閑話 アルス2



 機械種ラプソディアがその指で竪琴をかき鳴らす直前、



「ハザン! 後ろへ!」



 ハザンに声をかけつつ、フォートレススーツに搭載されている電磁バリアを最大出力で発動。



 ドオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!



 

 その直後に凄まじい衝撃音が走り抜ける。


 合わせて、発動させた電磁バリアが音を立てて激しく明滅。 



 バリバリバリバリバリバリッ!!!



 間一髪、竪琴から発生した無形の衝撃波をギリギリで防御できた模様。

 

 目の前を覆い尽くす大量の火花がその威力を物語る。


 おそらくはマテリアル音響器を利用したソニックムーヴ。

 

 直撃したなら、人間の身体などひとたまりも無いであろう。



 

 良かった…………

 ペンドランさんからこのフォートレススーツを購入しておいて。



 ほっと、その時の自分の選択が間違ってなかったと安堵。

 中央ではそれなりに手に入るものの、この辺境ではなかなか出回らない一流の装備。


 昔、ペンドランさんが猟兵時代に使っていた中古品ではあるが、今の僕が揃えることのできる最良の装備であることに間違いはない。



「大丈夫? ハザン!」



 背後のハザンへと声をかける。



 直撃は防ぐことはできたが、あの爆音は辺り一面に広がったはず。

 僕の電磁バリアを盾にできたとはいえ、ハザンへの被害が心配。



 ……………………



 しかし、背後にいるはずのハザンからは返事が無い。

 

 目の前に敵がいる状態で後に振り返るわけにもいかず、もう一度声をかけようと口を開いた時、



「ハザ………」


「すまん、鼓膜が破れた。声が聞こえん」



 僕の言葉に被せるようにハザンから被害の申告。


 ハザンの防頭輪には一応、防音機能も付いているが、そこまで高性能なモノではない。

 僕のフォートレススーツでは耐えられても、ハザンの装備ではあの大音量を防ぐことはできなかったようだ。



「おそらく数分で鼓膜は再生する。それまではハンドサインで頼む」



 一方的なハザンからの連絡に対し、後ろの手に『オッケー』とサインを送り、さらに片手だけで次の行動を簡単に示す。



「分かった」



 ハザンからの短い了承の言葉を得ると、僕はすぐさま戦闘行動を開始。




「喰らえ!」




 振るうのは僕が最も信頼する武器、『風蠍』。



 ビュンッ!

 


 銀条がしなり、銀閃と化して、銀光を煌めかせる。


 僕が全力で振るった風蠍の先端は、一瞬だけど音速さえ超えるのだ。


 機械種とて、そう躱せるものじゃない!



 バシンッ!!



「おっと?」



 しかし、機械種ラプソディアは特に慌てる様子も見せず、易々と防ぐ。

 

 目の前に構築した重力壁が、蠍の尾の一撃を完全に防御。


 見た所、近接戦が得意なようには見えないが、それでも高位機種だけあって、防御壁の構築は唸る程素早い。



「ほう? ワタクシの開幕の『アジタート』を防ぎましたか? 思っていたよりやりますね」



 戦闘中とは思えない気軽な口調で話しかけてくるレッドオーダー。



「ですが、貴方の武器は少々いただけません。やはり英雄は剣を持たないと。さあ、そんな不細工な武器は捨てて、剣を用意してください。できれば優美な細剣がよろしいですな」


「……………………」



 ビュンッ!

 ビュンッ!

 ビュンッ!



 たわけたことを抜かす敵へと無言で鞭を振るう。


  

 だけど、今まで出会った機種の中では最高峰とも言える超高位機種。


 全て重力壁に阻まれ、有効打を与えられないばかりか、かすり傷一つつけることができずにいる。



 ビュンッ!

 ビュンッ!

 ビュンッ!



 それでも、今の僕には『風蠍』を振るうことしかできない。

 

 少なくとも僕が攻撃している間は、敵は防御に集中するだろうから。


 あの無差別に広がる音の暴力は脅威。


 避けることもできず、防ぐにしても僕のフォートレススーツの携帯バリアを全開にする必要がある。

 当然、携帯バリアの展開中は僕が攻撃できないから、もし、相手が途切れることなく音の放射を続ければ、いずれジリ貧になるのはこちら側。


 マテリアルが底を突けば、携帯バリアも展開できなくなり、防御手段が無くなってしまう。

 僕にはハザンのような再生能力は無いから、一撃食らえばそれでジ・エンド。

 

  

「ふむ…………、鞭など英雄に相応しく無い武器だと思っていましたが、なかなかに美しい攻め筋ですね。銀条が舞うように敵を叩く様も良いですが、やはり、離れた所から一方的に攻め続けられるのが強い」



 竪琴には触れる様子も見せず、ただ機械種ラプソディアは僕の戦いぶりへの感想を口にする。



「英雄ともなれば勝ち方にも拘らないといけません。敵を圧倒的な力でねじ伏せ、爽快感を演出する必要があります。泥臭くギリギリの勝利など、せいぜい認め合ったライバルとの勝負か、ラスボス戦ぐらいでしょう。そう考えると、弱者を痛めつける印象を与える鞭という武器を、メインに据えるのもありかもしれませんね」



 随分と勝手な言い分をペラペラとしゃべりまくる。

 まるで戦いの当事者ではなく、闘技場で観戦しているだけの観客のような振る舞い。 


 それでいて、僕の振るう鞭を完全に防御するのだから、その実力差は少々足掻いたところでどうにもならないくらいに離れている様子。

 


「…………………」



 ビュンッ!

