第24話 指令
王の寝室で王宮医のホランドがライオネルを診察する。そしてヴィドーと王妃のほうをみて首を横に振る。
「一度ご回復されたことが奇跡的なことだったのです。今度こそ回復の見込みはありません」
ヴィドーはうなだれたが、気を取り直してライオネルをみた。
「陛下、私にお任せください。陛下のために評議会を統治します」
***
評議会が開催される。 ライオネルが正気になっている間に、王命でクラレンスの摂政就任は固く禁じらた。もはやクラレンスは摂政の件を持ち出すこともできない。代わってヴィドーが会を仕切る。
「侍医の話では、陛下の病状は重く、回復の可能性は低いそうだ。しかし陛下の回復を信じて評議会は陛下を支えていく」
それから、シオンの助けを借りながら、評議会は元帥の独壇場となった。クラレンスはただ、黙って元帥が仕切る評議会をやり過ごすしかなかった。
***
マッセムが執務室をのぞくと、ヴィドーがシオンと談笑していた。マッセムをみると元帥の表情が硬くなる。
「まだいたのか。お前は故郷へ帰れと言ったはずだ」
「父上がそうおっしゃるならそうします。しかし、確認させてください。一時的に故郷に帰るだけで、また王宮へ戻すおつもりはあるのでしょうか?」
「何が言いたい?」
「つまり、はっきり申し上げれば、私に元帥の地位を継がせる気はおありなのでしょうか?」
元帥は深くため息をつく。
「この際だからはっきりさせておこう。私はお前を元帥に推薦する気はない」
元帥は石のような表情で告げた。恐れていたことが現実になった。
「では、父上はその男を元帥に推薦されるおつもりですか?」
マッセムはシオンをみた。
「それはお前には関係がないことだ」
マッセムは父をみる。もはや他人にみえる。
マッセムは絶望的な気持ちになっていた。父には何度か怒られてきたが、あんな怒りははじめてだ。今までは数日あければ父の怒りはおさまったものだが、あの怒りを鎮めることはできないだろう。父は本気だ。本気で俺を故郷へ帰そうとしている。元帥の後継者の道を絶たれた。もしかすると父は自分に領地も遺さないかもしれない。すべて取り上げる気なのか?
その日の夕方、クラレンスの部屋にマッセムがやってくる。クラレンスはマッセムの表情からついにその時が来たと確信した。
「マッセム殿」
マッセムはクラレンスに告げる。
「決心つけてきました。やりましょう」
クラレンスが頷く。
「こうなれば強硬手段に出るしかありません」
「はい。処置するなら早く、やるからには徹底的にです。我が父、ヴィドーは変わってしまった。彼はもはや私の父ではありません。これから私は貴方を父としてお慕いいたします」
クラレンスは満足そうにもう一度大きく頷き、マッセムの肩をぽんぽんと叩いてから言った。
「ではあの方に手紙を書く」
***
クルセウスが玉座で頭から報告を受けているところへ書記官がやってくる。
「陛下、書状が届きました」
クルセウスは玉座に腰かけたまま、書記官が差し出す手紙を受け取り読んだ。
「私の友人が元帥を排除してほしいそうだ。できるかね?」
傍らの
「排除とは、具体的にはどのような」
「無論、この世から排除するという意味だ」
「できなくはないことです。ですが都の大物が標的となると、慎重にことを運ばねばなりますまい」
***
ヴァンは街に出て連絡役のフレドと落ち合っていた。紙をフレドに手渡す。
「国庫帳簿の最新頁の書き写しだ」
フレドが確認する。
「ご苦労」
「頭からの次の指令はあるか?」
フレドがヴァンの目をみて、次の指令を伝える。
***
王宮に戻ったヴァンが、サキとジェンゴに告げる。
「新しい指令は要人の暗殺だ。標的は元帥のヴィドー」
「そうこなっくっちゃな。ずっとウズウズしてたぜ」
ジェンゴが嬉しそうに肩を回した。
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