第546話 紹介4
「タッサと申します………ドラ。機械種ドラゴンメイドと機械種バーサーカーのダブル…………ドラ。先輩方、ご指導・ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします………ドラ」
「トラメだガオ! 機械種タイガーメイドと機械種チャンピオンのダブルだガオ。よろしくガオ!」
「クジャク………チュン。機械種ウイングメイド、機械種ホークアイのダブル。よろしくお願いします………チュン」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチッ!
お城の前で皆へと自己紹介するメイド型3機。
高らかに響く皆からの拍手の音。
夜空の下、煌びやかに明かりが灯るお城をバックに自己紹介する様は、まるで舞台劇場での一幕。
深緑のロングヘアーに竜の角。
緑を基調としたチャイナ服系統のメイド服から伸びる竜の翼と尻尾。
175cmを越える長身に豊かな胸を携えた半竜メイドである辰沙。
黄色と黒のメッシュが入ったミドルボブから飛び出す虎耳。
白と黒の虎縞模様の現代風メイド服にミニスカート。
165cmくらいのスリムなスタイルの虎耳メイドである虎芽。
紺色おかっぱヘアーで両目が隠れたメカクレ少女。
着物風メイド服に身を包み、背後には髪と同じ色の鳥の翼。
150cm程度の貧乳ロリ体形の鳥メイドである玖雀。
先の遠征先で手に入れた新たな俺のチームメンバー。
秘彗、胡狛に続き、3,4,5機目となる女性型。
つい5か月前までは1機しかいなかった女性型が5倍となった。
些か偏りがあった男女比も徐々に均等に近づいていく。
俺も男だから、女性が増えることは大変喜ばしい。
「もう顔合わせは済んでいるだろうが、それでもきちんと場を設けてあげたかったんだ。彼女達にはこれから中のことをお願いすることになる」
皆に向かって、メイド型3機の立ち位置を知らせておく。
「最終的にはこの城を俺の本拠地にするつもりだから、その管理なんかを任せることになるだろう。その時は………森羅! お前がメイド達3機を統括して指示するんだぞ」
「はい、お任せください」
森羅が前に出て俺に向かって一礼。
俺のチームでも3番目に古い森羅は、チームの補給や庶務的な仕事を引き受けてくれている。
戦闘では飛び抜けた活躍をすることはできないが、内向きなスキルを投入していることもあり、チームの裏方要員としての立ち位置を確保。
外に出せないメンバーが多い中、数少ない表に出しても問題が少ない機種なのだ。
それ故に、俺のチームの家宰みたいな役目を請け負ってもらっている。
「よろしくお願いします!(ドラ、ガオ、チュン)」
メイド型3機が揃って自分達の上司となるだろう森羅へと頭を下げる。
森羅は自分達よりはるか格下の機種ではあるが、幸いにして、その下に入ることに拒否感は無さそうだ。
元々がメイドなのだから、誰かの指示を受けることに抵抗が薄いのかもしれない。
「あとは……………、そうだな。せっかくメイドがいるんだし……、秘彗や胡狛に任せていたモーニングコーヒーを…………」
「ええっ!!」
「わあっ!」
秘彗がいきなり大きな声をあげたからビックリ。
思わず秘彗の顔を見ると、大きく目を見開いて俺を見つめており、
ジワッ………
まるで世界が終わるかのような絶望の表情。
そして、その大きな目からは涙が浮かんで…………
「ああっ! ちょ、ちょっと! えーーーっと………、 分かった! 秘彗と胡狛はそのままだ。いつも通りモーニングコーヒーを頼む。辰沙達には食後のコーヒーを頼むとしよう」
「はい、承知致しました………ドラ」
「コーヒーを入れるのは得意だガオ」
「美味しいコーヒーをお持ちいたします………チュン」
シャラリとメイド服を翻し、3機3様の礼を返すメイド型。
俺からギリギリで続投を告げられて、ほっと胸を撫で下ろす秘彗。
そんな秘彗を見て、ニッコリと微笑む胡狛。
どうやら秘彗も胡狛も俺へとモーニングコーヒーを届ける役目を譲りたくない様子。
手間を減らしてあげようと思っていたが、これは俺の余計なお節介だったようだ。
うーん…………
今まで食後のコーヒーまでは頼んでいなかったけど………
まあ、いいか。
女性型達との接点が増えることを喜ぶとしよう。
「えっと、他には………何をしてもらおうかな?」
メイド型を入手するのは夢であったが、具体的に何をしてもらうとかはあまり考えたことは無かった。
俺的には家の中にメイドさんがいるだけで大満足。
しかし、メイドとして生まれた彼女達からすれば、やはり何かの役目を与えてほしいと思って当然。
さてさて、一体何をしてもらうとするか…………
「マスターのお望むことでしたらどのようなことでも………ドラ」
「マッサージ、耳かき、膝枕! あと、添い寝とかどうだガオ?」
「少し恥ずかしいけど、頑張るチュン」
「うえっ? そ、添い寝…………」
辰沙達から飛んできた斜め上の提案に言葉が詰まる俺。
いや、メイドなんだから、膝枕や添い寝以外はそこまで突飛と言う訳では無いのだが………
しかし、玖雀はともかく、辰沙とか虎芽の膝枕とか添い寝とかは大変魅力的で………
ゴクリッ…………
思わず唾をのみ込み、辰沙の胸とか虎芽の腰辺りに視線を漂わせてしまう。
メイド達から持ち掛けられた誘惑に、完全に頭の中がピンク色に染まった模様。
ストロングタイプのダブルと言えど、最後までできる程人間そっくりには造られていない。
しかし、メイド服から見える素肌は間違いなく人間に非常に近い手触りのはず。
さらに言えば、その胸やお尻も女性特有の柔らかさを兼ね備えている。
ちょっとぐらいお触りしても…………
別に俺の従属機械種なんだから、多少揉むくらいなら…………
ぎゅっと抱きしめてキスとかも…………
いやいや!
