第755話 授与3



「森羅。『鐘割り』の幹部の1人を討伐。領主の館前のテロを防いだ功績を以って、褒美を授ける!」


「ありがとうございます」


 

 俺の前に跪いて首を垂れる森羅。

 緑色の長髪が肩から絹のような滑らかさで滑り落ちる。


 思わず見惚れる程の流麗な姿。

 その美しさは正しく森の妖精の名に相応しい。


 機械種エルフロードでありながら、仙人に至った幻想機種。

 今は機械種の姿だが、完全に人間の姿にも変化が可能。

 

 俺の侍従長のような立場であり、今後は人間の仲間に扮し、

 外交面での俺の代理を務めてもらう予定。



「森羅への褒美はこれだ」



 俺がそう言うと、胡狛が駆け寄って来て、

 その胸の抱えた『銀色の長手甲』を渡して来る。


 それを俺から森羅へと下げ渡す。

 これこそ、胡狛と白兎、ロキが共同作業で作り出した『発掘品』の合成品第一号。



「名を『銀雷ライオット・長手甲シルバーアーム』。手に入った可変金属製の義手と『雷の杖』を合成したモノだ」



 形状は二の腕まで覆う甲冑の左腕部分。

 メカニカルなデザインの流麗なフォルム。

 パッと見、機械義肢に見える仕様。



「詳しくは胡狛から説明させよう、胡狛、頼む」


「はい、お任せください。では、まず、こちらの『銀雷ライオット・長手甲シルバーアーム』は森羅さんの左腕に装着するよう設計しており、人間時でも問題無く装備することができます」



 俺から話を振られると、胡狛は待ってましたとばかりに説明を開始。



「基本は左腕を守る防具ですが特徴は3つあります。まず、多少の傷を負っても自動で再生します。これは基礎となった可変金属に備わった形状記憶機能によるモノですね。元はかなりの希少品であったのでしょう。次に、5本の指先から超極細ワイヤーを放出することができます。こちらの操作はかなり難解で、少しずつ覚えて頂く必要がありますね。最後に『雷の杖』を取り込んだ効果で、そのワイヤーに電流を流すことが可能です。威力としては並の人間であれば一瞬で感電死させるくらい。機械種相手でも十分。ただし、あまり連続して使用しつづけるとワイヤーが持たない可能性がありますので、その点は注意してください」


「おお、素晴らしい! 心強い装備ですね………」


 

 胡狛の説明を聞いて、感嘆の声をあげる森羅。



「マスター、私の人間時のことまでお気遣い頂き、感謝に堪えません………」



 俺から手渡された銀の長手甲を抱えて、感激に打ち震えている様子。

 人間時であれば滂沱の涙を流していたかもしれない。



「森羅はこれから人間の姿で街中での活動が増えるだろうからな。中央でもお前の活躍に期待しているぞ」



 森羅に渡した褒美は、どちらかというと対人間用の装備。

 俺の代わりで人間相手に交渉の場に出ることも多くなるはず。


 それ故の装備であり、優男にしか見えない人間時の森羅に凄みを持たせる意味もある。


 一見、機械義肢のように見える装備なのだ。

 どんな武器が飛び出すか分からない装備を前に、

 どのような悪党でも一瞬躊躇せざるを得ない。


 事実、極細ワイヤー+電流付という凶悪な暗器が仕込まれている。

 森羅を舐めた相手は一瞬のうちに切り刻まれるか、電流で黒こげになるに違いない。





「次は豪魔! 熾天使型戦にて、皆の盾となり前線を維持。皆を守り抜いた功績を称え、『流水制御(最上級)』スキルを授ける」


「ありがたく頂戴いたします」


「本体の頭を出せ。翠石を投入するぞ」


「ははっ」



 片膝をついて跪く義体の頭上から、ヌッと空間を割って飛び出して来る豪魔本体の顔。


 その4m近い大きさに、反射的にのけ反ってしまいそうになるもグッと我慢。

 

