第7話 サバイバルゲーム娘

拓人が事務所に帰ると、鍵を開けた とたんに

火薬の臭いがした。


[ヤバイぞ!]

拓人は直ぐにその場に伏した!


5秒…10秒…20秒…30秒…特に爆発音は無い。


恐る恐るドアを開けると中にライフルを構えた美女がいた。


「遅いわよ! いつまで待たせる気?」


「君は……いったい誰なんだ!」


「真由美よ!……忘れたの!」


「ん……んっ? 真由美……まゆみ……?!!


ひょっとして……この間サバイバルゲームを一緒にやった……真由美ちゃんか?」


「そうよ! 思い出した?!!


この前は捕集されたけど…今度は私の番よ!

覚悟して!」


この娘は川蝉財閥の跡取り娘で、SNSを通じて偶然知り合った。


先日そのSNSで呼び掛けて《大追跡》というイベントを真由美ちゃんがスポンサーで行った。


真由美ちゃんは自信があったらしく優勝を狙っていたが、俺(拓人)が優勝をかっさらってしまったという訳だ。



拓人「真由美ちゃん、ところで、父上の容態のほうは どうなんだい?」


拓人は、そのイベントで野宿して、真由美から身の上話を聞いて…ずっと気になっていた。


「うう…ん、相変わらずなの。 身体の機能は戻ったんだけど、記憶がハッキリしないんだ。」


「そうかあ…真由美ちゃんも可哀想だな……。」


「お母さんが付き添っているから…安心と言えば安心なんだけど…。 一度未遂事件を起こしてるから逆に心配な事もあるし…。」


「そうかあ…真由美ちゃんも気苦労が絶えないね。」


真由美は受け答えをしながら……大好きなライフルのモデルガンをスリスリしている。


「あれ~☆ 拓人さんのモデルガンって…☆」


「ああ…特注のトリプルアクション…弾を発射してから0.3秒で次の弾が装填される…。」


「良いねえ…早速、私も注文するわ!」


二人はその後も一時間くらい、モデルガン話に花を咲かせた。


「ところで妹君も元気?」


真由美 「う…うん、一月前に一度連絡があったから…その時までの安否は確認出来てる。」


「中東の傭兵だっけか?」


真由美 「そうそう…航空大学校を出て…米軍に入隊して、今はフリーの戦闘機乗りってところ…」


「やっぱり川蝉家はブッ飛んでるわ。 まあ…何やっても屋台骨がしっかりしてるからな。 川蝉重工業…川蝉電子…川蝉銀行 etc…。」


真由美 「今はそれぞれ分業して別会社になってる…創業者にはマージンが入るけどね。」


拓人 「そうかあ…それで、今日はサバイバルゲームのお誘いだったの?」


真由美「う~ん、それもあるんだけど…仕事の依頼かな…。」


拓人 「待ってました。毎度有り難うございます。」


「幾つか…やって欲しい事があるんだけど…ややこしくなるから…一つか二つずつお願いするわ。」


「じゃあ今月の仕事は心配しなくて良いね。」


真由美 「前から聞いてみたいと思ってたんだけど…こういう商売って儲かるの?」


「まあ…仕事次第だね。 良いお客さんだと一日仕事するだけで2週間は遊べるよ。 


でも仕事が全然無いときもあるからね…まあ始めたばかりだから…よく解らないけど。 


俺の奥さんにでも成りたくなった?」


真由美 「冗談言わないでよ! ちょっと気になっただけだから…。」


真由美は顔を赤らめた…。


「ほら、赤くなった…。」


真由美 「とにかく遊んでる暇があったら仕事してちょうだい!」


「はい、はい、相当口うるさい女房になるなあ…。」


真由美 「だから…アンタの嫁さんにはならないから…。」


「絶対? 誓う? 今なら言い直せるよ…。」


真由美 「なんか…新手のプロポーズなの?」


「うん、お金持ちの奥さん…ほしいから。」


「…ったく。」



ゴチン!


