第9話 公正な証明方法



「とても簡単で万人に公正な証明方法ですわ。お忘れですか、殿下。我が国は神竜様が守護聖獣として庇護してくださっているのですよ」


「そんな事、貴女に言われずとも分かっているっ」


 ――本当かしら。分かっていたら、こんな馬鹿騒ぎを起こされなかったと思いますけれど?


「そうですの……では、今から神竜様の御前に伺い、真偽の審判をお願い致しましょう。どちらの主張が正しいかを……きっと一目で見抜いてくださいますわ」


「え」


「……はっ!?」


 アンドレアの提案を聞き、ああ、その手があったか……と、納得したように小さく呟く声。


 ……はっきりと聞こえてましてよ、殿下。


 何が『言われずとも分かっている』ですかっ。


 守護騎士気取りのおバカさんたち共々、明らかにたった今、その証明方法に気づかれましたわよね!?




 そして疑う事もせず、これで決着がつくと能天気に喜んでいらっしゃるようですが、残念ながらそちらに有利に働くとは限らないのですよ……。


 何故なら貴方達が心の底から信じ、守ろうとしているそのベビーピンクの砂糖菓子さんは、分け隔てなく双方に嘘をついているのですから。


 守護聖獣様相手ではもう、お得意の泣き落としは通用しませんし、都合よく誤魔化すことも出来ません。


 さて、ここからどう切り抜けるおつもりでしょうか?


 随分と険しい表情をされるようになってきましたが、いつもの手段が通用しなくなる事に焦っておいでのようですわね。虚偽が暴かれ、不利になりつつある事に漸く気づかれました?

 ご自身の手腕に絶対の自信を持っていらっしゃったようですが、これで全てが覆されることでしょう。自分の思い通りの結果がでるはずと思い込み、優越感に浸っておられたようですが、これで全てが無駄になりますわねぇ……お気の毒だこと。


 ――おお、怖い。


 そんなに睨むと、貴女の背後にいらっしゃる崇拝者の殿方達にも気づかれてしまうのでは……? せっかくのが台無しになりましてよ。



 ――ふふふっ。これは、もう一押しで、可憐な少女の仮面も剥がれ落ちそうですわねぇ。 



「幸い、貴女も僅かながら聖魔法の力をお持ちと伺っています。と言うことは、一度は神竜様に直接お会いになった事がある筈。彼の方は心の内まで全てを見透かされる。隠し事など、ましてや嘘など一切つけません。ドリー男爵令嬢、それは貴女も身をもってご存知はずですわね?」 


「わ、私……あ、あの、知ってます……けど」


 アンドレアの問い掛けに身を竦ませ、怯えながらも睨み付けるという器用なことをしながらも、高位令嬢からの理不尽な詰問に耐える、可哀想なヒロインの振りをきっちりと続けている。

 彼女の正面に立つ位置でなければ、その歪んだ表情は見えない。後ろにいる取り巻き達には、縮こまって震えている姿しか映らないという、計算され尽くした態度だった。本当に、これのどこが可憐で汚れのない純真な令嬢なんだか……。




 しかし、その様子ですと貴女が十歳の幼き日に体感された、神竜様のお仕置きがまだ、少しは効いていらっしゃるようですわね。

 身の程知らずにも彼の方に不敬を働き、随分と怖い思いをなさったみたいですし?


 その時はまだ平民だったはず。だが、例に漏れず十歳誕生日にどのような能力を授かったのかの鑑定を受けて聖属性の持ち主だと判明した段階で、神竜様にお目にかかっているはずだ。




「おや、どうされたのです、ドリー男爵令嬢? 急にお顔の色が真っ青になっておいでですが……まさか、神竜様の前でご自分の虚偽が詳らかになるのを恐れていらっしゃる……とかではありませんわよねぇ?」


「えっ……あ、私はっ」


「そんな失礼な質問に答えなくていい、ユーミリア」


「殿下のおっしゃる通りだっ。言いがかりはやめていただこうっ」


「そうだそうだっ。彼女は貴女と違って、とても繊細でか弱いご令嬢なんだ。可哀想に……これは、貴女の高圧的な態度と、威圧的な詰問に身が竦んでしまっているだけだ!」


「まぁ……そうですの。それは気づきませんでしたわ。自作自演の罪の重さに怖じ気づいてのその態度……という訳ではありませんのね?」


「言うに事欠いて何ということをっ。勿論だっ。彼女には貴女と違い、後ろ暗いところなど何もないのだから。そんな脅しで、ユーミリアを怯えさせるなっ」


「貴方様には聞いておりませんわよ、殿下。いかがですの、ドリー男爵令嬢?」


 第一王子の言い分をピシャリとはね除け、彼女本人の返答を促す。


「わ、私、あんな恐ろしい所へなど行きたくありませんっ」


「恐ろしいですって? 何をおっしゃっているのかしら。この国で一番安全な守護聖獣様の元が、恐ろしい……とは。あり得ません。殿下もよくご存知ですわよね、に、あの方は決して危害を加えられませんことを」


「当たり前だろう。ユーミリア、君は嘘をついていないのだから、何も恐れなくていいいんだよ」


「ロ、ロバートさま……わ、私っ」


「大丈夫だ、私がついているだろう?」


「で、でも……」



『嘘つきの子は、神竜様が食べてしまわれるよ……』



 そこへ、追い討ちをかけるように、アンドレアがそっと囁く。


「ひぃっ」


 呟かれた内容が耳に入った途端、ビクリと肩を振るわせ、押し殺した悲鳴をあげて恐怖を顔に貼り付かせるユーミリア。



 ――アンドレアの言葉に過敏に反応したのは、彼女ただ一人……。



 砂糖菓子さん、貴女、分かりやす過ぎでしてよ。それでは自ら嘘だと認めたようなものではないですか。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る