閑話 幼馴染の苦労

「嫌われている気がする。」


複雑そうに俺達の元に来たのは幼馴染兼王太子のアルだった。今日婚約者とデートとか言ってなかったか?と時計を見ると、もうすぐ日が暮れる時間帯だった。


「誰に?何かしたんですか?」


俺の弟である、ルイが手元にある書類を揃えながら、部屋へと入ってきたアルを見る。


「リリと。…わからない。」

「わからないんじゃ僕達もアドバイスのしようがないよ。」


部屋のソファに座りながら、アレクはお菓子を啄み頬を膨らませている。

アルの婚約者の名前を出すと毎回少し顔を歪ませ、直ぐにいつも通りの顔に戻る。このことは本人は気づいてないだろうが、多分俺ら3人は何となく気づいている。


今集まっている部屋は俺達4人幼馴染のたまり場というか憩いの場になっている。

全員の親が王宮務めであり、アルの学友として育って来たからか、ほぼ顔パス状態で王宮に入れる。


「なんだ?婚約者と上手くいってないのか?」


なんでも完璧人間のアルが落ち込んでるのは少し面白い。俺は揶揄う気満々だ。


「兄さん。アルは真剣なんですから、少し黙ってていただけますか?」


にやにや笑っている俺を見たのか、弟のルイに口を出された。


「ウィルはアルを揶揄うの好きだからね~」

「いつも良いように使われてあげてるんだ。反撃するのは当たり前だろう。」


アルはしょっちゅう俺を良いように使ってくる。

この間の茶会だって、女に囲まれる俺をおいて颯爽と王宮へと戻ったらしい。

ルイがこちらに助けに来てくれなかったら、最後までずっと相手をしなきゃいけなかった。


「それで?どうしてそう思ったのさ?」


アレクは相変わらず菓子を啄みながらアレクに投げかける。

アレクは結構ゆるーい性格だが、怒らしてはいけないと俺らの中で決まりがある程に怖い。というか無慈悲だ。まぁ、でも本当に怒らせていけないのはアルだけどな。あいつは………まぁ……考えたくもない。揶揄うのは好きだが、一線は越えないように気をつけてはいる。


「冷たいというか…距離が遠い。毎回、私の気持ちは伝えて入るんだけどね。」

「へー、どう伝えてるの?」


アレクはソファから立ち、菓子を啄む前からやっていた、仕事に戻る。どうやら休憩は終わりにしたらしい。


「それはリリにだけ言う言葉であって、みんなに聞かせることでは無いよ。」

「まぁ、アルはこうと決めたら曲げない強引なところがあるからな。」


今までは何事にも億劫そうにしていたアルはリリアナという婚約者と会い、人が変わったように楽しそうにしている。みんな最初は驚いたが、アルが今の婚約者と婚約したいと婚約者の父親に頼みに行っていた時からこの調子なので大分慣れた。


「はぁ。」


ため息を漏らしたのはルイだった。


「アル。あまり強引過ぎると嫌われますよ。」

「そうそう。積極的にやりすぎると、女の子には逆効果だぞ。」


椅子に座り、足を組む。

まぁ、多分この4人の中じゃ、俺が1番女の子の相手をしてるからな…

してるというより、こいつらにさせられてるだけなんだけどな……


「あまり執拗いと他の男に奪われちゃうよ?例えば僕とか。」


何故かアレクが言うと冗談に聞こえない。


「リリは私のだよ。誰にも渡さない。」

「そこまで言うなら少しは考えて行動したらいいんじゃないですか?」


珍しくアルが落ち込み気味である。

本当にあの頃には考えられなくて面白い。


「だが、他の男に取られたくないし、逃がしたくないんだ。」

「だからってな~…まあいいや、好きなようにやれよ。振られたら全力で慰めてやるからさ。」

「振られないように気をつけるよ。」


アルはそう言って外面の笑顔を見せる。完璧に決まってる王子様の顔だが、怒ってる時や、感情を隠そうとする時などにそういう顔をする。

とにかく、嫌なことを企んでるのは伝わってきた。


「明日はリリを誘って客用の庭園かな。王太子妃用の庭でもいいけど、あっちの方が見渡しいいしね。じゃあ、私は準備するから戻るよ。」


アルは入ってきたドアに手をかけ、出ていった。


「アルは何しにここにきたんでしょうか?」

「まぁ、面白くなりそうだしいいんじゃね。」

「うん……そうだね。」


____________________________________________



次の日、アルとアルの婚約者がお茶をしているという庭園に行った。その後、ルイにさっさと戻ると言われ、今現在、2人で王宮の廊下を歩いている。


「はぁ、リリちゃん可哀想だな~」


呑気に呟いてみる。


「いいんじゃないですか?アルが楽しそうだし、リリ嬢も奥手なようですし、あれくらいで丁度よかったりすんじゃないでしょうかね。」

「しかし、あの庭園にするとはな。」


客間用の庭園は小ぶりだが、見晴らしがいい。それは逆に外からも容易に見えるということだ。

それになにより、アルが選んだ場所は使用人や、王宮に用事がある人がかなりの高確率で通る渡り通路の下である。


外堀からとは実にアルらしい。


しかもその事にリリちゃんは気づいていない。

アルは策略家だからな…


これからどういう展開になるかも考えると、口角があがっていくのを抑えられない。


リリちゃんは厄介な男に捕まってしまったらしい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る