第14話:噂
「今朝ここへ来る時にその現場を見ちまってよ・・・朝からやる気失せるぜ。」
「まあそんな状態の人間なんて見たくないわな。」
「でもよ!胡蝶が原因だとはわからないだろうが!」
まあまだ噂の範疇を出ていない。そして奴らに真実を確認する術はない。コハルの様子から何かあるのは確実だが、噂で留めておければなんの問題もない。「胡蝶へ行けないやつの僻み」程度に思われるだけだ。
「所詮噂だしな、確かめる方法もないし。」
「なら俺が胡蝶へ行ったときに確認してやるよ!」
「死ぬまでに行けるのか、それ?」
楽しそうに笑い合う冒険者連中。話もそろそろ終わりだろう・・・そう思った時、大柄な男が話に入ってきた。
「面白そうな話してるな。俺も混ぜろや。」
「ガゼルか、ここに来るなんて珍しいな。」
「まあ偶にはな。それより今の話だけどな・・・」
「なんだ?何か知ってるのか?」
あの大柄の男、どこかで見た事がある・・・そうか、うちの客か。
「俺、胡蝶に1回だけ行ったんだぜ。」
「まじか!さすがAランクだ!おい詳しく教えろよ!!!どうだったんだ!」
「でも1回行っただけですっからかんだ。」
ほう、あの男はそんなに凄いのか。確かあいつは・・・数週間前にマシロを買ったはずだ。
「それは仕方ないだろ。だって胡蝶だろ?」
「まあな、貯金全部叩いたのに買えたのは下位の女だったぜ。」
マシロは胡蝶の中ではまだそれほど人気がある嬢ではない。値段も割と安い方だ。
「で!?どうだったんだよ!」
「ああ・・・それはもう最高だぜ?さすが胡蝶だわ。それ程人気ない女なのにあのレベル・・・驚くぜ?」
「くぅ・・・まじか!やっぱり俺も金貯めていくしかねえ!」
当然だ。人気がなくても胡蝶の女は全員最高の女だ。
とりあえず客が満足してるようで一安心だ。コハルのような人気の嬢を買えなくとも、最高の一夜を過ごして貰いたい。俺はそう思っている。
「それでな?あそこに1人だけ男がいるのは知ってるか?」
「うん?関係者というか従業員の男だろ?聞いた事あるな。」
「まあ胡蝶で働ている男ってだけで目立つからな。で、それがどうしたんだよ?」
「ああ・・・実はそいつが胡蝶の影の支配者らしいぞ?」
おい待て。なんだそれは。
「なんだと・・・!じゃああいつは胡蝶の女を好き勝手・・・!」
「間違いない。全員あいつに美味しく頂かれてるだろうよ。」
「なんだよそれは!羨ましすぎるだろ!」
ねえよ。ふざけんな。今さっきコハルに「絶対無い」と宣言したばかりだろうが。まあ奴らに言ったわけじゃないのであれだが・・・それでもなんだその噂は。
「ああ、それで胡蝶の女を使ってこの国を乗っ取ろうとしてるらしい。」
「そ、そうなのか!?」
「あそこの女達はその男の言いなりなんだ。」
「くぅ・・・まじでそいつ何者だよ!」
「そいつの為なら何でもするくらいにテクニックが凄いらしい。」
童貞ですが何か。女性とお付き合いすらした事ありませんが。今すぐあいつらのところへ行って全力でそう宣言してやりたい。
「でも確かに胡蝶の女を使えば国くらい支配出来そうだな。」
「だろ?国の偉い連中も通ってるだろうしな。」
まあ・・・うん、それは正直否定できない。アマネ達なら出来そうだ。
「あれだな、その男を脅迫でもすれば好き放題できるんじゃねーか?」
「確かに国も女も好きに出来るかもしれねえな。」
「それは無理なんだぜ?」
「ガゼル、どういう事だ?そいつが滅茶苦茶強いのか?」
「いや、その男は魔法も使えないし、剣の扱いもダメダメらしい。」
「へえ、ただの弱っちい男なんだな。」
うるさい。余計なお世話だ。
「それで?何で無理なんだ?」
「お前らアマネ、コハル、ヨギリって知ってるか?」
「当たり前だろ!胡蝶のトップ3じゃん!娼婦通いしてない連中だって知ってるくらいだ、誰でも知ってるだろ!」
「ああ、俺も知ってる。この世のものとは思えない美女。1回抱けるならもう死んでもいい。そんな噂を聞いたぞ。」
「そうだ。俺も胡蝶に行った時見られるかなと思ったんだが・・・」
「ガゼル、見たのか!?」
「いや、見れなかったぜ。それだけが心残りだ。絶世の美女、見てみてえ。きっと女神のような女なんだろうな。お淑やかで美しくて慎ましくて。」
ここにいます。絶世のコハルさんならここにいらっしゃいます。そして酷い暴力女です。さっきから殴るし、蹴るし、最低です。
(痛っ・・・!お、おいコハ・・・痛い痛い!)
