第4話 玲奈のお姉さん

拓人(ディーン) 「玲奈ちゃん…身内の素行調査はもう終わりかい?」


 玲奈 「ああ…そうだわ☆ ディーンに私のお姉さんの調査を依頼するわ☆ 


 突然…私にお兄さんが現れたんだけど…そのお兄さんには、お姉さんがいるみたいなんだよね。」


 拓人 「何か…それって…わらしべ長者みたいな…? 最後は人類は皆 兄弟ってなるとか?」


 玲奈 「ん…それほど込み入った事でも無さそうだよ。 


 あの啓介兄さんに聞けば…お姉さんの事を教えてくれるんだろうけど… 


 昨日はお姉さんの話…あまり出なかったもの。


 何か事情が有るのかもね。 それ…調べてくれる? いきなり啓介兄さんに聞くのもね…。」


 拓人 「了解! 調べてみるよ、君のお姉さんの事を…。 


それで写真なんかは……取り合えず無いんだね。 


 分かるのは…玲奈ちゃんが お母さんから聞いたお姉さんの名前と大体の住所だけだね。 


 なんか刑事みたいだわ。 

探偵業一本に絞ろうかな? 


 いやいや…犬の散歩もおいしいからな。」

……………………………………………………………


拓人は早速、聞き込みから始めた。



拓人(ディーン) 「すみません、この辺りに《田代桃子》っていう20才台の方が住んでると思うんです。 ご存知無いですか?」


住民 A 「さあ……この辺りはアパートが多くて入れ替わりが激しいから…分からないなあ。」


米屋さん 「田代…っていう女性ねえ?…そうだ時々 配達する所…女性の単身者で田代さん…歳は20代半ばかな。」


拓人「NNKの者ですけど…田代桃子さん…テレビは置いてますか?」


田代 A 「えっ…うちはテレビ無いわよ。 それに名前…田代多重子だし。」


拓人「失礼しました。宛どころ違いですね。」

……………………………………………………


拓人「ごめんください。 ヤマモリ運輸です、田代桃子さんにお届け物です。」


田代 B 「私…田代桃子…じゃ無いわよ。 」

……………………………………………………


拓人「毎度~クリーニング屋です。 田代桃子さんですか?」


田代桃子「うん、田代桃子だけど…このシャツは私のじゃ無いわ…あら、お兄さん名前…田代兆子になってるじゃない!」


拓人 「ホントだあ! すみません、間違えました!」


田代桃子「しっかりしてよ! コッチは夜の仕事で寝てたのよ。」


拓人は桃子の手の甲に古傷が有ったのを見逃さなかった。

……………………………………………………


拓人[十中八九…あの女性が田代桃子ご本人だな。同性同名かもだけど…しばらく張り込んでみるか… ]




