第二章 聖女誕生

第27話 清々しい朝




 ◇ ◇ ◇



「おはようございます、お嬢様」


「ん……ティナ?」


「はい、アンドレア様。今日は大神殿に行かれるご予定がありましたので、いつものより早めのお時間ですが……起きられそうですか?」



 翌朝、二人の専属侍女にソッと起床を呼び掛けられた時、思いの外すっきりとした気分で目が覚めた。

 ライラが開けてくれたカーテンから差し込む朝日が、広々とした寝室を明るく照らして……いいお天気、清々しい朝だ。


 色々と思い患って眠れないかと思っていたのだが、案外身体は睡眠を欲していたのか、すぐ眠りにつけたようで疲れも取れていた。何だか、身体が軽い。



「……大丈夫ですわ。今、起きます。おはよう、二人とも」


「おはようございます、アンドレアお嬢様。今朝の朝食はどうしましょう? お部屋で取られますか?」


「ええ、そうするわ。お願いね」


「畏まりました。ではお持ちしますね」





 ――今日は、新しく生まれ変わる日……。


 神竜様に仕え、聖女としてこれから過ごすことを思うと、心が浮き立つ。


 専属侍女たちに朝の支度を手伝ってもらいながら、昨日までの鬱屈とした想いが消えていることにホッとした。




 その後、部屋で朝食を取り終わった頃を見計らったかのように二人の兄達に呼ばれたので、一階へと下りていった。



「おはようございます、兄様たち」


「ああ、おはよう」


「おはよう、アンドレア。うん、いい顔になったね」


「ふふふっ。ご心配をおかけしましたが、この通り、一晩寝ましたら元気になりましたわ。ありがとうございます」


「うん、良かったよ」


 挨拶を交わした後は、爽やかな朝の日差しが燦々と入る美しいリビングで、ゆったりと寛ぎながら事の顛末を二人の兄から聞くことになった。


「早く知りたいだろう?」


「ええ、まあ。神竜様にもお話したいですし」


 ユージーンが、教えてもかまわない範囲でと、昨夜決まった仮処分を少し話してくれた。




 まず、騒動の元となったユーミリア・ドリー男爵令嬢は、洗脳まがいの特殊な魔術を操る事を危険視されて、魔法省管轄の黒の塔に収容された。

 彼女に関しては以前から、人的に、あるいは金銭的に、様々な被害にあった貴族家から処分を求める嘆願書が提出されていたこともあり、この処分は速やかに実行された。


 その上で、昨夜、急遽王城に呼び出されたドリー男爵により、男爵家から除籍され貴族籍を失い、ただの平民へ身分を戻される。

 この処置によって貴族の特権を受ける事が出来なくなり、収容されていた黒の塔でも平民用の牢へと移されることになった。今後は一生塔から出れず、身柄の保証もされないということになる。


 魔術師長の采配のもと、所詮、モルモット状態になって研究素材にされる予定だ。


 事の顛末を聞かされ、青くなったり赤くなったりしていたドリー男爵も、令嬢を貴族籍から除籍するようにという命令に飛びつくように従った後は、男爵家の存続だけはと初めの内は必死に懇願していたらしい。


 その後、この世は自分が主役だとの勘違いを拗らせた、ヒロイン願望の娘の不始末を詳細に語られ、男爵家の存続は危ういこと、方々の高位貴族家にこれから多額の賠償金を支払う必要がある事などを伝えられると、控え室で倒れたようだ……。




 男爵家の最終処分が出るのはこれからだが、今代以降の存続は認められないという事だけは先に決定している。


 今後は、男爵家として娘にどこまで加担していたかも含め捜査で明らかにしていくが、被害にあった複数の貴族家の不満を押さえる為にも、お家の取り潰し時期が早まる可能性はきわめて高かった。


「男爵には監督責任があったわけだし、これは当然だよね」


「まあ、例え男爵自身の介入がなかった場合でも、多額の賠償金を支払う能力は今の男爵家にはないし……取り潰しになるのは時間の問題だろうな」





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