この子達は従属機械種だ。
マスターが俺だから慕ってくれているだけであって、俺に恋愛感情があるわけではない。
あったとしても従属契約に基づく偽りの愛情であろう。
そんな子達に不埒なことをするのはいかがなものか!
…………でも、触りたいし、揉みたいし、ぎゅっとしてみたい。
多分、向こうも喜ぶだろうし、俺も嬉しい。
だからこれはWINWINという奴では?
だけど、彼女達は仲間だ。
仲間に道を外れるようなことはしたくないし…………
煩悩が脳裏に溢れかえり、前の世界で培った道徳心がそれ等をせき止めようとする。
せめぎ合う欲望と良心。
それは拮抗状態のまま、結論を出すこともできずに………
「チィッ!!」
突然、辺りに響いた舌打ちの音。
それは城の前で行われていたメイド達3機の紹介の場に水を差す所業。
明らかにこの場の雰囲気を無視する行動。
そんなことをする奴は俺のチームでは1人しかいない。
「フンッ!!」
皆の視線が集中する中、鼻息を鳴らして前に出てきたのはもちろんいつものベリアル。
不機嫌そうに表情を歪めながらメイド3機を睨みつけている。
纏う雰囲気からいつも以上に苛ついている様子。
彼女達の俺に対しての提案がそこまで気に入らなかったのであろうか。
「………………」
「ムッ!」
「……………チュン」
自分達より遥か格上の機種であり、先輩でもあるベリアルの不躾な態度に対し、メイド型3機は怯えた様子を見せず、
辰沙は表情を変えず、冷静にベリアルを見つめ、
虎芽は明らかにムッとした顔。
また、気弱そうな玖雀も、少しだけ眉を顰めただけ。
ストロングタイプのダブルであるが故の反応。
胡狛がそうであったように、魔王たるベリアルに対して毅然とした態度。
彼女達は守られるだけのメイドではない。
近接戦闘系や斥候系の魂をその身に宿した戦士なのだ。
そんなメイド達の様子にベリアルの機嫌はさらに急降下。
ただそれだけで周りの気温が5,6度下がったようにも感じるほど。
アイスブルーの瞳を一層輝かせながら、その芸術的なまでに美しい唇をゆっくりと開く。
果たしてベリアルから飛び出すのは、
心臓を鷲掴みするかのような脅しか、
鑢でこそぎ落とすような嫌味か、
それとも、魂を泥で汚すような嘲りか、
性根を押し潰すような罵声か、
メイド達へと向けて、ベリアルが発した言葉は…………
ベチャッ!!
「え?」
思わず声が漏れた。
ベリアルが言葉を発しようとした瞬間、突然、その顔に白い皿が張り付いた。
そして、その白い皿の上に乗っていた白い物体…………おそらくはクリームパイ。
それを前脚で持ってベリアルの顔面に押しつけたのは、これまた白い機体の白兎。
なぜか白兎が何も言わず、ベリアルの顔面にクリームパイが乗った皿をベチャッと叩きつけた。
まるでテレビ等で見るコメディーやバラエティでのギャグシーンの一幕。
それがなぜか俺達の前で行われたのだ。
………………………………………
いきなりの意味不明の白兎の行動に、一同が完全に沈黙。
まるで時間が止まってしまったかのように。
「………………え? な、なんで? クリームパイ?」
辛うじて、再起動に成功した俺が、声を絞り出すようにして白兎に尋ねる。
すると、
ピコピコ
『もうベリアルの持ち芸はマンネリ化してきたので、今回は過程をすっ飛ばしてオチを最初に持ってきました』
ベリアルの顔面に皿を押し付けたまま、耳をピコピコさせて説明する白兎。
「オチって?」
呆然と聞き返す俺。
もう白兎の行動が全然理解できない。
だが、理解できなくとも、当然ながらクリームパイをぶつけられた当のベリアルは激怒する訳で、
「このクソウサギがああああああああああああああああああああ!!!!!!」
ベリアルが吼える。
その機体が炎で包まれ、顔面にぶつけられたクリームパイは一瞬で焼却。
さらには、貴公子然としたベリアルの姿が一瞬で変形。
顔面が鱗に包まれ、腕には棘が、臀部には尾が生え、緋王戦で見せた近接戦モードへと切り替わる。
「ぶち殺す!」
白兎へと何の躊躇も無く殴り掛かるベリアル。
しかし、白兎はヒョイッと後ろに跳躍しながら空へと飛び上がり、
パタパタ
『あばよ、とっつあ~ん!!』
軽い身のこなしを見せながら空中へと逃げ出した。
「逃がすかあああ!!!」
空へと逃げる白兎を追いかけ、自分も空へと飛び上がるベリアル。
ガンッ!! ゴオオオオッ!
