第6話  鉢かつぎ姫

皆さんはシンデレラのお話を知っていますよね。

実は日本の昔話にも同じようなお話があります。

昔、ある仲の良い夫婦に一人の美しい娘がおりました。

母親はたいそう信心深くて、よく観音さまにお参りしていました。

この子が大きくなったらどうか幸せになりますようにと観音さまにお祈りを欠かせませんでした。

しかし、なんということでしょう。

あれだけ観音さまにお祈りし、娘の幸せをお祈りしたこの母親に突然の不幸がやってきました。

母親が病気になってしまい、起きることが出来なくなりました。

母親は幼い娘を枕元に呼んでこう言いました。

「お母さんは、病気のために仏さまのところ行ってしまうけれど、悲しんではいけないよ。

お前は大きくなったら、きっと、観音さまのお導きで幸せになれるのだから。」

そして、母親が結婚するとき嫁入り道具として持ってきた大きな漆塗りの鉢を娘の頭に被せてしまいました。

母親が亡くなってしまうと、不思議なことに娘が被った鉢は誰が力を貸しても頭から取れなくなってしまいました。

月日が過ぎて、父親のところに新しいお嫁さんが来ることになりました。

娘には新しいお母さんが出来ましたが、新しいお母さんに子供が生まれると娘がいじめられるようになりました。

それでも、この娘は新しいお母さんの言うことを聞いて暮らしていましたが、新しい母親はますます娘が邪魔になり鉢を被ったばけものだと、言い、ついには、娘が継母の物を盗んだと父親に言いつける始末です。

父親の方もこの新しい妻には頭が上がらず、この娘に罪がないと知りながら娘を追い出してしまいました。

娘は泣く泣く、家を出て、沢山の苦労をしながら、ある身分の高い人の屋敷の召使になりました。

そこでも娘は「鉢かつぎ。」「鉢かつぎ。」と囃されて化け物のように扱われました。

それでも、娘は母親が言った言葉を思い出し、何時か幸せになれると観音さまにお祈りしながら我慢していました。

さて、この屋敷には三人の息子がおりました。

一番上が太郎、二番目が次郎そして三番目は三郎といいました。

太郎はこの屋敷の長男なので跡取りになるだろうといたってのんびりしていますが冷たい性格です。

次郎は、隙があれば跡取りにと油断がなく、しかし自分勝手な性格です。

三郎は気持ちが優しく、考え深く親も気に入っていました。

太郎と次郎はもうお嫁さんを貰っていましたが、三郎には親からお嫁さんの話があるのですが、結婚はまだ早いと断っていました。

あるとき、三郎は鉢かつぎが召使の仲間からいじめられているのを見かけました。

かわいそうに思い、いじめている召使たちを叱り、鉢かつぎを助けました。

三郎はいたわりながらしみじみと鉢かつぎを見つめました。

すると手足の白く美しく、声もよく、話す言葉も品がありました。

三郎は思いました。

あの鉢に隠れた顔、本当は美しいに違いない。

息子は鉢かつぎが好きになりました。

鉢かつぎもまた三郎のことを好きになりました。

そして、お互いが好き合うようになりました。

三郎は鉢かつぎを嫁にしたいと思い、両親に打ち明けました。

すると、両親は怒って猛反対しました。

それで、両親は鉢かつぎをこの屋敷から追い出すことにしました。

三郎は親の言うことに逆らって鉢かつぎと一緒にこの屋敷を出てゆこうと決心しました。

ある朝のこと、息子は鉢かつぎにこの屋敷を出て二人だけで暮らそうと手を引きました。

鉢かつぎは「そんなことをしたら、ご恩を受けたあなたのご両親に申し訳ありません。どうか、私のことをあきらめてください。」と言います。

二人は困って、手を取り合いました。

すると、どうしたことでしょう。

突然、今まで、どんなに苦労しても取れることのなかった鉢がぽろりと娘の頭から脱げ落ちたのです。

鉢が取れた娘の顔を見て息子がはじめてみる美しさに驚き、見とれてしまいました。

まるで、かぐや姫かと思うほどの輝くばかりの美しい娘がそこにいました。

取れた鉢の中からは金銀財宝、美しい布などが次から次と限りなく出てきました。

鉢かつぎは今や美しい姫君になりました。

美しい姫君は、おもわず手を合わせて母親と観音さまに感謝しました。

三郎は両親のもとへ姫を連れ、改めて結婚の許しをお願いしました。

両親は姫が美しく、上品な様子を見て反対できなくなりました。

それでもこの姫が鉢かつぎだと知っているので、息子の嫁にふさわしいかどうか、試して見ることにしました。

「兄達の嫁と会わせ、ふさわしい嫁かどうか試したい。」と両親が言いました。

兄達の嫁もまた、この地方では評判の美しい姫君でした。

さて、二人の兄嫁たちは美しい着物を着飾ってこの屋敷の主人夫婦のもとに現れました。

二人が登場すると、屋敷の広間は大きな灯りがともされたようでした。

そして、二人はこの屋敷の主である両親に高価な美しい布を持って来ました。

主人は満足し、すぐ側に座らせました。

やがて、三郎の花嫁になる姫君の登場です。

姫は鉢の中から出てきた布で作った美しい着物を着て、主の前に進んで来ました。

その着物は今まで誰も見たことのない美しい織物でした。

着物が美しいだけでなく、この姫君の美しさをいっそう引き立てるものであったのでまるで天女が舞い降りたようで、他の姫君はそこに居ないように思えました。

さすがにこの屋敷の主は感動し、自分の側に座らせ他の姫君たちを遠くに座らせました。

くやしいのは他の姫君たちです。

そこで、詩歌を上手に詠むことや音楽では楽器など誰が一番優れているか競争させてくれるように主に申し出ました。

けれど、実際、競ってみると、他の姫君たちの詩歌や楽器は鉢かつぎ姫にはとうてい敵いませんでした。

主はすっかり感心し、息子たちに財産を分けることを決めましたが、姫たちを見て自分の跡を継ぐのは一番誰がふさわしいか決めました。

三郎こそが心優しく、しっかりしていると思い、大部分の財産を与えることになりました。

それからというもの鉢かつぎ姫夫婦は幸せに暮らしましておりました。

この話は朝廷の耳にも届き、息子は朝廷の役人としてたいそうな出世をしました。

ある日のことです。

姫が観音さまにお参りしていると、一人のみすぼらしい老人が牛車の前を通りかかりました。

それは、姫を追い出した父親でした。

優しい姫は牛車から降りて父親の手をとり、自分の屋敷に連れて帰りました。

父の話を聞くと、「姫を追い出した後、今度は継母に自分が追い出されこのように物乞いになってしまった。それも自分が悪かったので天罰が下ったのに違いない。せめて姫が幸せであるようにと観音さまにお参りしようとしたとき図らずも姫にめぐり合ったのだ。」

と言いました。

姫は父親がたいそう気の毒になり、父親のために家を建て、親孝行をしたそうです。

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