第578話 失意



「従属機械種を整備に出していたから、先行隊には参加できなかったの」



 玄室の床の上で座り込む俺達を前に、意気消沈状態のアスリンからこれまでの事情が語られる。


 それは俺が予想していた通りのモノであった。



 先行隊より1週間以上遅れて活性化中のダンジョンへと潜ったアスリン達。


 4日程前にここ地下33階に辿り着き、この玄室で一晩明かすまでは順調であったらしい。

 亜人型の小隊や魔獣型の重量級が1,2機出現する程度であったから、手持ちの重量級5機をフルに使えば、勝ち進むことは難しくなかった。


 

 しかし、朝を迎えて玄室の外に一歩出た途端、ダンジョンの難易度が一変していた。

 

 遭遇したのは魔獣型の上位である混沌獣型の重量級の集団。

 

 もう辺境に出てきて良いレベルではない。

 荒野であれば中央でしか見られない高位機種達。


 アスリン達は逃げ出すしか選択肢が無く、従属させている重量級5機全てを囮に使って辛くも戦闘を離脱。


 まだセーフエリア時間が残っていたこの玄室へと舞い戻り、緊急用の白拍子木を使って、結界を構築。

 救助の手が差し伸べられるのを信じて、籠城する道を選んだ。


 

「もうそれしか手が無かったから…………」



 玄室の床に三角座りしながら、ポツリポツリと経緯を語っていくアスリン。


 トレードマークのポニーテールを解き、Tシャツに短パンという普段着のような軽装。

 さらに、いつもの覇気を失ってしまった彼女はまるで別人のようだ。


 

「私達が助かる為に、あの子達を犠牲にしてしまった………、今まで私に尽くしてくれていたのに………、私が判断を間違えたせいで………」



 膝小僧に顔を埋め、アスリンは自分の不甲斐なさを嘆く。


 同様にニルもドローシアも神妙な面持ちのまま黙り込んでいる。


 彼女達にとってもアスリンが従属させていた重量級は戦友であったのだろう。

 それが自分達の命惜しさに犠牲にしたのだから、そんな雰囲気になるのも仕方がない。

 


 

 しかし、これはどうしようもないことだ。


 たとえ共に戦っても、とても勝ち目が無かった戦力差。

 マスターであるアスリンが死ねば、従属機械種はレッドオーダー化してしまうのは避けられない。


 従属機械種にとって、目の前でマスターが死ぬのは途方もない絶望なのだ。

 それを考えれば、自分達が犠牲になることでマスターを逃がすことができると覚悟を決めながら、最後までアスリンの従属機械種として散る方が百倍もマシであろう。


 

 この世界の機械種使いが一番最初に習う心得が、


『従属機械種に愛着を持つな。愛着を持つなら戦場に出すな』

『見捨てるのを躊躇うな。互いが不幸になるだけだ』

『従属機械種の価値はマテリアル換算しろ。余計な感情の上乗せはせずに』



 このように、この世界の機械種使いの狩人は、従属機械種を便利な道具として使うことで成り立っている職業なのだ。



 だが、そんなことはアスリンも百も承知のはず。

 それでも、こうして後悔に苛まれるのは、それだけ従属機械種達に注ぎ込んでいた熱量が多かったということ。

 

 アスリンはこの世界の機械種使いには珍しく、従属機械種に強い愛着を持つタイプのようだ。


 


「ふん! …………なるほどな。タイミングは俺と一緒だ」



 床で胡坐をかき、アスリンの話を聞いていたガイが、納得がいったとばかりに鼻を鳴らす。



「こっちはもう少し浅い階で、お嬢が白音叉を持っていたから、自力で脱出を試みたが………、そうでなきゃ玄室に逃げ込むしかないわな…………、白拍子木なんて持ってないけどよ」


