第7話 パソコン爺さんの話

近頃は、定年退職して毎日が日曜日になった人達が趣味としてはじめようとするものにパソコンがある。

現役の頃もパソコンは事務機の主流になっていた筈だが、偉くなっていたのか、今更パソコンなど触らなくてもと、触らずに定年を迎えた人達だ。

なかには、現役の頃もパソコンは操作出来たと胸を張っていても、そのような人達もせいぜい、出来合いのパソコン画面の中に数字を打ち込んだり、手書き原稿を肩越しに見ながら文書作成したり、ワープロ専用機の経験をパソコンと同じと誤解したりしている連中である。

それでも、パソコンを使って趣味を開拓しようとするジイさん(失礼。熟年さん。

これも嫌な表現だ。

斯く言う筆者も同じ境遇であるので・・・)がイザ、一人でパソコンに向かい合った時の戸惑いは想像を絶するものがある。

ある時のこと。

かのパソコンを始めて間もないAさんが操作の途中でトラブルに遭遇した。

これを解決するにはサポートセンターへ相談するのが良いという知恵は持ち合わせていた。

早速、電話してみることにした。

例によって、サポートセンターは混み合っていた。

やっとのことで、サポートセンターの担当者へとつながった。

サポートセンターの担当者の声はうら若い女性の声であった。

つい会社勤めしていた最近までは会社内には若い女性もいたし、彼女たちにもセクハラすれすれ、あるいはほとんどセクハラになるような冗談?、お寒いダジャレも飛ばしていたし、夜ともなれば盛り場ではオネエサンたちに気軽に声をかけたりした。

ところが、あれから幾星霜、若い女性の声を聴いたことがなかった。

Aさんは緊張しながらトラブルの経緯と現象について説明した。

その説明は極めて要領を得なく、知ったかぶりの専門用語を連発するものだから、サポートの担当者は困惑していた。

やむなく、担当者は電話しながら、パソコンを立ち上げてもらうことにした。

「もしもし。」と担当者。

Aさん「ハイ」

「先ず、パソコンのスイッチを入れてください。」

Aさん 「ハイ、スイッチ入れました。」

三分頃、静寂が過ぎ、担当者は頃は良しと判断した。

「モシモシ、Aさん。」

「ハイ」

「Aさん。立ち上がりましたか?」

「はあ?」

「立ち上がっていますか?」

すると、Aさん。

パソコンのモニターを視線をやらずにどうしたことでしょうか。

自分の下半身を見つめて、答えました。

「イエ。無理です。」

「どうしてですか?」

「でも・・・。」

「如何したんですか?」

「もう年ですから」

「・・・・・・・・・」

しばらく静寂が保たれ、そして電話は切られました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今と昔のはなし、そして里守(今のはなし) フレディオヤジ @fredy2011

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る