田代桃子はナイトパブ《ダーリン》という店の裏口から入って行った。


拓人(ディーン)は桃子の調査を進める為に、

パリっとしたスーツに身を包むと…

《ダーリン》のお客として入店して行った。


「いらっしゃいませ! ご指名は…ございますか?」


「ん~、どんな娘がいるの?」


「そうですね~、こちらが女の子の写真とプロフィールになっております。」


「そうかい、ちょっと見せて… 」

拓人はページを めくっていった。


《麗子》という名前の女の子が…田代桃子に似ている。 最後までページを めくってみたが…おそらく彼女だろう。


「じゃあ…麗子ちゃんで…。」


「分かりました。 お待ちください…。」


「お待たせしました。 麗子でございます。

お飲み物は何になさいますか?… 」


女の化粧は凄いもんだ! 昼間に会った田代桃子とは別人に見える…。


「ああ…そうだな。 ウイスキーの水割りを…。」


《麗子》は手際よく水割りを作ると…

「私も戴いて良いですか?」と言って一呼吸置いてから自分のを作る。


「じゃあ乾杯しましょ☆素敵な夜に☆」


《麗子》の手の甲を見ると…古傷があったので、

[間違いない!]と確信した。


拓人「故郷はどちらですか?」

本当の事を言うかどうか分からないが…

取り敢えず 田代桃子の事が知りたかった。


こんな店ならよく有るように、20分位でボーイが《麗子》に耳打ちする。


「ごめんなさい…ちょっと空けさせてくださいね。」


それから10分位してボーイが

「大変申し訳ありません、《麗子》さんがお得意様のご指名でしばらく……。」


「分かった…こちらも指名で…。」

拓人はそう言って五千円札をボーイに握らせる。


ボーイは一礼して奥に入っていった。


すると10分も しないうちに《麗子》が戻って来た。


《麗子》は

「お客さん…強引ね。 よほど私を気に入ってくれたか…何か聞きたい事があるのね。」



田代桃子の言葉に間違いは無かった。


しかし、依頼人に迷惑を掛けるわけにもいかない…


「いや…麗子さん…凄く綺麗で…僕…好みなんです。」


今日日の中学生でも…もう少しシャレた答えをするだろう。


桃子は呆れ顔で言った。


「この世界は狐と狸の化かし合いだから…驚きもしないけどね。

きっと どこかの金融機関の市場調査か何かでしょうよ。」


桃子は悟ったかのように話始めた。


「最近は化粧品にお金を掛けてるわ…殆んどの女の子がね…。

あとはドレス、こう見えて軽く20万円はするのよ。特別注文だからね。

ネイルサロンも通ってるわ…水商売の女の子なら当たり前よ。 

それからバッグやらお財布はブランド品ね…安物はお客さんに直ぐバレちゃうからね。」


「そうなんだ、麗子さんの話は為になるわ!」


拓人は成りきり調査マンに徹してみた。


「麗子さんはキッカケは何だったのよ?」


店に入ったキッカケを聞きたかったのだが…


どうとでも取れる言い方で調査マンを演じた。


「そうねえ…私、こう見えても看護師の資格持ってるの。


父が早く死んじゃったからね…母に負担を掛けたくなかったから…。 

直ぐお金を稼げるようにね。」


「麗子さん…偉いねえ。 お母さん優しい人なんでしょ。 子は親に似るって言うからねえ。」


拓人はリズム良く桃子に合いの手をいれた。


「そうよ、お母さんは凄く優しいの…。 

でもね、その優しさが…幼くして父を亡くした私にとっては重荷になったの。 

いっそ、全てをぶちまけて…『早く働けこの穀潰しが!』って言ってもらったほうが分かりやすかったわ…。 

お母さん…優し過ぎたのよ! 

だから娘は 不良で…こんなアバズレになっちゃってさ! 

天国のお父さんも…さぞ 呆れていることでしようよ…。」


「それは違うよ…。 麗子さんのお母さんは親の愛を教えたかったんだと思う。

踏まれても子供の為には立ち上げる…そんな親の強さと愛をさ…。」


「あなた…分かったような事を言うわね…。

私には弟がいてね…、お母さんが働いている間は弟の面倒を見なきゃいけなかったわけ…

友達は週末になると、アチコチお父さんとお母さんに連れられて遊びにいってたわけよ。

私達 姉弟とは対照的にね!」


「そうかあ…そうだよな。 麗子ちゃん…寂しかったんだね。」


「貴方ねえ…名前は何て言うのよ! ちょっと肩を貸しなさい!」


「僕は拓人だよ…。」


「たくと…ちょっと肩を借りるわよ!」


麗子は拓人の肩で泣いた…。


「お母さん…ゴメンね。 こんな親不孝な娘でゴメンなさい!」


拓人は麗子の頭をそっと撫でてやった。


「たくと~☆ アンタ…よく見ると男前だねえ。

私…好みだなあ。 う~ん、ちょっと弱いとこ くすぐられて…湿っぽくなっただけかな。」


麗子はグイグイ水割りを煽ったので、酔いが回り始めていた。


「たくと~☆ 姉ちゃん…寂しかったんだよ。

ケースケ~☆ ダメな姉ちゃんでゴメンね~☆

あ~☆ ここ何処だよ? 仕事? 今日は閉店ガラガラ~☆ ハッハッハ☆」


店のスタッフが麗子を迎えに来たが


「大丈夫ですよ。 僕がお酒を勧めてしまって…。 麗子さん、また来ますね。 

今日はありがとう。 日頃のストレスが癒されました。 これ…プレゼントです。」


拓人は麗子の首にルビーのネックレスを掛けてやった。


「アンタ…優しいのね☆ また来てね☆ 絶対よ☆ 麗子 待ってるから☆」


拓人は3日間通って…すっかり麗子と打ち解けた。


拓人(ディーン) は 玲奈に田代桃子の調査を報告している。


「お姉さん(桃子) は お父さんを幼い頃に亡くして…

忙しく働いていたお母さんと触れ合う時間も少なくて…

寂しい幼少期を過ごしたみたいですね。

弟さん(啓介)の面倒をみないといけなかったから…

周りの女の子がお父さんお母さんと週末に遊びに出掛けるのが相当羨ましかったみたいです。

決定的に孤独感を味わったのは…

結婚生活2年で若くして未亡人になったお母さん(美代子)に再婚の話が出て、

桃子さんと啓介君が親戚に預けられた時みたいです。」


玲奈 「そうなんだあ…お姉さん(桃子)は凄く寂しい子供時代を過ごしたんだね。 お母さんと引き離されちゃう…なんて孤独の極地だよね。」


拓人 「結局、その時の再婚話は周りが心配して…

嫌がるお母さん(美代子)を無理やり結婚させようとしてたので、

上手くいかなくて破談…お母さん(美代子)も相当苦しんでたみたい。」


玲奈 「周りの親戚に無理やりお母さん(美代子)と桃子さんは引き離されたんだね。

可哀想だね。」


拓人 「お母さん(美代子)は、そんな苦しい時に玲奈ちゃんのお父さんと恋に落ちちゃったんだね。」


玲奈「そうかあ…何か…玲奈も責任感じちゃうなあ。」


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