「…………ひょっとして、貴方もなの?」


「ああ、二進も三進も行かなくなっていた所をヒロに助けられた」


「そう…………、『白ウサギの騎士』は噂通り、人助けが趣味なのね」



 アスリンの視線がこちらへと向く。


 その瞳は真っ直ぐに俺を捕らえ、まるで俺の心を覗こうとするかのよう。



「では、私達も助けてくれるの?」


「ああ、もちろんそのつもりだ」



 アスリンの問いに、間髪を入れずに答える。



 ここまで来てアスリン達を助けないという選択肢は無い。

 アスリンには色々突っかかれた身ではあるが、所属する秤屋は違えど同期の好だし、お世話になっているボノフさんの身内。


 友好的とは言えない関係であったガイでさえ、無料で助けてあげたのだ。

 無条件でアスリンを無事街まで届けるのが俺の義務であろう。



 だが、そんな俺の心の内をアスリンが分かるはずも無く、



「で、お礼はいかほど必要なのかしら? 悪いけど手持ちのマテリアルはほぼ使い切ってしまったの。ボノフさんやマダム・ロータスに迷惑はかけられないから、払えるとしたら、この身体くらいね」



 陰のある薄笑いを浮かべながら、抑揚のない声でそう告げるアスリン。



「できれば、私だけで済ませてほしい。こうなったのも私の責任だから…………………、もし、良かったらあっちの隅で味見でもしていく? 水瓶を使うマテリアルも節約していたから、ちょっと臭うかもしれないけど………」



 そう言ってアスリンは、玄室の隅の簡易なカーテンで仕切られて区画を顎で示す。

 

 投げやりな感じで挑発とも取れるセリフを吐く。

 色々なモノを諦めてしまった人間によくある振る舞い。


 

 戦力を失い、絶望の際まで追い詰められた少女。

 偶然にそこに現れた、圧倒的な武力を持つ男。


 少女は生き残る為にはどんな条件でも飲むしかない状況。

 報酬として渡せるお金も無いとなれば、そういった結論に落ち着くことだって良くある話。

 

 男がよっぽどの善人かお人よしならともかく、普通に性欲を持つ男性なら邪なことを一つや二つ、想像力を働かせてしまうだろう。

 こんなダンジョンの地下奥深くであれば尚更。

 

 アスリンがそんな風に考えるのも仕方がないことなのかもしれないが…………

 

 お世話になっているボノフさんの手前、そんな不義理なんてできるはずもなく…………

 


「見縊るな、アスリン。俺は婦女子の弱みに付け込むようなことなんてしない」



 アスリンの目を真正面から見つめてはっきりとした言葉を口にする。



「俺達は共にレッドオーダー相手に戦う狩人のはずだ。だったら助け合うのは当たり前だろう」


「そう…………、貴方には無償で弱者を救う余裕があるのね…………、羨ましいわ」


「アスリンッ!」



 アスリンが少々捻くれた言葉を返したことに、隣にいたドローシアが声を荒げる。



「ヒロさんは私達を助けてくれるって言っているんですよ! 何でそんな言い方をするのですか!」


「……………そうね。私が悪かったわ。ヒロ、ごめんなさい」



 ドローシアに叱られ、素直に頭を下げるアスリン。

 しかし、どうにも感情が籠らず、無気力な様子が抜けきれない。


 どうやら完全に気持ちが切れてしまったのであろう。

 自分の力の象徴であった重量級機械種が全て失われたのだから、今まで培ってきた狩人としての自負も、機械種使いとしての自信も木っ端みじんに砕けてしまった。

 

 あの自信過剰で生意気なアスリンはどこにもいないのだ。

 もうこうなってしまっては、再度奮起させるのは至難の業。



「はあ…………」



 そんなアスリンの様子に小さくため息を漏らす。



 今まで散々俺に絡んできたアスリンに対し、いつか痛い目に合わせて凹ませてやろうと考えていたこともあった。

 妄想の中で追い詰めてエッチな展開を想像したことも一度や二度ではない。

 

 何せ、この街で出会った女性の中では、未来視の中での鐘守を除けば、トップクラスの美少女なのだ。


 こちらは青春真っ盛りの10代の身体………中身はおっさんだけど。

 アスリン程の美少女を前に淫らな妄想を一度も抱くなという方が難しい。

 

 だが、現実を目の前にすると、とても手放しで喜ぶことなんてできない。

 


 ネット小説では、イキリ散らしたライバルキャラが『ざまぁ』されるのは良くある展開。

 自信満々の高飛車なキャラが自らの行いが原因で落ちぶれて、嘆き悲しむ姿は今までのヘイトを解消させる最も重要な場面。

 読者のカタルシスを満足させるハイライトのシーンと言えるのだが………


 しかし、実際、快活だった女の子が目の前で別人のようになってしまっている姿を見ると、素直に『ざまあ見ろ』とは思えないのだ。

 

