閑話 アルス5

※アルス視点になります。






 パタパタッ!

『我に策アリ! 具体的には…………』


 フルフルッ!

『コレしか手は無いと思う。だから、マスター、その為に少しだけ時間を稼いでほしい』

 


 と、白兎君とハッシュから策を授けられ、僕はガミンさんへ『策があります。僕達に任せてください』と進言。

 流石に白兎君やハッシュの考えた策とは言えないから、事前にヒロと強敵に遭遇した場合の策を打合せしていたと説明。


 ガミンさんは『もう俺達の時代は終わったんだなあ………、これからは若者の時代か……』と、随分と年寄り染みた感想を口にして了承。


 ガミンさん達には後方に下がってもらい、僕達が敵への対処を行うこととなった。


 従属機械種達を引き連れ、ハザン、ガイと一緒に前に出てきたんだけど…………




 僕達の目の前に立つ、両腕の無い人型機種。

 黒っぽい装束を着た人間にしか見えない外見。


 どことなく高貴な雰囲気を醸し出す一角の武人のような風体。

 精悍な顔つきと鍛え上げられた肉体は歴戦の猛者を思わせる。


 人間であれば間違いなく超一流の狩人か猟兵といった風格。

 しかしながら、その赤く光る目がその正体がレッドオーダーだとはっきり告げている。



 あの目の色…………、『橙』でも『臙脂』でも無い。

 もちろん、『赭』でも『紅』でも無い。


 あえて言うなら『緋色』なんだろうか?

 だけど、緋色のレッドオーダーなんて聞いたことも無い。


 しかし、正体不明ではあるけれど、あの『闇剣士』や『学者』をも上回る超高位機種であることは間違いない。


 だって、マダム・ロータスとブルハーン団長ですら敵わないような強敵なのだから。


 多分、未だ狩人としてヒヨッコでしかない僕達ではどうしようもない。


 でも、ハッシュと白兎君が考えてくれた案ならなんとかなるかもしれない。

 

 まだ体調は万全ではないけれど、時間稼ぎぐらいやってやらなきゃ!

 

 


「えっと…………、少しよろしいですか?」




 とにかく、まずは話し合いからスタートしよう。


 とりあえず従属機械種達を後ろに残し、僕だけが前に出て武器を収めた状態で話しかけてみる。


 少しでも情報を集めないといけないし、向こうが応じてくれるなら数分の時間をかせぐことができるから。



 ……………ちょっと前までの僕だったら、とてもレッドオーダー相手に話しかけることなんて想像もしなかった。


 人間にとってレッドオーダーは憎むべき天敵で、

 狩人にとっては、狩るべき対象の獲物でしかない。

 そこに会話なんて生まれるわけがない。

 

 でも、ヒロが普通に会話しているのを見て、高位機種の中には会話が成立するモノがいると知った。

 彼等は見かけ上かもしれないが、普通に話し合いができるのだ。


 もちろん、相手は赤の威令に従うレッドオーダーなのだから、最終的に戦い合うのは避けられない運命。

 分かり合って友情が育まれることなどあり得ないのだろうけど。



「なんだ? いきなり命乞いか?」


「いえ…………、その、お名前をお聞かせ願えたらと思いまして………………、あっ! 僕の名前はアルスと言います!」


「ふむ?」



 ジロリと僕の顔を睨みつけてくるレッドオーダー。

 少し思案した後、やや不機嫌そうな表情ながらも口を開く。


 

「我の名を尋ねておいて、先に名乗らないのであれば、即殺してやるつもりだったが……………まあ、良かろう。我が名は機械種タケミナカタ。『緋』の座の末席にいる者だ」



 機械種タケミナカタ。

 やっぱり聞き覚えはない機種名。

 

 僕も全ての機械種の名前を網羅しているわけではないけど、そこまで一般に知られた機種名で無いのは確か。


 でも、『緋』の座とは一体何だろうか?

 おそらく紅姫とか赭娼、橙伯や臙公と同じ、色付きの一種だと思うのだけど………



「ありがとうございます。その、タケミナカタ………さんは随分と高位機種のように見えますけど、一体何でこんな辺境の地に?」


「この地に新たな『紅』が生まれたゆえ………、その確認だな。途中、迷宮を大人数で進む不埒者を発見したので誅殺しにきた」


「あ…………、それって僕達のことですか?」


「当たり前だ。そもそも迷宮はお前達人間への試練の場である。それを数任せで進もうなど言語道断! 自らの研鑽を怠り、数を頼ろうなんて根性が弛んでるぞ!」


「す、すみません……」



 相手の剣幕に押されて、つい謝ってしまった。

 背格好が似ている訳じゃないのに、いつもお世話になっている藍染屋のペンドランさんに叱られているような気分。


 でも、迷宮が『人間への試練の場』って何だろ?

 迷宮は地下深くに潜り過ぎた『巣』の成り損ないじゃなかったけ?