 ビュンッ!

 ビュンッ!



 だけど僕は手を緩めない。

 圧倒的な差はあれど、必ずどこかに突破口はあるはず。



 鞭を振るいながら、余裕の態度を崩さない機械種ラプソディアの戦力を目算。



 敵、機械種ラプソディアの外見を見るに、間違いなく前衛機種ではない。


 楽団員をイメージした舞台服のような軟性装甲。

 全体的に細い印象の機体バランス。

 そもそも近接戦用の武器を持っておらず、唯一、範囲攻撃を発動させる竪琴だけが手持ちの武装なのだろう。

 

 また、その動きを見ても、そこまで高い戦闘系スキルを保有しているようには思えない。

 展開する防御壁の速度や、ほぼノータイムで発動させた音響攻撃を見るに、マテリアル術の行使に優れた技巧系機種というのが推測。


 技の多彩さや攻撃速度や範囲に優れていても、機体自体の防御力や耐久力は、そう高いモノではないはずなのだ。

 だから、隙を見つけて急所に一撃を叩き込めば、中破以上に持ち込める可能性が高い。

 

 そうすれば、この場から逃げ出すチャンスも生まれるだろうし、万が一、致命傷を負わせれば倒すことだってできるかもしれない。



 ビュンッ!

 ビュンッ!

 ビュンッ!


 

 できるだけ、同じペース、同じ速度で鞭を振るう。

 防ぐだけ防がせて、無意味とも思われる程に単調な攻撃を続ける。

 

 全ては来る時の為の、下準備。

 初めからこちらを侮り、些かムラっ気が強そうな相手だからこそ有用な手段。

 

 

 そして、僕が一方的に攻撃をし続け、数分が過ぎようとした頃に、



「ふあぁ………、なんか、飽きて来ましたね」



 わざとらしく欠伸をして見せるレッドオーダー。

 機械種のくせに人間のフリをするなんて、本当にコイツ等は理解できない。



「どうやらワタクシの見込み違いだったようで。この程度しか引き出しが無いのであれば、とても英雄になれる器とは………」



 完全にこちらへの興味が失せた時を狙って、



 僕は手元の風蠍の柄をギュッと握り込み、発掘品の鞭『風蠍』の力の一部を解放。




「舞え! 『風隼』!」




 シュンッ!!




 その瞬間、ただ空しく重力壁を叩いていた風蠍の先端が反応。

 まるで先端だけが別の生物かのように、いきなりの急加速に急旋回。

 力学上在り得ない軌道を描きながら、音速を軽々と突破。


 機械種ラプソディアが展開していた重力壁を回り込みながら、隼のごとくその裏側に立つ獲物へと襲いかかった。



 バチンッ!!!



「なっ!!」



 風隼の嘴が油断していた機械種ラプソディアの首元へ喰らいつき、




 ドガアアアアアアアアンッ!!!




 合わせて爆風が発生。

 音速の何倍もの速度が大気を引き裂き、轟音を引き起こす。


 小規模ではあるが、人間なら即死を免れない衝撃。

 機械種でも中量級ならそれなりの被害を与えることはできたはず。




「うおおおおおおおおおおおお!!!!」




 と同時に、今まで耳の回復に務めていたハザンが大声を上げながら突進。


 新しく買い替えたハンマー………戦槌を大きく振り上げ、未だ衝撃に身を縮こませる機械種ラプソディアに向かって力一杯振り下ろす。



「させませんよ!」



 機械種ラプソディアは衝撃によろめきながらも、抗うように手を翳して新たな重力壁を展開。


 恐ろしく素早い構成。

 一瞬で重力子が組み上げられ、物理的な盾として存在する程に重厚な重力の壁を構築。


 いかに破壊力に優れた戦槌でも、重力子で編まれた無形の壁は破れない。


 どれほど改造人間の力が強くても、重量級の一撃をも防ぐ重力壁は突破できない。



 だけれども………



 

 パリンッ!




 ハザンの戦槌の一撃は、構築された重力壁をあっさりと破壊。


 これがハザンの新しい武器の効果。

 重力壁を破壊するハンマー、『破重の戦槌』。

 発動に回数制限がある為、発掘品の中ではそこまで上位の品ではないが、防御を重力障壁に任せっぱなしの敵の隙を突くには最適。



「ぬおおおおおおおっ!」



 ハザンが吼えながら、渾身の力を込めて戦槌を振り抜く。


 機械種ラプソディアの痩躯にその槌先を叩き込み、そのままフルスイングで壁に向かってぶっ飛ばした。

 


 ドンッ!!