 


「………………謝罪が足りない? なら、裸になって土下座でもしましょうか?」



 俺が黙ってしまったのを見て、アスリンが本気かどうかも分からない言葉を続けてくる。



「いや、俺にそんな倒錯的な趣味は無いから」



 とりあえずアスリンの馬鹿げた提案を即座に却下。


 しかし、断りのセリフとは裏腹。

 一瞬、心が揺るがなかったわけではなかったが………












「ようやく、この部屋から出られるんだね! きゃほいっ!!」


「ニル! 騒いでないで片づけを手伝いなさい!」  

 


 いつまでもセーフエリア時間が過ぎた玄室に留まるわけにはいかない。

 白拍子木で維持しているが、その間中マテリアルがドンドン消費されていくのだから。


 さらにダンジョンでは、あまり長期間同じところに居続けるのは避けるべきなのだ。

 どこかで休むにしても、ここではなく別の玄室の方が良いだろう。


 

「はいは~い! えっと、簡易トイレはこっちに収納して………」


「水瓶を忘れないように!」


「分かってるよ~、本当にドローシアは細かいんだから」



 3日間も過ごしていたのだから、玄室内は色々と散らばっている。

 よく見れば隅の方では立てかけた棒に洗濯したのであろう下着がぶら下がっている状態。

 女性だけのチームにありがちな気の緩み方だ。

 


「ヒロさん………、そっちはあまり見ないでください………」


「あ、すみません」



 部屋の片づけの陣頭指揮を執るのは、しっかり者らしいドローシア。

 ニルやアスリンに的確な指示を飛ばしながら、テキパキと撤退準備を始めている。



「マスター、私達もお手伝いしましょうか?」


「うーん…………、いや、これは彼女達の仕事だろう。任せておくほうが良い」


「はい、承知しました」



 秘彗がおずおずと片付けの手伝いを申し出てきたが、少し悩んだ後に却下。

 

 一秒でも早くといった緊急事態ならともかく、数分ぐらいは誤差の範囲内。


 それに他のチームの備品の扱いは慎重にならざるを得ないから注意が必要。


 なら最初から手を出さない方が良い。





「ヒロ。準備、完了したわ」



 最後はアスリンが俺に撤退準備が完了したことを告げに来る。



「そうか。では、もう一度確認するけど、一緒に地下35階まで向かうということでいいね?」



 俺達は先行隊に合流する為に2日間かけて地下33階にまで降りてきた。

 今更アスリン達の為だけに地上へと戻ることはできない。


 かといって、俺達が安全な場所まで送り届けるだけにしても、相当上まで戻る必要がある。


 今のアスリンのチーム戦力では地下33~25階は完全な死地。

 地下25階のエレベーターまで護衛して地下10階へ送れば、チーム単独でも出口まで辿り着けるだろうが、少なくとも往復3日間以上のロスが発生する。

 

 この緊急依頼中にそんな余裕など在るはずがない。

 そんなことをするぐらいなら、少々足手まといになったとしても、連れていく方がマシであろう。



「地下35階まで行って、依頼を果たすまでは俺達に同行してもらうことになるが………」


「それしか選択肢が無いんだもの。貴方に全て任せるしかないでしょう」


「それはそうだけど…………、ちなみにそちらの戦力は?」


「ニルは戦闘では攪乱役ね。それと警戒と罠への対処。機械種の修理もできるけど、そちらの整備士系には敵わない」



 アスリンはチラッと胡狛へと視線を飛ばし、続けて自分のチームメンバーの能力について説明。



「ドローシアは遠近どちらも対応できるオールラウンダー。近接戦なら電磁鉄棍に断衝撃シールド、遠距離ならミドルの下級を使うわ…………、でも、この辺りの重量級には歯が立たない」



 まあ、それはそうだろうね。

 魔獣型ならともかく、混沌獣の重量級は中央の猟兵団でも1対1でやり合う奴は少ない。



「残る私だけど……………」



 最後に自分の戦力を告げようとするアスリン。

 右手で自分の首のネックレスをカチャカチャと弄ると、




 フォオオオオオ………

 



 アスリンの頭上1mぐらいの空間からヌッと突き出てくる巨大な右腕が1本。

 分厚い装甲に覆われ、悪魔のごとき鉤爪を生やした巨人の腕。

 

