第646話 対峙2



「申し訳ありません…………、お館様。無様な姿を晒してしまいまして………」



 10秒間の麻痺から回復した様子の刃兼。

 悲壮な表情でみすみす教官の策略に嵌まり瞬殺されたことを謝罪。



「2体1という数の利さえも活かすことができず、フラクさんにご迷惑を………」


「気にするな。相手が悪かったんだ。あの天琉だって、教官相手にはボコボコにされたからな」



 元々の実力差から言えば、刃兼が勝てるはずが無い相手。

 さらに従属されたばかりの刃兼では、あの歴戦練磨の教官が敵では分が悪すぎる。


 今回は完全にマスターである俺と刃兼の付き合いの短さを突かれた形。

 こうして事前に課題が分かっただけでも今回の模擬戦の敗北には十分に価値がある。



 従属機械種にとってマスターの存在が一番。

 だから危険が予想される戦闘時、マスターが弱いと従属機械種はその傍を離れたがらない。

 マスターにある程度戦闘に耐えうる実力があって、初めて従属機械種はマスターの指示に従い戦術に乗っ取った行動を行う。

 

 とはいえ、従属したばかりだとなかなかそこまでにはいかないことが多い。

 いかに自分達のマスターが強いと分かっていても、本能がそうさせてしまうのだ。

 さっきのように自分のマスターに銃を向けられたら、咄嗟に動いてしまうのは避けられない。

 

 故に今後、俺との付き合いを深めていけば自動的に解決する話でもある。

 経験や積み重なった知識が本能を凌駕するからだ。


 ヨシツネの例を見れば明らか。

 俺との付き合いが長いせいで、俺を機械種の群れに放り込むような戦術を立てたり、俺を囮に使おうともするのだ、アイツは。


 もちろん、従属機械種の個人差や性格もあるのだけれど。




「…………それよりも今はあちらの方が問題だな」


 パタパタ

『そうだね。刃兼が負けたことで、浮楽は大分ヒートアップしているみたい』


「フラクさん…………」



 俺が呟くと白兎が同意し、刃兼も不安そうな瞳を今にも激突が始まりそうな戦場へと向ける。


 刃兼が見つめる先にいるのは、両袖からチェーンソーを生やし、爆音を轟かせる浮楽の姿。

 両目の光が爛々と輝き、常時浮かべている狂気の笑みが一層深くなっているように見える。

 

 

「止めた方が良いんだろうか………」



 教官の実力は信頼しているが、何分ランクアップしたばかりの浮楽の戦闘力はまだ未知数。

 

 おまけに浮楽のあの武器は超重量級の装甲とて一瞬で切り刻む。

 禁止するのは忘れていたが、模擬戦で使うのはあまりに凶悪。


 流石に危ないと浮楽への制止命令を飛ばそうかと迷っていると、



「ヒロ! やらせておケ。どうせ当たらン」


「教官!」



 俺の迷いを一刀両断する教官。

 浮楽の凶悪な兵器を見てもやる気満々。

 

 その目は激しく輝きを強め、機体から蒸気が立ち昇る程にエネルギーが高まっていく。

 そして、包帯の奥から擦れ声を放ち、浮楽を挑発。



「ハハハハハハッ! そんな玩具で何ができル! あの女侍系のようにマスターの無様な負けを晒すことになるゾ! 未熟者が相方となった不幸を恨むんだナ!」


「ギギギ!? ………ギギギ!! ギギギギギギギッ!!」



 仲間のことを悪く言われて浮楽が激高。

 狂気に満ちた笑顔そのままに、天に向かって吼えるような怒号を発す。



 ドルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!!

 ドルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!!



 その咆哮に合わせるように2本のチェーンソーが激しく唸る!

 それは2匹の腹を空かせた猛獣のごとき唸り声。

 鉄とオイルを食わせろ! と、牙を剥き出しに轟き叫ぶ。


 浮楽のヤル気は最高潮。

 少なくとも教官に対し、何の遠慮もせず攻撃を加えるだろう。



「ハハハハハハッ! いいないいナ! もっと怒レ! もっと憎メ! そして俺を殺してみロ! 中央で振り撒いた悪夢を俺に見せつけて来イ!」


「ギギギギギギギッ!!!」



 教官の挑発に乗った浮楽。

 目の光を爛々と輝かせ、狂気を感じさせる笑みを浮かべて、教官へと躍りかかる…………

  

 

 フッ……



 と、思った瞬間、浮楽の姿が消えた………



 と、同時に教官が前を向いたまま、両肘を曲げて真後ろへと銃口を向けて発砲。



 ドンッ!

 ドンッ!