 10m以上先の壁へと激突するレッドオーダー。


 あまりの威力に半ば壁にめり込み、まるで磔にされた罪人のような姿を晒す。



「トドメだ!」



 ハザンが追い打ちとばかりに戦槌を振り上げ、壁に貼り付けとなった機械終ラプソディアに向かって駆け出そうとした時、



「舐めるな、人間!」



 壁にめり込んだ状態の機械種ラプソディアの両目が光る。

 赤く………、どこまでも赤い、人間への憎悪が入り混じった輝き。


 そして、こちらへと吐きかける、己を傷つけた人間への呪詛。



「狂え、狂え、人を見て狂え! 血を見て狂え! 吸い込む空気は死毒となり、吐いた息は病毒となれ! 手足は痺れて、皮膚は剥がれ、骨は粉々に砕けて、のたうち回れ! 目を開けても闇しか見えず、耳はつんざく金切り音が響くのみ。心臓の鼓動が一つ打つ度、肉が爛れて溶け落ちる。さあ、絶望を抱いて、速やかな死を望め! それこそがお前達が辿り着ける唯一の道!」



 凄まじい早口で唱えられる呪詛。

 それでいてはっきりと意味が分かる流麗な口上。


 とても聞いていられない程、痛々しい呪いの言葉だ。

 それが美麗な声で語られるのだから、その不快感は想像以上。

 思わず顔を顰めてしまう程に………



 ズキッ!!


「うぐっ!!」



 突然、頭痛が発生。

 まるで僕の頭の中に何者かが入り込んで、内側から殴りつけているような激痛が走る。



 ズキンッ! ズキンッ! ズキンッ! ズキンッ! 


「うぐぐぐっ!!! うぐぐっ!」


 

 止まらない頭痛。

 何度も頭をぶん殴られているような痛み。

 そのまま蹲り、頭を抱えて倒れ込む。



 とても耐えられる痛みではない。

 戦意を失い、風蠍をも手放して、ただ痛みを抑えようと両手で自分の頭を締め付ける。



「ぐうっ…………」



 これはおそらく機械種ラプソディアの攻撃。

 音で人間の脳を破壊するという歌い狂う詩人の真骨頂。


 まさか竪琴だけではなく、言葉でもソレを引き起こすことができるとは………


 しかし、これも音ならば、空気を遮断すれば…………



 痛みに震える手を何とか伸ばし、フォートレススーツの電磁バリアを展開させてみるも、



「な、なぜ? 痛みが………、消えない………」



 砂漠で渇きに苦しむ遭難者がやっと見つけたオアシス。

 実は一滴も飲めない水だったと分かった瞬間の歓喜から嘆きへの落差。

 ともすれば、大の大人がその場で泣き叫ぶ程の絶望。

 


「ああ………あああ……………」


「がああ………」


「ハ、ハザン………」



 悲嘆にくれる僕の耳に聞こえてきたハザンの呻き声。

 痛みに耐えながら目線を少しだけ上げてみる。


 すると視界に入ったのは、僕と同じように頭を抱えて蹲るハザンの姿。


 彼も僕と同じような苦しみに耐えているのだろう。

 

 だが、どうしようもない。

 防ぐ手立ても助ける手段も思いつかない。


 

 手で耳を塞いでも、空気を遮断して音を遮ってもこの頭痛は止まらない。


 一体、どのような現象なのであろうか?

 ただ歌い狂う詩人が漏らす言葉を一節聞いただけで、呪いが降りかかり脳を溶かすものなのか…………



「ハハハハハッ!! 良い様ですね。ワタクシを傷つけようとした報いなのでしょう」



 聞こえてきた機械種ラプソディアの声の方へと視線を向ければ、いつの間にかこちらへとツカツカと歩いてくる姿が目に入る。


 そして、痛みにのたうつハザンの横を通り過ぎようとした時、 



「邪魔です」



 ガンッ!!


 

 先ほどのお返しとばかりに、蹴りを一発入れて、ハザンを向こうの壁まで弾き飛ばす。

 


 ドガンッ!



 壁に叩きつけられ、そのまま床へと倒れ込むハザン。



「ハザンッ!」



 必死に声を張り上げて呼びかけるも、ピクリとも反応を示さない。


 どうやら気絶してしまったようだが…………

 


「ぐぐぐっ………」



 声を張り上げたことで頭痛が増し、再び頭を抱えて蹲る僕。


 いっそハザンのように気絶してしまえば楽になるのだろうが………



「苦しいでしょう? ………フフフフ、たとえ耳を塞ごうが、空気を遮断しようがふせぐことはできません。音とは振動。主に空気の震えのことを差しますが、別に震えるのは空気でなくても良いのです」



