こった理不尽な婚約破棄騒動による女主人の心労を思い、心配を募らせていた。
寝る前には自然な笑顔を見せてくれるようになっていたとはいえ、傷ついていないわけがない。
――そこで自主的に、夜間の見回り数を増やすことにした。
今もアンドレアの様子を見に行っていたティナは、異常がないかを確認して寝室の扉を閉め、そっと戻ってきていた。そんな彼女にお茶を出してライラが労わる。
「ティナ、ご苦労様。……お嬢様のご様子はどうだった?」
「ええ、 良くお休みになっていたわ……ほっとした」
「……そう、良かったわ。こちらも明日の準備が整ったところよ」
「ああ、水竜である守護聖獣様のお色に合わせて青のドレスにしたのね……素敵だわ」
「そうでしょう? よくお似合いになると思って」
そのドレスは深い海のような青で、透け感のある、少し色味の違う布を場所によって長さやカットを違えて重ねて作られていた。一番上には大柄な花の刺繍にシェルのビーズがあしらわれたチュール生地が使われているので、動きに合わせてキラキラと光って見えるはずだ。
「イヤリングとネックレスは?」
「ドレスの雰囲気に合わせて、白真珠にしてみたの」
「ぴったりね。上品でいい感じだわ」
「そうでしょう?」
このドレス一式を着用したアンドレアを一通り想像して、満足して頷き合う。
その後は二人で向かい合って座り、静かにお茶を飲む。今夜は徹夜する覚悟だ。
「お嬢様は芯の強い方だけれど、見かけと違って繊細な部分もお持ちだから……心配よね」
「大輪のバラが咲き誇ったかのような迫力美人よね、うちのお嬢様って。 だから皆、想像もつかないのでしょう……そんな脆い部分があるだなんて。お妃教育で努力なさった賜物なのでしょうけど、感情を抑制なさるのがお上手で弱さは隠してしまわれるから……」
「そうね。傷つかれたでしょうに、私達の前でも毅然となさって」
「ええ、少しくらい甘えてくださってもよろしいのに……それをよしとなさらないから」
「でも、そんなところがお嬢様の素敵なところですわ」
「確かにそうね。突然の婚約破棄の場でも、ご立派に対応されたのでしょう……目に浮かぶようだわ」
「……ええ」
――自分達の女主人が、男爵令嬢ごときに負けたとは思わない。
彼女たちの目から見てアンドレアは、非の打ち所のない公爵家の令嬢なのだ。
――先程の麗しいお姿を思い出す。
手の込んだ美しいドレスを纏い、華やかに着飾った姿も美しかったが、化粧を落としドレスから比較的簡素な部屋着に着替えたところで、その美貌に少しの陰りが落ちることもなかった。
柔らかく女性らしい曲線美を描く体は若々しい色香に満ち、輝く白い肌を縁取る黄金色の髪が豊かに波打ち、宝石を埋め込んだかのような色鮮やかな翠緑の瞳も豪奢な煌めきを放っていた。
年齢以上に落ち着いた、毅然とした態度と気品で全身を輝かせている、圧倒的で存在感のある美貌の持ち主……。
これに加えて頭脳明晰でもあるため、ロバート王子が劣等感を抱き、二人の関係が徐々にこじれていってしまったのも仕方なかったのかもしれない。
元々、キャメロン公爵家としてはこの結婚に反対の立場だった。それはアンドレアのそば近くに仕える彼女たち……ティナとライラ、二人の専属侍女も例外ではなかった。
微妙な政治バランスを必要とする難しい立場の第一王子と婚姻を結んでいたら将来、苦労したに違いない。
一本、芯が通った真っ直ぐな力強さはアンドレアの魅力だが、気を抜けない張り詰めた生活を一生送ることになるのは、お嬢様に幸せになって欲しい彼女達には受け入れ難かった。
――だから、結果的にはこれで良かったのだ……。
侮られたことに悔しい思いはあるが、麗しい女主人の為にもそう思い直した。
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