 そのまま豪魔本体に晶冠開封を命じ、開いた頭頂部へとよじ登って『流水制御(最上級)』の翠石を投入。


 

「どうだ、豪魔?」


「はい、しっかりと、『流水制御(最上級)』のスキルが根付いております」



 本体を亜空間倉庫へと戻した豪魔の義体に調子を問うと、

 獰猛な野獣の笑みを髭面に浮かべて答える豪魔。


 これで豪魔の扱う災害に『津波』や『洪水』が追加された。

 その気になれば、辺り一帯を水没させるなど造作も無いことに違いない。


 正しく『災害の邪神』。

 来たる海戦や水中戦での活躍が期待できる。






「次は天琉!」


「あい!」


「格上である熾天使型機械種セラフ相手に廻斗と力を合わせて共同撃破。また、水の巨人、紅姫ボトムウィッチから秘彗を救い、皆が駆け付けるまでの時間を稼いで勝利に貢献。その功績を称え、自身の手で倒した『機械種セラフの晶石』を与える」


「あい、ありがとーございます!」


「後日、ボノフさんのお店で晶石合成を行うからな」


「あ~い~! ボノフのおばちゃんち!」


「ボノフさんと言え」

(コツン!)


「あい!」



 一発天琉の頭を小突いてそれで終わり。

  

 相変わらず1つ覚えたら1つ忘れる仕様。

 機械種セラフの晶石を合成して、知力も上がってくれたら、とも思う。





「次は廻斗。天琉と共同で熾天使型機械種セラフを撃破。また、今回の『鐘割りのテロ』において最重要であった『杏黄戊己旗きょうこうぼきき』の運搬に成功。あの時、俺の手元に無ければ、詰んでいたかもしれない。あれはお手柄だったぞ」


「キィ!」


 

 俺に褒められて嬉しそうに鳴き声を出す廻斗。


 赤ちゃん並みの小さな機体に、9つの命と、勇者の精神、紳士の心を合わせ持つ。

 白兎との直接通信機能をも備えた、俺のチームには欠かせない縁の下の力持ち。

 


「お前への褒美はこれだ………、胡狛!」


「はい、こちらに」



 胡狛が差し出すのは、直径50cm程の丸盾と、

 長さ30cm程のロケット状の物体。


 

「こっちが『飛行丸盾フライトシールド』。お前の自動浮遊盾と『爬鱗丸盾』を合成したモノだ。で、こっちは『自動オート浮遊衝撃射手ショックガンナー』。これもお前の自動浮遊射手と『突風の杖』を合成した。どっちもかなりパワーアップしたようだぞ」


「キィキィッ!!」


「ほら、少し大きいから気をつけてな」


「キィ!」



 2つの合成品を廻斗へと手渡し、

 詳しい説明は胡狛からしてもらう。



「廻斗さん。こちらの『飛行丸盾フライトシールド』は大きさをある程度自由に変えられます。最大直径2mから、ちょうど背中に背負うくらいまで小さくできますね」


「キィ?」


「ここをこうして………」



 廻斗の手にある『飛行丸盾フライトシールド』を胡狛が弄ると、その大きさがシュッと小さくなった。


 直径15cm程度だろうか。

 胡狛の言うように亀のごとく背中に背負うことが出来そうだ。



「また、この『飛行丸盾フライトシールド』は、乗り物のように上に乗って飛行移動もできます。流石に天琉さんとまでは行きませんが、スカイフローターの中位機種程度の速度は出せますね」


「キィッ! キィッ!」



 胡狛の言葉に廻斗が大興奮。

 確かに上に乗って移動できる浮遊飛行ボードって、かなり格好良い。

 『俺も欲しい!』と思わず思ってしまう程に。


 廻斗は空を飛べるが、その飛行速度は速くない。

 それ故の乗り物の授与なのだ。

 しかも、その上から『八卦紫綬衣はっけしじゅい』を被れば、ほぼ安全を確保した状態で飛行が可能となる。



「次に『自動オート浮遊衝撃射手ショックガンナー』ですが、これは単純に威力を上げたモノになります。溜め打ちが可能となり、その最大威力は重量級ですら貫くほどです。ただし、弾数に限りがありますので、無駄撃ちに気をつけてください」


