第754話 授与2
ガレージに帰った俺は、すぐさま白兎、秘彗、胡狛を連れて再び街へと舞い戻る。
向かうはボノフさんのお店。
要件は、翠膜液を手に入れたことを報告、及び、晶石合成の依頼。
そして、修理を終えた機械種エルダードラゴンロードの蘇生を行ってもらう為。
浮遊島の機械種生産工場にて、白兎、胡狛、ロキの手で機械種エルダードラゴンロードは修理された。
浮楽+ラズリーさんによって断たれた首の接合は完了。
その他の傷ついていた部分も修復。
しかし、機体としては完全に元通りになったとしても、それだけでは一度活動を停止した機械種が再び動き出すことは無い。
機械種が活動を停止すると、晶冠の一部の回路が焼き切れる為だ。
晶冠部分であるが故に、機械種ではコレを修理できず、人間の手で直すしかない。
だから、ボノフさんのお店に持ち込むしかなかったのだ。
流石に全長25mを超える超重量級は、倉庫に入り切らないので、頭部分だけを取り外して搬入する形。
「ボノフさん! お願いします!」
「あいよ…………、って………。相変わらず、ヒロはアタシの度肝を抜くようなモノばっかり持ってくるんだねえ………、はあ~~~………」
秘彗の亜空間倉庫から取り出された機械種エルダードラゴンロードの頭部を見上げて、長いため息をつくボノフさん。
頭部分だけで中型車両並みの大きさ。
全長を想像すれば、この倉庫に入り切らないのは明らか。
頭だけであるのに、倉庫に置かれたどの機種よりも巨大。
レッドオーダー特有の凶悪な竜の顔を見つめながら、ボノフさんは半分呆れ顔。
だが、ボノフさんに呆れられつつも、依頼自体は快く引き受けてもらえた。
また、翠膜液を5本も手に入れたことを報告。
うち2本と、『魔人型の紅姫機械種カーミラの紅石』及び『熾天使型機械種セラフの晶石』を渡して、それぞれ浮楽と天琉に晶石合成を行いたい旨を説明。
「全く、トンデモナイ物ばっかり持ち込んでくるねえ………」
またも、ボノフさんはため息交じりに、俺が取り出した『紅石』と『晶石』を眺めてポツリ。
まだ作業にも取り掛かっていないのに、少々お疲れ気味となってしまった様子。
「竜種の蘇生はすぐ済むよ。白兎や胡狛を連れて来てくれたということは、手を借りても良いんだろう?」
「あ、はい。作業の役に立つのかな、と。晶冠は弄れないですが、装甲を取り外したり、組み立てたりはできますから」
「天琉と浮楽がいないようだけど、晶石合成はどうするんだい?」
「そっちについては後日にします。今日の所は材料だけを持ってきましただけで」
報酬の準備が揃い次第、メンバー達への褒美の授与式を行う予定。
天琉と浮楽にはそれぞれこの『魔人型の紅姫機械種カーミラの紅石』と『熾天使型機械種セラフの晶石』を与えるつもりなのだ。
晶石合成はきちんと皆の前で表彰した後に行いたい。
秘彗と胡狛については、白式晶脳器での転職が急務であったこと、また、輝煉も運用上どうしようもないことから、報酬の授与が前後してしまったが、こういったことは段取りが重要。
まあ、晶石自体はボノフさんに預ける形だから、授与式では目録だけを渡すことになるだろうけど。
「じゃあ、まずは竜種の蘇生だね。ちゃちゃっとやってしまおう」
腕まくりしながら機械種エルダードラゴンロードの頭部へと向かうボノフさん。
白兎、胡狛もそれに続く。
1人と2機の連携作業。
白兎と胡狛が巨大な竜の頭をこじ開け、ボノフさんが中に乗り込んで晶冠を触る。
1人と2機の腕前は、大陸中を見渡しても相当な上澄みであろう。
こんな辺境にいるのがおかしいくらい。
特にボノフさんの腕は、クアドラプルになった胡狛でも追い越せない程。
完全に上回ろうとすれば、存在するかどうかも分からない整備関係の特級スキルを得る必要があるだろう。
それだけの腕があって、なぜボノフさんはこの街にいるのだろうか?