「ギギギギッ!!」



 まるで出てくる先が分かっていたかのように、自身の真後ろに空間転移した浮楽を迎撃。


 完全に出鼻を挫かれた浮楽はすぐさま後ろに飛んで後退。


 追撃を避ける為、一飛びで20m以上も下がる浮楽。

 着地と同時にすぐさまチェーンソーを盾として前に置く。


 2本のチェーンソーの隙間から見える浮楽の目は驚愕で大きく見開かれ、

 なぜ、空間転移攻撃が通用しなかったのかと困惑顔。



「ハハハハッ! 分かりやすい転移だナ。空間制御の精度が甘イ! これならどこへ飛んでも出口で叩けるなあア!! さア、もう一度転移してみるがいイ! 次は顔面に銃弾を叩き込んでやル!!」


「ギギギギギ………」



 どうやら完全に転移先を読まれたらしい浮楽。

 ダメージは無いようだが、そのショックは大きい様子。


 

 背後に転移しての首狩りはヨシツネが良く使う戦法の一つ。

 今までの戦闘ではレッドオーダー相手に高い成功率を誇っているが、これは空間制御の精度の差なのだろうか?

 確かにヨシツネの空間制御は特級で、浮楽は最上級だが………




「ギギギギギッ!!」

 


 気を取り直した浮楽が再び教官へと接近。

 しかし、空間転移は危険と判断したようで、チェーンソー2本を十字に構え、ジワリジワリと擦り脚で距離を詰めていく。


 空中歩行や高速移動を使わないのは、教官の銃の腕を恐れてのことだろう。

 なにせ『有効打』である『電子混線誘発弾』を1発当てられただけで敗北が決定。


 高速での移動中はどうしても防御が疎かとなる。

 通常、高速で移動してる相手に銃弾を当てるのは至難の業だが、教官なら難なくこなしてしまうに違いない。

 浮楽の判断は間違いではない。


 ただし、教官もたった1発の『有効打』なのだから、ここぞという場合しか撃たないであろう。

 だからその隙を見せないことこそ最大の防御のはず…………



 

「ほほウ? なかなかに慎重だナ。そう来るならバ……………」



 

 対する教官は浮楽の選択に感想を漏らしつつ、


 両手の銃を前へと構えて………手放した。


 すると、教官の手から離れた2つの銃はそのままの位置で停止。


 手を離しているのに銃2丁が教官の胸の前で浮かんでいる形。


 そして、教官はコートの中に両手を突っ込み、さらに同じような銃を2丁取り出す。


 

「さア! これからが本番ダ!」



 そう宣言した教官は不敵に笑い、


 前方に浮かべた2丁、

 自分の手の中にある2丁、


 なんと、それ等を代わる代わる使いながら、

 防御態勢を取った浮楽目がけて連続発砲。



 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!



 まるで4丁の銃を使ったジャグリングのような連射。

 4丁を使う意味は分からないが、それでも目にも止まらぬ神速神技の射撃が続く。


 4丁の銃から銃弾が乱れ飛び、チェーンソーを構える浮楽へと迫る。



「ギギギギギ!」



 ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! 

 ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! 



 浮楽は飛んできた銃弾を両手のチェーンソーでガンガン弾く。

 4丁の銃から放たれようが、所詮、真正面から飛んでくる弾丸だ。

 超高位機種たる浮楽にとっては、防御するだけなら朝飯前。 

 


 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!


 ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! 

 ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! 



 銃声と金属音が辺り一帯に連続して鳴り響く。


 打ち付けてくる弾丸を弾きながら少しずつ前進する浮楽に、


 曲芸のように銃を持ち変えしつつ、弾数など知ったことかとばかりに撃ちまくる教官。


 だが、浮楽と教官の距離は徐々に近づきつつある。


 近づけば浮楽が有利。

 しかし、教官はバンバン撃ちながらも下がる様子を見せない。



 一体なぜ?



 そう疑問はあれど答える者はおらず。

 次第に2機の間の距離が縮まっていった所で、

 




 ダンッ!!


「ギギギ?」



 突然、浮楽の頭が衝撃でのけ反った。

 銃弾の迎撃をミスり、頭部への着弾を許した模様。


 当たったのは通常弾であろう。

 『有効打』である『電子混線誘発弾』であればここで終わっていたはず。


 ダメージは無いようだが、技に秀でた浮楽が防御に失敗するなんて珍しい………



 ダンッ! 

 ダンッ!


「ギギ? ギギギ!!」



 さらに2発、銃弾が浮楽に命中。

 幾多の銃弾が飛んでくる中、今度は2発の銃弾を見逃した様子。

 やはり浮楽の機体に破損は見られないが、それでも銃弾が打ち付けられた衝撃で体勢が崩れる。 



 ダンッ!

 ダンッ!

 ダンッ!



「ギギギギギ?」


 

 またも、縦横無尽に振るわれるチェーンソーによる防御をすり抜け、教官の銃弾が浮楽を叩く。


 もう浮楽は混乱状態。

 ほとんどの銃弾を弾いているものの、どうしても紛れ込む数発の弾丸が自分の機体に到達する。

 

 全弾迎撃しているはずなのに。

 まるで己に見えない銃弾があるかのように。

 なぜ、自分の機体に命中しているのか理解できないでいる。


 

 ダンッ!

