見聞希望
セレスティアが惑星テラの小笠原シティに降り立つと、上杉忍が出迎えてくれた。
上杉忍とはテラのメイド・ハウス・バトラー、事実上の惑星テラの執政官である。
忍はミコから、セレスティアの面倒を頼まれようで、
「なんなりとおっしゃってください、ミコ様より便宜を図るように、申し付かっています」
と云ってくれた。
「ありがとうございます、貴女に出迎えていただき恐縮ですが、お願いがあります、なんとかアメリカに行けないものでしょうか?」
「それは……三級以下の地域とは、原則接触禁止となっていますし……ミコ様はなにかおっしゃいましたか?」
「なにも、ただ見聞は良いことですね、と……」
「見聞?そのようにおっしゃられたのですか?」
「ええ、でも私の思うに何か含むものが有るのでしょうね、そう思うでしょう?」
「大体話は分かりました、思った通りにしなさいとの事なのでしょう」
「それは貴女に対しての言葉でも、あるのでは有りませんか?」
セレスティアがニコッと笑うと、
「セレスティアさんとは話が合いそうですね、とにかくアメリカの現地政府とは、話をつけてみましょう」
「といっても東部だけですが、西部は政府が崩壊しているようです」
「ナーキッドの偵察衛星から眺めると、酷い状況のように思われますね」
「とにかく見に行ってみます、どういう形でも良いので、話を通していただけませんか?」
「二三日お待ちください、交渉してみますので」
硫黄島リゾートホテルで、セレスティアは待つことにした。
そして、二日後の火曜日に、綺麗な娘さんが迎えに来た。
「セレスティア様ですか?アメリカのボストンへご案内いたします、USー3が井戸ケ浜基地でお待ちしています」
綺麗な娘さんはシェリル・オルコットといい、その細い首には側女のチョーカーが誇らしげに輝いていました。
なんでも小笠原高女の七回生、十九になったばかりとの事。
「えっ、貴女も行くの?学校は?」
「いちおう四日の公休を頂きました、忍さまはヨーロッパに所要が出来たそうで、お詫び申し上げますとの伝言です」
近頃、テラのヨーロッパ方面の状況が不安定なのはマルスにも伝わっている。
「大変ね……」
井戸ケ浜基地のUSー3は、あるものを積み込んでいた。
太陽光発電衛星からの電力受電装置一セット、これがセレスティア一行の滞在費のようで、アメリカ東部第四帝国政府の要望だとの事であった。
USー3不死鳥という戦闘飛行艇は、何事もなく飛び立ち、そして一直線にアメリカ東海岸、目的地のボストン空港へ。
道中セレスティアは、忍の愛犬『禍斗』と仲良く遊んでいたようだ。
「この飛行艇、垂直離着陸もできるのね、便利ね、それに禍斗も可愛いわね」
シェリルが恐ろしそうに禍斗を眺めて、
「よく抱けますね、魔犬ですよ……」
「あら、犬でしょう、犬ってね、いつも愛して欲しいと尻尾を振る生き物なのよ、可愛いじゃない」
そう云って、赤い毛並みの、ポメラニアンのような禍斗をなでている。
「さて、懐かしいボストンに降り立ちましょうか、禍斗ちゃん、私たちを守ってね」
ワン!
「ほら、やっぱり可愛いじゃないの♪」
ボストン空港に儀仗兵が並んでいた。
「物々しいわね、私はただ観光に来ただけなのよ、なにか政府の特使みたいね」
シェリルは少しおかしかったがポーカーフェイスを貫いた。
「おやまあリムジンがあるようね、燃料事情が悪いと聞いていたけど」
たしかにテキサスの油田は壊滅状態、ペンシルバニアやオハイオの油田に頼っているが、かなり採油が難しいので産出量は多くない。
しかし何とか東部地域の需要は賄っているようだ。
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