第15話 お茶会 [ 9月25日(金)・新エピソード投稿 ]
正妻の娘のお下がりだったが、きれいなドレスもたくさんもらった。
ドレスだけではない。用意されていたユーミリアの部屋には、子供用の可愛いらしいデザインながら、高価そうな家具一式の他に、たくさんのぬいぐるみや素敵な恋愛小説、綺麗な装身具なんかも揃えられていた。
これは、娘の将来への期待を捨て切れなかった父が、正妻に隠れてこっそりと用意してくれたものだった。全部、自分だけのものにしていいらしい。
「いずれはドレス一式、きちんと仕立ててやる。何と言っても、お前は聖女様になるかもしれない大事な娘だしなっ」
「うん。わたし聖女様になる!」
「ああ、きっとなれるともっ。ユーミリアはこんなに可愛いんだからな! ははははっ」
正妻に言われて一度は冷静になったものの、ドリー男爵は全然諦めていなかったのである。
そして、ユーミリアも父に乗せられるまでもなく、すっかりその気になってしまっていた。
貧しい平民の生活から一変、まるで絵本に出てくるお姫様のような暮らしになり、子供だったユーミリアは舞い上がっていたのだ。
――聖属性持ちで本当に良かった、と彼女は思った。
貴族って凄い、男爵家に引き取って貰えた自分は、なんて幸運な女の子なんだろうとその時は思っていた。
貴族の令嬢としての生活をスタートさせたユーミリアには、もう一つ夢中になったものがあった。
ツンと澄ました意地悪な貴族令嬢達から、想い人を奪ってやることである。
―― 初めてそれに愉悦を感じたのは、年の近い貴族の子女だけを集めて定期的に開かれるお茶会でのこと。
そこでは同じような身分の令息、令嬢達がたくさん、親に連れられて来ていた。
目一杯、おしゃれをして着飾ったユーミリアもワクワクしながら参加したのだが、そこで女の子たちから自分の思い描く未来を否定されたのである。
このお茶会は、自分を上手に売り込んで人脈作りをするためにあるんだよ、と事前に父が教えてくれていた。
だからユーミリアは、自分は聖属性持ちで将来は聖女様になるんですとみんなに教えてあげれば、友達になりたいと思う子はたくさんいるだろうと考え、実行したのだ。
将来有望な自分と今から友人になっておけば、彼女達の未来も明るいだろうし、きっと喜んで受け入れてくれると思ったのに……。
「そのようなこと、軽々しくおっしゃってはいけませんわ」
「そうですわ。男爵家出身の聖女様など、聞いたことがありませんもの。現実をご覧になった方がよろしいかと」
と、否定された。
(どうしてだろう? 父様はユーミリアは可愛いから絶対なれるよって言ってくれたのに。
それに、身分とか関係ないよね? 聖魔法の才能があれば聖女様になるんだし。何故、この子達は男爵家の娘だから、無理だって言うんだろう?
……あっ、そうかっ。分かった!!
この子たち、私の才能に嫉妬してるんだっ。
私が稀少な聖属性持ちで特別な人間だから、羨ましくて意地悪するのね?
それに、私がここに来てる皆の中で一番かわいいのも気に入らないのかも。男の子達の視線を集めすぎちゃったかな?
でも、私が可愛いのは事実じゃない? 嫉妬されても困っちゃうよね。
聖女様になる予定の私そんな態度とっていいの? 現実を見た方がいいのはあなた達の方だと思うよ!
あ、そうだっ。
私が人を傷つけちゃいけないってことを教えてあげればいいんだ。間違っている人々導くのも聖女のお仕事だよね?)
そこで、彼女達に反省を促すために、心ない言葉に傷つき泣いてしまう女の子を演じることにした。
可愛い女の子が泣いていたら、お茶会に来ている他の人達の注意が引けるだろう。きっと注目してくれるはず。
それに、さっきからユーミリアをチラチラと見ては顔を赤くし、こっちに来たそうにしているけれど行動に移せない男の子達。彼らにも、自分に話しかけるきっかけを与えてあげられる。一石二鳥のいい考えだと思った。
(皆から、特に意識している同年代男の子たちから注意されれば彼女達も反省するんじゃないかな。うん、完璧な計画だわ!)
「なんでそんな意地悪言うんですかぁ? 私、傷つきましたっ。クスンクスンッ」
泣き真似は母さん仕込みで得意なの。否定されて悲しかったのは本当だから全部が嘘じゃないし、うん。
しくしくと泣いていたら、予想通りすぐ男の子達が慰めにきてくれた。
「お嬢さん方、どういった事情なのかはわかりませんが、淑女なら小さなレディを悲しませるものではありませんよ」
そう言って、ユーミリアを取り囲んでいた令嬢達を窘めてくれた。
「あら、これは違いますのよ。その方が聖女様になるとおっしゃるものですから、現実を見るようにとご忠告申し上げていただけですの。勿論、純粋な親切心からですわ」
「そうですわ。だって、下位貴族のわたくしたちが聖女様になどなれませんもの。それにこんなお話が高位貴族のご令嬢方のお耳にでも入ったら、彼女が大変なことになりますでしょう? そうなってしまってからでは遅いのです」
綺麗な顔立ちのその男の子は女の子達に人気の令息だったらしく、憧れの人からいじめを指摘された貴族令嬢たちが慌てて釈明していた。
でも、さすがイケメン。彼はそんなとってつけたような言い訳には騙されなかった!
再度、意地悪な令嬢達を諌めてくれた後、
「まだお小さいのですから、夢見るくらい構わないでしょう」
そう言ってくれて、お茶会の間ずっと一緒にいてくれたの。
ふふんっ、ざまあみろだわっ。これで少しは反省したでしょう?
ツンツンと取り澄ました貴族令嬢達がイケメンといる私を羨ましそうにしているのをみるのは、想像以上に気持ち良くて……うふふっ、やみつきになっちゃいそうっ。
その後、十五歳で成人するまで続けられたお茶会では結局、女の子の友人は出来なかったが、男の子たちとはたくさん仲良くなれたので別によかった。
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