「キィ!」



 廻斗への褒美は既存の発掘品を合成したモノ。

 廻斗は『八卦紫綬衣はっけしじゅい』の中にかなり広い亜空間倉庫のような収納スペースがあり、その中に武器や防具を仕舞っておける。

 

 自身の戦闘力が高くないので、武器で手数を増やすコンセプト。

 これで廻斗1機でも、不確定要素な天兎流舞蹴術を除いても、ベテランタイプくらいまでなら戦えそうな感じ。


 

「これで廻斗の戦力も大幅パワーアップだな」


「キィキィ!」



 俺の言葉に、拳を突き出してヤル気を見せつけてる廻斗。

 この小さな勇者はきっと中央でも活躍してくれるだろう。






「次は………秘彗! 胡狛!」



「はい!」

「はい」



 俺に名を呼ばれ、緊張で身体を固くする秘彗。

 動揺することも無く、いつも通りのお澄まし顔で答える胡狛。



「秘彗は、ボノフさんの護衛をやり遂げ、水の巨人、紅姫ボトムウィッチの脅威から街を守り抜いた功績。そして胡狛は、躯蛇の襲撃における防衛戦の指揮、及び、此度の報酬における発掘品合成の功。よって、それぞれに合わせた『晶石』を授与する」


「ありがとうございます!」

「過分なお心遣い、痛み入ります」


「なお、事情により報酬はすでに授与済である」



 これで秘彗、胡狛の授与はお終い。

 すでに晶石合成済なのだから当たり前。


 だが、皆の前で功績を称えられるのが重要なのだ。

 これも、皆を率いるリーダーとしては必要なこと。





「次に浮楽」


「ギギギ!」



 俺が呼ぶと、余った袖をフリフリさせながらピエロ少女が進み出る。


 ギザギザの歯を見せつけるような口を横に広げる笑み。

 振り子のように首をカクンカクン揺らし、奇妙なステップを踏みながら、俺の前へと辿り着くと、ブルンと袖を一振り、大袈裟な動作でお辞儀を1つ。


 その背後では従機達5機が並び、同じような動作で俺へと一礼。

 


「お前には、お前自身………と従機達が倒した『魔人型の紅姫カーミラの晶石』を与える。後日、天琉と一緒にボノフさんの所で晶石合成してもらうぞ」


「ギギギギッ!」


「また、浮楽の従機達にも褒美として名前を与えた。それぞれ『一楽イールゥ』、『ニ楽リャンルゥ』、『三楽サンルゥ』、『四楽シールゥ』、『五楽ウールゥ』だ」



 俺が名付けた名前を呼ぶと、従機達はその度にクルンと見事なバク転を見せる。


 その胸に付けた名札はピカピカと光り、

 さり気なく自分の新しい名前をアピール。

 

 

 あの下克上騒動以降、浮楽と従機達の間に不和は見られない。


 だが、油断は禁物。

 ブラック企業経営が抜けない浮楽は、きちんと監視しないとすぐさま過酷な労働条件を従機達に押し付けかねない。

 


「浮楽。前にも言ったが、従機達の扱いをだな………」


「ギギギギッ!! ギギギ………」



 俺が訝し気な目で浮楽へと話しかけると、

 浮楽は焦ったように狼狽えた後、

 


「ギギギギッ! ギギギギギギギ!」



 背後の従機達を捕まえ、強引にハグ。

 顔をピッタリくっつけてスリスリ、強引に仲の良いアピールをし始めた。


 これには一楽イールゥ達も辟易。

 あからさまに嫌な顔を見せて静かな抵抗。

 

 それでも構わず引っ付こうとする浮楽。

 すると、従機達は『キモイぞ』『暑苦しい』『こんな時だけ良い顔すんな』等のプラカードを掲げて反抗。


 どうやら関係の修復にはまだまだ時間がかかりそう。

 晶石合成にて新しい力を得るだろう浮楽と従機達との関係がどうなるかは気になる所。






「次は…………、毘燭」


「はい」



 俺に呼ばれて数歩前に出る毘燭。

 