 楽しくてたまらないといった口調で説明を続ける詩人。



「光波や電波、重力波を使い、鼓膜を経由せずに脳へ直接働きかける。まあ、ワタクシが奏でる音楽を聞くまいとする輩にはちょうど良い罰でしょうな」


「…………あ、あれ?」



 僕の傍まで近づいてきた機械種ラプソディアを見て唖然。


 その手には竪琴、黒系統の舞台服に、羽根帽子。

 それは現れた当初と寸分変わらぬ歌い狂う詩人の姿。


 僕の風隼で打ち付けたはずの首、

 ハザンの戦槌で殴られた腹、

 間違いなく打撃を与えたはずなのに、どちらも一片の傷跡も見られない。



「んん? どうしました……………、ああ! ワタクシが傷ついていないことに驚いているのですね?」


「な、なんで? …………そんな」


「フフフッ、確かに一本取られました。まさかあのような奇手をお持ちだとは思いませんでしたよ。それに相方との連携も素晴らしいものでした。ワタクシがただの魔人型なら、やられていたかもしれませんね」


 

 首に巻かれた橙のスカーフに手を添えながら、機械種ラプソディアは嬉しそうに語る。



「ワタクシの装甲は決して頑丈なモノではありませんが、表面には素粒子コーティングを行っておりまして、どのような衝撃も1回は必ず無効化できるのです。同じ個所を続けて殴られていたら危なかったですが………」


「そ、素粒子コーティング? ………流塵装甲か!」



 ああ………

 確か、一度、授業で習ったことがある。

 

 それに一時パーティを組んでいた『天駆』の奴も、そんなことを言っていた。

 アレは厄介だと…………

 


「ふむ…………、なかなかに知識はおありのようで? しかし、実力が足りませんね。あと、もう一歩だったのですが…………」


「ク、クソッ!」


「おや? いけませんね。貴方のような美少年が『クソ』などと言っては」


「…………知るか! 僕の勝手だ!」


「ふうん……………」



 僕の物言いが気に入らなかったらしい機械種ラプソディア。


 秀麗な眉毛を少し中央に寄せて、僕へと冷たい視線を向けてくる。



「少々言葉遣いは気になりますが、この絶望的な状況に置いて、そこまで気概を見せる………、惜しい。全く以って惜しい。ですが、今のところ私の算定基準に達していない。う~ん………、これはどうしたものか…………」


 

 なにやら悩む様子を見せているレッドオーダー。

 指で顎を擦りながら、しばらく考え込み、



「そうですね、この際妥協しても良いかもしれません。こうしましょう」



 ポンと軽く両手を合わせ、未だ壁際で気絶した状態のハザンを指差し、



「その男を殺しなさい。さすればワタクシが貴方の従属機械種になってあげましょう」


「なっ! …………、何を………」



 大きく目を見張る僕に対し、何でもないような態度で言葉を続ける詩人。



「足りない実力は、属性をつぎ足すことで補います。貴方には陰のあるダークヒーロー的な主人公を目指してもらいましょう。自らの弱さが原因で、親友を自らの手で殺してしまったという罪を背負った主人公…………、これなら強さを追及する意味合いを持たせることができますし、何より貴方には憂い顔の方が似合いそうだ」


「………………………」


「大丈夫ですよ。誰しも人間は自分の身が可愛いモノです。そして、その弱さは今後、強さに変えていけば良い………」



 オーバーアクションを交えつつ、僕にハザンを殺すよう勧めてくる。



「貴方の親友もきっと分かってくれます。だって、このままでは2人で死ぬことになるんですから。2人死ぬより、1人でも生き残る方が良いに決まってます。それに、こう考えたらどうでしょう? 貴方の親友は、貴方の心の中で生き続けることになる…………と」



 そっと手を僕の方へと差し出す機械種ラプソディア。

 

 まるで、悩める子羊を導く聖職者のように優しげな表情で。



「さあ、ワタクシの手を取り、目指しましょう。この世界を救う英雄を………」



 確かに、このままでは2人死ぬだけ。

 でも、この手を取れば少なくても1人は助かる。


 さらにこの強大な力を持つ機械種が仲間となるのだ。

 

 コイツが居れば、きっと僕の目的も…………




 差し出された手を前に、


 僕はじっと目線を上げて、


 真っ直ぐレッドオーダーの赤く光る目を見つめながら口を開き、


 僕を助けてくれるはずの歌い狂う詩人へと言葉をぶつけた。






「うるせえ、クソ野郎。さっきからヘドロが詰まったような臭い息を吐きかけてくるな」





 

 こんな下品な罵詈雑言を吐いたのは久しぶりかもしれない。

 

