第25話 決行の夜

 ヴァン、ジェンゴ、サキは、机に広げた王宮の見取り図を囲んで作戦を練っていた。見取り図は、三人が王宮に入ってから分担して王宮の各所を回って調べあげ、作成したのものだ。警備体制まで記してある。


「元帥の寝所は王宮の離れにある屋敷だが、ここの警備は意外なほど手薄だ。腕に自信があるか、そもそも王宮の中に暗殺者が入ることを想定していないんだろう。ことが終わった後、我々の仕業だと疑われないために、王宮の外から暗殺者が侵入したと見せかける必要がある」


 サキが提案する。


「西門から入った暗殺者の犯行だと見せかけては? それが恐らく一番自然だろう」


「たしかに元帥の屋敷に一番近いのは西門だ。だが、南門のほうが警備が手薄で攻略しやすい」


「いや、工作には自然さが最も重要だ。西門にすべきだ」


 サキがすかさず反論すると、サキが西門にこだわったのはそこに母親の仇であるロッジがいるからだ。それを知っているジェンゴもサキに加勢する。


「俺も西門に賛成だ」


 いつになく頑ななサキの態度や、いつもは作戦に口出ししないジェンゴの介入をヴァンは少しいぶかしがったが、結局サキの主張を受け入れた。ジェンゴはサキに目配せしてきた。


***


 決行の夜がやってきた。サキたち三人は西門の見張りを襲撃する。西門の見張りを次々倒す。


 詰所はサキとジェンゴが受け持つ。サキは音をたてずに部屋の前まで来て、中の様子をうかがう。中にはふたり。顔はよくみえない。ジェンゴに目で合図を送り、同時に中に入る。


 サキは男のひとりに近づき、顔を確認する。この男じゃない。切り伏せた。もうひとりの男は、ジェンゴが剣をつきつけて、声が漏れないように口を抑えている。


 サキはその男の顔をみた。間違いない。ロッジという男。あの夜にいた男だ。


「この男か?」


「ああ」


「じゃあ素早く済ませろよ」


 ジェンゴは男をサキに引き渡し、詰所を出て行った。


 少し経ち、サキが部屋を出てきた。


「やったか?」


 ジェンゴの問いに、サキはうなずく。ジェンゴが部屋をのぞき、床に転がった死体を見渡して嘆息する。


 ヴァンがサキとジェンゴに声をかける。


「おい、時間がかかりすぎている。標的の屋敷へ行くぞ」


***


 元帥が屋敷の一室で武具の手入れをしていると、部屋の入口に人影をみとめた。


「誰だ!?」


 立て掛けてあった剣をつかみ、鞘から抜く。そこに立っていた大男には見覚えがある。


「お前は、王女の護衛の」


 ジェンゴは素早く動き、剣を振り下ろす。ヴィドーはかろうじて受け止めた。ジェンゴが圧倒的な腕力で押し込んでいく。机にぶつかり、その上に並べてあった武具が床に散乱した。ヴィドーも腕には覚えのある武人だ。年を取ったとはいえ自分と互角以上に渡り合える人間などほとんどいないと自負している。しかし、今押し込んでくるこの男はけた違いだ。このままではやられる。


 そのとき、ヴィドーはジェンゴの背後、部屋の入口のところに這ってくる部下に器気付いた。見張りをしていた男で、この大男に斬られたのだろう、手負いで動くのがやっとという状態だ。部下は、先ほど床に落ちたクロスボウをつかんだ。ジェンゴは気付いていない。部下がヴィドーに目で合図を送ってくる。時間を稼げということだ。


「待て。金が目的か? 話あおう」ヴィドーがジェンゴを制する。


「何だよ、おっさん? 戦意喪失かよ」ジェンゴがつまらなそうにする。


「ああ、降参だ。お前らの目的を言え。斬り合う以外にも解決の道もあるはずだ」


 部下がクロスボウに矢をつがえる。音を立てないように慎重にするので、時間がかかるのがもどかしい。


「俺の目的はあんたの命だ。言葉であんたを殺すことができたら便利なんだが、あいにくそんな技術は持ち合わせていねえ。

話し合いで解決ではできないようだな」


 ジェンゴが構えなおす。もう持たない。だが、部下が矢をつがえ終え、ジェンゴにむけて構える。間に合った。しかし矢が放たれることはなかった。部下が矢を撃つ直前にヴァンが部下を切り殺したのだ。


「ジェンゴ、背中がお留守になっているぞ」


 ヴァンの言葉にジェンゴが後ろを振り返り、ヴァンに反論する。


「気付いていたぜ。背中に飛んでくる矢を華麗にかわしてみせるつもりだったのによ」

 

 今、ジェンゴはヴィドーから視線を外して隙をみせている。チャンスだ。ヴィドーがジェンゴに剣を振り下すが、ジェンゴはその剣をかわして踏み込み、すれ違いざまにヴィドーを深く斬った。


 別の経路で来たサキも部屋に合流する。ヴァンが標的の死を確認する。


 「任務完了だ」


 あとは脱出するだけ。脱出はこの部屋の窓からだ。


 そのとき、騒がしさに気づいた男が様子を見ようと部屋の入り口にやってきた。


「閣下、どうされましたか?  なんの騒ぎです?」


 それに素早く反応したサキがシオンに剣を突き立てる。剣を抜き、サキは刺した若い男の顔を見る。そこには見覚えのある顔があった。あの夜、サキを救った少年。


(ウェンリィ……王子)


 シオンが膝をつき、うつ伏せに倒れた。


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