第12話 川蝉自動車 の 経営改善

川蝉グループの中でも…

稼ぎ頭なのが…川蝉自動車だ。


しかし、長年の悪癖によって川蝉自動車の屋台骨は今…大きく揺らごうとしている…。


真由美 「自動車産業で重要なのは…お客様の立場に立った思いやり と コストダウン…。

今や…ドンブリ感情と馴れ合いで仕事をしていたら確実に閉鎖に追い込まれる!

そこを…どうやって刷新していくか…☆

先ずは現状調査だなあ…☆

拓人さん…またお願いして良いかしら?」


拓人 「はい、いつでも社員価格で調査いたしますよ。」


……………………………………


先ず調査したのは、川蝉自動車の本社工場…。

ヘルメットを被って社長自ら案内してくれる。

さすが…グループ本社からの役員に対しては優遇してくれる…。


しかし、今回は刷新と改善が目的なので…

申し訳ないと思いながらも辛口の批評をする。


跡取り娘の婿とあって…グループ本社の常務の肩書きをもらっている。


拓人「若僧が視察で申し訳ないのですが…

製造ラインの一新を考えられてはどうでしょうか?

どの機械も30年以上経過したもので…電力消費が大きいでしょう…。」


川蝉自動車社長「それゃあ…ラインを新しくしたいのは山々です。 ただ膨大な投資が必要ですから…体力をもう少し付けてからですかね。」


そう言って…

「今夜は良い店を予約して有りますんで…お楽しみください」

との事だ…。


こういう処も昔体質だなあと拓人は思った。


悪習だと思いながらも、多くの情報を得たいと…

断る事はしなかった。



社長 「グループ本社の常務さん、まあ一杯!」


川蝉常務(拓人) 「どうも……社長さんは経営畑ですか?… それとも技術畑ですか?」


社長 「私は東大 工学部 機械工学科卒業ですわ。 小さい頃から機械いじりが好きで…」


拓人[それじゃあ…経営の事は素人…?]

「グループ本社からコンサルタントは派遣されていますか?」


「いやあ…あんまり現場の事を知らない人だったんで帰ってもらいました。 机上の空論では意味が有りませんからね…。」


拓人 「なるほど…それで会社経営については、

どんな考えなんですか? 是非とも勉強させてください。」


社長 「いやあ…勉強だなんて、本社の常務さんにですか? 恐縮ですなあ。

まあ、強いて言えば、現場主義…現場を知らない人間に製造業の経営は出来ません。

自動車は機械が作るのでは 有りません。

人がチェックしながら作るんです。

ですからコストを掛けないといけない所と、

コストを落としても良い所が有るわけです。

それに安全第一、安全以上に優先するものは何も有りません。 安全…確実…迅速の順です。

お客様にとって自動車は快適で信頼できて安全なモノでなくては成らないのです。

そして、自動車を作る社員も安全に仕事が出来て、幸せに成らないといけない…というのが

私の持論なんです。」


拓人 「そうですか…ご立派なお考えで感服いたしました。 

では自動車産業界で 生き残る為のノウハウが有ればお聞かせ願えますか?」


社長 「生き残る為のノウハウですか……

そうですねえ…… 」


社長はしばらく考えた…。



社長 「今日日…無人化して、コストダウンだとか…言われるじゃないですか…。

私はイヤなんですよね…。 

製造ラインから人を無くしたら…

どんな製品が出来上がるか心配なんです。 

優秀なセンサーが開発されていますが…

ちょっとした感触や光沢、色合いなんかは

まだまだ今のセンサーじゃ感知出来ないと思っているんです。

だから薄利多売じゃなくて…

付加価値の高い車を作って売りたいんですよ。」


本社の川蝉常務 「なるほど…それでは今の工場そのままに…新ブランド名で売り出してみては どうでしょうか?

もちろんデザインを変更して、グレードも高いものを中心としてですね…。」


社長 「なるほど…それなら薄利多売しなくて済むわけですね…。」


川蝉 「でも…最初に高級なイメージ、スポーティーなイメージをアピールできるかどうかに掛かっています。 

そういう意味では手抜きは出来ないわけです。

徹頭徹尾…新ブランドのイメージ作り、車造りをしないといけないのですが…

コストダウンするべき処は、しないと企業が保ちません。」



社長 「おっしゃる意味は よく解ります…。

それから車造りは…人間造りだと思っています。

良好な人間関係を作れない社員は…

車造りも任せられない…。

お客様の立場に立てない…高飛車な態度では

お客様に喜ばれる車は造れませんからね。」



川蝉 「そこ…私も同感です。

常日頃 変化の無い仕事に、急に変化があると

人間は軽いパニックになるのですが、

そこから努力していける人間なのか…

最初から諦めて周りに毒を吐く人間になるのか

です…。」


社長 「私は何千何万人も…そういう人間を見てきました…。」


川蝉常務 「今日は社長さんとお話出来て良かったです。 

川蝉自動車の未来は 前途洋々です。 

また近いうちに経営理論を聞かせてください。」


川蝉自動車 社長 「こちらこそ…グループ本社の常務さんが話の分かる方で良かったです。

いつでもお茶を飲みに来てください。」


常務 「社長さん…明日、もう一日細かく現場を見させてください。 

夕方に幹部の方との意見交換をして視察終了です。」


…………………………………


次の日は川蝉自動車が誇る製造ラインを視察した。


常務(拓人)は意外に製造ラインが自動化されているのに驚いた。


最新のプレス機からは目にも止まらぬ速さで部品が打ち出されてくる。

そのまま脱脂、塗装工程に入る。


川蝉自動車の本社工場で製造しない部品は、仕入れて組み立てラインに納入され組み立てを待つ。


自然災害によって日本のどこで部品が作れなくなっても自動車メーカーに影響が出る。


1円でも安い単価の部品を各自動車メーカーの仕入れ担当者が探してくる。


もちろん安いだけではダメで…安定した品質が条件だ。


夕方になり幹部を集めて意見交換。

不良率 3%未満というのが資料に謳われている。


司会者 「では…有効な改善策というテーマで話を進めていきます。

先ずは部品の大量不良を出さない為の提言

 ①ルールを守る

 ②段変え時のチェック

 ③ランニング時の抜き取りチェック

 ④初物、終物のチェック… 」


常務(拓人) 「では、グループ本社からの提言です。

 ①人件費削減

 ②材料費削減

 ③労働時間短縮

 ④品質向上

 ⑤クレームゼロ 以上です。」


会場からは どよめき が起こる。

「クレームゼロかあ…。」


常務 「クレーム目標はゼロです。 3%は甘いです。

これからも熾烈になる自動車産業の生き残りを考えれば、クレームゼロで…なおかつプラスアルファーでないといけません。」


本社常務 「我々は自動車製造のプロです!

誰にも負けないウルトラCを持たないといけないです。 

ウルトラCとはノウハウの事ですが、深いサービス精神に裏付けられたモノで無ければ意味が有りません…。 

もうダメだとか限界は自分自身が作る妄想です!

研究し努力すれば…限界は無いのです!

限界だと思ったら…別の角度から見てみるのです!

人間は太古の昔から発展し続けてきました。

成長が止まったとか…聞いた事が有りません!

人も産業も発展し続けるのです。」


会場から拍手が巻き起こった…。


社長 「川蝉常務…分かりました。

私達は製造のプロとして努力し続けます!

ご来社 感謝いたします…。

目から鱗が落ちる思いがいたしました。」


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