「コラッ! アルス! 何、敵に頭を下げてんだよ!」



 僕の軟弱な対応にガイが後ろから怒りの声をあげた。


 そして、そのまま僕の前に出て来て、機械種タケミナカタへと怒鳴り返す。



「こっちには色々事情があんだよ! レッドオーダーが口を出すな!」


「ほう? 威勢の良いのがいるな。負傷している癖に我にそんな口を叩くとは…………」



 機械種タケミナカタの目がスゥと細められる。

 

 

 その瞬間、辺りの気温が急に下がったような感覚に襲われる。

 


 まるで首元に刃物を突き付けられたような………… 

 まるで頭に銃口を突きつけられたような…………



 紛うこと無く機械種タケミナカタからの殺気。

 肌がビリビリ、物理的にも作用しそうな程の強烈な圧迫感。

 気の弱い人間ならその場で卒倒しかねないプレッシャー。



 ギリッ……



 奥歯を噛みしめて、この場から逃げ出したくなるような恐怖を耐える。

 少しでも恐怖を紛らわすため、すぐにでも武器を手にしたいが、それは即、宣戦布告を意味してしまう。


 出来るだけ時間を稼がなくてはならないのだ。

 だけど、この魂を削られるような威圧感の前では………



「うるせえ! 関係あるか! 何ならこのままやってやるぞ!」



 驚くべきことにガイはまるで威圧感を感じていないかのように、機械種タケミナカタ相手に啖呵を切る。


 あのマダム・ロータスやブルハーン団長でさえ敵わない強敵を前にしてこの強気。

 本当に彼のクソ度胸は一体どこから湧いてくるのだろうか?



「ほう? なかなかに元気が良い小僧だ。面白い………」



 ニヤリと口元を歪ませる機械種タケミナカタ。


 フッと表情を緩ませ、放出していた威圧感を消し去り、



「良かろう。お前達の時間稼ぎに乗ってやる」



 続けた彼からの言葉は、僕達を驚かせた。



「え?」


「時間稼ぎに乗ってやると言っているのだ。お前達が我に話しかけてきたのも、その為なのであろう? どのような準備を行っているのかは知らぬが、好きにするが良い。この場から逃げ出すのは許さんがな」


「…………………」



 僕達は敵が口にした提案に思わず絶句。



 …………なるほど。

 この機械種タケミナカタ程の超高位機種ともなれば、当然、戦術も理解している。

 

 ずっと僕達よりも頭が良いのだ。

 僕達の小細工などお見通しということか。

 でも、僕達が時間稼ぎをしていることは分かっても、どのような罠を仕掛けようとしているかまでは分からないはず…………



「つまり、こちらの準備が終わるまで待ってくれると言うことか?」



 思考を続ける僕の横からハザンが出て来て機械種タケミナカタへ確認。



「ああ、その通りだ。しかし、あまり長い時間をかけるようであれば、こちらにも考えがあるぞ」


「分かった。準備が終わればその旨を伝えよう」



 ハザンがそう告げると、もう用は無いとばかりにクルッと振り返って僕達から離れていく機械種タケミナカタ。

 

 僕達が仕掛ける罠や策略など意にも介していないことが良く分かる。



 やはり、僕達のことをかなり下に見ている様子。

 どのような策を練ろうと、力尽くでどうにでもなると思っている顔だ。



 ……………でも、傲慢なるレッドオーダーよ。

 僕とヒロの従属機械種達………、なにより、ハッシュと白兎君を甘く見過ぎだぞ。

 絶対に後悔させてやるからな!

 

 

 


 





 そして、10分が経過した後、





「こちらの準備は完了した」


「……………それがお前達の答えか?」



 ハザンが準備が完了した旨を報告。

 すると、つまらなさそうな表情で問うてくる機械種タケミナカタ。

 


「ストロングタイプを並べても、勝ち目など無いぞ」



 投げかけられた言葉には過分に失望したという感情が含まれる。



「『橙』を従属しているようだが、その力を過信しているのか? 魔人型とて我から見れば遥か格下。1機居た所で神には届かんぞ」



 緋色の目線が奥にいるトライアンフの姿を射抜く。

 

 元中央の賞金首の雷名も、この超高位機種相手だと霞むらしい。

 しかし、わざわざ言及したところを見るに、一応気にしてはいるようだけど。



 今回の作戦のキモはトライアンフ。

 だからどんな言葉をぶつけられても余計な口を叩かないよう厳命しておいた。

 

 普段ならすぐに竪琴をかき鳴らしながら反論しただろうけど、今は無言でハッシュに命じられたことに集中。

 敵からの侮りを無難に聞き流してくれた模様。



「………………………」


「フンッ! つまらんな。言い返すこと一つできんか。所詮、この程度とは、期待外れも甚だしい」


 

 敵からハッキリと期待外れと宣言された。

 しかし、いかに失望されようと、僕達が生き残る手段はこれしかないのだ。




 先ほどは僕達人間3人が前に出ていたが、今は前面にストロングタイプの前衛系を並べた陣形となっている。


 最前衛にストラグル、剣風さん、剣雷さんの3騎士を置く。

 前衛に僕、ハザン、ガイと毘燭さん。

 中衛にパラセレネ、秘彗さん、胡狛さん。

 後衛はトライアンフ。


 セインと森羅さんは後方に下がってもらっているから、トライアンフを除けば機械種は全員ストロングタイプ。

 この辺境内であれば、ここまでストロングタイプで固めた陣営は大変珍しいだろう。

 でも、あの超高位機種相手ではそれでも力不足に違いない。

 


 あとは仕掛けた罠が嵌まるかどうかにかかっている。

 何とかそこまで誘導する必要がある。


 さて、どれだけ上手く誤魔化すことができるだろうか?