 上腕部分までしか見えないが、それだけでも2m以上。

 その全身像は全高8m以上になることは間違いない。


 確か、アスリン自身が『イバラ』と呼んでいた重量級。

 

 しかし、先ほどの話では従属機械種は全て失ってしまったはず。


 これは一体………



「何だ、いるじゃねえか、従属機械種がよ。以前、お前が腕だけ見せびらかしていた奴だろ?」



 ガイが当然の疑問を口にすると、



「違うわ。これは…………」



 アスリンが頭上に出現した巨人の腕を見上げると、



「え? ……………本当に腕だけ?」



 スッとアスリンの前に滑るように移動した巨人の腕。

 その根元部分は肘の上からスッパリと切り落とされていた。


 どうやら亜空間倉庫に本体が居て、腕だけを出しているのではなく、腕部分しかないのだ。

 それならば個人携帯の亜空間倉庫にもギリギリ収納できてもおかしくはない。



「これはこういうモノよ。私を守るだけなら十分だけど、腕一本じゃあ、メンバーまでは守り切れない」

 

「機械種じゃなくて、発掘品か?」


「……………まあ、そんなモノ。だいたい30mくらいの距離まで、自由自在に動かせるわ」



 ガイの質問に、曖昧な表現で答え、



「全力で振るえば、重量級も一撃よ………………、でも、使用するにはある程度集中しないといけないし、当然、攻撃している間は防御には使えない。攻撃と防御の切替がネックなの。普段なら重量級を盾にしながら使っているんだけど………」



 ギュッと眉毛を顰め、何とも言えない表情を浮かべるアスリン。



 その先は言わなくても分かる。



 巨腕1本をドローンのように動かして戦うのがアスリンの戦闘スタイルなのだろう。

 ただし、動かしている間は操作に集中せねばならず、その間は敵からの攻撃を躱せない。


 だから絶対の盾となる重量級を前に置いて使用しているのだ。

 その盾がいなくなれば、たちまち運用が難しくなる。


 どれほど攻撃力が高くても、使用者の防御力が低ければ、いずれ攻撃に晒され命を落とす。


 さらに言えば、この階層の敵のレベルが相手だとドローシアの護衛では力不足。

 たとえ身を挺しても、アスリンの命をほんの数秒伸ばすのが精一杯であろう。


 

 しかし、射程距離30mの思考操作ができる発掘品武具というのは珍しい。

 もし、自分で戦いながらでも操作できるようになれば、相当に戦術の幅が広がるだろう。

 

 上位の発掘品は使いこなしていけば、その秘めたる力を解放していくという話も聞くから、まだまだアスリンには将来性があるのかもしれない。




 だけど、気になるのはやはり、『イバラ』という名前。


 巨人の腕………、いや、巨人と言うより、鬼の腕に近い形状。


 すると、どうしても、有名な小説の一節が頭に浮かぶ。


 さらには、ボノフさんの所で聞いた話と繋がって、どうにも良くないイメージが連想されてしまう。




 おいおい、それ、取り返しに来るヤツじゃないだろうな?



 

 思わずそう質問したくなってくるが、そこまで信頼関係が築けている訳でもないのに、突っ込んで聞こうとするのはマナー違反だろう。

 少なくとも向こうから切り出されるまでは、深く聞かない方が良い。




「分かった。どのみち、君達が前に出る機会は無いと思う…………、ぶっちゃけ、俺もガイもだいたいの戦闘はコイツ等に任せていたからね」


「ストロングタイプの小隊…………、その上、重量級まで…………」



 アスリンの視線が立ち並ぶ秘彗達の方へと向き、その目が眩しいモノでも見るように細められる。



「何で貴方はこんな辺境にいるの?」


「人は生まれる場所を選べないんだよ」



 アスリンの問いに、ちょっとばかり恰好を付けたセリフで返す。

 多分、どこかの小説か漫画の中のセリフだったと思うけど………



「辺境で生まれたからには、辺境のスタートになるのは当たり前だろ? ちなみにコイツ等を手に入れた場所は全部辺境内だぞ」



 最上の装備、最上の仲間を探すというのも、中央へ向かう目的の一つだが、辺境の段階でここまでの陣容を揃えることができてしまった。

 果たして、俺は中央まで行って、これ以上のナニを手に入れようとしているのか…………


 ふと、俺がそんな益体も無いことを考えてしまっている最中、



「そう…………、本当にそうね。人は生まれる場所を選べない………」



 なぜかアスリンは俺のセリフをオウム返しのように繰り返し呟いていた。











 玄室を出た俺達は改めて陣形を再編。


 最前衛は白兎、剣風、剣雷。

 前衛に秘彗、毘燭、俺、ガイ。

 中衛にアスリン、ニル、廻斗。

 後衛に森羅、ドローシア、胡狛。

 最後衛に輝煉。


 