 ダンッ!

 ダンッ!

 ダンッ!


 

 ビシバシと機体に命中する弾丸。

 もちろん飛んでくる銃弾を全て叩き落としているつもりであろう。

 だが、浮楽にはソレが見えていないかのうように空振りを繰り返す。

 

 機体を傷つける威力は無いが、それでも超高速で飛ぶ弾丸は衝撃を与え、その度に浮楽の防御に隙を生み出す。



 このままではいけない!

 このままでは『有効打』たるあの弾丸を撃たれても回避できない!



 そんな焦りが浮楽から感じる。

 しかし、たった2本のチェーンソーでは、見えない弾丸を打ち落とすのは不可能…………




「ギギギギギギギギギギギギッ!!!」





 浮楽が吼えた。

 このままでは終われないと!

 刃兼の仇を取れないと!

 マスターの見ている前で、無残な敗北を晒せないと!


 2本のチェーンソーで迎撃できないのなら…………




 ズボッ! ズボッ! ズボッ! ズボッ! ズボッ!

 ズボッ! ズボッ! ズボッ! ズボッ! ズボッ!

 ズボッ! ズボッ! ズボッ! ズボッ! ズボッ!

 ズボッ! ズボッ! ズボッ! ズボッ! ズボッ!

 ズボッ! ズボッ! ズボッ! ズボッ! ズボッ!

 ズボッ! ズボッ! ズボッ! ズボッ! ズボッ!

 ズボッ! ズボッ! ズボッ! ズボッ! ズボッ!

 ズボッ! ズボッ! ズボッ! ズボッ! ズボッ!

 


「うああ!!!」

 ピコッ!!

「わあ………」



 思わず漏れ出た俺と白兎、刃兼の驚愕の声。

 

 浮楽の背後に40本近い節足動物のような長い腕が生えたのだ。


 まるで千手観音のように…………


 いや、違う。


 あれは…………『闇剣士』の!!!




「ギギギギギギギギギギギッ!!!」



 

 巨大な蜘蛛を背負ったような姿となった浮楽。

 その40本の節くれだった長い手全てに握られているのは、両袖から伸びたモノと同種の武器。

 

 即ち、40本ものチェーンソー。



 ドルルルルルルルルルルルルルルルル!!!!

 ドルルルルルルルルルルルルルルルル!!!!

 ドルルルルルルルルルルルルルルルル!!!!

 ドルルルルルルルルルルルルルルルル!!!!

 ドルルルルルルルルルルルルルルルル!!!!

 ドルルルルルルルルルルルルルルルル!!!!

 ドルルルルルルルルルルルルルルルル!!!!

 ドルルルルルルルルルルルルルルルル!!!!



 その全てが唸りを上げる。

 辺り一帯にエンジン音が轟く。

 

 これぞ破壊の序曲。

 始まるのは火花と鉄くずが乱れ飛ぶ独演会。



 2本のチェーンソーだけでは対抗できぬと判断した浮楽。

 2本+40本を以って、物量で攻める戦法を取る。




 対する教官は、



「アハハハハハハハッ!!! ついに見せたカ! ハハハハハハッ!! いいぞいいゾ、そうでなくてはナ! アハハハハハッ!!」



 銃を構えながらの大笑い。

 浮楽に負けない狂的な哄笑。

 

 異形と化した浮楽に動揺する様子すら見せず、ただ自分を殺せるかもしれない機種の登場に狂喜乱舞。


 そして、一しきり笑った後、



「よろしイ! ならば俺も見せよウ!」



 蒼い目の光を強め、42本のチェーンソーで迫ろうとする浮楽へと宣言。


 すると、教官の周囲に巻き起こる一陣の風。


 

「イッツ………、ディザスター、………、バァトゥ…………」



 何やらブツブツと呪文のような唱え始める教官。


 それとともに風がドンドンと集まっていき、教官の周りを囲むように竜巻のごとき気流が発生。


 あまりに不自然な自然現象。

 教官が引き起こしているマテリアル術なのだろうが、今回の勝負では攻撃に使うマテリアル術は禁止のはず。


 では、一体これから何が…………



 俺と白兎が見守る中、


 教官がかすれた声にて大声を放つ。



「平原に吹く一陣の風ヨ! 吹き荒れて【災害】と化セ!」



 その言葉はまるで呪い。

 力を求めて悪魔に魂を捧げるがごとき呪言。



「そは銃弾と硝煙の異名なリ!」



 そう教官が言い放った瞬間、



 辺り一帯に無数のナニカが出現した。



 それは……………




『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』

『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』

『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』

『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』

『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』

『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』

『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』

『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』

『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』

『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』

『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』

『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』『銃』




 俺の視界を埋め尽くさんばかりの『銃』。

 宙に浮かびながらその銃口を浮楽へと向けている。

 