 彼我との距離は15m程。

 機械種戦においては、ミドルレンジと言われる距離。

 

 近接戦をするには離れ過ぎ。

 砲撃にはやや近過ぎる。

 この距離において、最も有効な攻撃手段は…………銃による射撃。 




「行くよ、皆! 撃て!」




 ドンッ! ドンッ!ドンッ! ドンッ!


 バンッ! バンッ! バンッ! バンッ!


 ドカンッ! ドカンッ! ドカンッ!


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガがガガガガッ!!!

 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガがガガガガッ!!!



 

 僕の号令とともに、緋色の目を持つ敵へと一斉射撃が放たれる。 


 前にいる3騎士の間を通すように、ハザンとガイは手にしたミドルの銃を撃ち込み、僕自身もスモール中級の銃を撃ちまくる。

 

 また、最前衛の剣風さんも構えた竜鎧砲をぶっ放し続ける。


 黒い濁流のような激しい銃撃。

 分間数百発の弾丸が機械種タケミナカタへと吸い込まれていく………

 


 

 しかし、




「ハハハハハ、温い温い! お前達の策というのはこんなモノか?」



 

 信じられないことに、この銃弾の嵐を前に何の防御もせず、ただ機体の表面で受け止めているレッドオーダーの姿がそこにはあった。



 確かに銃弾は命中している。


 何十発も、何百発も…………


 しかし、その衣服にしか見えない軟性装甲を傷つけることすらできないのだ。

 

 敵はただ水飛沫を浴びるがごとく仁王立ちのまま。

 重量級をも数十秒の内に鉄くずに換えてしまいかねない一斉射撃を以ってしても、何の痛痒も与えられない。

 


「……………なんだよ、ありゃ? あの闇剣士でもあんな無茶苦茶じゃなかったぞ」



 隣で銃を撃ち続けるガイが呆然と呟く。



「障壁で防がれている訳では無さそうだな。装甲自体にそれだけの強度があるということか…………」



 ハザンが苦々し気に推測を述べる。


 障壁で防がれているなら、その障壁を解除するなり、無効化するような攻撃方法を用意したりできるが、装甲自体が強固というのは、どうしようもない。


 それは僕達ではどうやっても敵を傷つけることができないことを意味する…………

  

 いや、まだだ。

 この一斉射撃は今回の作戦の前段階にしか過ぎない。


 この後に続く攻撃が……………



「行きます! 固有技…………『魔女の楔』!」



 背後から飛ぶ鈴を鳴らしたような少女の声。

 銃撃戦には参加せず、ひたすらマテリアルコントロールに徹してくれていた秘彗さん。


 その凛と響く声は、目の前の敵を縛る呪言と化す。



 ザクッ!!


「むう………」



 不可視の楔が機械種タケミナカタへと打ち込まれた。

 

 遥か格上相手にあっさり成功。

 油断と慢心から避ける素振りも見せなかったことが原因だろう。 


 彼の顔がほんの少し不快気に歪む。

 それは僅かなれど、秘彗さんが放った呪縛が敵の能力を制限を加えた証。


 

 ハッシュや白兎君の話では、秘彗さんの敵の能力を制限する呪縛は、パワー・スピード・ディフェンス・マテリアル制御、等、あらゆる能力を全体的に低下させるデバフ技。


 しかし、今回、呪縛する範囲を特定の項目に絞ることで威力を高めた。

 

 その特定の範囲とは『知覚能力』。

 周囲への察知能力と認識力を低下させたのだ。


 けれど、それでもこの超高位機種相手では、少しばかり感覚を鈍らせるくらいの効果しか与えられないらしい。

 でも、その少しばかりの差を積み重ねていかなくては、到底僕達の手が届く敵ではない………



 そして、このタイミングに合わせるように、

 今まで力を貯めていた剣雷さんが動く。




 バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!




 今までストラグルと剣風さんの盾によって隠されていた剣雷さんの電磁投射剣。

 こちらも銃撃には参加せず、エネルギーを貯め続けてくれていた。


 U字型の先端が眩く輝き、溢れんばかりの紫電と火花を撒き散らす。


 その正体は凝縮された超々高熱源体。

 中心温度は数万度を超える超電磁プラズマ球。


 金属を融解するどころか蒸発させかねない超高熱を発しながら、

 機械種の装甲を浸透し、内部を焼き尽くす電磁波を撒き散らす。


 ストロングどころかレジェンドの位置まで届く必殺技。

 弾数は限られているけど、紅姫にすら通用するだろう。




 ブンッ!!




 剣雷さんが振るった電磁投射剣から青白いプラズマ球が投擲される。


 それは弾丸にも匹敵する超スピード。

 人間であれば避けるどころか反応するのも難しい速度。



 さらに直線で飛ぶかと思いきや、



 クンッ!!

 クンッ!!

 クンッ!!



 途中で軌道を変える変化つき。

 通常ではあり得ない角度での曲線を描いて、ジグザクに進むプラズマ球。


 こんなモノ、到底避けれるはずもない。

 まさに至高の魔弾と言っても良い一撃。


 しかし、威力・命中率とも同レベル帯では群を抜いた、剣雷さんの奥の手も………

 


 

 バシュッ!!




 機械種タケミナカタは変化に惑わされず、素早い前蹴りで完璧に迎撃。

 膝から下が一瞬消えたかと思うほどの鋭い閃脚を以って、プラズマ球の真芯を捕らえる。


 今までこちらの攻撃は涼しい顔で真正面から受け止めていたのに、初めて防御らしき行動に出た。


 たとえ重量級であっても一撃で破壊できる電磁投射剣によるプラズマ球投擲も、この超高位機種相手だとやや分が悪かった模様。


 奇を衒う軌道を描いたプラズマ球は瞬時に蹴りによって掻き消され………



 ジュウウウッ!!


