第611話 仲間



 闇剣士との勝負を行う為、俺達は闘技場の中央へと足を進める。


 その後を人間と従属機械種の集団がゾロゾロと追従。


 敵である闇剣士は先に移動しており、まるで単身軍勢を迎え撃つように仁王立ちにて待ち構えている。


 それに対し味方の数は、先行隊と援軍としてきた俺達を合わせて、人間が30人近く、従属機械種40機以上。


 その差は歴然。

 先行隊の従属機械種の平均レベルはそこまで高くないが、それでも少々のレベル差では覆らない数。

 全員で打ちかかれば必ず闇剣士に勝利できるだろう。


 だが、この異空間は相手のテリトリー。

 試合外で仕掛けても、攻撃が通らない可能性があるという。

 さらに人質となっている者の命も危うくなる。

 

 だから大人しく闇剣士との5番勝負に臨むしかない…………





「よく来タ、人間どモ。待ちわびたゾ………」


「それはもう要らん」


「フンッ! 様式美を知らぬ若造ガ…………」



 折角用意していたらしいセリフを、ルガードさんにバッサリ切り返され、些か拗ねたような反応を見せる闇剣士。


 学者もそうだったが、やはり色付きはどこか人間臭い。

 レッドオーダーでありながら、人間であるかのような感情らしきものを見せてくる。


 しかし、どれだけ人間に近くとも、赤の威令に従うレッドオーダー。

 人間を憎み、破滅させることを願う敵対種なのだ。

 決して慣れ合うべき相手ではない。



「勝負に参加するのは、お前達5人だったナ」


「ああ、そうだ」



 闇剣士の確認にルガードさんは短く答える。


 それに合わせ、大きく頷く俺とアルス、ハザン、ガイ。


 闘技場の中央に揃って立ち並ぶ。

 

 また、今回は部外者となるガミンさん達先行隊や、アスリン、レオンハルト、そして、俺達の従属機械種は白兎も含め、20m程後ろで待機。

 

 俺達の勝負の行方を見守ってもらう。



 ちなみにどの順番で戦うのかは打合せ済み。

 


 先鋒 ガイ

 次鋒 ハザン

 中堅 アルス

 副将 俺

 対象 ルガードさん



 これはガミンさん、マダム・ロータス、ブルハーン団長等と話し合った結果。



 先鋒はとにかく血気盛んなガイを持ってくるしかない。

 本人も待っていられないとばかりに一番槍を主張。


 次鋒のハザンも自分から名乗り出た。

 一騎打ちは耐久力のある強化人間の得意とするところ。

 

 中堅のアルスは消去法。

 

 副将の俺と大将のルガードさんは皆を少し悩ませた。


 未踏破区域を2つも踏破した俺の方が実力は上だろうが、大っぴらにしていない。

 それに新人狩人トップの座を独走をしていても、その実績は僅か半年足らず。


 それに比べ、ルガードさんは赤の死線での活躍に加え、バルトーラの街に来て2年以上も成果を上げ続けている。

 そして、今回、同じ中央の賞金首である『吼え猛る闘鬼』をも討伐済。

 その上で年齢や知名度を加味すると、やはりルガードさんを大将に持ってこようという話になった。


 俺的には、自分の手で闇剣士を打ち倒し、浮楽の晶石合成用にその晶石だけは確保したいと思っていたのだが…………



 これについては、後日、ルガードさんと交渉する機会もあるだろう。

 それに借りを一杯作っているガミンさんや白翼協商を通じてお願いしても良い。


 

