第42話 北へ

 礼拝堂の秘密通路の入り口で、ミゲルが見送ってくれた。


「では王女殿下を任せたぞ」


 礼拝堂の柱から階段が表れると、ティアナは驚きの表情になった。


「十一年もここで暮らしていたのに、王宮にこんな仕掛けがあるなんて全然知らなかったわ」


 クラレンスとタロスも驚いている。不思議な感覚だ。十一年前もウェンリィ王太子とともにここから秘密通路を通った。


 あのときは三人だったが、今回は七人だ。シオン、ティアナ、クラレンス、タロス、サキ、ヴァン、ジェンゴ。


 通路を抜け、洞窟に入る。かつて広く思われた洞窟も、自分の体がおおなったせいか狭く感じる。


 洞窟から森に出ると、空が日の薄明りに照らされはじめていた。森を抜けると、道ると、ちょうど行商人に出会った。


 サキは思わず笑ってしまった。行商人に見覚えがあった。


「行商人のヘテロだな?」


「なんだ、お前たちは?」


「十一年以上前からこの道を通って商品は運んでいるな?」


「二十年やっている」


「これで馬車を譲ってくれ」


 行商人に対してサキは金貨が詰まった袋を投げてよこす。行商人は袋を開いて中からあらわれた金貨の量にしばし呆然とした。


 返事を聞く前に、ヴァンやジェンゴが荷台の積み荷は降ろしはじめる。十一年間のり大きく立派な馬車になっている。馬の数も多い。


 行商人は積み荷とともに取り残された。7人を乗せた馬車が出発する。


「これは前回の分だ」


 動き出した馬車の荷台からサキが投げた銅貨を受け止めた行商人は、わけがわからずぽかんとして馬車を見送った。


***


  馬車はゆっくりと北へ進んだ。


 複数の馬の蹄の音が近づいてくる。王都からの方向だ。王都の騎士の一団が追いかけてきているのだ。


「もう気付かれたのか?」


「まずい。この馬車では逃げきれん」


「誤魔化しきれないなら隙をみて戦おう」


 騎士たちが馬車に追いつき、馬車を制止させたらた。一団の中の隊長らしき人物がシオンに問う。


「お前ら何者だ?」


 御者に扮したシオンが答える。


「馬車引きです。王都から客を乗せて北へ向かっているところです」


「こんな早朝にか?」


 騎士隊長がシオンを値踏みするようにじろじろと見ながら言う。シオンの隣で行商人に扮していたタロスは気が気でなかった。御者に扮したジェンゴは無口な男を装っている。


「王女を探している。行方不明になった。乗客の人相を調べさせてもらうぞ」


 フードで顔を隠したティアナ、サキと、ヴァン、クラレンスが座っている。調べられたらすぐにみつかる。やむなく戦おうとしたところで、もうひとつの騎士の一団が王都の方向からやってくる。数も多い。ジェンゴがシオンに小声でささやく。


「まずい。合流されるとさすがに数が多すぎるぞ」


「合流される前にこいつらをやっちまってずらかるか?」


「いや、待て」


 シオンがジェンゴを制する。


 新たな一団は、騎士団に対して速度を落として友好的な態度で近づいてくる。騎士隊長も王都から応援がやってきたと思って手を上げ、「この馬車を調べている。少し取り調べを手伝ってくれ」といって接近を許す。


 その刹那、やってきた騎士がその騎士隊長を刺す。それを合図に新たにやってきた一団が騎士団に一斉に襲いかかり、馬車の周囲は修羅場と化した。不意打ちに備えていなかった騎士団は一方的に押される。シオン、サキ、ヴァン、ジェンゴも剣を抜いて近くの敵を倒す。乱戦の様相を呈したが、結局騎士団は全滅した。騎士団を壊滅させた後、城代が兜を脱ぐ。城代はシオンをみてうなずくと、シオンもうなずきかえす。二人は知り合いのようだ。


「この者はレナード殿の家臣、エイモスです」


 シオンが一同に騎士を紹介する。エイモスが一同に礼をし、ティアナのほうに向きなおり告げる。


「お迎えにあがりました。レナード様の城まで案内と護衛を務めます」

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