第84話 偵察

 はたして国母ノイエダとジェイエンは、ジェイエンの友人である商人ムスタクの屋敷に匿われていた。ユージンはサキを屋敷の奥に案内する。奥の部屋で、国母は側近のジェイエンと何か話し合っていた。


「あの方が国母様だ。お隣がジェイエン様だ。君を国母様に紹介しよう」


 ユージンはノイエダにサキを紹介しようとしたが、サキは断った。


「私の直接の雇い主はあんただ。あんたのボスは関係ない」


 気を取り直してユージンはサキを別の部屋に連れていき、同志たちに紹介した。


「心強い人が味方になったぞ」


 サキはざっと今回の仕事仲間たちを見まわし、その力量を推し量った。なるほど。人を雇いたくなるわけだ。戦力になりそうな奴はいない。


「確認しておくが、女王を奪取し、この屋敷に送り届ける。そこまでが私の仕事ということでいいな? そこまでで報酬を受け取り、その後はもう何の関わりもない」


 ユージンは少し物足りなさを感じているのを隠せない様子ながら、うなずいた。


「ああ。それでいい。女王陛下さえ救出したら、その後は我々の力でオゾマを排斥する」


***


 翌日、サキとユージンは救出計画を立てる準備として城を偵察しに来ていた。女王が囚われている城を近くの丘から見張る。昼、オゾマの一団がやってきて入城した。


 日が暮れたころに仲間たちのところへ戻る。どうだったか仲間たちに聞かれ、ユージンが答える。


「昼、オゾマが兵士を連れて帰ってきた」


「兵士の数は?」


「六~七十人くらいかな。騎手は十くらいだった」


「五十八人だ。騎手は十一人」


 サキが訂正する。皆がサキをみる。


「数えたのか?」


「その場で数えたわけじゃない。頭に絵として記憶した。記憶の絵で人数を数えれば正確な数がわかる」


 ユージンと仲間は顔を見合わせた。


***


 ある男が修道院を訪れた。セフィーゼが奥から訪問者を遠巻きに見る。


「あの人はあのときの」


 訪問者はアーロンだった。アーロンは、王都で囚人が暴動を起こしたとき、囚人に襲われかけていたセフィーゼを救出したことがあった。


 アーロンは修道女にサキのことをあれこれ聞き、行先の心当たりがないか訪ねるが、修道女の対応を冷たく、これといった情報を得られなかった。


 アーロンが諦めて修道院を去ろうとしたとき、セフィーゼが修道院から出てきてアーロンに声を掛ける。


 アーロンは一瞬誰かわからなかったが、少し思案したあと気が付いた。


「あなたは、ドーラの王女、セフィーゼ様?」


「あのときは助けてくださり、ありがとうございました」


「驚いた。そうか、追放されたとお聞きしておりましたが、まさかここだとは」


「何のご用でこちらに?」


 アーロンは少し考えこむ。ことがことだけに安易にしゃべるわけにはいかない。


「ここにサキ様という女性がおりましたか?」


 セフィーゼは敬称に違和感を覚えたが、ひとまずそれは受け流して答える。


「はい」


「貴女とはどういったご関係で?」


「親しい友人です」


 そしてセフィーゼはサキと再会して修道院に引き取ったことや、一緒に過ごしてきたことを話す。意外なつながりだが、彼女とサキは親友になっていたらしい。アーロンは、目の前の女性は味方になると思い、事情を説明することにした。


 アーロンはことのいきさつを話した。サキが女王であること。セフィーゼは時に驚きながらも話を最後まで聞いた。


「驚きました。信じがたいことです」


 アーロンは話終わったついでという軽い気持ちで、有用な答えを期待せずに何気なく訊いた。


「まさかサキ様の行先をご存知ではないですよね?」


「存じております」


 あっけなく手掛かりが得られ、アーロンが驚く。


「そ、それを教えていただけないでしょうか?」


「少なくともあなたは彼女の敵ではない。それにあなたは私の恩人でもある。教えるのが当然でしょう。ただ、ひとつ条件を付けさせていただけないでしょうか」


「条件?」


 アーロンは首をかしげた。


***


 翌日の未明、まだ暗いうちに、修道院から女が出てくる。急いでまとめた荷物を手にしている。アーロンが手を貸し、女を馬の後ろに乗せる。アーロンは首を振ってため息をつく。


「まさか一緒に貴女を連れて行くことが条件とは。修道院で過ごしてしおらしくなられたかと思っていましたが、貴女は噂どおりの雌狼ですね」


 セフィーゼは口元を緩ませた。


「さあ出発しましょう」


 アーロンとセフィーゼを乗せた馬は東へ向かう。その様子を林からみていた三つの影がある。


「あの女は?」


「知っている。ドーラの王女セフィーゼだ」


「なぜアーロンと一緒に出ていった?」


「わからん。とにかく追うぞ。奴の行先にサキがいる可能性が高い」


 三人は止めていた馬に跨り、アーロンたちの後を追った。


***


 サキはこの日も城の周囲を回り、あちこちを見て回った。サキが城壁の見取り図を描いていると、巡回らしき三人組の城兵がやってくる。


「おい、何をやっている?」


 サキは図を隠して誤魔化すが、城兵は「何を隠した?見せろ」と図をひったくる。


「これは何だ?」


「絵を描いていただけです。趣味なのです」


 城兵は疑り深そうな目を向けてくる。


「詳しく調べる必要があるな。引っ立てろ」


 サキは城兵たちに拘束され、城内へ連行される。

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