 今は目の前の闇剣士が出して来るであろう従機を倒すことだけを考えよう。


 まあ、ストロングタイプには及ばない程度の戦力なのであれば何の問題も無い。


 俺はもちろん、発掘品を手に入れ、色々とパワーアップしたガイとハザン。

 また、白志癒の援護はあれど、1対1でストロングタイプを捕まえたアルスなら、この一戦に注力すれば負けることは無いはず。


 と言っても、常時の狩りの相手としては不適当なレベル。

 何十回とやり合っていれば、いずれ致命的な怪我を負ってしまうだろう。

 しかし、後のことを考えず、ただ1戦を勝つことだけに集中すれば、取り得る手段はいくらでもあるのが人間。

 全力を尽くせば、負けることを気にしなくても良くなる程度には勝率が高くなる。


 もし、これがストロングタイプと同等以上レベルだとしたら、ただの1戦でも危なかったであろう。

 負ければ死ぬことを考えれば、逃げることができず、味方からのフォローも期待できない1対1の真剣勝負は、まさにロシアンルーレットに近い。

 1/6~5/6と、敵との相性、そして、その時の精神状態と運に寄って勝率は異なるだろうが、命をベットしたギャンブルだ。

 まともに勝負する方が頭のおかしい話であろう。

 



 

「そっちは従機を出すのだろう? どこだ?」



 詰問するような強い口調。

 鋭い目で睨みつけながらルガードさんが問う。

 


「カカカカカッ! 焦るナ、人間。今、姿を見せてやろウ」



 闇剣士がそう答えると、背後の扉がゆっくりと開き、中から4つの人影が現れる。



 いずれも体高2mの中量級人型機種。


 1機は、己の体高に等しい2m近い大剣。

 1機は、刃渡り1m前後の短い双剣。

 1機は、盾と剣が一体となった盾剣。

 1機は、三日月を描くような形の曲剣。


 闇剣士の従機と思われる4機は、保有する剣は違えど全て鎧をまとった剣士。

 立ち振る舞いだけで高位機種と分かる威風。

 一度剣を抜けば嵐のような斬撃で人間を切り刻むに違いない。


 その黒い騎士ににも似た鎧姿から、行き止まりのダンジョンで遭遇したレッドオーダー時の剣風、剣雷を思い出す……………


 

「…………………想像してたより強そうだな」


「だね。ちょっと甘く見てたかも」



 俺の呟きに隣のアルスが反応。

 チラッと顔を覗き見れば、いつもの少し困ったような表情。


 どうやらアルスも俺と同意見の模様。

 『ストロングタイプに及ばない』ではなく、『ストロングタイプに近いレベル』の印象を受けた様子。


 どうにも嫌な予感がしてならない。

 敵が事前の情報と異なるなんて、大抵ロクな結果にならないから。


 その不安はアルスも感じている様子。

 眉毛を下げて、どうにも落ち着かない顔。



「今まで危ないことはあったけど、誰一人大怪我することなくここまで来たから、油断してたのかなあ。こりゃあ、覚悟を決めなきゃね」


「けっ! 腕が2本あって、足も2本じゃねえか。ストロングタイプより弱かろうが、強かろうが、大して変わんねえよ。俺の右手で殴りつけりゃあ1発だ!」



 アルスの弱気な発言に対して、ガイは暴論で切って捨てる。


 しかし、彼にしては口数が多い。

 己を奮起させる為の言葉も混じっているのだろう。

 