 スモールからミドルが中心の銃群。

 中にはラージの銃も混じる銃の展覧会のよう。

 銃手が扱うありとあらゆる銃がここに集結したかのように。


 何十丁、何百丁あるかもわからない途方もない数。

 教官は災害と言っていたが、これだけの銃が集まれば確かに災害と冠してもおかしくはない。


 一斉に放たれたらどれだけの威力か。

 見た所、銃は全て中級以上。

 中には上級の品も紛れており、超高位機種に分類される浮楽とて決して油断はできない性能を秘める。

 特にロケットランチャーとも言えるラージの銃は重量級をも一撃で仕留める破壊力。


 これ等の銃から一斉発射、息をつく暇も無く連射されたら躱しようが無い。

 数によって磨り潰されるしかなくなる………



 しかし、




「ギギギギギギギ!!」




 浮楽も一歩も引かずに対峙。

 42本のチェーンソーを唸らせて対抗する構え。

 

 その偉容はあの闇剣士にも劣らない。

 ルガードさんの神速の剣撃にも耐えたのがあの臙公なのだ。

 その力を受け継いだのが浮楽。

 

 何千、何万と銃弾が振りかかろうと、斬り抜けてみせると気概を見せる。



 

 さらに浮楽の背後に何やら幻影のようなモノが浮かび上がる。


 それは薄っすらとした蜃気楼のようなぼやけた立体映像。

 幻が現実世界を塗り替えるように少しずつ、その形を鮮明にしていく。


 まるで建物のような造形

 人々を誘う門のような形。

 幻で造られた架空の建造物。

 


「あれは………」



 浮楽の背後に出現した幻影の建造物に、俺の過去の記憶が掘り起こされる。



 昔、子供の時に見た、サーカス団の煌びやかなテント会場。

 チケットを持って子供ながらドキドキワクワクしながら入場した微かな記憶。

 

 きっと楽しいことがたくさん。

 笑いと驚きが交差する夢の世界。




「世界………、そうか! あれが浮楽が新しく身に着けた世界への干渉……」

 


 おそらく浮楽が顕現させたモノは世界設定を弄る『現象制御』に関連するモノ。


 浮楽の所持スキルの中にあれど、使い方が分からずにいた未知の力。


 この土壇場にて浮楽は扱いの難しい現象制御を開眼。

 

 果たして、浮楽が打ち建てた幻で構成されたサーカス会場にはどんな能力が秘められているのか?





 幾百の銃を従えた教官。

 それは歴戦の銃兵を率いる『王』のような貫禄ある姿。


 対して、背中から40本の長腕を生やした異形の道化師少女。

 煌びやかなサーカス会場を背に、42のチェーンソーで迎え撃とうとする浮楽。



 さあ、この決着はどこなのか? 

 果たして、この2機がぶつかり合って、どうなってしまうのか?

 


 バルトーラの街を守る守護神 機械種ガンマン 

          VS    

 狂気振り撒くルナティック月光曲芸団サーカス、団長 浮楽




 俺としても、その勝負結果は大変気になる所ではあるのだが…………

 




「お館様! これは危険では?」


 パタパタッ!



 焦った様子で刃兼と白兎が俺へと進言。

 


「ああ、分かってる。そうだよなあ………」



 町外れでの模擬戦とはいえ、ここまで事が大きくなれば、人が集まって来る可能性がある。

 また、あれだけの質量がぶつかり合えば、廃ビルが立ち並ぶこの一角などあっという間に倒壊してしまうかもしれない。



 フルフル


「いや、ここは俺が…………」



 元々、教官の所に連れてきたのは俺なのだし、模擬戦の申し出を受けたのも俺。

 ならば事を収めるのも俺の役目だろう。




 瀝泉槍を肩に担ぎ、トコトコと2機が対峙する戦場へと足を進める。


 何百という銃群と、爆音を鳴らし続ける40以上ものチェーンソーとの間に入るのはかなり怖い。

 瀝泉槍が無ければ、とても足を進められなかったに違いない。


 しかし、この2機を止められるのは、多分、俺だけ。

 白兎でもいけるかもしれないが、確実なのは俺なのだ。




「教官! ストップです。流石にやり過ぎです。ここまでにしてください」



 教官へと制止の声をかけてから、



「浮楽。ここまでだ。武器を下ろせ」


「ギギギギギ………」


 

 俺の言葉に浮楽はすぐに戦意を収め、背中から生える長い手も一斉に引っ込める。

 また、背後のサーカス劇場もホロホロと崩れるように消えていく。


 色々悪ふざけをする奴ではあるが、俺の命令は素直に聞く。


 