 できるだけ中の方にアスリンチームを置いて、代わりに俺とガイが前に出る形となる。


 とはいえ、俺とガイが武器を振るう機会はほとんど無いはず。

 この階層であれば、ストロングタイプの4機の猛攻に耐えられる敵はいないであろうから。







「撃ち抜け! シューティングスター!」



 秘彗が翳した杖の先から、粒子加速砲の弾幕が飛ぶ。

 煌めく流星のごとく、薄暗い通路の闇を引き裂くように敵集団へと降りかかる。



 ダダッ!



 尾を引く流星の後を追いかけるように剣風、剣雷が駆け出す。

 秘彗が放った粒子加速砲で怯んだ隙を突き、その剛剣を嵐のように振り回して滅多切り。


 相手に反撃を許すことなく斬殺。

 人間の上半身に蠍の下半身を持つ重量級、機械種パピルサグの群れを殲滅。




「あれだけの数を……………」



 アスリンが呆然とした様子で呟く。


 自身の従属機械種達が死力を以って足止めしかできなかった相手を一方的に叩きのめしたのだ。

 あまりの力の差に驚きの声しか発せない模様。



「ここまでストロングタイプが揃うと、凄まじい殲滅力になりますね。重量級の群れが一瞬で崩壊するなんて…………」



 ドローシアは幾分冷静にストロングタイプ達の戦力を図っている様子。



「魔術師系がいることもそうですが、やはり騎士系2機の制圧力が強い。敵を後ろに抜けさせないゾーンオブコントロールが優秀だと、パーティーが安定しますからね」



 実に元猟兵らしい意見を述べてくる。

 

 前衛の最大の役目はパーティーの物理的な盾となることだから間違いではない。

 

 剣風、剣雷の職業である騎士系は、他の前衛職に比べ、防御力と同種のよる連携が強いのだ。


 同時期に入隊した2機だけに、両機が並んだ際の連携は他に追従を許さない。

 

 剣や盾を駆使し、お互いの位置を確認しながら、絶妙な体捌きで敵集団を翻弄。

 元々、1対多を得意とする騎士系なのだ。

 これが剣士系や武道家系だったら、もう少し前衛を増やさないといけなかったに違いない。



「うふぁあああああ!! 凄いねえ!!」



 ニルは味方の蹂躙劇に喜びの声を上げる。



「これだったら地下35階もあっという間だね! チビちゃん!」


「キィキィ!」



 いつの間にか廻斗と仲良くなったようだ。

 廻斗と手を繋いで仲良くステップを踏んでいる。




「コラ、ニル! 遊んでいるんじゃありません!」


「え? 遊んでないよ。同じパーティーを組むなら、コミュニケーションは必要じゃん? ニルはこのチビちゃんと仲良くして連携力を深めようとしているんだよ」


「……………本当にニルは言い訳ばっかり」



 ニルのお気楽さを嗜めるドローシア。

 しかし、ニルの方は全く聞く気が無い様子。



「ドローシアが小言ばっかり言うからだよ。そんなに口煩いとニルみたいにモテないよ」


「アンタがモテたとこなんて、見たこと無いけど?」


「それはドローシアの目が節穴なんだよ。ニルルンの可愛さに男性陣はいつだって釘づけなんだから……ねえ? そう思うでしょ」


「キィキィ!」


「ほら、チビちゃんもそう言ってる」


「嘘つけ!」



 俺達の後ろで飛び交う女性陣の会話。

 どうにも活性化中のダンジョンの中だとは思えない騒がしさ。


 まあ、戦闘が終わった直後だから、多少の雑談は構わないけど。 




「姦しいこった…………」



 背後のキャピキャピした声に当てられて、ガイがうんざりしたような感想を漏らす。



「同感…………」



 思わず俺もその意見に頷いた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る