「油断は禁物だ。皆の話では、従機達はかなりの剣の達人だそうだからな」



 ハザンが低い声で皆へと注進。

 沈着冷静な彼は現れた従機の一挙一動に注目し、その能力の把握に努めている。



「……………剣の種類が違うな。斧剣がいない。その代わりに盾剣がいる」


「あ、そうだね。確かに…………、ひょっとして、闇剣士の従機って、4機だけじゃなくて、もっとたくさんいるのかな?」



 闇剣士には色々逸話があって、十二宮に1機ずつ従機を置いたこともあるそうだから、アルスの想像は当たっていそう。


 う~ん…………

 鎧が黒じゃなくて、金色だったら良かったのに…………



 いや、そんなことじゃなくて…………



 俺達が敵を前にして言葉を交わしている最中、闇剣士は機嫌が良さそうに従機達を紹介。



「カカカカカッ! どうダ! オレの配下は! これからお前達を血祭りに上げる者達ダ!」


「御託はいい。さっさと勝負を始めるぞ」



 哄笑しながら配下を自慢する闇剣士に対し、ルガードさんは至って冷静。

 闇剣士の芝居がかった演技をまたもバッサリと切り捨てて、先に進めようとする。



「フンッ! 本当にノリの悪い奴ダ」



 ルガードさんの取り付く島の無さに、闇剣士は少しテンションを落として俺達へと向き直り、



「さア、先鋒はどいつダ? こっちの一番手は大剣だゾ」


「俺だ! 鉄杭団所属、『ぶん殴る(ビートアップ)』のガイ!」



 闇剣士の言葉にすぐさま名乗り出るガイ。



「では、地面に描いてある枠の中に入レ。一度入れば、勝負が決まるまで誰も入られズ、出られもしなイ。そして、中から外へ攻撃が通らズ、外から中へも干渉不可ダ。空間を断絶しているのではなイ。『創界制御』の設定に置いて、そうなっているのだ。これはオレであっても同様。そちらの忌々しい『詩人』でもそう簡単に弄ることは出来ン」


「ああ…………、よく分かんねえが、決着するまで誰も手を出せないタイマンってことだろ?」


「そうだナ。簡潔に言うとそうなル」



 ガイのストレートな単純さに苦笑したような雰囲気を見せる闇剣士。

 

 悪役の演技をしていない時は、どうにも人間臭い反応。

 本当にコイツが中央で恐れられた賞金首なのかと思う程。

 


「でハ、準備は良いカ?」


「よっしゃあ!! 行ってくるぜ!」


「ガイ、頑張って!」


「何度も言うが油断するな」


「健闘を祈る」



 アルス、ハザン、ルガードさんがガイへと声をかける中、


 俺も何か一言かけてやろうと口を開きかけた時、







 ザザッ………………

 





 俺の背筋を『謎の違和感』が駆け抜けた。







 え………………、何でこのタイミング?



 真っ先に頭に浮かんだのはソレ。



 もう試合直前じゃん。

 何でもっと早く教えてくれなかったんだよ!

 今からじゃ、何もできないだろ!!!



 心の中で『謎の違和感』に文句を並べ立てるも、状況は何も変わらない。



 『謎の違和感』が発生したタイミングを考えれば、このままガイが試合に臨めば敗北し、殺される可能性が高いということ…………

 

 いや、もしかしたらガイだけではないのかもしれない。


 ハザンも、アルスも、ルガードさんも………


 俺以外の全員が闇剣士とその従機に敗れて死ぬ。


 そうすれば、俺達の敗北は決定。

 

 もう援軍など期待できない。


 救出任務は失敗し、脱出のためには俺が『倚天の剣』を振るうしかない。


 そうなれば、この街に居られるかどうかも分からなくなる。

 

 そもそも友人とも言えるアルスやハザン、ガイを失うことに俺が耐えられない。




 折角ここまで上手く行っていたのに、全てがご破算。

 何もかもが最初からやり直し…………

 いや、もうやり直す気力も無いかもしれない。




 確かに、あの従機4機を見た途端、嫌な予感はしていたのだ。

 

 ガミンさん達から聞いていたよりも、ずっと強そうに見えたから。


 もし、アイツ等が俺の悪い予想通り、ストロングタイプ以上のレベルの敵であれば、ガイ達が1対1の戦闘を挑むのは、リスクが高すぎる。


 勝率が50%を切れば、ガイ、ハザン、アルス、ルガードさんのうち、単純計算で2人は死ぬのだ。

 

 物語であれば、主要キャラはそう簡単に死ぬことは無い。


 どれだけ苦戦しても最後には勝つのだと安心して見ていられる。

 

 だが、現実は残酷だ。


 振られてしまったサイコロの目は、どれだけ見ている人間が異議を唱えようとも、変わることが無い。

 どれだけ無情な結果が出ても受け入れるしかない……………





 いや! 

 今からでも遅くは無い! 

 是が非でも運命を捻じ曲げてやる!!!






「ちょっと待ったああああ!!!!」






「うえっ! …………ヒロ?」

「どうした?」



 俺の叫び声に隣のアルスとハザンがビックリ。


 また、ルガードさんも驚いたように目を見開いている。


 そして、戦いの場に赴こうとしていたガイも立ち止まり、



「なんだあ? ヒロか? …………激励はもう要らねえぞ」



 などと見当違いの反応を見せてくる。



 だが、俺が今、相手をしなければいけないのは彼等では無く、




「闇剣士よ! 提案がある! 聞いてくれ!」




 腕組みしながら事の経緯を見守っていた闇剣士に向かって大声で呼びかける。



 

 もうここに至ってはこれしかない!