 だけど言わずにいられなかった。





「…………………そうですか。それが貴方の答えだと言う訳ですね?」





 先ほどまで浮かべていた優し気な表情は霧散。

 残るのは情など一欠けらも無い酷薄な仮面。



「よろしい! では、とっておきのレクイエムでお送りすると致しましょう」



 バッと機体を翻しつつ、竪琴を構える機械種ラプソディア。



「先ほど、貴方方を苦しめたのは、ワタクシが知る曲のたった1セクションに過ぎません。そして、これから奏でるのは一曲分………、さて、どのくらい耐えられますかな?」



 多分、耐えるのは無理だろうな。

 だけど今更答えを変えるつもりはない。


 僕には夢があるし、復讐したい相手もいるけれど、仲間を手にかけてまで叶えたいとは思わない。


 夢も復讐も、『僕』が叶えてこそ意味があるモノだ。

 自分の命惜しさに仲間を殺す『僕』はもう『僕』ではないから。


 そんな僕に成り代わるぐらいなら、ここで死んだ方がマシだ。

 成すことを成せずに終わるのは悲しいけれど、きっと母さんもアイツも分かってくれる…………


 

 一瞬、目を閉じて、心の中で故人への謝罪を済ませてから、こちらを見下ろすレッドオーダーを睨みつける。


 

 今の僕にできることは虚勢を張ることぐらい。

 最後までコイツには弱みなんて見せられない。


 

「お前のショボい演奏なんて、たとえ何十曲だって耐えきってやるさ!」


「ほう? それは何とも剛毅な…………」



 僕の挑発に機械種ラプソディアはへばりついたような薄笑いを浮かべ、



「ならば、貴方の為だけに千曲を奏でることに致しましょう」



 竪琴を脇に構えて、僕への処刑宣言を口にした。



「な! …………千? そ、そんなにたくさんの曲が………」



 きちんとした楽曲は白の教会が管理するところ。


 白色文明時代に失われた楽曲は数知れず。

 それ等を遺跡から回収し、復元させているのが白の教会。

 

 復元された楽曲は、新曲として鐘守達が発表する。


 しかし、その数は決して多くない。

 楽曲が回収される頻度は少なく、中央のシティで発表された楽曲が世間へと出回るには時間がかかる。


 まれに自分で曲を作ろうとする人間もいるけれど、大抵突拍子もない騒音になり果てることが多い。

 

 だから一般市民はなかなか音楽に触れる機会が少ないのだ。

 一応上流階級の端っこで生活していた僕でさえ、知っている曲は両手の指の数程度。

 専門に勉強している人だって、生涯で30~50の楽曲を学ぶのが精一杯。


 演奏が得意な機械種でも百曲は超えない。

 そもそもこの厳しい世の中で娯楽でしかない音楽に関わる者の数が少ないのだ。


 まさか、百を飛び越えて千の数の曲を記憶している者がいて、それがレッドオーダーなんて、想像の範囲外。 

 


「フフフ、驚いておりますな。ワタクシの晶脳内には何百年もかけて蓄積した2千曲ものデータがあるんですよ。その半分を聞かせてあげるのですから感謝してください」



 僕の驚愕した表情が面白いとばかりに、ニヤリと口を裂いて笑うレッドオーダー。



「ご安心を。千曲と申しましても、圧縮して奏でますので、ほんの二、三十分です。お時間は取らせません。もちろんその分、濃縮されますから効果は千倍以上。さぞかし大きな喝采をあげてくれることでしょうね。期待しておりますよ」


「………………………」



 僕の胸の内が絶望に染まる。


 今よりも千倍以上の痛み。

 それはもう耐えられるとか耐えられないとかというレベルじゃない。



「怖気づきましたか? 今なら先ほどまでの言葉を聞かなかったことにしてあげますが………」

 

「……………………人間を舐めるな、レッドオーダー。少し脅かされたぐらいで命乞いするようななら、初めから狩人なんてやっていない」



 迫りくる恐怖を抑え込んで、無理やり勇気を奮い立たせる。

 コイツに弱みなんて絶対に見せてやるモノか!

 逆に人間の意地を見せてやる!



「ふむ………、死をも恐れぬ心に、地獄すら生ぬるい痛みにも耐えようとする性根。実に惜しい……………しかし、ここで判定を覆す程ではない。来世というものが人間にあるのであれば、この次の貴方に期待することに致しましょう」



 勝手な論評をブツブツと呟く機械種ラプソディア。


 そして、結論は出たとばかりに、演奏と名を借りた処刑の準備に取り掛かる。


 ゆっくりと自身の服装を正し、竪琴を構え、弦に指を添えてから、



「さあ、始めましょうか。貴方だけに奏でる死へのレクイエムを………」



 そう、宣言した時、




 デンッ!!!




 その前に立ち塞がった機械種が1機。


 体長40cm程度の軽量級。

 丸っこいフォルムにピンと立つ2本の耳。

 青く輝く愛らしいオメメに、短い手足。



「ハッシュ!」



 ピコピコッ!