 だが、今回収まらないのは教官の方であったようで………




「………………ここで止めるのカ、ヒロ。すでに血が滾リ………、いヤ、機体内のオイルは熱く燃え滾リ、今にも晶脳を焼き尽くさんばかりなんだがナ」


「そうおっしゃられても困ります。こんな所でそんな数の銃をぶっ放したら、余波で射撃訓練場が崩壊しますよ。そうなったら強くなろうとしている子供達が悲しむじゃないですか!」


「…………………」



 そう言うと、教官の雰囲気が一変。 

 溢れかえっていた戦意はみるみるうちに萎んでいき、残ったのは古びた1機の人型機械種。


 長きに渡り、この街を守って来た心優しきアウトロー。

 射撃訓練場の主、機械種ガンマン。



「…………………折角、戦いの中で死ぬことができると思ったのだがなア」



 それは俺が初めて聞いた、教官の強い悲嘆が込められた独白。

 半分泣いているのかとも思えたような万感の籠った呟き。


 

 だが、俺を前にして教官はすぐさま帽子を深く被り直し、



「良いだろウ。引き分けというところだナ」



 落ち着いた口調でそう宣言。

 俺の説得にようやく納得してくれた様子の教官。

 

 その周りに展開していた『銃』を一斉に消し去り、 



「……………良い勝負だっタ。すまんナ、色々仲間のことを悪く言ってしまい」


「ギギギギッ!」


 

 勝負が終われば仲直り。

 教官は浮楽へと歩みより、その右手を差し出すと、

 浮楽はいつもと同じようなお気楽な様子で、その手を握り返してブンブンと上下に振る。


 まるで西部映画俳優とその大ファンの握手会みたいな光景。


 そんな浮楽に教官は少し苦笑しながらもされるがまま。



 ふう………

 どうやら収まった。教官も元の様子に戻ったようだし。


 ………少しばかり意気消沈した感じではあるけれど。



 ひょっとしたら、アレ等の銃をぶっ放すことなく、討たれるつもりであったかもしれない。

 自分の脅威をアピールしつつ、浮楽の全力を引き出し、闘いの中で自分が破壊されることを望んていた…………とか?


 最愛の存在であるマスターを失い、自死することもできずに己の非力を悔やみ続ける教官。

 マスターの存命中の命令であるらしい、街の治安を守り、子供達に銃を教えながらも、やはり本心では亡くなったマスターの元へと行きたいのだ。

 



「何か、俺にできることがあればなあ………………」




 今までお世話になった教官に対して、少しでも恩を返したいと思う。

 でも、今の段階では何も思いつくことは無いのだけれど。



 

 こうして、教官VS浮楽・刃兼の模擬戦は無事終了した。

 









 模擬戦が終われば早速教官から振り返りが行われる。



「まずはハガネだナ。お前には先ほど言ったガ、このようなパターンがあることを常に念頭に置いておケ。お前のマスターは銃弾1発で死ぬようなタマじゃなイ。逆にお前が無茶な行動をすることで迷惑をかけることもあるのだゾ」


「はい………」


 

 教官のお説教を正座して拝聴している刃兼。



「マスターの戦闘力を正しく認識することが重要ダ。でなければ、到底マスターと一緒に戦闘を行うことができン………まア、これは新しい従属機械種が比較的良く陥る失敗事例なんだがナ。かくいう私も似たような経験がある………」



 テンガロンハットの鍔をピンと指で弾いて、少しばかり照れ臭そうな態度を見せる教官。


 普段の教官からすれば、とてもそんな過去があったとは信じられない。

 だが、教官とて、初めから歴戦の勇者であったわけではなく、今の教官は幾多の戦歴を乗り越えてきたからこそ。


 ならば、刃兼もいずれ辿り着ける境地のはず。

 周りには良いお手本が揃っているのだ。

 きっと刃兼も教官のような練達者になってくれるだろう。


 



「次はフラクだが…………」


「ギギギギギギッ! ギギギギギッ!! ギギギギ!」



 教官が話し始めた所で浮楽が立ち上がり余った袖をブンブン。

 何やら言いたいことがあるらしく、必死に何かを訴えているようなのだが………

 

 当然、何と言っているかは俺にも教官にも分からない。



「……………何と言っていル?」


 パタパタ


「…………ああ、あの銃弾のことか?」


「ギギギギギギ!」



 浮楽の言いたいことを白兎が代弁。

 どうやら浮楽は自分を翻弄した弾丸について、まず聞きたいらしい。



「あれはなんてことはない…………、ただの晶石で造った銃弾ダ。ほとんど下位機種のモノだがナ」


「え?」

 ピコッ?