 即ち、俺が先鋒で5連戦。

 従機4機と闇剣士本体を俺が全て叩き潰す。


 そうすれば、ガイも、アルスも、ハザンも、ルガードさんも戦わなくて済み、敗北して死ぬことは無い。


 だが、現在の勝負方法は各先鋒と先鋒、次鋒と次鋒が闘う対戦方式だ。


 これをどうにかして勝ち抜き戦に変更してもらう必要がある。


 これを何とか認めさせないと…………



 だが、俺が呼びかけに、闇剣士は無情にも一言で返してくる。




「なぜ、オレがお前の提案など聞かねばならン?」




 当然と言えば当然。

 相手は人類の敵対者、レッドオーダー。

 人間を憎む、悪鬼羅刹の類。

 こちら側の提案など、メリットが無ければわざわざ聞こうともしない。


 向こうにとって俺はただの一兵士にしかすぎないのだ。

 ルガードさんのように歴戦の風格を纏っている訳でも無く、

 アルスのように自身の同僚を従属させてもいない。


 だからまずは俺をタダ者ではないと思わせる必要がある。

 

 故にかなりのリスクはあるが、ここでアレを提示する。


 それは中央の賞金首、魔人型、強者に挑む闇剣士なら決して見過ごせないモノ………



 七宝袋を通じて、胸ポケットから『真実の目』を取り出す。

 それはかつて、闇剣士と同じ中央の賞金首、『問いかける学者』からのドロップ品(白兎がこっそり確保した)。


 周りには見えないよう闇剣士にだけ見せつける。


 すると反応は劇的。



「!!! それハッ…………、お前、それをどこデ?」


「さあね、教えても良いけど、先に俺の提案を聞いてくれ」


「…………………よかろウ」



 短く返事をする闇剣士。


 『それは【問いかける学者のモノではないかあ!!】』とか大声で言われなくて良かった。

 まあ、すでにアルスとハザンは知っているし、トライアンフのこともあるから、そこまで大事にはならなかったと思うけど。



 しかし、俺が見せつけた『アイテム』の効果は抜群。


 これでようやく闇剣士を交渉のテーブルに乗せた。


 後は俺の交渉スキルで試合条件を変更させるだけ…………



「ヒロ! 一体どうしたの?」

「何を考えている?」

「おい! 俺を放っておくな!」

「………………」



 背後から皆が困惑した声を投げかけてくる。


 だが、俺に論理的に説明できる根拠なんて何一つない。


 だから、アルス達を振り返って、強引にお願いするだけ。



「すまん! ここは俺を信じて任せくれ!」



 そう言って頭を下げれば、アルス達は嫌とは言わない。


 それだけの絆は結んで来たつもりだから。



「………………後で教えてね、ヒロ」



 皆を代表してアルスが答える。


 また、ルガードさんもここに口を挟むつもりは無さそうだ。



「確約は出来ないけど、できるだけそうするように善処したいと思う」


「もうっ!……………本当にヒロはヒロだね、………頼んだよ」


 

 アルスの疲れたような声。

 最近、なぜか毎回言われるような気もするが…………

 


 それはともかく、アルス達はとりあえず抑えた。



 そして、ガミンさん達の方へは、



「すみません! どうしても必要なことなんです!」



 こちらも平身低頭、力押し。

 本来であれば、秤屋のトップ達が決定したことを末端がひっくり返そうとしているような暴挙。

 

 だが、俺が今までの実績が無視できないまでに積み上がっているのだ。

 また、ガミンさんとも友好関係を築けている。

 培った信頼はここで役に立ってくれるはず。


 さらに、鉄杭団、蓮花会に対しても、ガイやパルミルちゃん、アスリンチームの窮地を救ったという俺の功績が強く印象づいている。

 両者とも、決して無下には出来ない程に。

 


