第2話 呆れました



「もういい、レオン」


「しかし殿下!」


「よいのだ。彼女とはこれきりで関係なくなるのだから。長い付き合いになるが、ついに分かり合えなかったというだけのこと……残念だ」


「お優しい殿下、お可哀想……」


 ベビーピンクの砂糖菓子令嬢が、態とらしく大きな瞳をうるうると潤ませながら、ロバートに益々しなだれかかる。公式の場には相応しくない、あまりにも大胆で下品な振る舞いだった。


 空気の読めない王子は、いっそう騒がしくなった周囲から守るかのように、更に強く彼女を抱き寄せると言った。


「今日、この日をもって貴女との婚約は破棄し、私はここにいる男爵令嬢ユーミリアと婚約する。彼女に嫉妬し、数々の嫌がらせを行った事を悔い改めるがいい」


「あぁっ、殿下ぁ~」


「もうこれで大丈夫だ、ユーミリア。私と一緒に生きてくれるね?」


「は、はい、殿下。喜んで!」


「こら、君には敬称ではなく、名前を呼んでほしいと言っただろう?」


「きゃっ、私ったら。済みません、ロバートさまぁ」


 甘ったるい二人の世界を作って、勝手な話を進めている彼らの隣を改めて見てみれば、宰相の三男であるレオン・パーシー侯爵令息の他には、宮廷魔術師の息子であるアンディ・バース伯爵令息や白の騎士団長の次男、ルーフェス・ブクナー子爵令息、新興貴族であるキース子爵家の跡取り、オリバー・キース子爵令息と言った、今一つ豪華さに掛ける面々がいた。


 どうやら国王陛下が選ばれた、かつての優秀な側近候補者たちには見捨てられたようですわね。見事に機を見る才のない、おバカさんばっかり残っていますもの……。こんなに簡単に、色仕掛けに嵌まるようでは、立場の危うい第一王子の側近は務まらなくてよ。




「身に覚えのないことで責められても困ってしまいますわ。……それにわたくしの代わりにその方を婚約者にされるとは、正気なんですの? 彼女は男爵令嬢ですわよ?」


「貴女に指図される謂れはない。私はユーミリアに出会って真実の愛に気づいたんだ。身分を振りかざして彼女を差別し嫌がらせをする貴女に、王族である私の前で許しもなく口を開く資格など無い!」


 ――大丈夫でしょうか、この方。


 身分で人を差別するなと言ってみたり、都合良く王子の権威を振りかざして強要してみたりと、主張なさることが支離滅裂なのですけれど?

 ご本人は自分に酔っていらっしゃるのか満足げですが、説得力皆無のですわね。


 第一王子に冷ややかな目を向けながら、激情しやすい性格ではあったものの、ここまで短慮な人ではなかったのに……と残念に思う。


 たった半年の間に、一人の女の出現でここまで変わってしまうなんて……出会った当初のお姿からはとても想像出来ないですわ。




 ――アンドレアは、初めてロバート王子と会った幼い頃に、思いを馳せる……。





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