第5話 鬼に喰われた男
鬼に喰われた女の話」ばかりでは不公平だと叱られそうなので「男の話」も紹介しましょうか。
昔、たいそうケチで、出すものは舌でさえ嫌、そのくせ貰うものは何でもいただき、しかもわが身も省みず美しい女性には眼がないという好色で勝手な男がおりましたそうな。
そして、神様にはあつかましくもこんなことをお願いしたりしたそうです。
「神様よー。どうか、飯も食わずに一生懸命、私のために働き、そのうえ別嬪なお嫁さんに恵まれますようにお願いしますよー。」
こんなことを頼まれて,神様はどんなに迷惑されたことだろうか。
ところが、この男に奇跡のようなことが起こったのは、ある時のことです。
男が山道を歩いていた時、一人の若い女が苦しそうにして蹲っていました。
最初は苦しがっているのを見て、厄介なことだと知らない振りをして通り過ぎようとしたのですが、見ると、とても美しい女でしたので、介抱することにしました。
すると、その女は助けて貰ったのでお礼がしたい、と言い、何故か出来れば嫁に貰って欲しいとまで言いました。
男は半分喜びながら、疑い深そうにして言いました。
「お前様のような美しい人が嫁に来てくれるのは嬉しい。けれど、おらの家は貧乏だからお前様にオマンマを食べさせることが出来ねえ。」
すると、その女が言いました。
「お嫁さんに貰ってくれるのなら、ご飯を食べるくらい我慢しますから。」
これには男は、内心、しめたと大喜びです。
こうして、男はこの美しい女を嫁にして一緒に暮らしました。
実際、女は一生懸命働くし、男の前ではご飯を食べません。
男は本当にいい嫁を貰ったと大喜びです。
しばらくの間、男は幸せな毎日を過ごしていました。
しかし、ある時、男は米櫃(こめびつ)を見て首を傾げました。
「変だぞー。」
そんなに食べた気がしないのに何故か米櫃がからっぽに近くなっているのです。
男は嫁にそれとなく聞いては見たが、嫁は「さあー」と言うばかりでさっぱり訳がわかりません。
不思議なことがあるものだと思うけれど謎は深まるばかりです。
さて、ある時のこと、男が出かけた途中で忘れ物に気がついて家に帰りました。
家に近づくと、家の中では誰かが何かを食べている音がするではありませんか。
男は嫁以外誰も居ないはずだが、変だなと思いました。
「ムシャ、ムシャ」
男は節穴の中からそっと、中を覗きました。
すると、どうでしょう。
中では嫁が沢山のご飯を炊いていて、しゃもじでご飯を掬い上げていました。
そして、嫁は髪を振り分けては自分の頭の真ん中にせっせと米を押し込んでいる様子です。
よく見ると、頭の真ん中には大きな口があって、そこでご飯をムシャ、ムシャと食べているではありませんか。
男は思わず、「あっ。」と大きな悲鳴をあげました。
大きな口の後ろには大きな鼻も、大きな眼もありました。
その大きな眼がぎょろりと男を見つけると、
「見たなあ。」と大きな声で言いました。
そこには美しい嫁の顔でなくて、恐ろしい鬼の顔がありました。
さあ、男は夢中になってそこから一生懸命逃げました。
スタコラ、スタコラ・・・。
しかし、鬼は男を追いかけ、追いかけ終に捕まえました。
そして、鬼はうまそうに男を喰ってしまいました。
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