第3話 逃避行

「剣技【千斬万打】」


 グリゴリの目の前に急接近した少女は、目にも留まらぬ速さでメイン武器の刀を振るった。


 決着は、一瞬で着いた。グリゴリはド派手なエフェクトとともに霧消した。


「すげぇ」


「あれが生身の人間の動きか?」


 皆驚いている。


「いや、チートだろ。なんかイカサマしているに違いない!」


「賞金は均等に山分けだからな!」


 おいおい。殆どあの少女の手柄だってのに、均等に山分けはないだろ。


 俺は抗議しようとしたが、長年のコミュ障ぶりが祟って声がまともに出なかった。


「じゃあ、PvPで生き残った者が賞金総取りってことで、どうでしょう?」


【モルト・ヴィヴァーチェ】では、プレイヤー同士の決闘システムが充実している。一対一、一対多、多対多等、様々なバトルができ、勝敗による金の分配度合いも設定できる。


「チート使い相手にそんな勝負乗れるか!」


「じゃあ、1対50でも構いませんよ? もっとも、その貧弱な体では、私に対抗できるだけの体力など残っていなさそうですが」


 少女の煽りは、他の成人プレイヤーたちの逆鱗に触れたようだった。


「おうやってやるよ!」


「ゲーム内だからって調子づくなよ!」


 まずいな。このままじゃ少女が集団暴行されそうな勢いだ。


 俺はすかさず少女の手をとり、駆けだしていた。賞金の配分方法は、5分以内に決めなければならばならない。全員が同意しない限り、与えたダメージポイントに応じて賞金は比例配分される。それまで逃げ切れば勝ちだ。


「おい! なんだあいつは!」


「あのチーターの仲間か?」


 俺は罵声を浴びせられ、あまりの恐怖から路地裏へ全力疾走していた。だが当然、30秒とたたずに息が切れた。


「ハァ、ハァ……」


「仕方ないですね。行きますよ!」


 俺はなんとゴスロリ少女におんぶされ、新宿の街を逃げ回ることとなった。恥ずかしすぎる。それにしても、運動不足で肥満気味の俺を背負って走るとは、なんて体力だ。規格外すぎるな。


 ついに、与えたダメージポイントに応じて、賞金は比例配分されたとのメッセージが表示された。


 どうやら5分逃げ切れたようだ。


「運営に問い合わせされそうですね。まぁそうなれば、チートはなかったと分かり私の潔白は証明されますが」


「いや、その前にネットに晒されたらマズい。さっさとログアウトするぞ」


 俺たちはログアウトし、ゴーグルを外した。


 ゴスロリ少女は、ウィンドブレーカーを着た純朴そうな少女だった。なんか普通の見た目で安心した。

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