ドンッ!!
ダンッ!! ガキンッ!!
ボンッ!! ザンッ!!
いきなり始まった、空中庭園の空で繰り広げられる空中戦。
赤の炎を纏ったベリアルと、白い極光を纏った白兎が夜空をバックにぶつかり合う。
2機が接触する度に、衝撃が走り、爆音が轟き、光が舞い、火花が散る。
世間では強者とされるストロングタイプ等、足元にも及ばぬ速度と破壊力。
それはダブルであっても同じこと。
メイド達3機は突然始まった人知を超えた戦いに、ポカンと口を開けたまま呆けた表情。
「あれが魔王…………か………ドラ。とても我等では対抗できそうにないドラ」
「ハクトさんも凄いガオ………、一番最初の従属機械種だから筆頭なのかと思っていたガオ。あれは絶対に普通の機械種ラビットじゃないガオ」
「お二人ともアタシよりもずっと早い………チュン」
俺のチームでも双璧とも言える戦闘力を持つ2機。
その2機が上空で激しく戦闘するシーンを見て、メイド型3機は初めてその隔絶した実力を目にしたのだ。
魔王が魔王と呼ばれる所以を。
そして、白兎が従属機械種筆頭となっている理由を。
奇しくもこの戦いが彼女達の認識を塗り替えた。
皆が通る、今までの常識を打ち破る関門を潜り抜けた。
これを以って、彼女達は真に俺達の仲間になったと言えるのかもしれない。
ガキンッ! ドガアアアアアアアンッ!!!
ボンッ!! ザンッ!!!
バチンッ!! ダンッダンッ!!
地上のメイド達の感想を他所に、さらに激しさを増す魔王とウサギの戦い。
赤い光と白い光が共に流星となって、お互い引き合うような形で何度も交差。
まるでテレビアニメで見たモビルス○ツ同士の高速戦闘。
フリフリ
『ニュー白兎は伊達じゃない!』
「制御スキルが増えたぐらいでいい気になるな!」
フルフル
『見える。動きが見える』
「クッソ! 当たれえええ!」
ピコピコ
『刻が見える…………』
「あの世を見せてやるよ!」
白兎、それはアム○・レイのセリフじゃないぞ。
別キャラでしかも死亡時のセリフ。
いや、それはともかく…………
2機の戦闘を見るに、出力はベリアルが勝っているようだが、速度と小回りは白兎が上。
さらに空中戦となると、元々陸戦仕様のベリアルより、明確に白兎が有利となる。
それでもベリアルが食らいついているのは、機械種最上位機体の能力差によるもの。
さらには近接戦闘モードでいつもよりパワーやスピードがアップしている模様。
「アイツ、あの姿を見せたくなかったとか言っていたクセに………」
一度、俺に見せてしまっているからだろうか?
もしくは、そんなことも気にならないくらいに激怒しているかであろう。
ドゴオオオオオオオンッ!!
ボガアアアアアアアンッ!!
両者の戦闘は留まることを知らず、ドンドンとエスカレートしていく。
夜の闇を引き裂く音と光が、空中庭園の中央にそびえるお城の城壁をビリビリと震わせる。
超重量級機械種をも一蹴するような超高位機種のぶつかり合いだ。
その一撃がほんの少し城壁を掠めただけでも、俺の将来の住居であるお城は倒壊する危険性が…………
ドオオオオオオオオオオン!!
その時、白兎とベリアルが空中で真正面から衝突。
強大な2つの力がぶつかり合ったことで衝撃波が発生。
その余波は地上まで及び、より空に近い城壁の一部にヒビが………
ブチッ!!
「お前等、俺のお城を壊すんじゃねえええええええええ!!!!」
俺は自分の車や家を傷つけられたり、壊されたりするのは我慢できない質だ。
白兎とベリアルの戦闘の余波で、ほんの僅かではあるがお城の一部が破損。
その瞬間、俺の怒りが一瞬で沸点に到達。
七宝袋から捕獲用宝貝である九竜神火罩を取り出して、空中戦を行う2機が交差した瞬間を狙って投擲。
ビュンッ!!!
投擲された九竜神火罩は巨大化しながら空へ向かって一直線。
バクッ!!
巨大な卵が真っ二つに割れるような形で、鍔迫り合いを行っている白兎とベリアルをまとめて飲み込んだ。
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