「ギギギ?」

「まあ?」


 

 俺、白兎、浮楽、刃兼が呆気にとられる。

 あまりに予想外の回答が飛んで来た。



「……………晶石? …………そりゃあ、晶石は機械種では認識できないでしょうが…………」


「作ったのは私ではないゾ。もちろん人間に依頼して作ってもらったモノだ。銃に装填した状態で渡してもらえば後は引き金を引くだけだからナ」


「晶石って弾丸に加工できるんですか?」


「あア。脆い晶石だかラ、貫通力は無いに等しいガ……………」



 そこで言葉を切り、じっと俺の方を見つめて、



「無防備な人間の頭に当てれバ、衝撃で頭蓋骨を陥没さセ、首の骨を折ることぐらいはできル。所謂暗殺用の弾丸ダ。機械種を護衛においても防げなイ………ナ」


「それって…………」



 晶石は機械種では認識できない。

 そのルールを突いて作られた特殊弾丸。

 

 レッドオーダー相手には牽制ぐらいにしか役に立たないが、人間への暗殺用としてはこれ以上ない威力を発揮する。



「俺が知っても大丈夫な情報なんですか?」


「うン? ヒロは悪用するのカ?」


「そんなつもりはありませんが…………」



 わざわざ暗殺用の銃弾を使わなくても、俺は対象の髪の毛を手に入れるだけで呪殺できるのだ。

 後味がめっちゃ悪くて、体調を崩すからあんまりやりたくないけど。



「銃弾自体はそこまで高価にはならないガ、どちらかというとソレを発射できる銃の方が貴重だナ。私も一丁しか持っていなイ」


「ああ、それで4丁並べてたんですか? 通常弾と紛れて撃つために」


「それ単独では意味が無イ。弾丸が見えないだけで威力はカスだシ、命中率がクソ悪イ。ようやく当てても精々衝撃でよろめかせるぐらイ」



 つまり本当に人間への暗殺を想定に造られた弾丸ということか。

 でも、今回の模擬戦のように機械種の動揺を誘うには有効………と。



「本当に色々と闘い方があるんですね」


「元々2対1の不利な戦いダ。策を弄してみたくもなル」


「2対1を言い出したのは教官でしょう!」


「アハハハハッ! あそこは逆に1対1の方がマズいんダ。地力ではこのフラクに勝てんかもしれんからナ。だから、闘いを変則的なモノにする為に色々と条件を付けタ。やはり2対1で有利な状況かラ、いきなり相方が倒れて不利になると動揺するだろウ? それを狙ったわけダ」



 この人ヤバいな。

 策士っぷりが本気でヤバい。

 戦闘が始まる前に色々と手を尽くして戦場自体を有利に持って来ようとするタイプ。


 俺のチームで言うなら豪魔か毘燭。

 到底、この教官の老練さには敵わないだろうけど。



「なるほど…………、あ、あともう1個教えてください。なぜ、浮楽の転移先が分かったんですか? 浮楽の空間制御は最上級ですが、それでも精度が甘い………と?」


「んン? …………あア、あの時カ。いヤ、別に空間制御の精度は甘くなかったゾ」


「ええ?」

「ギギギ?」



 教官の答えに驚く俺と浮楽。

 特に浮楽は完璧に転移先を読まれたと思ってかなりショックを受けていたから、余計にビックリ。



「じゃあ………」


「銃を持つ相手の死角は背後ダ…………、まア、背後が死角じゃない奴は少ないけどナ。しかし、銃は基本前にしか銃弾を飛ばせン」


「そりゃあそうですが………」


 

 撃った銃弾が真っ直ぐ飛ばず、いきなり真後ろに飛んで行ったら大変だ。

 


「だからそれなりの戦術スキルを持つ機種が空間転移を使イ、敵へと攻撃を加えようとする場合、相手が銃手で両手に銃を持っていると高確率で真後ろに飛ブ。これが片手銃だったり、片手武器を持つ敵なら武器を持っていない方側の斜め後方、長物の両手武器ならその先端から遠い方、障壁を張れる後衛機なら真上に………ダ。これが戦術スキルの基本パターンだナ」


「………………」

「………………」

 パタ………

「…………ギギ?」



 戦術スキルの基本パターン?

 何それ?

 


 驚くような内容に、一斉に黙ってしまった俺達。

 まあ、浮楽は良く分かっていない様子で首をコクンと捻っただけ。



 俺は脳内をフル回転させ、もたらされた情報を咀嚼。

 そして、ようやく頭の中で整理をつけ、教官へと確認。



「つまり、戦術スキルに備わっているであろうパターンを予測して浮楽の転移先を読んだと?」


「そう言うことダ。戦術スキルは常に最適行動を取ろうとするのだかラ、その先の行動を読みやすくて当たり前ダ。まア、多少その辺を分かっている奴はワザと揺らぎを入れたりするものだがナ」


「だとすると、教官が『空間制御の精度が甘い!』と言ったのは、浮楽の空間転移を封じる為ですね」


「その通リ。ピョンピョン転移されると厄介だからナ。ああ言っておくト、出鼻の『有効打』の一撃が怖くて、転移できなくなるだろうと思ってナ」


「ギギギギギッ! ギギギッ! ギギギギッ!!」



 教官の発言に、いきなり浮楽が騒ぎ出す。

 ようやく騙されたと分かって両袖をブンブン振るって抗議の嵐。


 

