第49話 死闘

 外の敵は大喜びだ。外で歓声があがる。破城槌がなおも少しずつ位置を変えながら打ち込まれる。その度に穴が広がっていく。穴の大きさがある程度まで達すると、破城槌は放り出され、敵は戦槌で穴の周囲を叩き割り、穴を広げはじめた。そしてついには人が通れるほどの大きさになった。ふいに静寂がおとずれる。城内の戦士たちが緊張しながら敵が侵入してくるのを待つ。


 ややあって、外で何やら喚き声が聞こえてくる。


「俺は味方だ! 今から中に入る! 攻撃しないでくれ!」


 城兵の生き残りを人間の盾にして侵入しようというわけだ。城兵の男が喚きながら顔をのぞかせる。防衛側は躊躇した。体が半ばまで入ってきたところで城兵は後ろから強く押され、前のめりに倒れ込んだ。それに巻き込まれて数人の兵士が尻もちをつく。陣形が崩れた。


 その隙に素早く盾を構えた男が中腰の体勢で穴から入ってくる。男は門の穴をくぐると急に立ち上がり、奇声を発し盾を持つ手とは反対の手に持っていた戦斧を振り回した。防衛側は槍を持った兵で男を取り囲み、四方から突き刺して殺す。


 しかし、その間に二人目が侵入してくる。こうした突入の先頭を切る者たちは死を恐れない猛者だ。その猛者が雄たけびをあげると、防衛側の兵士たちが一瞬気圧される。二人目が斧を振り回している間に、三人、四人と次々に入ってきた。こうなると止められない。兵士たちは門の付近で応戦し何人かの侵入者を倒したが、次々にあらわれる敵に押し込まれ、殺された。


 敵はサキにも向かってくる。すれ違いざまに敵の斧を躱して相手の首をはねる。ジェンゴもヴァンも血まみれになりながら戦っている。床に血だまりができ、滑る。贓物、切断された手足、首が散乱する。サキは殺した敵の数を数え始めた。


「3人……4人……5人」


 敵の攻撃を後ろに退いて躱したとき味方か敵か分からない体にぶつかり、数えるのをやめた。数えてなんになる。ここで殺せるだけ殺し、死ぬだけだ。ジェンゴが兜で敵の頭をかち割り、脳髄が飛び散っている。味方の騎士が敵に四方から刺され、叫び声を上げながら絶命している。


 サキは敵に向かっていった。敵と打ち合ったとき、血塗れで滑りやすくなっていた手から剣がすっぽ抜けた。地面を転がって敵の攻撃をかろうじて躱し、死体に刺さっていた槍を抜いて応戦する。サキは考えるのをやめ、ただ殺すために体を動かす。叫び声が遠のいていく。どれだけ斬ったか、何人殺したか。


 次の瞬間、後頭部に強い衝撃を受けた。そして彼女は意識を失った。

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