拓人 「イタタタタ!……」


真由美 「では…早速 依頼内容を伝えます。

お母さんが妹にお父さんのお見舞いに来るように伝えてと…

出来るなら妹を連れて帰って…。」


「分かった…。それで妹さんの手掛かりは?」


真由美 「バーレーンかイエメン辺り…

どこかの国の傭兵となって戦闘機に乗ってる筈…。」


「では…出発のキスを☆」


「エエ~☆ まあ良いだろう…チュッ!」

[生きて帰ってきて…出来れば妹と共に…。]


拓人[今回の仕事は…相当ヤバイぞ! 

何と言っても戦場だからな…。

エキスパートを雇うか?

予算次第だがな…。]


「予め聞いておくんだけど…経費はどのくらいで見積もってたら良い?」


真由美「そうねえ……危険手当て込みで一日50000円までかなあ?」


拓人[ダメだ……そんな日当じゃあエキスパートは雇えねえじゃんか……。 

仕方ない! 俺が行くしか無いな!]


…………………………………


ここは中東…バーレーン。


石油の採掘権をめぐって常に争っている地域…。


経済を握っているのは一握りの金持ち達だ。


砂漠地帯を戦闘機の機銃掃射に二人の民間人が追いかけられている!


「俺達は無実だ! 何もやってない! 誰か助けてくれ!」


その地域の族長らしき人物に助けを乞うた!


族長「(アラブ語)ああ…中国人だな。召し使いになるなら口を聞いてやろう!」


拓人[とにかく命だけは助かった! 隙を見て逃げるとしよう!]


拓人とガイドの二人は暗くなってから族長の家から逃げ出した。


ガイド「気を付けるのは人間だけじゃなくて野生のジャッカルにも気を付けてください。」


二人は夜道を歩いて朝方に空軍の基地へ辿り着いた。


拓人は心得たように門の兵士に賄賂を渡すと、

真由美から預かった妹の写真を見せて言った…


「空軍のパイロットだ!俺の妹に会いに来た!」


門兵「オーマイガッド! 早く行け! グズグズしてるとアン(杏)に ぶっ飛ばされるぞ! 向こうの白い建物だ!」


白い建物まで行くと入り口付近にいた男に妹の写真を見せた。


男 「オーマイガッド! 2階だ!はやく行け!」


拓人とガイドの二人は恐る恐る2階の部屋へ入って行った。


部屋の中では…帽子を深く被り…眠っているように見える兵士が真ん中のソファーに座って居て…若い兵士が二人護衛をしている!


護衛「何だ!お前達は!」


拓人 「(アラブ語)俺達は日本から来た。 その杏さんという飛行機乗りの人に母親からメッセージを預かって来たんだ…。」


真ん中に座っている兵士が話始めた…。


「ここは実力主義だ!殺るか…殺られるか!

本当に母親からメッセージを預かって来たのか?」


拓人 「ああ…お父上が病気で入院している…。見舞いに来なさい…との事だ。」


「ここは戦場だよ…親の死に目にも会えないと覚悟して来ている者ばかりだ! 何で今さら……。」


拓人「杏さん…ですか? 少し事情をお聞きしても良いですか?」


「ああ…毎日スクランブルが発令される度に戦闘機やら市街地やらを攻撃するんだ…何十人、何百人も殺してる! こんな戦場でマトモな精神でいられる訳無いだろう!」


「そうなんですね…。 でも…根っからの悪党には…見えないんですけど……

何かを護りたくて…ここに居るんじゃありませんか?」


杏 「フッ! 君に何が分かるんだ!

甘っちょろいよ! 


なにが…何かを護りたいだって! 

この戦場で…食べ物があれば奪い合いになる……分かるか? 


いつ砲撃があって命を落とすかも知れない!

優しさ?……そんな物は何処かへ忘れてきちまったよ!」


拓人「杏さん…戦争って、故郷を護る為にするんですよね。 誰かを護る為に…。

第二次大戦時 日本では《神風特攻隊》というのが有りました。 

片道燃料だけ積んで敵の艦船に体当たりするんです。 

そんな無茶苦茶な戦いをするパイロットの彼らは故郷の父母を思って、

「お父さん!」「お母さん!」と叫んで散って行ったそうです。

今の杏さんも…そうでは無いのですか?」


杏 「戦闘機乗りは なあ… 何時だって孤独なんだ。 勝っても負けてもな…。 

それに いつミサイルにロックオンされて撃墜されるかも知れない恐怖がいつもある!

