第7話 糾弾
◇ ◇ ◇
――静まりかえった舞踏会の会場に、宰相子息であるレオン様の糾弾する声がよく響く。
「先程図々しくも身に覚えがない等とおっしゃっていたが、貴女がユーミリア嬢にした数々の嫌がらせは彼女から直接聞いている。私たち全員が知っているんだ。最早、言い逃れはできないでしょう」
「まあ、どのようなものでしょう?」
「……白々しいっ。同じ年頃の令嬢達に彼女を爪弾きにするよう指示を出していたくせに。いくら彼女の方から歩み寄ろうと努力しても冷遇され、令嬢同士のお茶会にも招待されず、いつも孤立していたんです。殿下の寵愛を受ける彼女に嫉妬し、貴女がかの令嬢たちを操っていたに違いないっ」
「あら、王子妃になれない身分の男爵令嬢に、何故
「……っ!」
言葉に詰まったレオン様の代わりに、キース子爵家の次期当主予定のオリバー様が続けて非難の言葉を上げた。
「ま、まだありますっ。一番最近だと、先週行われた宰相閣下のお屋敷で起こったガーデンパーティーでの事、お忘れとは云わせませんよっ。楽しみにしていた彼女が来て早々、帰りたいというので嫌な予感がして確認してみれば、ドレスに大きなシミがついているではありませんかっ。パーティーに参加していた令嬢方に飲み物をかけられたと。貴方のご指示でしょう?」
「それにも全く身に覚えがありません。ご自分で粗相されただけではないの」
「そんな!? ひ、酷いっ。私、嘘なんてついてないのにっ。またそうやって、私を苛めるんですねっ」
ハラハラと涙を流し悲痛に叫ぶ彼女を優しく慰めながら、第一王子がこちらを睨んで声を荒げる。
「言うに事欠いて何てことをっ」
「では、あなた方はその目で直接、現場をご覧になったと嘘偽りなく神に誓えますのね?」
「そ、それは……」
アンドレアの指摘に、取り巻きの青年貴族たちは慌ててお互いの顔を探るように見合わせる。
「わ、私はオリバー殿からそうお伺いして……オリバー殿は?」
「惨状直後のうちひしがれた彼女を見ています。丁度その瞬間に立ち会われたのは、ユーミリア嬢をエスコートされていたレオン様ですから。彼から直接伺っていますが……レオン様?」
「……っ! そ、それは……。私も直接の現場を、見たというわけでは……彼女が悲しそうに泣きながら、そう言っていたのです。疑う余地などないではありませんか」
「……つまり、どなた様も決定的な瞬間をご覧にはなっていない……と?」
何なんですの、その伝言ゲームのような不確かな証言の数々は……。
――皆様、手ぬるくてよ。
本当に
――アンドレアの冷静な指摘に、思わず狼狽えてしまったレオン。
しかしそのタイミングで、ユーミリアからこぼれ落ちそうな、涙をいっぱい含んだ瞳を向けられる。
上目遣いですがるように、うるうると見つめられて保護欲が刺激されたらしい。
勢い込んで今度はこう言ってきた。
「い、一瞬の隙を突かれたんだっ。丁度その時、彼女に頼まれ飲み物を取りに行っていたのです。少しだけ目を離した、その隙にやられたのですよ。虎視眈々とユーミリア嬢に嫌がらせをする機会を狙っていたに違いありません! こんな姑息なやり方、優しい彼女は思いつきもしないでしょう。貴女の指示に決まっているっ」
……成る程、飲み物を……ねぇ?
つまり、
それは確かに、虎視眈々と捏造する機会を狙っていたに違いありません。
……しかし、このような稚拙な手に、揃ってコロコロと引っ掛かってしまわれるだなんて、あまりにも残念過ぎますわ……。
あなた方、少しチョロすぎではありませんこと?
「……そのパーティーには
「ふんっ。そこが貴女の腹黒いところです。自分の手を汚さず、更にアリバイ作りをした上で、他の令嬢方を使ってあんな卑劣な嫌がらせをしたに違いない。可哀想に彼女は貴女に怯え、ひっそりと泣いて耐えるばかりで……見ていられませんでした」
「仮定の話をいくらおっしゃられても、何の証拠にもなりませんわ。それに彼女の涙と主張だけを聞いて、一方的に真実であると信じてしまわれる方々と、公平な議論が出来るとは思えません」
「策謀を張り巡らす貴女と違い、純真そのものの男爵令嬢であるユーミリア嬢が嘘をつく筈もないし、その言葉は疑い様もないだろう。それだけで充分ではないかっ」
――何なんですの。
証拠を挙げ証明していく場での、その精神論的な理屈は……?
「……では、公爵家令嬢である
「何だと、口先だけで証拠もない貴女が何を言う!?」
……。
彼女の側にいるだけで何故か視野が狭まり知能が低下し、頭の中までお花畑になってしまうみたいですわね……。
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