 それは僕の従属機械種であるハッシュ。


 僕の声に応えるように耳を振るう。


 その反応の良さは相変わらず。

 ヒロのハクト君と比べての遜色が無いくらい。

 そのハクト君からおまじないをかけてもらい、とてもビーストタイプ下位とは思えない仕様となったアンノウンでもある。

 だけど、僕の大切な仲間であることに変わりはない。

 


「ハッシュ! 逃げ………」



 思わず『逃げて』と言おうとして一瞬言いよどむ。

 

 ハッシュはいくら特異な点があるにせよ、僕の従属機械種に違いは無い。

 この白の恩寵が届かぬダンジョンの奥で、マスターである僕が死んだらレッドオーダー化は免れない

 

 この場を逃げ出したからといって、どうにもならないことに変わりはない。


 でも、僕の目の前でハッシュが潰されるのは御免だ!

 


「ハッシュ! コイツは危険だ! だから…………」


 フルッ! フルッ!


「え? ……………『僕に任せて』って? それはどういう………、あれ?」



 ハッシュから返ってきた言葉に唖然。

 そして、なぜかハッシュが耳を振るっただけなのに、その言いたい事が分かってしまったことにも驚き。


 さらに後ろ脚で立つハッシュが、その手元に抱えた小さなギターにも………



「おや? そちらのラビットの手にあるのはひょっとして、楽器ですかな?」


 パタパタ


「ふむ………、ワタクシに演奏勝負を挑むと? その手作り感溢れるギターで?」


 フリフリ


「作成時間3分少々………と。 うん? そんな話は聞いていませんが?」



 何やら歌い狂う詩人と話し込んでいるハッシュ。

 耳をパタパタ、フリフリ、どうやら演奏勝負を持ち掛けているようで………



「フンッ! たかが機械種ラビットと勝負など…………、全く馬鹿馬鹿しいと言ったらありゃしませんね」



 しかし、乗り気ではなさそうな様子の機械種ラプソディア。

 

 全機械種の頂点に近い彼と、軽量級でも最底辺である機械種ラビットのハッシュでは、そう思われるのは仕方が無いのかもしれないが………




 ジャアアアアアアアアアアン!!!!




 突然、鳴り響いた弦音。

 それはハッシュの手元のギターが奏でた、場面をひっくり返す大音量。


 小さなハッシュが抱えることができるくらいの小さな楽器のはずなのに、その音は辺り一帯に響き渡り、腹の底へとズンと染み渡るような振動が届く。


 そして、なぜかその音に混じって届けられるハッシュの主張。


 それは非常に分かりやすく簡潔な一言。




 つまり、『俺の曲を聞け!』…………と。

 

 

 

 

「……………よろしい! その勝負お受けいたしましょう」




 ハッシュが奏でた音に対して、何か感じるモノがあったのであろうか?

 

 突然、機械種ラプソディアは意見を翻し、ハッシュからの演奏勝負を了承。


 

「先ほどの君が発した音色へのご褒美です。まずは10の曲を圧縮して奏でます。それに耐えきれるようでしたら、20、40と増やしていくとしましょうか」



 楽しくてたまらないと言った風情のレッドオーダー。

 きっとそれはどこで僕達が根を上げるのかが楽しみなのに違いない。



「主従共々、ワタクシの魔曲に狂いなさい!」



 機械種ラプソディアは竪琴を構えて、指で弦をつま弾く。

 5本の指はそれぞれが別個の生き物のように動き、弦を弾いて音を生み出す。


 そして、生まれた音は、今まで聞いたこと無いような………




 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!




 鳴り響くあまりに異質な狂音。

 それはもはや曲とは認識できない音の塊。


 しかし、機械種ラプソディアの言を借りれば、これは十倍にも圧縮された演奏なのであろう。

 

 人間や機械種に与える影響は、先ほどの比ではないはず。


 ならば、僕やハッシュの運命は…………




 ジャラアアアアアアアアアアアアア!!!! ジャン! ジャン!!

 ジャアアアン!!  ジャン! ジャンッ!!! ジャアアアン!!



 対抗するようにハッシュがギターをかき鳴らした。


 熱く、激しく、炎のように。

 早く、強く、嵐のように。

 

 小さな楽器から生み出される台風のような音の流れ。

 何物をも押し流し、自分の主張をこれでもかと見せつける魂の叫び。



 音と音とのぶつかり合い。


 レッドオーダーが発した狂音と

 ブルーオーダーが奏でた暴音が

 

 ちょうど両機の真ん中で衝突し合い、

 眩い火花を散らしながらの拮抗状態を保つ。




「ば、馬鹿な! こ、このワタクシの魔曲を相殺した? まさか圧縮演奏をラビットが…………、それも10を超える楽曲を………」



 いきなり狼狽えだす機械種ラプソディア。

 演奏の手が止まらないのは流石だが、それでもラビットに拮抗されては戸惑いは隠せない様子。



「な、ならば、圧縮する曲を増やすまで! さあ、次は100曲と行きましょう!」



 自分の言を翻して、いきなり圧縮を10倍へ引き上げると宣言。



「これが耐えられますか!!」




 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!




 音量と密度が増え、さらに威力を増した狂音。

 

 

 だが、ハッシュは焦ることなく、弦をかき鳴らす爪の動きを早める。


 

 ジャン! ジャン!! ジャアアアン!! ジャアアアン!!