「…………ヒロには何か考えがあるんだな?」


「はい、ガミンさん!」


「なら、好きにやれ」


「まあ、恩があるからのう」


「レッドオーダー相手に交渉ねえ、面白いじゃないか」



 ガミンさん、ブルハーン団長、マダム・ロータスからも割と好感触で了解を得ることができた。


 これも俺が品行方正で居たからであろう。


 また、征海連合の代表者代行として、レオンハルトも快く同意。

 

 何やら俺が何をするのか興味津々である様子。

 

 確かにレッドオーダーと交渉事なんて、滅多に無い珍事には違いない。


 



 さて、土台は整った。

 闇剣士との交渉を始めよう。


 

 

 腕組みして俺を見つめる闇剣士。

 その迫力は控えめに言っても魔界か地獄の騎士団長。

 中身は少々面白い所もあるが、決して人間に優しさを見せるような相手ではない。



 俺はシンプルに提案内容を口にした。



「この勝負、勝ち抜き戦にしてもらえないだろうか?」


「ふム、何ゆえダ?」


「対戦方式でまた引き分けだと困るんだ。できたら今回で決着をつけたい」


「別にオレは困らんガ?」


「そうか? 君達が中央から辺境にわざわざ来たのは理由があるはずだ。そして、ここで強者を探しているのもその一環ではないのか? でも、もうこの階層には誰も来ないぞ。いくら俺達を人質に取ろうが、地上にここまで来ることができる実力を持つ強者はいないんだ」


「だかラ?」


「だから、今回で決着をつけたいと言っている。【お前達の探している者】が俺達の中にいなければ、もうこの街にはいないということだ。ここでずっと無為に過ごすのもお前達の望むところではないだろう?」


「……………アイツに聞いたのカ?」



 アイツというのは『問いかける学者』のことであろう。

 つまり【お前達の探している者】を学者から聞いたのか?と問うているのだ。



「ああ、そうだ。代わりに色々聞かれたし、色々されたぞ」


 

 言いたくないことも無理やり言わされ、おまけに夢まで捨てさせられた。

 もう二度と会いたくない奴だ。



「なるほド。ソレは拾ったモノでは無いということカ?」


「さて? ……………それより返事は?」


「いいだろウ。勝ち抜き戦にしてやろウ。ただし…………」



 闇剣士はこちらに顔を向けてくる。

 その顔は兜の奥の闇に隠され、見えることは無いが、なぜかニヤッと笑ったような気がした。



「その代わリ、お前が大将となレ」


「なっ!!!!」



 それは困る!

 それだと皆が従機と戦わなくてはならなくなる!

 俺が先鋒でないと、この作戦は意味をなさない。



「ちょ、ちょっと待て!!!」


「待たン、これは決定ダ。お前の提案を1つ聞いてやったのダ。引き換え条件としては安いモノだろウ」


「何で俺が大将なんだよ!」


「お前に興味があるからダ。あの万年引き籠りをどうやって仕留めたのカ………、気になるからナ。お前を一番最後に置けバ、オレに回って来る確率が高くなル。それニ………………」



 闇の中の赤く光る目を邪悪に瞬かせ、闇剣士はグッと俺へと顔を近づけ、



「知っているカ? このような勝負でハ、最も光り輝く人間が最後を務めるモノなのダ。今、気づいたガ、あの不愛想な男よりモ、あの詩人の主になった奇特な少年よりモ、お前が一番輝かしく見えル。オレに全く怯えを見せないお前ガ…………」



 闇剣士の目は俺の奥底まで覗き込もうとするかのよう。

 極上の獲物を見定める猟師の瞳。

 または、宝石の良し悪しを確かめる細工師であろうか。



 イカンッ!

