第26話 再会(一)
なぜウェンリィ王太子が?いや、この男は本当に王太子か?ウェンリィ王太子は11年前に亡くなったはずだ。
「おい! やったのか? さっさとずらからねぇとやべぇぜ」
ジェンゴに声をかけられ、サキははっとする。
「こっちだ」
ヴァンが窓際で待っている。
「おい、何をしている? 早くしろ!」
すでにヴァンの傍らに移動したジェンゴに急かされる。ウェンリィ王子なのか?うつ伏せに倒れている男の顔を確認したい。だが騒ぎを聞きつけた近衛騎士たちがこちらにむかってくる気配があった。やむなくサキは倒れている男から離れ、ヴァン達とともに窓から外へ出た。
逃走中、ジェンゴが聞いてくる。
「最後の
わからない。剣は深く刺さった。だが絶命したかは確認していない。
「ああ」
サキは曖昧に答えた。あれが本当にウェンリィ王太子だったら?殺してしまったのだろうか。それなら命の恩人を自分で手にかけたことになる。ぞくりと背中に寒気がした。
元帥を暗殺して引き上げるサキたちの背中をみる者があった。モーゼフの助手の男だった。
***
元帥の屋敷には近衛騎士が殺到していた。副団長のミゲルが指揮にあたっていた。ミゲルがすでに死んでいるかにみえた若い男の呼吸音に気づく。
「この者にはまだ息がある! 王宮医を呼べ!」
***
昼過ぎにすでに事件のことは王宮中の知るところとなった。サキが王宮を歩いていると、人々の噂話が耳に入ってくる。
「西門で6人が殺されたらしい」
「賊は西門から入って元帥を暗殺し、西門から出ていったのか」
「元帥閣下の邸宅では閣下含め4人がやられた」
「ひとりは生き残ったんだろ。元帥の助手の男だ」
「刺されながらも生き残ったらしい」
王女の部屋の前、ヴァンとジェンゴのところにサキがやってくる。ジェンゴがサキに質す。
「生き残った目撃者がいるって話だぜ。お前が最後に刺した男だろう。とどめを差したんじゃなかったのか?」
「すまない」
サキの謝罪にジェンゴは困惑した表情を浮かべて言う。
「一体どうした? お前がそんなヘマするとは」
ヴァンが割って入る。
「過ぎたことはもういい。顔は見られたのか?」
「いや、見られてないと思う」
嘘だ。男を刺したときはっきりと目が合った。
「この始末は私が必ずつけるから、任せてくれないか」
サキの申し出にヴァンもジェンゴも反対はしなかった。ヴァンもジェンゴも不服だろうが、長い付き合いだ。サキがこう言い出したら聞かないことを知っている。
とにかくあの若い男を殺していなかったことには安堵した。だが確かめなければならない。本当にウェンリィ王太子なのか。
***
サキがシオンが臥せっている部屋へやってくる。見張りが前に立ちはだかり、サキを止める。
「何者だ?」
「シオン殿の知り合いです。面会させてください」
衛兵はにやにやしながらサキとともに部屋に入る。
「面会人だ。女のな。うらやましいね。怪我人が変なことするんじゃねえぞ。この部屋はそういう場所じゃない」
サキはシオンの顔をみる。記憶の中のその人を成長させると、こうなるだろうという顔だ。改めて見て確信した。やはりこの人はウェンリィ王太子だ。シオンはサキを真顔でみつめて思案している様子だ。そして衛兵にぽつりと言った。
「こいつは、昨日私を刺した女だ」
「なに!?」衛兵が青ざめ、仲間を呼ぶ。
サキが6人の衛兵に囲まれる。サキは自分の失策を悔いていた。サキはシオンに向かって訴える。
「思い出してください。私は11年前に貴方に会っています」
だが、シオンは反応しない。覚えていなくて当然だ。ウェンリィ王子とは11年も前に1日共に過ごしただけなのだから。サキが王子の顔を覚えていたのはその人並外れた記憶力のためだ。剣の柄に手をかける。さすがにこの人数に囲まれては助かる望みはない。彼女は覚悟を決めた。
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