 白い僧衣を元に東方テイストが混じった風体。

 顔は仮面だが、いるだけで周りを落ち着かせる威厳を感じさせる。


 チームの参謀にして、俺に対して苦言が飛ばせる希少な小言役。

 最近では、増えるメンバーの意見調整で頭を悩ませることが多いと言う。 



「熾天使型戦にて、『白天護法ソル・ガーディアン』とともに機械種セラフの撃破に貢献。また、緋王メタトロンの必殺技から皆を守り抜いたことを評価。その功績を以って、この『天沼矛あまのぬぼこ・かい』を与える」


「ありがたき幸せ」



 恭しく頭を下げる毘燭。

 平静を装っているようだが、声に僅かばかりの興奮が感じられる。

 

 俺から授けられた最高位の発掘品『天沼矛あまのぬぼこ』は、毘燭にとってすでに半身に等しい存在。

 それが白兎・胡狛・ロキの手で改造され、より使いやすくなって手元に戻るのだ。

 興奮するなと言う方が無理であろう。



「受け取れ」


「はい…………ふむ?」



 俺から渡された『天沼矛あまのぬぼこ・かい』を受け取り、じっと手の中で検分するような仕草を見せる毘燭。

 『天沼矛あまのぬぼこ・かい』は以前と変わった様子がなく、その形状は槍のまま。


 だが、改造によって『杖化』できるのは間違いない。

 使い方は改造者に聞くのが一番であり、最も上手に説明できるのは胡狛であろう。



「使い方は胡狛に聞けよ」


「…………そうですな」



 一瞬、間があったと思うのは、俺の勘違いではあるまい。

 毘燭と胡狛は微妙な関係なのだ。

 毘燭が一瞬躊躇するのは無理も無い。



「毘燭さん、こちらはこうやりまして………」


「なるほど………」



 胡狛はにこやかな笑みを浮かべて毘燭に使い方を説明。

 流石にこの時ばかりは毘燭も大人しく胡狛の説明を聞く。



 そして、粗方説明が終わると、



「おおっ! 杖の形に!」



 毘燭の手には、穂先が中に収納され、杖となった『天沼矛あまのぬぼこ・かい』の姿。

 穂先が無くなった代わりに頭部に蕾にも似た形状の錘が付いた。

 

 砲口にも見えなくも無い。

 まるで細長い砲筒であるかのよう。



「『杖』状だと、より錬成制御の精度と効果が向上します。『槍』と比べて2割増し程度でしょう。ですが、武器としては使えませんので、近接戦を行う場合は『槍』の形へと戻してください」


「ははは、拙僧が前衛で槍を振るうとなると、よほど危機的な状況ですな」


「そうならないのが一番ですが………、何事も有り得ないということはありません。今回の件でソレが良く分かりました………、どれだけ予想を立てようと、予想外のトラブルは起こってしまうモノだと………」



 胡狛の実感の籠った弱気とも思える発言。

 普段は毅然とした地震に満ち溢れた態度の胡狛が、今にも消えてしまいそうなくらいに儚げに見える。


 

「ふむ? 胡狛殿のお気持ちは良く分かりますぞ。マスターの行動予測など、立てる方が無駄ですからな」


「コラ、毘燭。どういう意味だ?」



 急に俺の方に飛んで来た矢印。

 いつものように即座に反論。


 だが、毘燭もいつものように、全く動じる様子も見せずに淡々と返して来る。



「さて………、マスターご本人ですら自身の行動を予想できませんのに、我等従属機械種にソレを求められても困りますな」


「俺自身の行動予測は外れていない! 周りと環境が俺の予想を外して来るんだよ!」


「予想を外した原因を外に求めますと、キリがありませんぞ。拙僧から見るに、マスターは曖昧に予定を立て過ぎて、行き当たりばったりになってしまっているのが原因と思われますな。今後はせめて、明日の予定くらいは事前に我等に相談してくだされ」