 俺が興味を引き過ぎた。


 このままでは……………

 ガイや、アルスや、ハザンが………


 アイツ等の実力を信じて、勝利を願うという選択肢も無い訳では無い。

 だが、それでハッピーエンドまで辿り着くには、あまりに脆過ぎる道のり。


 少し足元がふらついただけで地獄へと真っ逆さまだ。

 そんな不安定な道を選んで、何事も無く辿り着ける自信なんて無い。


 何とか撤回させるか、別の条件を付けないと……………



「待ってくれ!」


「待たんと言っタ。それにこれ以上聞くつもりも無イ」


「何でだよ!」


「オレはレッドオーダー、お前は人間。それで十分。1人1つ、叶えてやっただけでもありがたく思エ」



 俺に背後を向ける闇剣士。


 俺の呼びかけに振り返ろうともしない。




 ………………交渉失敗。


 どうやらそれを認めるしかなさそうだ…………

 




 ガクッと膝をついて、失意に沈む。


 交渉事には自信を持っていたつもりだが、今回のこちら側の勝利条件を満たすことができなかった。


 100戦やって100勝できないのがビジネスの世界。


 だとすれば、ここで俺が失敗するのも致し方の無いことなのかもしれない。


 でも、何でここで失敗してしまったんだろうか……………

 

 皆の了解を得て、万全の体勢で取り組んだ交渉事なのに…………





 ピョンピョンッ!




 その時、俺の耳に聞こえた、軽やかに床を跳ねる楽し気な足音。


 


 バッと顔を上げると、そこにはいつもの白くて丸くて面白い………




「白兎?」



 全長40cmしかない軽量級。

 ウサギの形をした俺の相棒。

 従属機機械種筆頭にして俺の宝貝、兼、霊獣。



 フルフル


 その白兎は耳をフルフル『僕に任せて』と声をかけ、背を向けた闇剣士の方へと跳ねていく。


 そして、俺の見ている前で、耳をパタパタ、足をトントン、全身を使って、何やら闇剣士相手に交渉中。


 

 やがて、



「仕方が無いナ。コイツの分ということで、もう一度だけ話を聞いてやろウ」



 闇剣士が再び俺の話を聞く為、交渉のテーブルに着いた。



 その後ろでは、白兎が嬉しそうに耳をグルングルン回している。



 どのような交渉事が行われたのか不明だが、白兎がもう一度チャンスを作ってくれたようだ。



 ああ…………、やっぱりお前は俺の最高の相棒だよ。



 目線だけで礼を送ると、白兎は耳をピコピコさせて返事を返す。


 ピコピコ

『僕ができるのは交渉の糸口を作るまでだからね。後はお願い』



 分かった。後は俺の仕事…………



「一応、言っておくガ、先ほどの決定は覆らン。ソレは絶対。他に提案があるなら聞いてやル………だゾ」


「うう……、分かった」



 もう一度条件を真っ新にして考え直す。

 

 俺が1人で無双するのは不可能になった。


 これでガイ達は必ず従機達と戦闘を行うことになる。

 

 死ぬかもしれない命を賭けた真剣勝負を。


 しかし、戦闘を避けられないのであれば、どうにかして、命だけでも助かる手段を模索しなければならない。

 

 勝てば問題無い。

 だが、負けると死ぬ。


 だから、負けそうになった時、どうにかして試合を止めることができれば、その試合は負けになったとしても、命は失われずに済むかもしれない。


 つまり、俺が求めるべきは『ギブアップ』のルールではないだろうか?

 それも選手自身が行うモノと、ボクシングの試合でセコンドがタオルを投げるような第三者からの『ギブアップ宣言』の両方を。 



 だが、それを闇剣士にぶつけてみるも、



「馬鹿カ、何でそんなモノを認めにゃならんのダ」



 当然のことながら、一顧だにせず却下。


 確かに人間を痛めつけて苦しめたいレッドオーダーが認めるはずがない条項。


 少なくとも何か引き換え条件でもないと、とても飲んでもらえそうにない。


 だが、交渉事はここからであろう。


 こちらが出せる条件を並べて、何とか一部だけでも認めさせることができれば………

 

 だが、なかなかそんな都合の良い条件も浮かばず、悩む俺の耳に、



「カカカカカッ! ならばこういうのはどうダ? ギブアップで1人の命を救えた代わりに、お前が1人、人間を殺すというのハ?」


「なっ!」 



 闇剣士が申し出てきたのは悪魔染みた条件。

 