「ぐうっ!! …………おのれ!!」



 機械種タケミナカタから苦痛を伴った呻き声。


 よく見れば、プラズマ球を迎撃した足部装甲の一部が薄煙を発生させながら融解。

 どうやら迎撃には成功したようだが完全には防げなかった様子。


 

「コレがお前達の切り札か! …………確かにまともに喰らえば、少々痛手を被ったかもしれないが…………」



 緋色の光を瞬かせ、怒りの形相を露わにする機械種タケミナカタ。



「だが、不発に終わった。少しばかりヒヤッとさせられたが、それだけだ。もうお前達に用は無い………………、故に死ね」



 整った顔立ちを歪め、僕達へと死の宣告を下したその時、




「全体防御!」



 僕は即座に防御を命令。

 最前衛の騎士系3機が一斉に盾を前へと翳す。

 最も大きな盾を持ち、一番防御力が高いストラグルを中心に、剣風さんと剣雷さんが己の盾を前へと掲げて集団防御体勢。

 


「『重壁』!」

「グラビティウォール!」



 さらに前衛の毘燭さん、後衛の秘彗さんが障壁を展開。

 僕達全体を包み込み、さらに後方の皆を守るための防御フィールドを形成。

 

 ここまで万全の防御態勢を取れば…………




「『凶つ風』!!」




 機械種タケミナカタが突然叫ぶ。

 そして、左足を大きく振り上げ、右から左へ薙ぐような内回し蹴りをその場で披露。

 その機動は人間の目には決して見切られぬ速度ではあるが、10m以上離れた距離からは当然届くはずもない攻撃のはず…………



 そう思った瞬間、





 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!





 世界が震えた。


 辺りの大気が割れた、崩れた、壊れた、破壊された、切断された………


 もう、そう表現するしかないような現象。


 通路を駆け抜ける衝撃波が発生したのだ。

 

 破壊的な突風が通路の壁面を剥がしながら、礫塵を巻き上げて僕達へと襲いかかる。


 風の龍が牙を剥き出しにして向かってくるかのよう。

 見えない大気で構成された巨大な顎が僕達を噛み砕かんと向かって来る。


 おそらくは、野外にて軍隊相手に使用するような対軍攻撃。

 それをダンジョン内で、こんな閉鎖された空間で放たれた。

 その凝縮されたエネルギーは僕達どころか、後方のガミンさん達も巻き込んで粉微塵にするほどの破壊力を秘める。



 対抗するのは、3機の騎士。

 そして、僧侶の加護と魔女の守りだけ…………




 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!



 

 暴威を纏う風の竜が3機の騎士の盾へと衝突。

 その瞬間、耳が馬鹿になりそうな程の轟音が鳴り響く。

 

 風が金属を削る音。

 風圧が重力を押し退けようとする音。

 機械種が全力を振り絞らんとする駆動音。

 負荷限界を超え、機体に損傷が出始めたことを意味する異音。

 


 それは風と機械種との力と力のせめぎ合い。

 一つ歯車が狂えば雪崩を打って崩壊しかねないギリギリでの攻防。



 荒れ狂う衝撃波を3つの盾にて受け止めようとするストラグル、剣風さん、剣雷さん。


 それは迫る津波を石壁で遮ろうとするかのような無謀なことなのかもしれない。

 しかし、受け止められなければ、僕達も含めた先行隊の皆は全滅するしかないのだ。




 クアアアアアアアアアアアアアアッ!!



 

 ストロングタイプの守護騎士系、機械種ガーディアンナイトのストラグルが吼える。


 会話機能を持たないはずの彼が雄叫びをあげた。

 

 文字通り、パーティを守る『守護騎士』の使命を果たさんが為、己の力を振り絞る。



 

 ガアアアアアアアアアアアアッ!

 グオオオオオオオオオオオオッ!



 また、剣風さん、剣雷さんも同様に。


 3機の騎士が盾を構えながら、お互いを支え合い、圧倒的格上の攻撃を耐え忍ぶ。

 

 その後ろの毘燭さん、秘彗さんも全力で3機をカバー。

 マテリアル重力器をフル回転、風の圧力を押し返そうと重力壁に力を注ぎ込む。



 

 5機の力が一つとなり、


 暴れ狂う風竜の爪牙へと立ち向かい、


 果てしなく長い………、永遠に続くかと思う程の攻防の結果……………





 バキンッ!




