第101話 調査報告
「はい。私からの報告事項は三つあります。最初のふたつは陛下からご命令のあった調査項目に関するものです。一つ目は、陛下がウェンリィ様と別人であるか否かという調査についての結果報告。二つ目は、このサキという女の出自についての調査結果の報告。三つ目は、私が必要性を認めて調べた事項で、王位継承権についての補足です。順にご報告いたします」
マリウスはレナードとシオンをちらりとみて、報告をはじめた。
「まず一つ目は、陛下がウェンリィ様とは別人であるか否かという調査についての結果報告です。多くの者に聞き取り調査を行いました。一人目は王宮医のホランド殿です。ホランド殿によれば、陛下こそウェンリィ様ご本人で――」
レナードが割って入る。
「待て、待て。マリウス殿は今来られたところだからご存知ないだろうが、先ほどホランドの証言は終わったのだ。もう彼の話は聞いた。同じ話の繰り返しになってしまう。省略せよ」
「では、二人目の厩舎長からの聞き取り結果を――」
「待て、マリウス殿。厩舎長の証言も先ほど聞いたのだ。他の王宮の者たちの証言もな。調査の経緯はもうよいから、貴公の出した結論だけを述べられよ」
「はっ。では結論です。調査の結果、陛下がウェンリィ様とは別人であるという点について、証拠は何もみつかりませんでした」
シオンは満足そうにうなずく。
「続いて、二つ目の報告事項です。サキという女の出自についての調査結果をご報告いたします」
「マリウス殿、端的に結論だけを述べられよ」
レナードは釘をさした。
「はっ。では、調査の詳細は省略し、結論だけを述べます。結論として、この女の父親はサルアン様である、ということに決定的な証拠はみつかりませんでした」
再びシオンは満足そうににやりと笑う。レナードがうなずき、報告のまとめに入ろうとする。
「つまり、陛下はウェンリィ様ご本人であることに疑いなく、この女はサルアン様の娘である証拠はないということだな。明解だ。これで貴殿の報告は終わりかね?」
「いいえ、閣下。冒頭に申し上げましたとおり、私からの報告事項は三つあります。まだ二つしか終わっておりません。補足として最後の報告事項がございます」
「待て。長い裁判に陛下も私も諸侯も飽き飽きしてきたところだ。あくびをしている者もいる」
傍聴席から笑いが漏れた。
「我々がこの裁判で明らかにしたいことは、誰が正統な王位継承者であるか、ということだ。もったいぶらず、結論を聞こう」
レナードが座り直してマリウスの目をみる。
「端的に訊ねよう。この場にいる者の中で正当な王位継承者はいるか?」
「はい」
マリウスはよどみなく答える。
「うむ。では、その正当な王位継承者を指し示せ」
「はい」
マリウスが指すのはシオンかサキか。聴衆は黙して成り行きを見守っている。しかし、この場にいる全員が、マリウスが誰を指すかは自明だと思っていた。これまでの経緯からすればサキを指すことはあり得ない。マリウスがゆっくり右腕を上げてある人物を真っ直ぐ指さした。
マリウスの人差し指の先に座っていたのはニコロだった。
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