『騙した!』『狡い!』『酷い!』『もう一度勝負!』『今度は負けないから!』



 表情は笑顔ながら怒っている様子が丸わかり。

 駄々っ子のように暴れつつ、教官へと迫る浮楽。


 ちなみにパタパタと耳を振るう白兎が同時翻訳。

 

 しかし、浮楽の訴えにも教官は苦笑を浮かべながら、



「悪いガ、長生きすると狡くなるものなんダ。それにお前との勝負はもう御免ダ。次は負けるかもしれんからナ。勝てない勝負はしないのも、長生きした者の狡さと知レ」


「ギギギギギギギギッ!!」


「悔しいならお前も長生きして狡くなレ。そしテ、自分より若い者ニ、こんな狡い奴がたくさんいることを教えてやると良イ」


「ギギギギギ………」



 教官は憤慨する浮楽の頭に手を置き、子供に諭すように話しかける。


 すると、浮楽は少し納得いかない仕草を見せつつ、大人しく頭を撫でられる。


 上目遣いで見上げる浮楽に、ぎこちない様子で浮楽をあやす教官。


 まるで聞き分けの無い子供と不器用な親のような光景。


 その活動期間からすれば、その年齢差は親子どころではないのだが、それでもその場にしんみりとした空気が流れる。




 しかし、そんな空気をぶち壊す、空気の読めない大声が飛んでくる。




「よおっ! ヒロ! 怪我はもう大丈夫なのか?」



 

 驚いて振り返ると、そこには、一緒に地下35階を目指してダンジョン探索を行った相方。

 俺と同じ新人狩人にして、『鉄杭団』所属の改造人間…………




「ガイ!」


「おうよ! 元気そうでなによりだ」


「すみません、マスター。お止めしたのですが、どうしても会いたいとのことでして…………」



 ガイの隣には申し訳なさそなう森羅の姿。


 森羅も共にダンジョン探索を行った仲。

 俺とガイの関係性を考えれば、無理に押し留めるのも悪いと考えたのであろう。


 まあ、コイツもいわば教官の教え子。

 ここで引き返せとはなかなかに言いづらいに違いない。



「何しに来たんだ、お前」


「決まってんだろ! これを見せに来たんだよ!」



 と言って、グイッと前に出して見せるのは、いつもの機械化した巨大な右腕の機械義肢………



「あ…………、直ったのか?」


「ああ! そうだぜ! これで百人力よ!」



 これまたグイッと機械義肢にて力瘤を作るように曲げてみせるガイ。


 

 ガイは地下35階の闇剣士との試合に置いて、先鋒戦で戦い勝利したものの、唯一の武器である機械義肢を失った。

 

 だが、今、ガイの右肩にあるの間違いなく機械義肢。

 それも、よく見れば前のモノより頑丈そうで力強い印象。


 

「…………よく代替品が見つかったな。前についてたやつ、かなりの高位機種のだろう?」


「ハハハハッ! よく見な、ヒロ。コイツは代替品なんかじゃねえ! 俺の新しい力の象徴だ!」


「ふ~ん…………、で、元は何の機種の腕なんだ?」


「へっへっへっ! よくぞ聞いてくれたあ! 驚くなよ、これはなあ………、へへへ、どうしようかなあ~」


「しばくぞ」



 チラチラと俺の顔を見ながら勿体を付けてくるガイ。

 まるで友達に隠していたお宝を自慢する子供のよう。



 クソ、面倒臭いな、コイツ。

 もう聞いてやらない!とか言って、この場から逃げ去ってやろうか………



 ガイの分かりやすいウキウキ具合に苛立ちながらも、やはり興味はあるので、その先を促してみると、



「はいはい。気になるから早く教えてくれ」


「そう来なくっちゃ! いいか、良く聞けよ! コイツはなあ、あの『吼え猛る闘鬼』の腕だ!」


「はああああああああああああ!!」


 

 あまりに予想外の答えに、思わず驚愕の声。


 するとガイは得意気にフフンッ!を鼻を鳴らして、



「へへへ………、団長がよ、俺が頑張ったってことで、ルガードさんと交渉してくれて………、その右腕だけを譲ってもらったんだよ! それでよ、今日、ようやく機能チェックが終わったんで、飛び出して来たってとこさ!」


「へえええぇ………」



 もうため息しか出ない。

 よほどブルハーン団長はガイのことを買っているのであろう。

 