 ギブアップでガイや、アルス、ハザン、ルガードさんの命を救った場合、俺が他の誰かを殺さないといけなくなる…………


 流石にそんな条件を受けることなんてできるはずも無く………




「よい。その案、このレオンハルトが乗った!!!」


「え?」



 突然、後ろから飛んで来たレオンハルトの声。


 驚いて振り返ると、いつの間にかレオンハルトが俺の背後に。

 

 いつもの余裕のある笑みを浮かべながら佇んでいる。



「レオンハルト………、何を…………」


「何、ヒロが1人で悩む必要なんてないということだ。その『ギブアップ』で命を救ったなら、このレオンハルトを殺せばよい」


「お前! そんなことできるわけが…………」


「ヒロができないなら、自分で自分の頭を撃ち抜いても良いがね。まあ、それぐらいの覚悟はあるのだよ。どうせ君に救ってもらった命だ」



 ヒョイと肩をすくめて、自分の発言を何でもないような態度。

 だが、言っている内容は無茶苦茶だ。

 自殺志願にも程がある。

 


 だが、レオンハルトは、さも当然のように、俺と向かい合う闇剣士へと話しかける。



「ということだよ、闇剣士殿。ギブアップで助けた命の対価は、このレオンハルトが払おう。命の恩人であるヒロに殺されるなら本望ではあるし、もし、貴君が私を直接切り刻みたいならそうしてもかまわない…………、だが、一つ条件があるな」


「条件だト?」



 突然現れて交渉に割って入ってきたレオンハルトに、闇剣士はやや戸惑う様子を見せている。


 レオンハルトはそんな闇剣士へ一つの条件を提示。



「私の処刑はこの勝負が全て終わった後に行ってほしいのだ。私の大事な友人たちの生死がかかった勝負なのでね。最後まで見ていないと死んでも死に切れぬ」


「フンッ! 自軍が勝てば命を捨てずに済むからであろウ」


「ああ、もちろんそうだ。それは認めよう。私には絶対にヒロ達が勝つという自信があるからね……………、ああっ! そうか、闇剣士殿はひょっとして自分が勝つという自信がおありではないのかな?」


「…………………」


「それは失礼した。それではフェアではないな。必ず勝つと自信を持っている私と、勝つ自信が無い貴殿とでは…………」


「カカカカカッ! 言いおル! その条件、検討してやろウ…………、ただし、そちら側が負けた場合…………」



 闇剣士はレオンハルトへと鋭い視線を向け、地の底から響くような声で宣言。



「楽に死ねると思うナ。我が剣で寸刻みに切り刻んでくれよウ。その減らず口が『早く殺してくれ』と何度も頼む程ニ……ダ」



 地獄の鬼神かと思う程の威圧。

 気の小さいモノなら卒倒しそうになる程の迫力。


 だが、レオンハルトは怯える様子すらみせずに、涼し気に微笑み返す。



「構わんさ。名高き闇剣士の剣の味を存分にこの身で知り得るのだからな。あの世で自慢できそうだ」


「チィッ! …………………、だが、『ギブアップ』の条件となるト、お前1人では足りんナ」


「ふむ? 足りないとは?」


「お前とその者の関係が分からン。元はコイツの案ダ。お前の命がコイツにとって大したモノでなくては意味が無イ」


「………ヒロとは趣味の合う大親友なのだがね」



 大親友までになった覚えはないが…………


 流石に口には出さないけど。



「ふ~む? では、一体どうすれば………」



 闇剣士の発言に、レオンハルトは軽く眉を顰めて悩む素振りを見せる最中、



「なら、アタシの出番ね」


「うえ? …………アスリン?」



 これまたアスリンが俺の近くに。

 

 しかもなぜか距離が近い。



「えっと、何を…………」



 アスリンの意図が分からず、戸惑う俺に、



 グイッ!