突っ込んだ話は聞いたことは無く、俺自身もあまり他人のプライベートに踏み込む性格ではない。
しかし、気になると言えば気になる話。
もし、ボノフさんが中央に戻りたいと思うなら、全力を尽くして協力するのもやぶさかではないが………
「ハルル、レンチ、とって」
「はい、ボノフさま」
ボノフさんの傍には巫女系ベテランタイプのハルルが付き添い、
工具や部材を渡したり、重力制御で足場を作ったりと見事なアシスト。
可愛いだけじゃなく、仕事でも役に立っている所が見れて、
プレゼントした俺の方も感慨深い気持ちになって来る。
もちろんボノフさんの従属機械種はハルルだけではなく、無駄に美声な機械種オークや無口な機械種エスクワイア、お調子者の機械種ノームなども周りで作業の邪魔にならないよう、倉庫を片付けている様子が目に入る。
ボノフさんは半ば引退状態である為、実質、依頼をしに来るのは俺とアスリン達だけであるという。
最近はずっと気の合う客だけを相手に、のんびりと藍染屋業を営んでいたそうだ。
昔のように繁盛し過ぎて働きづめになるのは御免らしい。
気に入った人だけを相手に、好きな機械種弄りをする生活。
まあ、ボノフさんが今の辺境暮らしに満足しているだろうってことは、今の俺でも良く分かる。
以前、ボノフさんが言っていたように、俺が中央へと旅立ち、アスリン達も遅れて出立すれば、完全に隠居するつもりなのは間違いない様子。
時折聞こえてくるであろう、俺やアスリン達の中央での活躍を楽しみに、隠居生活を満喫するそうだ。
俺も、中央で目的を果たし、何年かしたらこのバルトーラの街を訪れるつもり。
その時は、一番に隠居しているボノフさんが探し出し、俺の土産話を聞いてもらうことにしよう。
1時間少しで作業は完了。
焼き切れた晶冠が修復され、無事、機械種エルダードラゴンロードは蘇生。
この後、胴体部とつなげることで復活を果たす。
しかし、それで蘇るのは人類の敵対種たるレッドオーダーの竜種。
頭部と胴体を繋げると同時に蒼石によるブルーオーダーが必須。
「蒼石は大丈夫かい? 下手に3割の悪魔へ挑戦して、失敗したら最悪だよ。次の蒼石を用意する数秒の間に、この街の一画を焼き払う力があるだろうからね」
「ご心配なく。適正級でブルーオーダーするつもりです」
「それで剣風の従機にするってのかい? こんな高位の竜種を従機化するなんて、贅沢この上ないねえ………、まあ、剣風の仕様からすれば、それがベストなんだろうけどね」
ボノフさんは蘇生し終えた機械種エルダードラゴンロードの装甲をポンと叩いて、どこか面白がるような口調で感想を述べる。
胡狛によれば、『従晶縛鎖』があるなら、ボノフさんに機械種エルダードラゴンロードの従機化をお願いする必要はないらしい。
『従晶縛鎖』は翠石のように晶石に投入するだけで従機化が完了。
その後、本機となる機種が『本機登録待機状態』となった従機と接触し、
本機登録を行うことで従機契約が成立。
ただし、『従晶縛鎖』を使用する為には、従機化する機種が『マスター認証待機状態』であること。
また、あまりにレベル差があると従機が本機を認めず従機とならない。
その場合、運が悪ければ、従機が本機へと襲いかかってくることあるそうだ。
今回の本機となる剣風がストロングタイプのダブルであり、竜を従えやすい特性を備える竜騎士でもある。
胡狛の見立ててではまず問題がないだろうとのこと。
ちなみに、元々藍染屋が行う従機化の施術は『従晶縛鎖』を参考にしたモノであるらしい。
人間の手で行う関係で、その作業はかなりの難易度がある様子。
「それじゃあ、次は天琉と浮楽を連れておいで。その時までには晶石合成の準備をしておくからね」
「はい…………、あと、頼んでいましたロキの防冠処理ですが………」
「ああ、そっちの方も準備できているよ。前にベリアルに用意した分が残っているからね。一緒にロキも連れてくるといいさ」