ほら、蹴ってくる。しかもさっきより本気で蹴ってくる。
(余計な事考えるのは駄目よ?わかった?)
(は、はい・・・すいません、コハル様。)
(よろしい。)
怖い。大人しくしてよう。
「それでガゼル、その3人がどうしたんだ?」
「いやな、アマネ、コハル、ヨギリはその男が大好きらしい。何でもその男に手を出したら・・・」
「だ、出したら?」
「死んだ方がましというくらいに酷い目に合わされる。ほら、アマネは歴代トップクラスの元冒険者。ヨギリやコハルも似たような怪物だって話だ。」
まあ歴代トップクラスというのは嘘ではない。ただ俺に手を出した程度でそんな事をするはずがない。コハルやヨギリに懐かれてはいるようだが、大好きとは違うだろう。アマネに至ってはただの保護者だしな。
(大好きだってさ。的外れな事言ってんな。コハルもいい迷惑だろ。)
(え・・・?あ、う、うん、そ・・・うね?)
なんかコハルの様子がおかしい。珍しくしどろもどろになっている。
(どうした?)
(な、なんでもないわよ?うん、ちょっとスープが変なとこ入っただけよ。)
(ああ、そうなのか。)
様子がおかしかったのはそう言う事か。てっきりあいつらの話が本当だから慌ててたのかと思った。まあでもよく考えればあの程度の事でコハルが照れたり焦ったりする事はないだろう。
「だから誰も手が出せないらしい。」
「なるほどな・・・でも四六時中胡蝶にいるわけじゃないだろ。1人になった時を狙えば攫うくらいは出来るんじゃないか?」
「まあ出来るかもな。でもその後の報復を考えたら・・・」
「ああ、それは怖えな。」
「だろ?まだ男を懐柔する方がいいかもしれねえ。」
「それいいな!そいつと友達になれば胡蝶の女を好きに出来るんじゃね!?」
「お前結局それかよ。」
「いいじゃん!お前は胡蝶行ったかもしれないけど俺は行ってないんだよ!」
「じゃあその為に頑張って稼げ。ほら、そろそろ依頼受けにいくぞ。」
「あ、ああ。まあ所詮噂だしな!実際俺が行って確認してきてやるよ!」
そして冒険者の男達はそのまま店を出て行った。朝っぱらからなんて会話してるんだと思ったが・・・参考になった。なるほど、そういう噂が流れているのは知らなかった。これは反省だ。もう少し街の噂を気にしなければ不味い。
「どう?少しは面白い話聞けたでしょ?」
「ああ・・・これからは街に出て情報収集するようにするか・・・」
「その時は付き合うわよ?今日みたいに魔法かければ平気でしょ?」
確かにそうだ。俺とコハルがここにいるのに気づかれていなかった。魔法を使って一般人として街を歩いたら色々と噂を聞けるかもしれない。まあ俺は客以外には顔がバレてないだろうから別に魔法がなくて大丈夫だとは思うが。
「・・・あれ?」
そういえばコハルは今なんて言った。
「お前今『面白い話が聞けたでしょ?』って言ったよな。まさか・・・あれを聞かせる為に今日俺を誘ったのか?」
途中で何回も「最後まで聞こう」とコハルが言ってきたのも今考えるとおかしい。
「・・・ええ、そうよ。」
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