第14話 ユーミリアの誤算  [ 9月25日(金)・新エピソード投稿 ]



 ◇ ◇ ◇




(なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!?)



 ユーミリアは、ドレスをたくしあげ、高いヒールの靴で転ばないように気をつけながら、王宮の廊下を必死に走っていた。



(なんでなの、どうして最後になって、急に上手くいかなくなったのよ!?)



 大勢の貴族たちの前でアンドレアの罪を指摘して白日の下に晒し、婚約破棄宣言をしてしまえば、国王もキャメロン公爵も認めざるを得ない。彼女がアンドレアに代わって王子の婚約者になれるとレオン達みんなが言っていた。


 なのに計画通りに行かず、むしゃくしゃする。


 頭を掻きむしりたい気分だった。



(……あの女がいけないのよっ。公爵令嬢アンドレア……家柄もお金も美貌も魔術の才能も何でも持ってる癖にっ。その上、王子様の婚約者の席にまで座ろうなんて、図々しいのよっ。一つくらい譲りなさいよ!)



 生まれた時からすべてに恵まれていて、何の苦労もしていないであろう、温室育ちのあのお嬢様が憎たらしかった。



(私はロバート王子に愛されているのっ。王子の恋人なのよっ。その私が反対に断罪されそうになって、ひとりで逃げなきゃいけないなんて、絶対おかしいわっ!!)



 ――あと少しだったのにっ。



 自分はこの国の第一王子を虜にすることに成功し、彼から婚約者になって欲しいと言われたのだ。


(王族の配偶者になるという、女性として最高の地位が、あと少しで手に入るところだったのに!

 そうしたら、今まで私を見下していた傲慢な貴族社会や、冷たい態度をとる令嬢や貴婦人達を見返してやれたというのに……どうして!?)



 ユーミリアは、完璧だったはずの計画がなぜ破綻したのかと、自問自答していた。






 ――ユーミリアの人生が変わったのは、十歳の時だ。


 その歳になるとこの国の平民は、神から授かった能力について神殿で調べてもらうのだが、そこで稀少な聖属性を持っていることが判明したのだった。


 聖属性持ちは貴族の間でも珍しく、娘の能力に喜んだドリー男爵は、平民だったユーミリア母娘をさっそく男爵家に迎え入れたのだった。


「なんと言っても、聖属性持ちだからな。男爵家の血筋に出るとは珍しい!」


「……まぁ、それは確かにそうですけれども。恐れ多くも王家を筆頭に、高位貴族のお血筋に出ることが殆どですからね」


 一度は追い出したはずの妾を再度迎え入れると言い出した時は忌々しかったが、その娘に思わぬ能力があったとわかり、渋々、ドリー男爵夫人も利用価値を認めた。


「はははっ、そうだろう? これは成長が楽しみだ。上手くいけば私の血を引く娘が聖竜様に選ばれ、聖女様になるかもしれんぞ! 何しろ、聖女候補筆頭だったキャメロン公爵家のご令嬢は、第一王子殿下のご婚約者になられたことだしなっ。可能性はある」


「あなた! いい加減になさいませっ。さすがにそれは無謀ですわ」


「む?」


「あなたもご存じでしょう? 近頃、王妃さまがご実家であるブラントン公爵家のご令嬢を、聖女候補に推していらっしゃることを。あちらの御家も王家にご縁がありますし、聖女様は今まで王家に近しい御家から選ばれております。これがどういうことか、よくお考えくださいまし」


「う、うむむ。そうか……いや、しかしなぁ。こんなチャンス、もうないぞ?」


「これはチャンスなどではありませんっ。王妃様は逆らう者に容赦のないお方。あの子程度の力で下手に名乗りをあげれば、目をつけられて我が家ごと潰されてしまいますわよ!」


「ひぃっ。分かった、分かりましたよ」


 男爵婦人の勢いに押されて、浮かれていたドリー男爵も頭が冷えたらしい。ユーミリアに、聖女を目指させないことに一応、同意した。


「本来なら娼婦の生んだ娘などこの家に入れたくはありませんが、聖属性持ちなら仕方がありません。政略に利用する価値もあるでしょうしね。でも、本宅に入れるのは遠慮していいただきますからね!」


「わ、分かった。その通りにするよ」


 と言うわけで、ドリー男爵の正妻は二人が男爵家に名を連ねることは渋々了承したが、男爵の妾になるまでは娼婦をしていた母親とその子供であるユーミリアを、本宅に入れることは強く拒んだ。


 そのため男爵は仕方なく、母娘を本宅の離れに住まわせることにしたのだった。




 しかし、そんな大人たちの事情は、ユーミリアにとって些細なことであった。


 何故なら彼女を待っていたのは、夢のように贅沢な貴族の生活だったからである。


 毎日三食、たっぷりと用意される美味しい食事と、食事の合間に朝夕の二回、甘くて美味しいお菓子を食べられるお茶の時間。

 砂糖を惜しみなく使って作られるお菓子など、平民だった頃は、父が母の元に訪ねて来た時にしか食べられなかった贅沢品だ。


 それが今では毎日食べられるなんて信じられない。甘いものに目がない母と一緒に、今までの暮らしでは味わえない甘味を喜び、優雅な時間を楽しんだ。











 ――――――後書き――――――


 読者の皆様、いつもお読みいただきありがとうございます。


 9月26日(金)、『第16話 ユーミリアの誤算』~『第19話 まだ、負けていない』を加筆し投稿しました。


 ユーミリア視点のお話になります。よろしくお願いいたします。





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