「はい、分かりました。その時はよろしくお願いします!」
「気をつけて帰りなよ………、街を救った英雄にかける言葉じゃないかもしれないけどね」
「いえ、お気遣いありがとうございます。それでは失礼します」
俺が頭を下げると、白兎、秘彗、胡狛も揃って頭を下げて、ボノフさんへの敬意を表す。
ボノフさんは軽く笑って、俺達を送り出す。
機械種エルダードラゴンロードの頭部は秘彗の亜空間倉庫に収納済。
あとは、ガレージに帰ってから白兎と胡狛で胴体に接続、蒼石準1級でのブルーオーダー、『従晶縛鎖』による従機化だけ。
メンバー達への報酬の準備が整ったのだ。
今日の夕方にでも、褒美の授与式を行うことができるだろう。
そして、その日の夜、ガレージ内………、いや、ロキが造り出した異空間内にて、褒美の授与式を執り行う。
「ただいまより、授与式を始める!」
立ち並ぶメンバーを前に大声で宣言。
然して通りの良くない俺の声が、遮るものの無い平地に響き渡る。
辺りは昼でも無く夜でも無いようなぼんやりとした薄暗さ。
空は今にも雨が降り出しそうな雲が広がり、太陽の光すら差し込まないどんよりした天気。
地面はほんの僅かに湿り気を帯びた荒野。
しなびた雑草が僅かばかりに生える生命の息吹を感じない不毛の大地。
ここはロキが創界制御で作り出した異空間。
人数が増えてきたため、ガレージ内が若干狭くなったこともあり、
この場での授与式開催となったのだ。
「まずは、白兎。熾天使型戦での活躍、見事であった。お前の奇襲攻撃が決まっていなかったら、全滅もありえただろう。機先を制し、熾天使型戦を勝利に導いた功績を以って、貴殿を『征東将軍』に任ずる!」
パタパタ
『ありがたき幸せ』
「今後も従属機械種筆頭として俺を支えてくれ」
フルフル
『ハハッ!』
ビシッとした敬礼で返す白兎。
まるでヨシツネのような畏まった受け答え。
厳格な軍人のようなきびきびとした姿勢。
されどウサギボディの白兎が行うと、どこかユーモラスな雰囲気が漂う。
本人は筆頭の威厳を出そうと思っているみたいだけど………
白兎への報酬は官職を以って行う。
具体的な形も無く、組織的にも意味があるモノではないが、
なぜか白兎はコレを欲しており、今回の報酬の検討でも、
やたら官職を上げてほしいと遠回りにおねだりして来た。
マスターである俺に認められることが嬉しいのであろうか?
特に困るモノでもないので、とりあえず三国志ではあの張遼が就任していた『征東将軍』に任じてみたのだが………
ピコピコ
『統率力が7ポイントアップ 武力が7ポイントアップ』
あれ?
なんか白兎の頭の上にテロップが流れているような………
フルフル
『白兎は指揮兵力が1000に上がった。最大1000機までの兎を率いることが可能となった』
「………………早まったかもしれん」
1機だけ別ゲームをやっているような白兎を眺めながら、
すでに後悔し始めている俺だった。
まあ、それはともかく、
「コホンッ! そ、それとだな、白兎。前からお前が仲間にしたがっていた生産工場で造られた機械種ラビットだが………、2機だけ俺の従属機械種とすることを許そう」
パタッ!
『え? 本当?』
「ああ。あの広い空中庭園や浮遊島の警備を固める意味もある。機械種ラビットなら警戒範囲も広いだろうし、白兎の直弟子になるなら戦闘力も期待できる。だが、俺の従属容量の関係で2機だけになるし、基本は外には連れて行かない。あくまで俺達のホームを守るという役目だ」
フルフルッ!
『わーい! やったああああ!! 2機だけでも十分だよ!』
俺の言葉に辺りをピョンピョン跳ねまわって喜びを表す白兎。
荒野を駆けながらアクロバティックに宙返り、バク転、後方二回宙返り一回ひねり、後方屈身3回宙返り………
はしゃぐ姿は子供そのもの。
すでに筆頭の貫禄は遥か彼方。
飛び回りながら、耳を震わせ、新たな仲間の名前の健闘に入る白兎。
ピコピコ!