「今日の俺と明日の俺では下す判断が違うんだよ。その時の気分と気温と湿度によって考えが急変するんだ。分かれ」


「はあ………、全く、とんでもないマスターにお仕えしておりますな………、その分、拙僧達が支え甲斐があるというモノですが………」



 俺と毘燭の決して交わらないやり取り。

 いい加減で適当な俺と、几帳面で細かい毘燭では噛み合うはずがない。


 それだけに、俺の悪い所を毘燭が補い、その役割に毘燭が満足しながら取り組んでくれている所が上手く回っている現状。

 

 

「クスクスクス………」



 胡狛が口元を手で隠しながら小さく笑う。


 俺と毘燭のやり取りが彼女の琴線に触れた様子。

 儚げな様子が消え去り、いつもの胡狛が戻って来た模様。


 これが毘燭の意図したことなら大した心配りとも言える。

 俺に対して雑にキツイことばかり言うくせに、メンバーへの心配りは非常に丁寧。



「…………ったく。毘燭め………、おっと、これを忘れていたな」



 ふと、もう1つの褒美を思い出して、七宝袋に手を突っ込み、

 緑色に輝く宝石を1つ取り出す。



「毘燭。お前が前から欲しがっていた『交渉(最上級)』の翠石だぞ」


「おおっ! まさか………」


「ほら、さっさと晶冠を開封しろ。投入してやる」


「マスター、御身に今まで以上の忠誠を」


「それを言うなら、もう少し俺に対する小言を控えろよ」



 晶冠開封した毘燭へと『交渉(最上級)』の翠石を投入。


 この翠石は先日、白翼協商の販売所で購入したモノ。


 辺境では珍しい最上級スキル。

 戦闘系であれば決して辺境では出回らないだろうが、

 内政系であれば運が良ければ手に入ることもあるレベル。

 

 また『交渉』スキルが中央では不人気と言うこともある。

 そもそも人材も豊富な中央で、機械種が交渉に出張ることが少ないからだ。

 

 交渉ごとの表に立つのはあくまで人間。

 秘書的な役割で補助に付くことはあっても、機械種が交渉で矢面に立つことは、交渉相手への無礼に当たる。


 故に人気が無く辺境まで流れて来たらしい。

 ソレをちょうど俺が仕入れることができたのは幸運であっただろう。



「これでランクアップした胡狛殿とも舌戦にて互角以上にやり合えますな」


「毘燭さん。それは大人げなくはありませんか? 私の交渉スキルは上級止まりですよ」



 毘燭の言葉に、いつもの様子に戻った胡狛はニッコリと微笑みながら物申す。



「お互い議論を交わす際は、せめて等級差分くらは手加減してくださいね」


「何をおっしゃいますかな? 胡狛殿。そちらには拙僧には無い長い経験がございますでしょう?」


「あら? 酷い。女性型に年齢のことを言うのは失礼ですよ」


「それは失敬。ですが………」



 チクチクと嫌味や皮肉を交えてやり合う2機。

 だが、何となく両機とも楽しげに見えるから不思議。

 本当に仲が悪いのか、それとも実は気が合う2機なのか………



 まあ、それは置いておくとして、

 次の授与へと移るとしよう。


 




 未だ言い合う2機を無視して、

 次の授与者へと声をかける。



「剣風!」


 バッ!



 俺が名を呼ぶと、颯爽と前に出て、片膝をつく剣風。


 騎士系と竜騎士系のハイブリッド。

 剛毅朴訥、質実剛健な騎士の鑑。



「剣風! 『鐘割り』のテロにおいて、無事、ボノフさんを守り切り、水の巨人、紅姫ボトムウィッチを虎芽とともに共同撃破。その功績を以って、機械種エルダードラゴンロードの従機を授ける」


 コクン!



