第41話 計画

 夜、シオンとモーゼフが密談していたところにサキが来る。モーゼフは「このままでは評議会は王太子妃とユリヌスに好き放題にされ、この国はドーラの属国に成り下がる。私の地位も危ういだろうな」と言って、サキをみて聞く。


「そなたらの雇い主はクルセウス王であろう。クルセウス王もドーラがこの国を飲み込み強大化することは避けたいに違いない。ならば利害は一致しているはずだ」


 シオンが提案する。


「今夜、王女を連れて王都を出る。隠密行動を得意とする精鋭が数人必要だ。しかも王女の信頼を得ていることが望ましい。君たちが適任だ」


「モーゼフ殿はどうされるのです?」


「私は残ろう。王宮に残って、文字通り密偵として活動しよう」


 この老人は王都に残って王太子側にも味方のふりをして、どちらが勝っても自分は生き残れるように画策するつもりだろう。だがサキもシオンもそれは言わない。利害が一致し表面的にでも協力関係が築けているうちは利用するべきだ。


「王都を出れたとして、それからどこへ向かうのです?」


「レナード様の城だ」


***


 サキはヴァンとジェンゴを説得する。


「王女を連れ去るってのか?!」


「しーっ!声が大きい」


 サキがジェンゴをたしなめる。


「これは我々の雇い主であるクルセウス王の利益にもかなうはずだ。時間がなく、かしらに伺いを立てることはできない。我々の判断で動かなければ」


 ジェンゴがヴァンの顔をみる。


「たしかに雇い主の利益にもかなう。頭ならどう判断するかを考え、かしらの思考と判断をなぞるのが現場指揮官の役割だ。そして……かしらならこの話に乗るだろう」


 ヴァンは即決した。ジェンゴは何か言いたそうだったが、ヴァンが賛成したため、ジェンゴもため息をついて渋々同意した。


かしらの判断が仰げないなら、現場の指揮官であるヴァンの判断に従うまでだ」


 そして小声でサキに言った。


「あいつ、もっともらしいこと言ってたが、王女に気があるから受けやがったな。私情をはさみやがって」


 サキはその言葉は無視して提案する。


「警備に隙をつくるように工作しないといけないな。切り崩すためのあてがある」


***


 サキは王女に同情的なエリクとミゲルは抱き込んで仲間に引き入れようと、エリクとミゲルのところへ行く。ふたりに計画を話すと協力を約束してくれた。


「警備にわざと穴を作り、お前たちを逃がそう」


「しかし、副団長が責任を問われるのでは?」


「覚悟のうえだ。王女様を守ると誓った。これが王女様を守るためなら、命を捨ててでも悔いはない。なあに。長年務めてきたんだ。おそらく殺されることはない。投獄されるだけだろう」


「無事に王都を取り返したら、あなたを救出します」


***


 ティアナの寝室の前で待っていたシオンのところに、サキがやってきた。


「“谷”のふたりと副長を仲間に引き入れました」


「こちらもレナード様に計画を伝えた。返事はまだだが信じるしかない」


 ふたりはティアナに声をかけ、寝室へ入った。ティアナは不思議な取り合わせに驚いていたが、シオンが計画を説明すると、真剣に聞き出した。ユリヌスとの結婚がよほど耐え難いのだろう、ティアナは計画にとても前向きだ。しかし懸念はたくさんある。


「だけど、あなたたちはこの王宮に来てから日が浅いし、王宮内の構造もよく知らないでしょう?」


 サキが自分の頭を指さす。


「いいえ。王宮の構造はすべて頭に入っています。警備の必要上、普段から頭に入れようと観察をしていましたから。脱出経路も決まっています。王宮内には隠し通路があり、今でも外に通じているのは確認済みです」


「そんなにすぐに王宮の構造を覚えたの?」


「はい」


 脱出経路については十一年も前に知ったものだが、そのことは言わなかった。


「でも、王宮の中は近衛騎士団が目を光らせているわ。一体どこから出ようというの?」


「近衛騎士団のミゲル殿が協力してくださることになりました。脱出の日、警備に穴ができます」


「王宮を出られたとして、どこへ向かうのです?」


「北の伯爵、レナード様の城へ向かいます。シオン様がレナード殿に王女さまの保護を依頼したのです」


 ティアナは腹を決めたようだ。大きく息を吐いてから言った。


「わかりました。連れて行ってください」


 ティアナの部屋を出た後、シオンが振り返ってサキをみる。


「もう一人連れ出したい人物がいる」


***


 クラレンスの執務室にシオンとサキがやってくる。


「失礼します」


 シオンとサキが入ると、クラレンスは不機嫌そうに言った。


「こんな夜更けに何だ? その女は?」


 サキはクラレンスの前に立つと、突然剣を抜いた。


「お前は十一年前もこの王宮にいたな。あの夜、お前はなにをした?」


 クラレンス口をぱくぱくさせている。


「思い出させてやろう。お前は近衛騎士三人に村の女を与えた。私のその女の娘だ」


 剣がクラレンスの喉元まで近づく。クラレンスは思い出したようで、目を見開いた。シオンが告げる。


「あなたの前にある道は二つだけです。我々についてくるか、今、ここで彼女に斬られるか。時間がありません。さあ選んでください」

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