第6話 バスの中で、やさしいおデブさん

昼のバスはお年寄りの客が多い。

運転手もゆっくり乗って来て、ゆっくり降りるお客さんには細心の心配りをしてくれる。

年配の客はあるいは楽しみにした外出に、あるいは急な用事でやむを得なくバスに乗って来る。

杖を突かないまでもおぼつかない足取りで乗車して来る。

早朝や、暮れ時の通勤、通学の客とは違って神経を使うのだろうと思いながら私もバスに乗っていた。

その日、そのバスの中は昼日中にしては乗客が多くて立ち客も出るほどの混み様であった。

そこに、足元のおぼつかない老婦人が乗り込んできた。

すでに優先席は同じような状態のお年寄りが座っていて、立つしか方法が無い状態を最後部の座席から私は眺めていた。

このバスの座席は運転手席と同じように進行方向を向いたもので、真ん中の降り口までは一人掛けで後部は二人掛けになっている。

かの老婦人は太った女性が二人分の席に大きな荷物を乗せて独り占めしている脇に両手でしがみついたまま立っていた。

かの太った女性は大きなお尻がすでにおよそ二人分の面積を占めていたし、三人前もあるほどの荷物を持っていたのでやむなく座席にそれを乗せていたようで、それはそれで仕方のないことかと見ていた。

そのうち、太った女性、ここではおデブさんと呼ばせてもらうが、彼女は申し訳なく思ったのだろうか。

「どうぞ、お座りください。」と立ちかけた。

すると、老婦人は「大変でしょうからお構いなく。」と遠慮した。

確かにこのおデブさんも席を立って荷物をコントロールするのも大変そうだった。

二人の間では席を譲る申し出と、断るのが数回あったようだ。

すると、おデブさん。

隣に置いてあった自分の荷物を頭のうえに乗っけて太ったからだを斜めにして席を作った。

そうして、かの老婦人の手を引いて「どうぞ。」と言った。

これにはさすがの彼女も破顔一笑、思わずニッコリ。

窮屈なおデブさんの隣に座った。

それからは二人とも昔からの知り合いのように仲睦まじく話しあっていた。

昼のバスの中には暖かな陽射しが差し込んでいた。

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