 ジャアアアン!!  ジャン! ジャンッ!!! 

 ジャラアアアアアアアアアアアアア!!!!  ジャンッ!!

 


 さらに勢い増すハッシュの演奏。

 すでにその動きは機械種ラビットのモノではない。


 兎型の機械種では在り得ない関節の動き。

 精密作業を目的としていない前脚の爪先での演奏。

 そして、『演奏』スキルなんて入れていないのに、なぜか演奏を行っている………


 しかも、今、ハッシュが奏でている曲は明らかに完成した楽曲。

 一体、いつ、どこで覚えてきたと言うのだろうか?



 そんな僕の疑問を他所に、益々、機械種ラプソディアとハッシュの演奏勝負はヒートアップ。




「100では足りない! で、では、500で!」



 ジャン! ジャン!! ジャアアアン!! 



「おのれ! まさか、ここまで、なら1000!」



 ジャラアアアアアアアアアアアアア!!!! 


 

 ドンドン引き上げられる曲の数。


 しかし、どれだけ機械種ラプソディアが奏でる曲の数を増やしても、余裕を以ってハッシュは追いつき、追い越していく。


 

 やがて、それは機械種ラプソディアの限界にも達し、



「まだ、ついてくるというのか! ならばワタクシが知る全てをここに! 何百年もかけて収集した、2000曲の圧縮演奏を…………」



 ピコピコッ!



「え?」



 パタパタッ!



「ハ、ハッシュ?」



 機械種ラプソディアの最後の乾坤一擲を前に、ハッシュが語った、自身の知っている楽曲数。

 

 それを聞いて、僕は呆然。

 機械種ラプソディアも演奏の手を止めて、とても信じられない顔でハッシュを見つめている。



 僕と機械種ラプソディアの視線を受けたハッシュは耳を震わせ、先ほど語った内容をもう一度繰り返した。 




 フルフル

『ボクの晶脳の中には、師匠がマスターのスマホから勝手にダウンロードした楽曲が18,013曲入っているよ』












「参りました。先生と呼ばせてください」


「変わり身、早くない!?」



 ハッシュの前に土下座する機械種ラプソディアを見て、思わずツッコミ。



 フリフリ

『良きにはからえ』


「ははあ~、ありがたき幸せ!」


 パタパタ

『僕のマスターに忠義を尽くすように』


「もちろんでございます!」



「いいのかなあ~」



 目の前で行わる師弟の契りに思わず嘆息。


 コイツはどう考えても人類の大敵で、たとえブルーオーダーしても賞金首であることに違いは無い。

 


「何を呆けてらっしゃいますか? 貴方にはワタクシへのブルーオーダーをしてくれないと困るのですが?」


「………………無理だよ。僕には君をブルーオーダーできるような等級の高い蒼石なんて持っていないさ」


「なるほど………、ワタクシの英雄候補はまだ候補であって、今はただの雑魚狩人でしたな」


「うるさいな」



 イチイチ棘のある言い方をする機械種ラプソディアに若干苛々。


 未だレッドオーダー状態であるからかもしれない。

 先ほどまで殺されかけた身としては、なかなか無心ではいられない。


 また、こうしてレッドオーダーと平和的に会話を交わすのに慣れていないと言うこともある。

 本能的なレッドオーダーへの恐怖心はどうしても抑えられないのだ。


 戦意に高揚した戦闘状態ならともかく、平静な状態で穏やかに会話を交わすのはなかなかに難易度が高い。



 そう言えば、ヒロは随分と慣れた様子でレッドオーダーに話しかけていたな。



 思い出すのは、彼と一緒に巣の攻略を終え、帰還の最中に巻き込まれた大事件。

 この『歌い狂う詩人』と同じ、高位魔人型の1機『問いかける学者』との邂逅。


 

 まるでレッドオーダーをレッドオーダーと認識していないみたいに、ヒロは学者と会話を交わしていた。


 相手は隙を見せれば、一瞬で人間を殺害できる高位機種。

 そんな相手にヒロは、何の気負いも無い様子で交渉を行っていたのだ。


 高位レッドオーダーとの交渉は、それこそ超高度な専門職の管轄。

 それを商店での値切り交渉感覚で行うヒロの姿は、あまりにも異質過ぎた。


 一体どのような生き方をしていけば、彼のような存在が出来上がるのであろうか?




「………とにかく、今すぐの君へのブルーオーダーは無理だ」


「いえ、そんなことはございません。ちょうど高位蒼石を持っていそうな者に心当たりがあります」



 と言って、機械種ラプソディアは自身の亜空間倉庫を開き、




 ドタドタドタドタドタドタッ!!