 ストラグルの大楯が割れた。

 

 吹き付ける衝撃波を一番前で受け止めていたことにより、その負荷に耐えきれず砕け散る。


 同時に剣風さん、剣雷さんの盾も半壊。

 盾表面はボロボロ、あちこちに亀裂が走ったような状態。


 さらに、3機とも疲労困憊。

 文字通りの全力防御で精も魂も尽き果てた様子。


 しかし、3機の騎士系が身を挺してくれたおかげで…………





「た、耐えきった…………」




 思わず安堵の声が漏れる。



 荒れ狂っていた暴風は収まっていた。

 

 少なくとも敵の攻撃が一旦終了したのは間違いない。


 あの機械種タケミナカタにとっては、ただの通常攻撃であったのかもしれない。

 だが、それでも遥か格上機種の攻撃に耐え抜くことができたのだ。




「…………………少し甘く見過ぎたか」




 僕達が初撃を耐え抜いたことに不満げな顔を見せる機械種タケミナカタ。



 

「フンッ! 少しばかり生き延びる時間が増えた程度。次は、万に一つも逃さぬよう、我が直接蹴り殺してくれる!」




 苦々しい口調から少々プライドを傷つけられた様子が見受けられる。


 取るに足らないはずの僕達を仕留めきれなかったことを悔やんでか、次は自ら直接手を下す模様。

 まあ、彼の場合『手』ではなく、『足』なのだろうけど。

 

 

 

 さて、ここまではこちらの想定内。


 あの衝撃波を離れた所から連発されたらどうしようも無かったけど、相手は武人気質っぽい機械種。

 初撃を耐え抜けば、必ずや自らの手(足)でトドメを差しにくると踏んでの作戦。

 

 あとは、上手く誘導できるかどうかに懸かっている。



 

 敵の動きを注視。

 早すぎてもダメ、遅すぎてもダメ。


 機械種タケミナカタがこちらに向けて足を一歩踏み出した時を狙って、




「退却!」




 皆へと『退却命令』。


 即座に身を翻し、後方へと逃げ去ろうとする仲間達。

 最前衛であった3騎士を先に下げ、逆に僕達が殿を務める形となって退却開始。


 

 当然ながら、機械種タケミナカタは僕達の予想もしない逃走劇に驚いて………




「なっ! …………逃がすか!」



 

 獲物が逃げれば追いかけようとするのが狩猟者の本能。

 

 逃げる僕達を追いかけるべく、カカッ! と床を蹴り、超高速移動を開始しようとした瞬間、



「喰らえ!」

 バンッ!



 予め決めていた通り、ガイが逃走を急停止してクルッと振り返り、左手で構えたミドルの銃で迎撃。

 


 

 ただし、狙いは敵では無く………



 

 ブフォオオオオオオオオオ!!!




 突っ込んでくる敵の出鼻を挫くような濛々とした煙幕が発生。

 

 ガイが床へと撃ちこんだ煙幕弾が機械種タケミナカタの機体を覆い尽くす。


 


「小細工を!」




 怒りの形相で煙幕を無視して正面から突破してくる機械種タケミナカタ。


 だけど、『小細工』はこれで終わりではなく………




「『風蜂』!」




 『風蠍』を『風蜂』へと変化させ、数百の銀蜂の群れを機械種タケミナカタへと叩きつける。


 そして、さらに、



「『胡蝶の舞』!」



 僕の背後に控えていたパラセレネが『妨害術』を発動。

 それは女忍者系のストロングタイプ、機械種カゲロウが得意とする幻惑。


 これもこの時の為にマテリアルを練り込んでくれていたのだ。

 格上相手にも、僅かばかりでもその効果を及ぼすように。



 ヒラ……、ヒラ……、ヒラ……、

 ヒラ……、ヒラ……、ヒラ……、

 ヒラ……、ヒラ……、ヒラ……、



 マテリアル幻光器とマテリアル虚数器で造られた幻の蝶々が舞い、機械種の知覚を狂わせる。

 視覚だけでなく、重力センサー、空間センサー等も機能低下は避けられない。

 

 敵の機体へ直接攻撃する技では無く、敵性能を弱体化させる所謂搦め手の類。

 これこそ忍者系に比べ近接戦能力に劣る女忍者系の真骨頂。


 


 『僕達の予想外の逃走』+『怒り』+『煙幕』+『風蜂』+『胡蝶の舞』




 ここまで不利な状況が合わさった結果、

 機械種タケミナカタはほんの僅かに足元をふらつかせて踏み込んでしまった。


 その踏み込んだ場所には…………………




「【即席罠インスタントトラップ】! 『疾走するスプリント・移動床ムービングフロア』!」




 後方へと逃れていた胡狛さんが振り返りながらしゃがみ込み、手で床へと触れて叫んだ。


 すると機械種タケミナカタが踏み込んだ床部分が突然発光。


 罠名通りの踏み込んだ相手を一方向へと強引に移動させる【即席罠インスタントトラップ】。


 これぞ事前に仕掛けていた罠の一つ。


 

 

「ぬおっ?」




 機械種タケミナカタから困惑した声。

 機体が床から数十cm浮かび上がり、『移動床罠』の効果に乗せられて、そのまま…………




「動かない?」




 ここで想定外のアクシデント。

 胡狛さんの【即席罠インスタントトラップ】、『移動床罠』でかの機体を強制的に移動させるはずが、機械種タケミナカタはその場で動かず。


 まさか、『罠』の効果に抵抗した?

 自力で『移動床』の重力干渉を跳ねのけた?