『2機だけだと、名前、何にしようかな? やっぱり2機だから『双璧』? 『疾風兎ラビルフガング・ウサッターマイヤー』と『金銀兎眼ウサカー・フォン・ラビエンタール』っていうのは………」
「コラ! 変な名前の混ぜ方すんな! それに従属させるのは中央に着いてからだぞ」
放って置くとどこまでも暴走しそうな白兎を制止。
やっぱりやめておいた方が良かったかな、と再び後悔。
されど一度口にしてしまった以上、反故にはできない。
できることは白兎に対し自重を求めることだけ。
「はあ…………、次、行こうか」
とにかく悩ましい問題は先送りすることに限る。
頭を切り替え、大きくため息を一回ついた後、次の授与へと移る。
「ヨシツネ!」
「ハッ!」
「熾天使型戦における緋王サンダルフォンの単独撃破を高く評価。さらに緋王メタトロンへの討伐にも寄与。よって褒美として、ここに『緋王メタトロンの剣』を授ける」
「ハッ! かたじけのうございます。一層の忠義を主様へ」
時代劇のサムライそのままに俺から剣を受け取るヨシツネ。
膝をつき、頭を垂れながら恭しく返礼を述べる。
「2本やれなくて申し訳ないな」
「いえ、滅相もございません。拙者にはこの1本だけで身に余る光栄でございます」
ヨシツネは謙虚な態度を崩さず、
渡されたばかりの『剣』を大事そうに掲げた。
結局、ヨシツネには『緋王メタトロンの剣』を渡すことにした。
これには少々考えもした。
なぜなら、この後にベリアルに授与する予定の最高位の従機素体。
そこから生まれるベリアルと同格の従機、トロン。
敵であったはずの緋王メタトロンの姿や能力を色濃く残す熾天使型従機。
ならば、この『緋王メタトロンの剣』は、そのメタトロンの生まれ変わりとも言えるトロンに与えるのが筋ではないか、と。
悩みに悩んだ末、打神鞭の占いで確認した所、『緋王メタトロンの剣』をヨシツネに与えると凄い技を覚えるらしいことが分かった。
また、ベリアルの従機として生まれるトロンも最初から自分の剣を保有していることも判明。
ならば、ヨシツネに授与するのが最良であろう。
源義経の家来として有名な弁慶のように、今のヨシツネは刀や剣を集めることに執着しているようだし………
「その剣の力を以って、俺の敵をじゃんじゃん倒してくれることを期待しているぞ」
「ハッ! お任せあれ! 主様に頂いたこの剣にかけて………」
ヨシツネがそう言いかけた所で、手の中の『緋王メタトロンの剣』が消失。
ギラギラと神聖なオーラを振り撒いていた聖剣が霞のように消え去った。
「おい、もう亜空間倉庫にしまったのか? 随分と気が早いな」
俺との話の途中で授与品を収納。
貰った賞状を授与者の目の前ですぐさま鞄にしまい込むような行為。
礼儀正しいヨシツネにしては少々礼の欠いた行動。
目くじら立てるほどモノでは無いが、つい、咎めるような口調になってしまう。
すると、ヨシツネはなぜか一瞬驚いたような顔を見せ、
次に自分の腰に佩いた刀へと鋭い視線を飛ばし、
何かを言いたげに口を開こうとして……、口には出せずに飲み込むような素振りを見せた。
そして、俺へと深々とした土下座を敢行。
「申し訳ございません! 主様の御前でなんたる非礼! 全てはこのヨシツネの責任でございます!」
「いや、そりゃあそうだろ」
自分で亜空間倉庫に収納しておいて、自分の意思じゃありません、って、ちょっと怖いぞ、ソレ。
「ハッ………、申し訳ございません!! 申し訳ございません!!」
俺の言葉にますます深々と頭を地面に擦りつけるヨシツネ。
何度も謝罪の言葉を口にして許しを請う。
そのあまりの勢いに、俺の方が逆に引いてしまい………
「分かった、分かった。俺は気にしていないから」
それでも土下座を止めないヨシツネを無理やり立たせ、
肩をポンポンと叩いて、皆の列に戻るよう促す。
「ほらほら、次があるんだから………」
「申し訳ございません………」
最後は小さく呟くような声で謝罪を繰り返し、
肩を落として皆の元へと戻っていくヨシツネ。
そんなヨシツネを他のメンバーはやや遠巻きに眺める。
声がかけづらい状況と言うこともあるだろう。
そんな中、ヨシツネを温かく迎えたのが、
フルフル!
『ヨシツネ、僕が分かっているよ、君は悪くないってことが』
「は、白兎殿…………」
パタパタ
『きっといつか、マスターも、皆も分かってくれるよ。だから気を落とさないで』
「白兎殿おおおおおお!! 拙者は、拙者は………」
その暖かい言葉に、感極まって白兎にしがみつくヨシツネ。
憔悴しきったヨシツネを包容力たっぷりに受け止めて上げる白兎。
最も古い付き合いであるが故に、
誰も間に入れない昵懇の仲である2機。
親友にして戦友。
熱い男同士の友情を確かめ合う場面と言えるのかもしれない。
まあ、そんな暑苦しい場面は他所において、
「次、森羅!」
俺は授与式の続きを淡々と進めることにした。
『こぼれ話』
大破し活動を停止した機械種を復活させる為には青学・緑学を学んだ人間の手が必要になります。
しかし、一部の高位機種の中には、人間の手を借りず、活動を停止した機械種を復活させることができる能力を持つ機種がいると言われています。
おそらく緋王・朱妃であるとされていますが、ストロングタイプの僧侶系、女僧侶系、聖少女系を育てていくと、そうした『復活』の『固有技』を習得するという噂もあります。
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