 俺の言葉が終わると同時に、俺に向かって首を垂れる。

 言葉は無いが、それだけで俺に対する絶対の忠誠と深い感謝が感じられる。



「秘彗!」


「はい、こちらに」



 秘彗に命じて、亜空間倉庫から機械種エルダードラゴンロードを現出させる。

 その場に全長25mの竜種の王が顕現。


 その戦闘力は中量級の臙公・紅姫以上。

 相性によっては重量級ですら打ち負かす程。


 修理を終えた完品状態。

 蒼石準1級にてブルーオーダー済。

 そして、『従晶縛鎖』を投入し、すでに従機化済。

 

 後は剣風が視線を合わせて従機に本機と認められるだけ。

 本機と認められない場合はその場で襲いかかられる可能性もあるというが………



「剣風なら大丈夫だろう」


 コクンッ!


 

 俺の期待に剣風は大きく頷き、

 地面に伏しじっと両目を点滅させている竜種の王へと向かう。



 『マスター認証待機状態』にも似ているが、目の光は青ではなく青緑で、点滅速度がやや遅い。

 これが従機の『本機認証待機状態』であるらしい。


 この『本機認証待機状態』であれば、本機でなくても亜空間倉庫に収納可能。

 『本機認証待機状態』の従機は機械種であって機械種でなく、言わば所有者未登録の装備品に近い。

 それ故に秘彗の亜空間倉庫に収納することができる。 



 

 

 皆が見守る中、剣風は恐れることなく機械種エルダードラゴンロードの真正面に立ち、その片方の目に顔を寄せ、本機登録を試みる。

 

 俄かに周りのメンバー達が緊張。

 万が一、竜種が暴れる際は、すぐさま止めに入ろうと準備している者もチラホラ。

 

 だが、剣風の相方である剣雷は武器を抜く仕草も見せず、腕組みしたまま。

 また、その剣の師匠とも言えるヨシツネも同様。

 そして、白兎も気楽な様子で耳をフラフラさせているだけ。


 それは剣風なら必ずやり遂げると言う絶対の確信からなのであろうが………




 ピカッ!




 その時、竜王の目が一際大きく輝いた。

 辺り一帯が青緑色に染まったかと思う程の光量。



「うわ、眩しい」



 思わず目を閉じ、手で目を庇いながら、

 何とか剣風の様子を確かめようとすると、



「ああ、成功したのか………」



 そこには頭を寄せる竜種の顎に手で優しく触れている剣風の姿。


 竜種に暴れるような素振りは見えない。

 あくまで剣風に甘えるように寄り添っているだけ。


 その体格差は数十倍であろうが、明らかに剣風を上位者として敬う態度。

 剣風に確認するまでも無く、竜王の従機化に成功したのは間違いない。



「やったな、剣風!」



 俺が声をかけると、

 剣風はサッと右手を頭に掲げ、俺に向けて最敬礼。



 パチパチパチパチパチパチパチパチッ!


 

 次の瞬間、皆から拍手が送られる。


 竜王を無事従えたこと、

 そして、ここに本当の意味での竜騎士が誕生したことを祝う為に。


 

 

 

 

 

「次は…………、剣雷!」



 バッ!

 ドシンッ!



 名を呼ぶなり、俺の前に舞出てくる剣雷。


 踏みしめた地面がミシリと凹み、

 僅かばかりの土埃が舞い上がる。


 控え目な剣風よりもアクションが派手め。

 剛毅で陽気なアメリカンヒーローのような立ち振る舞い。

 

 全高2m近い巨漢の騎士。

 騎士系に攻撃力特化の破騎士系を組み合わせたダブル。

 

 どうやら今か今かと呼ばれるのを待ち構えていた模様。


 一応、膝をついて俺の前では殊勝な態度を取っているが、

 その両目の光が激しく揺らぎ、褒美への期待が抑えきれない様子が見て取れる。



「コラ、剣雷。落ち着け」


 コクン



 俺が窘めると、自分で自分の頭をペシリと叩き、頭を垂れて謝罪。


 流石に今の自分が興奮しすぎていることに気づいた様子。

 両目の光量が目に見えて抑えられ、ようやく落ち着きを取り戻した所で、



「剣雷! 魔人型の紅姫カーミラの一団を撃退し、孤児院の防衛に成功。また、水の巨人、紅姫ボトムウィッチ戦の救援に駆けつけ、その討伐に功あり。よって、ここに発掘品の大型バイク『黒天狼』を授ける」


 バッ!


