第2トイレ 運ちゃんってなんです?トラックの運転手ですか?
「しっかし。本当に水色ね。きっも」
「あの普通に傷ついたので謝ってもらっていいですか?」
「どうしたの、綾ちゃん」
「聖ちゃん。この子の髪の毛、めっちゃ水色よ?海外のお菓子みたいで、不気味よね」
「そうだなぁ。家に毛染めあったっけ」
「私、買ってくるわ。さすがにこれが家にいると、景観を損ねるもの」
「そっか~。じゃあ頼む」
綾ちゃんがワープしたので、その代わりに、俺がトイレちゃんの横に座ることにする。
ついでに、匂いを確認。まずは髪の毛から……。
「ぎゃっ」
と、思ったのに、トイレちゃんが逃げた。
「ちょっとトイレちゃん。どういうつもり?」
「こっちのセリフですよ!なんなんですか本当に!」
「お茶飲んだら?落ち着くよ?」
「真っすぐな目で、普通のこと言うのやめてくれません?めちゃくちゃサイコで怖いので」
「トイレから出てきた美少女に、サイコとか言われたくないんだけど」
「微妙な正論は禁止です。あと、トイレちゃんってやめてくださいよ」
「さっきからやめろやめろってさぁ。ここは公園なの?」
「微妙な風刺ネタもNGです」
俺は、さっき手に入れたテニスボールを、とりあえずバウンドさせてみる。
普通のテニスボールだ。違和感はない。
多少の経年感があるので、あとでいつ頃作られたものなのかくらいは、確認しておこう。
「なに急に黙ってテニスボールとにらめっこしてるんですか。本当に怖いんですけど」
「トイレを開けて、いきなり美少女が」
「あぁもうわかりましたわかりました!」
「えっと、性格はキレっぽくて、短気で、堪忍袋の緒を紛失していて、それから」
「それ全部一緒の意味ですから!メモしないでください!」
そう言っても、これが俺の仕事なんだよなぁ。
アナログの日本代表として、ノートにトイレちゃんの情報を細かく記入していく。
「えっとさ、トイレちゃん」
「だから、トイレちゃんはやめてくださいって言いましたよね?」
「綾ちゃんが帰って来るまで、名前決め投票は行われないからさ。そこまではトイレちゃんで。それとも、なんか呼んでほしい名前とかあるの?」
「髪の毛が水色ですし、無難に、アクアとかどうですか?」
「ごめん。それもういるんだよ」
「いるってなんですか。いるって」
「事情のあるんだよ。大人が色々な」
「文法めっちゃくちゃなんですけど。しっかりしてください」
「とてもじゃないけど、まともにこんな発言したら、各所から怒られるからね」
同じWEB小説だからね……。
一応、異世界ものじゃなくて、現代ものなんで、その辺はよろしくお願いします。
「で、何の話だっけ」
「別に、何の話もしてません。ただ私が、いきなり髪の色を否定されたり、その髪の匂いを嗅がれそうになったり、失礼な名前で呼ばれたり、性格を短気と言われたり」
「ただいま~」
ちょうどいいタイミングで、綾ちゃんが帰ってきてくれた。
なにやらトイレちゃんが、不満そうな顔をしてるけど、まぁ無視でいいよね。
「ご飯にする?お風呂にする?それとも……。私?」
「あの、それって家で出迎える側がやるやつじゃないですか?」
「ナイスツッコミ。やるわね便器ちゃん」
「ほんっとに最低ですね!便器ちゃん!?いい加減にしてください!」
「水色便器ちゃん」
「なんかラジオネームみたいになってますけど」
「へぇ。そんなツッコミもできるなんて、ユーモアがあるわね。でも、それだけツッコめるってことは、こっちもボケたくなるし、便器ちゃんが悪いのよ?」
「え、なんで私怒られてるんですか?」
「綾ちゃん。毛染めあった?」
「それがね?百円ショップにはなかったのよ」
「あるわけないじゃないですか!あったとして、女の子の大事な髪を、そんな低品質なもので染めようなんて思わないでください!」
飽きずに長文を放ち続ける便器ちゃん。
今気が付いたけど、俺が聖ちゃんで、綾ちゃんが綾ちゃんで、便器ちゃんが便器ちゃんで……。ちゃんばっかりだな。二歳児しかいないのかと思われてしまいそう。
「でも、代わりに墨汁を買ってきたわ?綺麗に染まると思うの」