 

「いや、完全に効いていないわけじゃない………」



 機械種タケミナカタの機体は浮かび上がったまま。

 『移動床』による強制移動まで届いていないものの、機械種タケミナカタは明らかに罠に囚われているのは間違いない。


 だが機械種タケミナカタは自身のマテリアル制御を用いて強制移動に抵抗しているようなのだ。

 

 機体が双方向へと引っ張られているような有様。

 ちょうど罠の効果と機械種タケミナカタのマテリアル制御が拮抗しているような形。


 

 攻撃系の罠と違い、こうした移動系の罠は一度かかってしまうと抵抗するのが困難。


 移動系の罠で即死するケースはほとんど無い代わりに、嵌まれば大人しく効果を受け入れるしかない。


 それが普通の狩人が知る『罠』に関してのルール。

 故に移動系の罠は事前に発見して解除する必要があるのだが………


 しかし、この超高位機種はその『ルール』を力技でねじ伏せようとしている。


 『罠』と言っても、胡狛さんが仕掛けた『即席』の『罠』なのだから、そこまでの強制力が無いのかもしれないけど。



 後方の胡狛さんは床に手を置きながら、発動させた『罠』へと力を注ぎ込んでくれている様子。

 しかし、緋王の機体を『移動』させることができず、その動きを阻害しているだけ。





「かあああああああああっ!! こんなチンケな罠で我を陥れようとは………、舐めるな!!」




 罠に囚われた状態で吼える機械種タケミナカタ。

 力を振り絞り、罠の強制力を力尽くで抑えつけようと試みる。


 その声に応えるように罠との対抗は、徐々に機械種タケミナカタへと天秤の針が傾いていく。

 ジワリジワリとその浮かび上がった機体が、徐々に床へと近づく。



「なんて………、無茶苦茶な…………」



 敵のあまりの理不尽さに嘆く。



 この超高位機種の前には『罠』ですら有効となり得ないようだ。

 ほんの僅かな時間、その機体を拘束できただけ。

 取り得る手段はないというのに…………



 僕の思考が絶望に染まる。

 


 足が地に着けばそれで終わり。

 敵はもうこちらを舐めてくることは無いだろう。

 全力で襲いかかってくるこの超高位機種相手に僕達は何秒持たせることができるのか。

 

 たった1撃を防ぐだけでストラグル達5機がかり。

 それも、次の一撃は防げない程損傷を受けた。


 ストロングタイプでは勝負にならないのだ。

 かといって前衛系でないトライアンフでは、この敵の猛攻を防げない。


 僕達もガミンさん達もこの機械種タケミナカタに無残に殺される未来しかない。



「こんな…………、ところで…………、あともう少しだったのに………」



 ああ………、

 やっぱり僕はヒロや天駆みたいにはなれないみたいだ。


 

 色んな感情が混じり合い、思わず天井を見上げてしまう僕。


 

 そして、そんな僕の耳に入って来たのが…………

 


 

「アルス! 何ぼーっとしてやがる! 今がチャンスだろうが!」




 と叫ぶガイの声。

 驚いて振り向いてみれば、左手一本でミドルの銃をこん棒のように構えて走る姿。



 その先は当然、




 ガコンッ!!

 バキンッ!!




 ガイは『移動罠』に囚われている機械種タケミナカタへとミドルの銃を叩きつける。

 

 その瞬間、ガイの銃は粉々に霧散。

 

 ガイの持つ銃はかなり頑丈に造られていて、多少ぐらいなら鈍器として利用できるモデルのようだが相手が悪い。

 

 衣服のようにみえる軟性装甲であるが、銃弾をも弾く強度を持つのだ。

 あれではダメージなど与えられるはずがない。




 しかし、




「嘘? もしかして、効いた?」




 機械種タケミナカタの機体が大きく揺れ、再び床から浮かび上がった。

 罠を食い破る寸前から元の位置へと逆戻り。

 

 どうやら殴りつけられたことで、マテリアル制御が甘くなってしまった様子。

 ダメージは与えられなくても、敵の集中を乱すことぐらいはできるよう。 


 

「だあああああああああああ!!!」



 次に大声を上げ、機械種タケミナカタへ突撃したのはハザン。

 鉄槌を振り上げ、猛然と殴り掛かろうとする。



 だが、2度目となれば敵も黙っては殴られない。



「この人間どもが! 調子に乗るな!」



 目尻を吊り上げ、怒り心頭の機械種タケミナカタ。


 向かって来るハザンへとその足を振り上げようとして、




「させない! 『七頭風蛇』!」



 

 僕は即座に『風蠍』を振り上げ、『七頭風蛇』を発動。


 僕の手から伸びる7本の蛇が、機械種タケミナカタへと絡みつく。



 僕が拘束できたのはほんの1秒。


 でも、その一秒がハザンの命を救い、



 

 ドガンッ!!


「ぐおっ!」



 

 思いっきり鉄槌を叩きつけたハザン。

 

 呻き声を上げる機械種タケミナカタ。

 

 その衝撃で衣服の一部に解れたような傷が一つ生まれたのだ。


 信じられないことにあれだけ銃弾を受けて傷一つつかなかった機体にダメージを与え、なお且つ、マテリアル制御を乱すことにも成功した模様。


 だが、ハザンの重量級をも粉砕する一撃でも、それだけの傷しか負わせることができなかったとも言える。

 しかし、それでも、罠への抵抗を弱らせることはできたのは間違いない。




 さらにこちらからの攻撃は続き、




「『火遁の術』!」


 ボフォオオオッ!!



 

 パラセレネから放たれた直径1mはあろうかという巨大な火の玉が敵へと炸裂。




『重撃』!


 ドンッ!!



 毘燭さんが錫杖を横に払い、単体重力攻撃を行使。

 横殴りの重力波が機械種タケミナカタの機体を叩く。




 そして、僕も『七頭風蛇』を解除、一旦手元に引き戻してから、




「『風隼』!」



 

 ボゴンッ!!