 何十人もの死体を山のように積み上げてきた。




「おい!」


「この者達はワタクシの身を狙った狩人達の末路でございます。それなりに実力者揃いでしたので、懐を探れば蒼石の一つや二つはあるでしょう」


「はあ……………」



 やっぱりレッドオーダーとの交渉は常人の精神ではできないや。

 


 自分は絶対に英雄にはなれないな、と心の中で確信できた。

 




 








 気絶していたハザンを介抱。

 その後、回復したハザンと共に、積み上げられた死体の中から、有用な品を回収。


 そして、橙伯である機械種ラプソディアを適正級でブルーオーダーできる蒼石2級を発見。



 早くブルーオーダーしてくれと頼むレッドオーダーを前に、最後の確認を行う。



「いいの? 君の収納にある楽曲も消し飛ぶんじゃない? せっかく2000曲も集めたんだろう?」


「元々2000曲のうち、1000曲は基本データですから問題ありません。それにブルーオーダー後にハッシュ先生から曲を頂けることになっておりますので」


「…………そうか。でも、君の記憶も無くなっちゃうよ。今まで過ごしてきた記憶が………」


 

 別にコイツの記憶なんてどうでも良いけど、それでも気になるから質問しまう。


 もし、僕が記憶喪失になって、母さんや先代のハッシュとの記憶を失い、ハザンやヒロとの記憶も失ったら、果たしてそれは『僕』と言えるのだろうか?


 つい、そんなことを考えてしまったから。



 しかし、当本機からの答えは、



「はあ? 確かに記憶は消えますが、機体は存在しておりますよ。機体が存在していれば新たな記憶を蓄積できるでしょう。何か問題でもありますか?」



 僕が考え込んだことなど、全く以って馬鹿馬鹿しくなる程、割り切った思考。


 やはり、機械種と人間とは違うのだなあ。



「そんなことより、ようやくワタクシの夢が叶いました! ハッシュ先生という偉大な機種を従える英雄に従属できるとは光栄の至り!」


「まあ、好きに考えればいいけどね」


「ワタクシの選択は間違いでは無かった。さっきまではあの青年の方に行けば良かったと後悔していたのですが………」


「んん? ……………ちょっと待って! そう言えば、さっきもそんな話をしていたけど………」



 機械種ラプソディアに詳しい話を聞くと、この階層には僕と同じように遭難しているらしい青年がいるとのこと。

 

 その青年は機械種メデューサという高位機種と、機械種ソードマスターを引き連れている…………



「いえ、引き連れているというよりは、機械種メデューサに抱えられている様子でしたね。どうやら本人は意識も無いようで」


「……………その機械種メデューサという機種は知らないけれど、機械種ソードマスターなら多分知っている………」



 征海連合の『指揮者(コンダクター)』レオンハルト。

 僕より2,3歳年上の新人狩人。


 ジョブシリーズ、ストロングタイプ機械種ソードマスターを従属させている機械種使い。

 

 征海連合の幹部の関係者と聞いていたけど、まさか活性化中のダンジョンに挑んでいるとは…………

 確か先行隊にも征海連合の人が参加していたはずだけど、そこに混ざらず、わざわざ単独で挑もうとするなんて………


 もちろん、何か事情があってのことだと思うけど。



「……………ねえ? 今どこに居るのか分かる?」


「はあ…………、ワタクシが最後に見たのは玄室の中に入っていたところまでですが………」



 聞けば、ここから歩いて数時間と言った所。

 今まで逃げ回っていた時間に比べれば大したことは無い。



「ストロングタイプがいるなら玄室の中の敵も倒せるのか………、そのもう1機も高位機種なのかもしれないけど」



 機械種ラプソディアが言うには、レオンハルトは気を失っている様子。

 何か大怪我をしているのか、それとも…………



「聞いた以上、放っては置けないかな? ねえ、ハザン」


「むっ、そうだな。その機械種に応急手当のスキルが無いなら、意識を失ったレオンハルトの介抱もできまい。その点では俺達でも役に立てるし……………」



 そこで言葉を切って、ハザンは自分の足元でピョンピョン踊っているハッシュに視線を向ける。



「コイツの踊りも役に立つ。こうやってくれているだけで、体力が回復していくんだ。決して無駄にはなるまい」


「あははははっ、ついにハッシュに慣れてきた?」


「まあ、こう何度も助けられてはな」


 パタパタッ!!



 ハザンが照れたような笑顔を浮かべ、ハッシュが嬉しそうに飛び跳ねる。

 ここにセインが居れば、きっと穏やかな目で見守ってくれていたに違いない。



「さあ、レオンハルトを助けに行こうか、ハザン、ハッシュ」


「おう!」


 フルフルッ!!



 遭難中であった僕達。

 しかし、より窮地にいる人を発見したのだ。

 ここで助けない理由は無い!


 

 セインが入ったリュックを背負い、僕はハザン、ハッシュと共に、レオンハルトがいると思われる玄室へと駆け出し………




「あああ!!! ちょっと待ってください! ワタクシのブルーオーダーを先にしてくださいよ!!!」




 あまり気は進まなかったが、うるさく喚く機械種ラプソディアを黙らせる意味でブルーオーダー。


 よ~く考えてから従属契約を行い、改めて目的地に向かうことにした。





 ※閑話はここで終わりです。

  次話から本編に戻ります。

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