「正気ですか?女の子の命なんですよ髪の毛は。綾ちゃんさんならわかるはずです。ちょっと、手に持たないで?一旦置いて?」
「ちょっと。抵抗しないでもらえるかしら。警察を呼ぶわよ?」
「よくそんな強気で来られますね。間違いなく私が有利な状況だと思いますが」
「トイレにいた不審者が言うじゃない。聖ちゃん。スマホの準備をお願いしてもいいかしら?」
「いや、綾ちゃんのワープで、牢屋に飛ばした方が早いでしょ?」
「それもそうね。ナイスツッコミ」
「そのツッコミもボケもあってますかね。あの、二人とも、一旦私の話を聞いてもらえません?」
あまりに便器ちゃんが必死な顔をしていたので、俺たちは従うことにした。
「まず、二人は何者なんですか?普通とは思えません。特に綾ちゃんさんは、不思議な力を使っていましたし……」
「それを便器ちゃんが言うの?」
「何を言ってもブーメランなのはわかってますけど……。とりあえず答えてください。もう喋り疲れました」
「仕方ないな……」
それじゃあ、話そうじゃないか。
俺たちの正体を。満を持して。
「俺の名前は、
「あ、もうそこはいいです大丈夫です。次、綾ちゃんさん」
「……」
「……寝てるんですか?」
「目を閉じて、黙ってるのよ?」
「何でそんな無意味なことを」
「私は
「はい、はい」
綾ちゃんの自己紹介を流すようにして、便器ちゃんは何度か頷いた。
メモを取る様子がなかったけど、最近の若者なのかな。
私立無宝島高校って、どんな漢字なんですか?とか。
語感的には、無法島になって、どんなエッチなゲームの話だ?みたいになってもおかしくない高校の名前だと思うんだけど。まぁいいや。
「じゃあ、自己紹介も終わったことですし、早速始めましょうか。水色便器ちゃんの名前決め」
「ちょ、ちょっと待ってください。綾ちゃんさんの変な力について、説明は?」
「あれはただの魔法だから、気にしなくていいよ」
「そんなあっさり魔法を受け入れられると思わないでくださいよ!」
「俺たちはあっさり君を受け入れたっていうのにな……」
「……」
黙ったので、俺たちの勝ちだと思う。勝負を挑んだことを後悔するがいい。
「さて、気を取り直して、名前決めだ」
「ようやく水色便器から解放されると思うと、清々しますよ」
「あの、水色便器ちゃん。喜んでるところ悪いけど、俺たち二人が、水色便器に投票したら、それで決まりだからね?」
「その時は、舌を噛み切って死にます」
「自分の使命を達成していないのに、自殺を検討するだなんて、変わった生き物もいたものね」
「生き物?あの、それっていうのは」
「じゃあ、私は運ちゃんに一票」
「俺もそれで」
「はい決まり。よろしくね運ちゃん」
「あのあのあの!流れるように人の名前を決めないでもらえますか?あと運ちゃんってなんです?トラックの運転手ですか?その心は?」
メモの一番上。生き物ナンバー三千五百二十三の横の欄に、運ちゃん。と記入した。
そうか、もうこの子で、三千五百二十三件目になるんだなぁ。
「ちょっと、二人ともどうして黙るんですか?ねぇ」
「私は、墨汁をろ過したら飲めるのかっていう実験をこれからしようと思って、その準備をしてるのよ」
「ユーチューバーみたいなことしないでください!」
「へぇ。ユーチューバーまで知ってるのか……」
「いちいちメモ取らないでくださいよ!もう!本当に……」
「とりあえず、運ちゃんは今日から、俺の家に住んでもらうから」
「へ?いやいや。てっきり私は、この家に住む展開かと」
「いきなりトイレから出てきた女の子を、うちに住まわせるわけないじゃない」
「な~んでそんな急に冷たいこというんですか?」
「さて。じゃあ綾ちゃん。俺と運ちゃんを、俺の家まで飛ばしてくれる?」
「了解したわ。それじゃあ、さようなら」
「うん。また月曜日」
綾ちゃんのワープにより、俺たちは帰宅した。
……その後に、梨をもらい忘れたことに気が付いたけれど、まぁそれは仕方ないとしましょう。
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