第46話 来襲
翌日、シオンはクルセウス王との交渉のため、レナードとともにデュラン国の王城へ向かって出立した。
一方、アルヴィオンの王都では、大軍が編成され、出立の準備が進められていた。ユリヌスは王女がレナードの城に逃げ込んだことを確信していた。
理由はいくつかある。ハラゴン王からの手紙が偽造されたことが発覚し、関与が疑われているのが王宮の書信管理を担当していた書記官のタロスとその助手シオンだ。シオンはレナードの推薦で王宮に入った男であり、レナードとつながりがある。また、ティアナが失踪して急遽捜索に出た騎士の一団が全員死体になってみつかった。その場所は王都から北へ向かう道で、レナードの城がある方角だった。
ユリヌスはレナード宛てにハンスの名義でティアナを差し出すようにとの通告を出したが、レナードは無視した。
レナードの城へ出兵することがユリヌスの一存で一方的に決定し、ハンスを名目の総大将、実質的にはユリヌスが率いた軍が王都で編成された。アルヴィオン諸侯を招集した軍と、ツン族との混成部隊だ。アルヴィオン諸侯の軍はハンスが指揮を執るが、若年のため近衛騎士団長のマチスが副官として補佐する。ツン族の部隊はユリヌスが直接指揮を執る。
***
ハンスとユリヌスの軍が王都を出立し、レナードの城へ近づいているという情報が、斥候の報告でもたらされた。レナードの城の中は防衛戦の準備で慌ただしい。
城の一角の武器庫でタロスが剣を研いでいると、サキがやってきた。
「あなたはシオン殿の正体をご存知ですよね」
タロスは剣を掲げて磨き具合を確認した後、サキのほうをみて口を開く。
「ああ。剣を握るのは久しぶりでね。ずっと文官としての仕事をしてきた」
タロスは再び剣を研ぎはじめた。
「こう見えても昔は近衛騎士団の一員だった。サルアン様をお守りしていた。だが剣は得意でなくてね。勇敢でもなかった。あの夜、私はライオネル陛下に降伏した。手先が器用なことをモーゼフ様に買われ、それからは書記官としてお仕えしたのだ」
「実は私はあの夜、王宮にいたのです。危険なところをウェンリィ王太子殿下と護衛の騎士の方に助けられました」
タロスは剣を研ぐ手を止めて、サキの顔をみた。
「その騎士とは、まさか……アーロンのことか?」
「ええ。たしかそんなお名前でした」
タロスはしげしげとサキをみて言った。
「アーロンは生きているぞ」
***
城壁の上でティアナは遠くを眺めていた。傍らにはヴァンとジェンゴがいる。
「まさか弟と戦をすることになるとは思わなかったわ。正直に言えば、怖いのです」
ヴァンがティアナのほうを向いて胸に手を当てて誓う。
「貴女のことは我々が命をかけてお守りします」
そこにエイモスがやってきた。彼はレナードの最側近で、レナード不在の今はこの城の城代を任されている。城の防衛部隊の指揮官だ。ティアナがエイモスに聞く。
「私があのドーラの王太子と結婚していれば、戦にはならなかったのに」
「そのようなことをおっしゃらないでください。王女様は我が国の最後の希望です。
貴女があおの男に嫁ぎ、我が国がドーラの属国になれば騎士たちは屈辱に苦しむことになります。気骨のある諸侯は反乱を起こしていたでしょう。いずれにせよ戦いは避けられなかったのです」
「この城は落ちませんか?」
「この城は天下の堅城として名高い城です。ご心配にはおよびません。と言いたいところですが、この兵力差です。援軍がなければ長くは持ちますまい」
「どれくらい兵力に差があるの?」
「こちらの城兵は五百。斥候の報告によれば敵は二万です」
ティアナは地平に動く黒い塊を発見する。多数の人や馬が作る塊。
「来たようですね」
エイモスがつぶやく。
地平線の丘の稜線が黒く蠢く。
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