 

 これまた大袈裟に俺へと敬礼。

 胸に手を当て、片膝を立てた形のスタイリッシュな返礼。



「胡狛」


「はい、こちらです」



 胡狛の亜空間倉庫から『黒天狼』が取り出される。

 

 元は鐘割りの幹部、八赤連のスケアクロウが保有していた発掘品の大型バイク。

 

 何か仕掛けが無いが念入りに調べた上、打神鞭の占いにて裏が無いことを確認。

 また、胡狛に外装を弄ってもらい、一目では分からないようにデザインを変更。


 元は武骨な軍用バイクであったが、剣雷の『雷』をイメージした稲妻のデザインを取り入れ、獰猛な野獣のようなフォルムから幾分シャープな形状へと変更を加えた。



「見ての通りバイク型の戦車と言っても過言ではない性能です。各種武装も揃っており、下手な戦車よりもずっと戦力は上。おまけに電磁バリアが標準装備されていますから、転んだくらいでは傷一つつきませんし、その頑丈さは重量級の機械種以上。剣雷さんは騎乗スキルがありますから、普通に走る分については問題無いでしょう。ただし、こちらの『黒天狼』はタイヤの下の空気を踏み固めての空中走行が可能であり、また、走りながらの空間転移まで行えますので、完全に御すのは中々に大変だと思います。速度も出力も桁外れ。全力を出そうとすれば、その操縦難易度は相当なモノになります。ですから、まずは時間をかけて慣らしていくことをお勧めします。剣雷さんなら乗りこなせると思います。頑張ってください!」


 

 胡狛の説明に熱が入る。

 整備士として相当気に入っていることが良く分かる。


 剣雷はウンウンと頷き、胡狛の言葉に聞き入る。

 しかし、その目はフラフラと重厚なバイクに引き寄せられており、

 早く乗り回したいという思いが今にも零れそう。



「剣雷…………、言っておくがバイクを乗り回すのは授与式が終わった後だぞ」


 ……………コクン



 俺が忠告すると、剣雷はゆっくりと肩を落とし、コクンと素直に頷いた。


 流石に後の者の見せ場である授与式をほったらかして、バイクで走り出すつもりは無い様子。



「ほら、さっさとバイクを亜空間倉庫に仕舞え。もうお前のモノになったんだから」



 俺がそう促すと、剣雷は自身の熱く滾るような思いを封じ込め、『黒天狼』を自らの亜空間倉庫に収納。


 存在感溢れる大型バイクがその姿を消す。

 残るはほんの少し寂しそうにも見える剣雷だけ。

 


 そして、そんな剣雷へと剣風が近づき、その肩をポンと叩く。


 剣風も竜王の従機を亜空間倉庫に収納済。

 早く騎乗して空を駆けたいという気持ちは似たようなモノ。


 互いに交わす視線。

 手の動きと頷きだけで通じ合う2機の会話。


 おそらく、後で一緒に飛ぼう・走ろうと言う内容であろう。

 この2機は毘燭と共に俺の従属機械種となった時から一緒であり、

 同じ戦場を駆けて来た最も身近な戦友同士。



 熱い友情を見せる2機を皆が温かい目で見守る中、


 授与式は次のステージへと進む。

 



『こぼれ話』

手に入れた発掘品を人間が使う方が良いか、それとも従属機械種に装備させる方が良いか。

度々機械種使いの間で交わされる議論になります。

高位の発掘品を人間が扱えば、その真の力を引き出しやすくなると言われています。

逆に従属機械種が扱えば、ランクアップした際に発掘品の能力を取り込む可能性があり、ランクアップと共に取り込んだ発掘品も成長する。

どちらもメリットがある為、いつも最終的な結論が出ずに議論が終わるようです。


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