私は傭兵だ…。 

故郷の為に戦ってる訳じゃない! 

金の為さ! 

そして自己満足だよ…。」


杏は続けた…

「私は親に引かれたレールの上を行くのがイヤだった…

将来の結婚相手だって決まってた…

政略結婚だよ…わずか7才でだよ。

私はそんな生活にウンザリしてた。

外人部隊の事をメディアで知って歓喜したよ…

直ぐにパイロットに成る事を決意した…。

航空大学校から米軍…戦闘機乗りになる為のスキルを全て学んだ…。」


杏 「もちろん…愛国心や思想を持って戦っているパイロットも沢山いる…


でも俺達は外人部隊…所詮 金で買われた武器と同じ…雇い主の指示どおりに戦うだけさ…。」


拓人「そんなに…お金が必要なんですか?」


杏 「いや…稼いだ金は殆ど戦災孤児の為に寄付してる…。」


拓人「そうですか…私と一度帰国して、お父さんを見舞ってくださいますね。」


杏 「ああ…アンタに会ったのも何かの縁だ。

休暇を取って日本へ一時帰国するよ。」


杏は二人の護衛に休暇の手続きをするように言った。


「ああ…それから、折角 日本から来たのだから訓練を少し体験すると良いよ…想い出になるだろう…。」

……………………


「教官! もう無理です! 限界!」

拓人は本物のライフルを持ってヒンズースクワットをさせられている…。


……………………


杏が休暇を取って日本へ帰国する日まで3日間…。

[生きて帰れるかなあ…☆]


杏と拓人、そして護衛の二人が日本への機上の人となった…。


護衛の二人は退屈しのぎか…体が鈍るのか…

最初は一人で手のひらを合わせて筋トレをしていたが…


杏を挟んで空中で力くらべを始めた…。


「止めねえか!」


杏は帽子を深く被り…只者では無いオーラを出している…。


成田空港に着くと母親と姉(真由美)が迎えに来ていた。


「アン…会いたかったわ!」

母親は杏を力いっぱいハグした…。


その上から真由美がハグをする…。


[よし! ミッション コンプリート!]

拓人はガッツポーズをキメた!


母、真由美、杏、護衛の二人、拓人の一行は、

真由美と杏の父親の入院している病院に見舞いに向かった。


真由美「アン……お父さんは事故で酷いケガをしてね…身体のほうは良くなったんだけど…


記憶がね ハッキリしないんだよ。

ショックを受けないでね。」


母 「でも…よく帰ってきてくれたわ…。

お母さんは…それだけで十分…。」


杏は職業柄…懐疑的に考える…。

《母は何か私に要求する…》


直感でそう感じた。


父を見舞うと…姉が言っていたように

頭に包帯をしていたものの…

ベッドから身体を起こして隣の患者さんと話をしている…。


「お父さん…娘のアンが帰って来ましたよ…。」


父は杏の顔をマジマジと見た…。


「あのう…どちらの娘さんですか?」


その瞬間…母も姉も自分の口を押さえて涙ぐんでいた。


「アン…ゴメンね。 

お父さん…相当酷く頭を打ったんだよ…。 

こうして 生きてくれているだけでも有り難いから…。」

母は杏に申し訳なさそうに話した。


母 「こうなった以上…川蝉グループは真由美と杏の二人で経営していって欲しいのよ。」


杏は[やっぱりな…。]と思った。


「真由美はどう?… 杏はどう?…

経営については、これから勉強してもらうわ…

心配しなくて良いのよ。

それでパートナーでも決まれば…

お母さんも安心出来るし… 」


「私はフリーターだからオッケーよ、

杏と一緒にやっていけるなら安心だわ。」


「私は…イヤだね! 家業が嫌で飛び出したのに…お父さんが こうなったからって…

川蝉なんて……潰れちゃえば良いのよ!」

そう言って杏は病室を飛び出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る