 機械種タケミナカタへ音速の鞭撃をお見舞い。



 

 こちらの攻撃が命中する度、罠への抵抗が減っていく。

 これを一定以上減らすことができれば、僕達の策は完成する。



 しかし、まだ足りない。

 僕達の攻撃ではまだ足りないのだ。


 機体を傷つけることどころか、集中力を乱すことで精一杯。


 マダム・ロータスやブルハーン団長なら可能だったかもしれない。

 また、ストラグル、剣雷さん、剣風さんが無事なら、3機がかりで成し得たかもしれない。


 だが、マダム・ロータスやブルハーン団長は後方に下がっており、この場にはおらず、3騎士は負傷中でそれどころではない。


 


「だから、ここは僕達が…………」




 必要なのは威力。

 できれば、攻性マテリアル術ではなく直接攻撃。

 

 先ほどの手ごたえから、パラセレネの『火遁の術』や毘燭さんの『重撃』よりも、ハザンの鉄槌や僕の『風隼』の方が敵に与えた衝撃が大きかったように思う。



 だからここは、敵の意表を突く、強烈な一撃を叩き込むことができれば…………




「行きます!」


「え?」




 その時、僕の耳に飛び込んできたのは、幼いながらも峻烈な響きを持つ少女の声。


 振り向けば、そこには目にも止まらぬ速さで駆ける、1機の魔法少女系の姿が………




「秘彗さん?」




 カカッ!



 床を何度も蹴りつけるような駆け方。

 まるで瞬間移動を見ているような速度。


 僕の目にはその姿が草原を駆ける兎のように見えた。

 なぜか脳裏に浮かぶ『兎剃』という言葉………



 秘彗さんは低い姿勢で駆けながら、両の拳を握り込む。

 そして、いつの間にか藍色のローブ模様が変化。


 それは丸に突起が2つ付いた、所謂ウサギ模様。

 以前、白兎君がハッシュに貼ってくれた兎型ワッペンと同じモノ。




「天兎流舞蹴術、『兎式』最終奥義、未完成………」




 移動罠の上で浮かぶ機械種タケミナカタに向かって、




「『兎王銃ウサオウガン』!!!!」


 ドゥンッ!!!


 

 秘彗さんが同時に突き出した両の拳が機械種タケミナカタへと突き刺さる。

 その攻撃はウサギが両耳をピンと前へ突き出す姿に酷似していた。


 激しく衝撃を受ける敵の機体。

 10歳くらいの子供位の高さしかない軽量級の打撃なのに、大型車にでも正面衝突を受けたような衝撃具合。


 まさか、機械種タケミナカタもここまで威力があると思っていなかったのであろう。

 避ける仕草も迎撃する体勢取らず、集中することを優先してまともに秘彗さんの攻撃を受けたのだ。


 その結果は見ての通り。

 秘彗さんの拳は敵の衣服………軟性装甲を傷つけ、内部にまで影響を与えた模様。



 ハザンが鉄槌で殴っても、僕が『風蠍』を使っても、

 毛ほどの傷も与えることができなかった敵に対し、有効打を与えた。

 

 とても前衛に出すことなんてできない後衛機のはずの秘彗さんが………


 

 ビシリッ!


 

 その瞬間、秘彗さんの両腕に亀裂が走る。

 おそらくは技の衝撃に耐えきれず、腕のフレームが破損した模様。


 元々、近接型ではないのだ。

 機種的にその腕は機械種を殴るようにはできていない。


 

 しかし、その秘彗さんの一撃があったおかげで…………




「ぐあああああああっ!!」




 その一撃を受けて機械種タケミナカタは完全にマテリアル制御を手放した。

 そうなれば、『移動床罠』に抵抗する手段などもうない。


 途端に機体が激流に流されるように移動を開始。


 こうなるとどうやっても止められない。

 『移動床罠』はその効果を100%発揮して、敵の機体を強制的に目的地まで移動させる。 


 


 その目的地とは…………




「は~い! 1名様、ご案内~」




 最後方で待ち構えていたトライアンフ。

 実に良い笑顔を浮かべながら、機械種タケミナカタを迎え入れる。


 その横にぽっかりと口を開けた異空間の扉へと。




 スポッ………




 『移動床罠』に流されるまま、機械種タケミナカタはその機体を異空間へと放り込まれることとなった。













「ア、アルス…………………、た、倒したのか? ヒオウを………」



 機械種タケミナカタがこの場から居なくなってから後、ガミンさんが恐る恐る僕達へと尋ねてくる。


 その声はあり得ないことが起こったかのように若干震えていて、

 その顔はとても信じられないモノを見たかのように驚愕が張り付いていた。


 

 また、その背後には、固い表情をしたマダム・ロータス。

 そして、真剣な顔でこちらを見つめてくるブルハーン団長。



「『ヒオウ』? ……………ひょっとして『緋色』の『王』で『緋王』ですか? 機械種タケミナカタは?」


「グ………、そ、そうだ」



 なぜか言いにくそうに返事をするガミンさん。


 

「あれは『緋王』。赤の帝国の位で言えば、『赤の女帝』の下で『臙公』の上だ。あまりにも強すぎて、倒せる者などいない………、ほとんど情報が出回らない機種なんだ。だからあんまり他言すんなよ」


「はい………」



 他にも聞きたいことはあるけれど、とりあえず今はガミンさんの言葉に頷くしかない。



 『赤の女帝』の下で『臙公』の上って………、もう最高レベルの敵じゃないか。

 そんな超々高位機種だったのか……………

 そりゃあ、あれだけ強い訳だ…………

 


