第16話 愉悦 [ 9月25日(金)・新エピソード投稿 ]
けれど次第に、ただ仲良くなるだけでは満足出来なくなった。
ユーミリアを拒絶する貴族令嬢達の顔が歪む瞬間を、もっと見てみたいと思うようになったのだ。
あれは、気持ち良かった。その為には、もっともっと、自分に夢中にさせなければいけない。
母に相談してみると、具体的な方法を教えてくれた。
ターゲットの男の子に「私を好きになって」と強く願いながら視線を絡ませ、上目遣いに微笑んで話しかけるといいとアドバイスをしてくれる。
「いいかい? やり過ぎるんじゃないよ。こう、さりげなくやるんだ」
「う~ん……こうかな? 上目遣いでまぶたをパチパチっと……」
「あははっ、いいじゃないか! さすが売れっ子だったあたしの娘だ。こっちの才能もありそうだね。上手く出来てるよ。これでお高く止まったお貴族達を悔しがらせてやんな!」
「うん、母さん!」
そして母の教え通りにすると、婚約者よりもユーミリアを大切にしてくれる子が出てきた。
初めは失敗する事もあったけれど、回数を重ねるうちに我ながら上手に出来るようになったと思う。
まるで物語のヒロインなったかのように、自分の思い通りに動く人達。
楽しくて、ゲーム感覚で男の子を落としては、普段の姿からは想像出来ないくらい感情的になって泣きわめく令嬢達を見て愉悦に浸った。
成長するにつれて、元娼婦である母親から異性を誘惑する手法をも学んだ彼女は、色事に不馴れで
その頃には自分の魅力を把握し、効果的な見せ方というものが分かるようになっていたのだ。
何とか彼女の気を引こうと必死になる彼らをみるのは、とても面白かった。
お気に入りの殿方を複数侍らせ、彼らから愛を囁かれる。
可愛らしくねだれば、高価な貢ぎ物を競うようにして贈ってくれる。
不作法を窘める令嬢達が鬱陶しかったけれど、傷ついたように顔を伏せ、肩を震わせて涙を流すだけで、殿方は簡単にいいなりになった。
ユーミリアを庇い、嫌みを言う婚約者の令嬢を責め立てるのを見ると、暗い愉悦が沸き起こってゾクゾクした。
そんな生活に夢中になって、もっともっとと欲しくなり、令嬢達から次々と男を奪ってやった。
相手に婚約者がいようと知らないふりをして無邪気に話しかけ、可憐で愛らしく見える笑顔を振りまき、甘言を囁いては誘惑した。
節度ある親しさを持って接する貴族令嬢を、出し抜くことなど簡単だった。
まずは同じような身分の者を足掛かりにして、徐々に上の身分の青年達に乗り換えて行く。
何て簡単で楽しいんだろう……ユーミリアは笑いが止まらなかった。
――そんな彼女にも一つ、不満に感じていることがあった。
男爵令嬢と言う貴族としては最下位の身分の彼女を、軽視する勢力がいることである。
それは、爵位持ちの上位貴族たち。通常なら身分差からむやみに近づけない上、既に婚約者もいる高貴な身分の青年貴族達に高額なプレゼントを浴びるように貢がれ、彼らの差し出す愛を受けとっている彼女のことを非難し、受け入れようとしない。特に令嬢や貴婦人たちにその傾向が強かった。
悔しい気持ちは年々大きくなっていく。
どうすればいいのか考えて、考えて……なら、もっと上を目指そうと思った。誰も文句を言えないくらい、高貴な身分の男性に愛されるようになってみせればいいい、と。
そう決意した彼女が、次のターゲットにしたのが、ロバート第一王子だった。
欲望の赴くまま貪欲に求めている内に、第一王子の側近候補者達を籠絡することには、すでに成功していた。その為、王子に近づくのはそこまで難しくなかった。
才色兼備の婚約者にコンプレックスを持っていることもユーミリアにとって都合がよかった。劣等感のある人間ほど付け入る隙が多いからだ。そしてこれまでと同様、たちまちのうちに彼を魅了してしまう。
自分の魅力は王子にも通用した……この国で一番高貴な血筋を持つ男性が、ユーミリアのことを、まるで高貴な身分の女性を守る騎士のように優しく扱ってくれている。
身分差など何程のことか……現に今、王子は婚約者の生まれながらに高貴な身分のご令嬢よりも、自分と結婚したいと熱烈に望んでくれているではないか。
――王子と結婚できればもう、貴族社会で自分を認めぬものなどいない。王子妃という高貴な身分を手に入れた後なら、幼い頃に否定された聖女になるという夢も実現できるだろう。
(努力してようやく頂点まで上り詰めてきたのに! あと少しだったのに! このままじゃ、せっかく娼婦の娘という底辺から這い上がって、築き上げてきたものが破綻してしまうわ!! 何とかしなくては……)
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