第4話 シャノワール

「大勢相手に随分と好戦的な口調なんだな。危ないぞ」


「最悪、全員叩きのめすだけの心得はあります」


「そ、そうか……」


 そんな自信たっぷりに言われてしまうと何も言い返せなかった。にしても、女子とは思えないとんでもない強さだ。どうなっているのだろうか。


「さっきの歩法といい、剣技といい、目にも留まらなかった。どうやったんだ?」


「どうも何も、ただできるだけ素早く剣を振っただけです。知っての通り、このゲーム内ではプレイヤーの身体能力に補正はかかりません。ARなんだから当然ですけど」


 じゃあ、生身でチートもなしに、あれだけの攻撃を瞬時に繰り出したのか? それってもう人間辞めてないか?


「なんにせよ、ありがとうございました。あなた、なかなかの勇者と見ました。私を庇ってくれたんですから。特別に、私の眷属にしてあげないこともないですよ」


「は? 眷属?」


 感謝されたのは嬉しいが、眷属ってなんだ? 中二病をこじらせてるのか? まぁ確かに中二くらいの見た目だが。


「あれ? ゲーム内で仲間を誘うときにはこう言うものでは……?」


 どこ情報だよそれ。いたいけな少女におかしなことを吹き込む奴もいたものだ。


「言わないと思うぞ。俺は【フェーブル】という名前でやっている。あんたは?」


 如月はFebruaryだから縮めてフェーブル。安直なネーミングだがな。


「私は藤間……いや、【シャノワール】です。よろしくお願いいたします」


 本名を口走りそうになっている。ゲーム初心者なのか? それであの腕前。スポーツか剣道でもやっているのだろうか?


「なにか運動でもしているのか?」


「いえ、ただ師匠に武術を習っていました」


「やっぱり、剣道とか?」


「いえ。あらゆる状況を想定した、師匠オリジナルの武術でした。おかげで、人並み外れた体力がついてしまいました」


 俺を担げるくらいだ。確かに人並み外れている。


 そもそもこのゲームを、フィットネス代わりに楽しむ者はそこまで多くない。ボリューム層は、賞金目当てのプロアスリート崩れだ。奴らはガチで参戦してきている。俺のように、純粋なゲーム好きはほんの僅かだ。


「もちろん、体育の授業では手を抜いていますが」


 まぁ確かに目立つしな。そこは普通の中学生的な感覚なんだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ネトゲ廃人がARにハマったらこうなった 川崎俊介 @viceminister

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