第10話 嘘の代償
「勿論、ご存知でしたわよね。では、彼の方の前で公平に決着をつけると致しましょう。今ここで、声高におっしゃってたことが絶対に正しいと主張なさりたいなら、ね」
「ひぃっ」
その言葉に、儚げな嘘泣き顔が崩れた。もはや涙も引っ込んだらしい。本物の恐怖が顔に張り付いている。
しかし、彼女の背後を騎士のように守っている取り巻き達は、その無残な表情の変化の
アンドレアからの提案という事に反発しながらも、神竜様の真偽の審判に乗り気になったようで、積極的に賛同の声をあげる。
――それが余計に、彼女を追い詰めるとも知らずに……。
「勿論だ。貴女に言われるまでもないっ」
「こんなことで神竜様を煩わせるのは国民として申し訳なく思いますが、貴女の罪を白日の元に晒し、彼女の身の潔白を証明する事はこちらも望むところですっ。殿下っ、ご決断を!」
「……いいだろう。アンドレア嬢、後で後悔する事になっても知らないからね。ほらユーミリア、行こう……ユーミリア?」
「ひぃぃぃっ、いやぁぁっ!?」
「えっ?」
「ユーミリア嬢!?」
味方であるはずの彼らに善意で追い詰められ、益々、神竜様の裁きから逃げられなくなったのではないかという予感に、耐えきれずに不様な悲鳴を上げる。
しかし、ユーミリアが絡むと極端に視野が狭くなり、思考停止状態に陥ってしまう取り巻きの青年達は、それを正確に理解出来てはいない。
所詮、アンドレアの態度と言葉に怯えているという風に映るらしく、彼女をキッと睨みつけてきた。
……全くもうっ、本当におバカさんばっかりなんですから。
貴方達、 揃いも揃って盛大に勘違いなさっていますのよ!?
確かに
何故ならば、下手な三文芝居を演じてくださるヒロイン気取りの砂糖菓子さんと、頭の中がお花畑になっていらっしゃる殿方達のおかげで、不本意ながら貴族令嬢としての完璧な笑顔を保つのが難しくなってきておりますのでっ。
でも、貴方達の大切なベビーピンクさんは
知らないとはいえ、より追い詰めたのは貴方達の方なのですからっ。
残念な事に、どなた様も全く、その事にお気づきではありませんけれど!?
――その証拠に……。
アンドレアの視線から遮るように、カタカタと震え、膝から崩れ落ちそうになる小さくて細い体を隠すように庇ったロバート王子。
ユーミリア嬢の腰に回していた手に力を入れて咄嗟に支え、落ち着かせるように優しくその背を撫でながらも、非難するようにこちらを鋭く見つめてくる。
……ね?
彼女が身の危険を感じている原因が
嘘が暴かれるのを恐れて神竜様の裁きを拒む、このユーミリア嬢の醜態をご覧になったら、 殿下を始め皆様の目を覚ますことが出来るかもと少しは期待しておりましたが……これほど重症ですと、それも難しそうですわね。
トレイシー様が教えてくださったように、
……残念ですがここは、先に彼女だけでも追い詰めて差し上げることに致しましょう。
「御伽噺だと思っておられましたか? 彼の方は偽りを何よりも嫌われますの。万が一、神竜様の御前で貴女の偽証が暴かれた場合、その罪は言い伝え通り己の命で購うことになりますわねぇ……」
「何故!? 何で私が責められなくてはいけないのっ。大体、そ、そこまでする必要があるんですか!? 貴女が今ここで、さっさとこれまでの悪事を認めてしまえばいいだけの事じゃないっ」
追い詰められたユーミリアは、 審議を免れようと必死に言い募る。
「殿下に婚約者がいると知りながら近づき、不貞を働いた令嬢の言葉など、客観的にみて信憑性が無いでしょう? それに国王陛下自らがお決めになった婚約を軽んじる殿方達も、貴族社会では信用されません。これは、ドリー男爵令嬢、貴女の為でもあるのですよ」
「そんなの嘘よっ。ロバート様に愛されている私に嫉妬して、神竜への生け贄にするつもりなんでしょうっ。ロバート様、私、怖いっ。どうかお助けください!」
「……彼女がこれ程行きたくないと言うんだ。きっと守護聖獣様にお会いするのが畏れ多くて遠慮しているに違いない。無理に連れて行く必要はないのではないか?」
――何て早い手のひら返し……。
第一王子殿下……貴方、ユーミリア嬢の言葉にコロコロ転がされ過ぎではありませんこと?
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