「へえ? そんなん始めて聞いたぜ。そんなに強いヤツなんだったら、まともに勝負してみたかったな」


「馬鹿者! 儂との勝負を見てなかったのか! お前のような若造に手に負える敵ではないぞ!」



 向こうではガイがあっけらかんとした感想を述べ、ブルハーン団長に叱られている。

 

 僕もブルハーン団長の意見に賛成。

 退散させることができたけど、それは偶然が重なった結果に過ぎない。

 

 後は何回戦ってもこちらが負けるだけ。

 そもそも勝ち目がある敵じゃない……………、今の僕では。




「はあ……………、全く、近頃の若者はトンデモナイな」



 疲れたような表情でガミンさんが独白。



「ヒロだけじゃなくて、アルスもか。まさか緋王を倒すような狩人をこの目で見ることができるなんて………」


「ガミンさん、違います。倒してませんよ」



 ガミンさんが勘違いしているみたいなんで訂正しておく。



「へ?」


「いや………、トライアが作った異空間に放り込んだだけですから。アイツはまだ稼働していますよ」



 今回の作戦は、敵を倒すことじゃなくて、一時的に隔離してしまうことが目的。

 それが白兎君とハッシュが持ち掛けてきた策。



「そ、それじゃあ………」



 顔を引き攣らせ、顔色を青くするガミンさん。

 

 でも、そんなガミンさんに追い打ちするかのようにトライアンフが口を開く。



「アルス様の言う通り、異空間に放り込んだだけですので、向こうはピンピンしていますよ。それにレッドオーダーが作るような何十年もかけて創世した異空間ではないので、大変脆いモノなんです。緋王ならすぐにでも中から食い破ってくるかもしれませんね」


「お、おい?」


「だからこの場をさっさと去ることをお勧めします。この異空間はここに投棄しますので」


「………………………全員! 駆け足! すぐにこの場を離れるぞ!」



 しばらく沈黙が続いた後、ガミンさんが命令。


 皆が一斉にこの場を離れる。





「ねえ? トライア。アイツ、どのくらいで脱出してきそう?」



 ふと、疑問が浮かんだので、走りながら僕と並走を続けるトライアンフに尋ねると、



「さて? 先ほどはああ言いましたが…………、もしかすると、ずっと出てこないかもしれませんね」


「???」


「あの異空間には…………、とってもおっかない方々が待ち構えていますので」



 そう嬉しそうに語りながら、トライアンフは意味深な笑顔を浮かべた。









*************************************

(第三者視点)



「クソッ! まんまと騙されてしまったか!」



 機械種タケミナカタは、無機質な光景が広がる異空間内にて激高。



「おのれ! この屈辱、何百倍にもして返してやる!」


 

 憤懣やるかたない様子で地面を蹴りつけ、



「…………フンッ! どうやら急造した異空間のようだな。これなら脱出に手間もかかるまい」



 放り込まれた異空間を分析。

 創世に1時間もかけていない急造品であることが判明。



「こんな脆い世界など、すぐにぶち壊して…………んん? 誰かいるのか?」



 ふと、気配を感じた機械種タケミナカタが辺りを見回すと、



 

 ピコピコ

 パタパタ




 なぜか、ユーモラスに耳を揺らす2機の機械種ラビットが鎮座していた。




 




 

***********************************

(数時間後)

(アルス視点)




「ああっ! ハッシュ! 白兎君!」



 姿が見えなかった2機を発見して駆け寄る僕。

 ちょうど26階への階段に到達した辺り。



「良かった………、はぐれたんじゃないかと思ったよ」



 フルフル

 フリフリ



「あれ? なんか2機とも汚れてない? それに小傷も………」



 パタパタ

 ピコピコ



「ええ? ……………勝ったって? 何に? まさかレッドオーダーと遭遇したの?」



 驚いて尋ねる僕に、ハッシュと白兎君は、



 フリフリ

『まあね、なかなか手強かったかな?』


 フルフル

『でも、僕達最強タッグの敵じゃなかったね』


 パタパタ

『1+1は2じゃないね、僕達は1+1で200!』


 ピコピコ

『10倍だね、10倍!』(ネタ)



 そんな意味の分からないことを言いながら、誇らしげに胸を張って答える2機だった。








 色々ありつつ、その後、僕達は無事にダンジョンから脱出できた。


 途中、味方に扮した暗殺者が襲ってきたけど、ガミンさんが見抜いてマダム・ロータスやブルハーン団長が排除。


 どうやら襲われると言う情報をヒロから聞いていたらしい。

 事前に知っていれば、暗殺者と言えど対処は難しくないそうだ。


 でも、あの暗殺者達、まるで機械種のように空間転移や光学迷彩、攻性マテリアル術を使ってきたのが気になったなあ………

 

 もしかして、アイツ等は………





『こぼれ話』

機械種タケミナカタは本気を出すと水の龍と風の龍を召喚してきます。

到底今の先行隊やアルス達が勝てる敵ではありません。

ですが、アルス達が見込みがありそうなので甘い対応になってしまったことと、日本神話にて、天津神の武御雷に両腕を握りつぶされた逸話があることから、直接攻撃が弱点となっていたことが敗因となりました。


近接格闘型なのに直接攻撃が弱点という、少し歪な仕様ですね。

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