第8話 証拠
いい加減、中身がスカスカのおバカさん達の相手をするのにも疲れてきましたわ……。
私の目の前で憤っていらっしゃる方々は、本来ならば将来有望な青年貴族なのです。
今の醜態からは到底信じられないでしょうが、幼少より貴族の子息としてあらゆる礼節を叩き込まれ、学問と調練に身を費やして来られた。皆様、家格の釣り合った素敵な婚約者もお持ちでした。
――それが……。
ベビーピンクの砂糖菓子さんに関わった途端、視野が狭まり短絡的な言動を繰り返すようになり、次第に残念な感じに壊れていってしまわれた。
そして、遂にはこの言い訳できない惨状を引き起こすまでに……お家の方々もさぞや無念でしょう。
きっと、苦情や忠告も散々されていた筈。でも、彼女の虜になっていた彼らはまともに取り合わなかったのでしょうね。
優しく親しみやすい笑顔と、従順で自尊心を擽ってくれる肯定的な態度、耳障りの良い甘言に騙され、彼女が与えてくれる甘美な享楽へと逃げたに違いない。
貴族の義務と責任、更にはそれぞれの婚約者までをも放り出して……。
「……お話になりませんわね。彼女が泣いていたから、彼女が言っていたから……口先だけで証拠がないのはドリー男爵令嬢も同じではありませんか。そろそろ
「彼女の言葉を信じず、まだそのように白を切るとは……図々しい。ならばっ……」
その後も、ユーミリア嬢の崇拝者達が、
つらつらと事細かに申し上げてくださいましたが、その内容は毒にも薬にもならない、つまらないものばかり。
婚約者のいる殿方にちょっかいをかけ続ける、身持ちの悪い方に関わりたい貴族令嬢などおりません。自らの評判まで落としかねませんもの。
無視された、つま弾きにされ苛められたと仰いますが自業自得でしょう。
それを虐げられたのだと声高に主張するとは……稚拙すぎて何と言えばいいのやら。ただひたすらに残念な方ですわね。
どこぞの子息にプレゼントされたハンカチを捨てられたやら、お茶会で彼女の席だけ水で濡れていてドレスが汚れてしまったやら、出されたお茶が彼女だけ冷たくなっていたやら?
それも大袈裟に言うほどのことですか、馬鹿馬鹿しい。出されたお茶に毒が入っていた訳でもあるまいし……。
彼女たちも衆人環境の場であからさまに物を盗んだり、危害を加えたりはなさらないでしょう。
自尊心が高く、それぞれの家を背負っていらっしゃる責任ある立場の皆様が、政敵にもなりうる他家の方々の目前で、足元をすくわれるような迂闊な真似をなされるとも思えません。
――ユーミリア嬢はご存じないでしょうが、貴族とは何よりも体裁を大切にするものなのですから。
「私は指示しておりませんし真相は存じませんが、ドリー男爵令嬢のお噂は色々と耳にも入ってきております。随分と妄想癖のある方のようですわね。それを鑑みて推察しますと、貴族社会の常識を親切にご教授くださったご令嬢方の忠告まで、苛めと捉えた可能性が高いですわ」
彼女が訴えているのは、お粗末で目に見える形の直接的な被害の数々。内容からして、体面を重んじる貴族令嬢には思い付きもしないでしょう。
皆様が何かされていたとしても、せいぜい遠回しに毒を吐くくらいだったのではないのかしら?
「何て酷い事をっ」
「言うに事欠いて妄想癖だと!?」
「ううっ、酷いですぅ。全て事実なのにっ。ロバート様は信じてくださいました。アンドレア様は婚約者だった彼の言うことが信じられないんですかっ」
――この子、今さりげなく
「当たり前でしょう? 婚約者がいる身でありながら、堂々と不貞を働く方の何を信じろと?」
「殿下を侮辱するのか!?」
「いいえ。
「……っ! そうやって、話をそらすつもりなんですねっ。卑怯な貴女らしい」
「何処までもご自身の行いを認めようともせず、彼女の主張には信憑性がないと主張するのかっ」
「ええ、勿論。先程からまた、
「……何?」
「それは……どうゆうことです?」
……この方たち、信じられないことに、ここまでヒントを出しても本気で分かって無さそうですわね?
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