第五章-55
心から不思議そうな顔でシャークは首をかしげていた。そして、地面に倒れたとき脳震盪でも起こしたのか、それともひょっとすると何か別のおぞましい理由があるのか、次の瞬間ガクッと頭が落ち、彼は意識を失った。
コンタクトレンズを通じて、タイマの目には警告がまるでサイレンのように鳴り響き続けており、彼を余計に困惑させていた。何かできることはないか、何かできることはないかとうろたえている間も、着実に水爆はこちらに向けて近づいてきている。
コンタクトレンズが、もはや回避不可能、という通告を突きつけるに至って、タイマはPDAのネットワークを通じ、Pネットへの避難を呼びかけることを思いついた。大急ぎでそれを終えると、PDAを持たない《灰色之者》と、PDAの電源が切れたまま意識を失ったシャークの二人には、そのような回避行動など取れないことに気付いた。
さて、決定的な瞬間が目の前に迫ってくると、さっきまで混乱状態にあったタイマの頭は妙に冴え始めた。彼はシャークが自分のDゲートから出てきたのなら同じDゲートからPネットに落とし込むこともまた可能だろうと思いついた。早速実行に移すと、あっけなくそれは成功し、シャークはPネットへと消えた。自分のDゲートに他の人間が入るということは原則的に不可能だという常識が通用しなかったのは、きっとシャークのPDAの電源が切れていたせいであるに違いない。PDAなくしては、人間も動物も植物も無機物も一緒、というわけだ。
かくして再び、タイマと《灰色之者》だけが残された。
シャークと同じ方法を取れないかと試してみたが、やはりそのやり方は《灰色之者》には通用しなかった。為す術もなく窓の外を見上げる。風を切り、尾を引いてそれはまっすぐこちらに向けて飛来してくる。
そして、爆発が起こらないなんて奇跡が起こるはずもなく。
タイマの目の前で、何かがチカッと光り、次の瞬間、空が揺れ、轟音が鳴り響き、ガラスが割れた。
早く自分もPネットに逃げなければとか、《灰色之者》はまだ生きているのかもう死んでしまったのかなどと、この期に及んで考えている暇などなかった。タイマは《灰色之者》のやせこけた右手を両手で包みこみ、目を閉じて最後の瞬間を待った。
そして、光も音も熱も放射線も、何もかもが消え去って、そこにはただ虚無のみが残った。
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