第99話 賭け

 密偵が仲間を呼んで複数人で部屋を調べに来た。


 サキは扉が開いたとともに剣を振り下すが剣で受けとめられる。隙をついて廊下へ飛び出すものの、他の者たちが取り囲む。手練れ五人に囲まれてしまった。フレドもやってくる。


「お前を囲んでいるのは“谷”の中でも最強の精鋭たちだ。お前でもこの包囲を抜けることは絶対にできない。勝負はついた。剣を捨てろ」


 サキはやむなく剣を投げ捨てて投降する。“谷”の者がサキを縄で縛る。


「裏をかいて王宮に忍び込んだか。ここで夜まで待って機会をうかがい、陛下を暗殺するつもりだったのだな。まんまと裏をかかれたよ」


 フレドはサキをみる。


「だが王宮にも部下を配置していたのだ。あと一歩だったな。連れていけ」


 そこにニコロがやってくる。縄で縛られたサキが自分の部屋の前で“谷”の者たちに立たされている。ニコロは、“谷”の者たちに縄で引かれて連れられていくサキを見送るほかなかった。


***


シオンとレナード、ジョゼフが密談する。


「捕らえたあの女をいかがしましょうか」


 レナードがシオンをみる。


「処刑にすることは簡単ですが。諸侯の中からあの女が王位継承者だという考えをぬぐいされていません」


 シオンが懸念する。すかさずジョゼフが提案する。


「密室の裁判では諸侯の疑念が残ったままになるでしょう。そこで、諸侯列席のもと公開裁判を行ってはいかがでしょう? アーロンの主張はウェンリィ様に親しかった者の証言に基づいています。諸侯の目の前で、アーロンの主張の根拠となる証言を一つ一つひっくり返してやるのです」


 ジョゼフがにやりと笑う。


「証言者たちにすでに手は回しています。諸侯の疑念をすべて取り去ってしまいましょう」


「王位継承権について調査中のマリウスはどうする?」


「裁判までに調査結果をまとめて戻ってくるように手紙を書きましょう。もし裁判に間に合えば、公衆の面前で、あの女の王位継承権を明確に否定してくれるはずです」


***


 夜、ニコロがサキが囚われている牢獄にやってくる。


「面会は禁止されているけど、看守に金を握らせた。少しだけなら話せる」


 サキは猿ぐつわをされている。ニコロが看守のほうに振り返って言う。


「猿ぐつわを解いてやってくれ」


「だめだ。このままにしておけとの命令だ」


「あんな大金を渡して約束したじゃないか。彼女と話をさせてくれと」


「二人きりで会わせるというだけの約束だ」


 看守は取り付く島もなく離れていった。


「くそ! すまない。私が一方的にしゃべることになる」


サキはうなずいた。ニコロはそれを話を続けるように、という意味だと受け取った。


「明日行われるのは裁判などではない。シオンが正当な王だと諸侯に印象付けるためのセレモニーだよ。公正な裁きなど期待できないよ。君は死罪になるだろう」


サキはまばたきをした。


「君は僕の部屋に隠れて暗殺の機会を待とうとしたんだね。僕の部屋を選んだのは、もし僕が留守にしていなくて部屋にいたとしておも、僕なら君に協力すると読んだんだね」


サキは再びうなずいた。


「読み通りだよ。君にそう頼まれたら、きっと協力していただろう」


ニコロは禿げた頭を掻いて続ける。


「君がもし女王として諸侯と決起していたら、私もはせ参じて君に仕えていただろう。戦の役には立たないだろうけど、軍資金の調達なんかで知恵を貸すことはできたんじゃないかな。今日こうして来ただけでも危険なんだ。だけどこうして勇気を出してやってきた。君の勇気に比べれたちっぽけかもしれないけど。勝ち目のない戦いはできない。少しでも勝ち目があれば戦う勇気はあるんだ。君が死んでも、少しでも勝ち目がある状況ができたら、私は戦うつもりだ。君の意志を継いでね。それを言いたかった」

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