 あの吼え猛る闘鬼の右腕となれば、相当な額になるだろうし、その機体を完全な状態で欲しいという要望もあるはず。

 それを確保する労力とマテリアルをかけてもガイへと新たな力を授けたかったのだ。



 吼え猛る闘鬼。

 闇剣士や浮楽と同じ中央の賞金首の一つ。


 ただし、割と脳筋なところがあり、所かまわず暴れて、猟兵団に囲まれ袋叩き。

 そのまま討伐されるというケースが過去何度もあったらしい。


 中央の賞金首5機のうち、唯一、何度も討伐されている機種であるが、その戦闘力は折り紙付き。

 橙伯ながら臙公を超えるパワーと耐久力。

 特に破壊力に長じた拳撃を得意とし、戦車を一発でぶっ飛ばし、超重量級をも殴り倒したという逸話が残る。



「それは…………強そうだな」


「強いに決まってるだろ! へへっ、これでヒロに少し追いついたな! ……どうだ! 俺とここで一発勝負しようぜ!」


「はあ? なんで?」


「慣らし運転に決まってんだろ! ちょっと荒野に出てオークやオーガを殴って来たんだけど、相手にならねえんだよ。やっぱり強い奴が相手じゃないと、コイツの真価が発揮できねえからな!」


「あのなあ…………」


「久しぶりだな、お前とのコイツでの勝負はよ! さあ、準備しやがれ!」



 ガイは機械義肢を突き出してやる気満々。



 だが、もちろん、俺に受けてやるつもりなんて無い。

 いつでも喧嘩上等のガイと違い、俺は普段から争いは好まないのだ。

 

 しかし、ガイは『俺と一緒に野球やろうぜ!』みたいなキラキラとした目で俺を見てくる。

 俺が断るなんて一片も思っていない様子で。


 

 本気で止めてくれ。

 暑苦しいお前と殴り合いなんて御免だ。


 教官との命令でお前と模擬戦するならともかく………

 

 あれ、そう言えば、ここは射撃訓練場で、教官は………………




「おい、ガイ…………、お前、来て早々、何ダ?」




 俺とガイの間に差し込まれた擦れ声。

 それは思わず俺とガイの背筋がピンとなってしまう教官の不機嫌な声。



「は! ………………ああ、ああ………、きょ、教官」


「そうダ、お前の教官ダ。で、お前は何ダ?」



 明らかに怒っている様子の教官。

 トレンチコートに両手を入れたまま、ガイへと詰め寄っていく。



「ウッス! 教官の教え子でス!」


「何の、ダ?」


「じゅ、銃ノ…………」


「ほウ? では、ここはどこダ?」


「しゃ、射撃訓練場………です」


「ほうほウ? では、お前はその射撃訓練場で殴り合いの喧嘩をしたいト?」


「そ、それは…………」


「お前、私を舐めているのカ? 何度言ったら分かるんダ? あア?」



 グイグイと迫っていく教官に、顔を蒼ざめさせてじりじりと後退していくガイ。



 そして、



「少しお前にはお灸が必要なようダ。新しい機械義肢を試してみたんだろウ? ちょうど良イ。私と模擬戦に付き合エ」


「ひいいいいいいっ!」


「何を怯えていル。私が普段教えていることを実践できていれば大したことは無イ」



 どうやらガイの特別訓練が始まってしまった模様。

 多分、今日一日潰れるくらいの。



「といわけデ、ヒロ。今日はコイツを一日構ってやることにしタ。途中で放り出してしまう形になって申し訳なイ」


「いえいえ、俺の方も絡まれて困っていましたので…………、では、この辺で失礼いたします!」


「お、おい! ヒロ!」


「じゃあ、ガイ。がんばってくれ! ……………じゃあ、皆、帰るぞ」


 ピコピコッ!

「はい」

「ギギギギッ!」

「…………仕方ありませんね。頑張ってください、ガイ様」



 ガイをそのままにして射撃訓練場を後にした俺達。


 遠くでガイの悲鳴を聞きながらガレージ街へと戻ることにした。



 

 図らずも、今日でバッツ君、アルス、ハザン、ガイの顔を見ることができた。

 また、ミエリさんや教官といったお世話になっている人達にも挨拶した。


 ボノフさんには4日前、アスリンチームやレオンハルトには3日前に会っている。


 残念ながらルークやマリーさんには会えていないけど、俺がこの街を出るまでまだ少し時間がある。

 そのうち会うことができるだろう………………




 さあ、明日は白の遺跡に向かい、剣風、剣雷、毘燭に職業を追加してダブルにするぞ!

 

 




『こぼれ話』

銃は弱点も多い武器ですが、狩人・猟兵とも誰しもが必ず1丁は持っている武器になります。


銃には3種類あり、

①『マテリアル錬成器』【武器庫】で造られた『数打ちの銃』

②宝箱から見つかる『発掘品の銃」

③人間が手作りで作成した『真打ちの銃』


①は文字通り大量生産品ですが、②は特殊能力がマシマシ。③はピンキリなのですが、マテリアル補給での銃弾ではなく、手作りで作成された銃弾を使用するタイプです。

③の銃は大変希少でその銃弾はマテリアルで錬成したモノではない為、AMFでは分解できません。ただし、銃弾に限りがあり、威力にも限界があるので、使い手は非常に限られるようです。

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