「あ………」



 アスリンが唐突に俺へと両手を伸ばし、両頬を掴んだかと思うと、



 チュウ…………



 いきなり俺の口へと唇を押し付けてきた。


 

 チュル……………



 さらに舌が捻じ込まれ、俺の舌を絡めとる。

 お互いの唾液が混じり合い、甘い香りが鼻の奥を通り抜ける。


 俺はあまりの状況に、ただ茫然と立ち尽くすのみ。

 アスリンはまるで俺の口を貪るように吸いつき、蹂躙する。


 そして、そんな行為が10秒程続いた後、



 アスリンが俺から離れた。


 

 目は俺をしっかりと見つめ、

 頬がわずかばかり紅潮。

 栗色のポニーテールがフワリと揺れ、

 さらに口元には唾液の跡が一つ。


 その時初めて、俺はアスリンとディープキスをしたんだと認識。

 

 突然のことに頭の中は大混乱。

 余韻に浸る余裕も無く、ただ足元がフラフラする感覚に耐える俺。



 しかし、同様の経験をしたはずのアスリンは全く動揺する様子を見せず、前に立つ闇剣士へと言葉を叩きつけた。



「見ての通り、アタシはこの人の女よ。アタシならギブアップの対価に相応しいんじゃないかしら」


「……………ホウ?」


「まだ足りない? 貴方にもう少しラブシーンを見せつけましょうか?」


「…………………」


 

 アスリンの毅然とした態度に、じっと考え込む様子を見せる闇剣士。


 赤く輝く目を僅かに揺らがせながら、ナニカを思案しているような雰囲気。



 レオンハルトに、アスリン。

 


 どうやら、俺の案を手助けしに来てくれたようだ。


 しかもどちらも自分の身を顧みず。


 俺は何という素晴らしい仲間を持ったのだろう。




 そして、また、頼もしい助っ人がもう1人。




「ガハハハハハハハハッ!! 面白いじゃないか! 俺も一口乗ったああ!!!」


「ガミンッ! アンタ!」

「おい、止せ!」


「うるせえ! 若いもんが命張っているのに、俺だけこんな席に居てられるか!」



 ブルハーン団長やマダム・ロータスの制止を振り切り、

 後ろにいたはずのガミンさんがバタバタと駆け寄って来て、闇剣士に向かって言い放つ。



「おい! さっきの案、俺も乗ってやるぜ! お前も知っての通り、俺がこの集団を束ねるモノだ。それが人質になってやるって言ってんだ! これで、ヒロの大親友! 恋人! 上司まで揃ったんだぞ! ギブアップの対価にゃあ十分だろうが!」



 威勢の良いガミンさんの声。

 あまりに信じられない内容の宣言。


 このバルトーラの街の最重要人物と言っても良いはずなのに、この腰の軽さはどういうことか?



 この畳みかけるような3人の申し出に、




「……………よかろウ。お前等3人を以って3人までのギブアップの対価として認めてやル。ただし、敗北した時は覚悟しておくが良イ。まともに死ねると思うなヨ」




 流石の闇剣士も認めるしかなかった。




 レオンハルトはホッと肩を下ろし、

 

 アスリンは満足な様子で微笑み、


 ガミンさんは楽しそうに大笑い。



 

 また、アルス達も安心した表情。

 それはそのはずだ。


 どうしようもない即死はあるかもしれないが、それでも途中でギブアップできるというのは、とてつもない安心感となる。


 まあ、ガイは少しだけブスっとしているが…………

 

 おっと、目が合った。

 

 ……………いや、アイツ、照れてやがるだけか。



 また、ルガードさんもこちらへと軽く目配せ。

 俺の健闘を称えてくれた様子。




 ああ、良かった……………

 でも、俺1人では絶対に無理だった。

 これは仲間同士の助け合いのおかげだな。




 ようやく緊張から解かれ、ぐっと力が抜けて、思わずペタンと地面に座り込む俺に、




 フルフル

『これもマスターが築き上げたモノなんだよ!』




 白兎が俺の傍で楽し気に耳を揺らした。

 





『こぼれ話』

レッドオーダーとの交渉は大変難易度が高いモノとなっています。

なぜなら向こうが求めるモノと人間側が求めるモノが相容れないモノになっていることが多い為です。

ですが、一部、人間と上手く取引関係を結べている団体もあります。

もちろんほとんどが非合法組織で、主に敵対する組織への攻撃や、犯罪行為などで協力関係を結んでいたりするのです。

その最たる者が『鐘割り』です。



※ストックが切れました。

 しばらく書き溜め期間に入ります。

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