第545話 授与



「ただいまより、授与式を始める!」



 立ち並ぶメンバーを前に宣言。


 ここは先の暴竜戦で手に入れた『空中庭園』。

 お城の周りの広場を会場としての式典。



 深夜、街の外に出て、白鈴を灯しながら隠蔽陣を大きく展開。

 その陣内に収まるように七宝袋からこの『空中庭園』を取り出した。


 しかし、名こそ『空中庭園』だが、今は地面から30m程しか浮かばせていない。

 これ以上、空へと上昇させると隠蔽陣の効果範囲から外れてしまうから。


 故に空中庭園の規模からすれば地面スレスレと言っても良い位置に留まらせ、今回の授与式の場として使うことにした。


 メンバーも増え、流石にそろそろガレージ内が狭くなってきたということもある。

 少々のマテリアルの負担はあるけれど、数時間くらいなら何の問題も無い。


 さらに、この庭園には軽めの防御フィールドが張り巡らされており、夜に飛び回っているはずの機械種インセクトの侵入を防ぐ。

 故にこんな夜の野外ではあれど、無粋な虫たちに集られることなくイベントを進行させることができるのだ。


 ちなみにこのまま空中庭園を移動させると、数限りない機械種インセクトと防御フィールドがぶつかり合うことになるので、マテリアルを馬鹿食いしてしまう。

 もっと上空に上昇すれば機械種インセクトもいないのだろうが、今度はスカイフローター達が襲ってくる。

 

 残念ながら夜の移動方法としては使えない模様。

 夜は素直に寝ておけということだろう。







「この度の暴竜戦における皆の活躍に対しての褒美だ。呼ばれた者は前へ出るように」



 街へと帰還し、白露と別れたのが3日前のこと。

 帰還した日とその次の日は、ずっと寝っぱなし。

 

 精神的な疲労もあったのだろう。

 メンバー達は色々と使ったモノの補給や買い出しに動いてくれていたようだが、俺自身、とてもベッドから起きる気力も無く、ずっと寝室でゴロゴロとしていた。


 3日目の夕方になり、ようやく気力も回復して活動を再開。

 しかし、街へと繰り出すには遅すぎた時間の為、先にメンバーへの褒美を授与することにしたのだ。

 

 

「まずは、白兎。飛空艇の発見、空中戦での敵軍団の殲滅、ヨシツネの窮地を救ったこと、瀝泉槍との融合により緋王討伐の決め手となったこと。これ等の活躍に対し、『冷却制御(上級)』と『生成制御(上級)』の翠石を授与する」



 ピコピコ


 神妙な態度で前に出てくる白兎。

 そして、俺の前で立ち止まり、恭しく一礼。



「『冷却制御』と『生成制御』だけでいいんだな? 『放電制御』の翠石もあるが………」


 パタパタ



 白兎曰く、有名な某電気ネズミとキャラ被りしそうだから遠慮したいとのこと。


 別にお前が電気を放ったって、ピカチ○ウと混同するヤツはいないと思うけど…………



 パクッ



 俺が差し出して翠石2つをパクッと一飲みする白兎。


 すると次の瞬間、白兎の口から放たれる凍える吹雪。



 プフォオオオオオオオオオオオ!!!!



 斜め上に噴き出される超低温のスノーブレス。

 生成制御で生成した水を吐き出し、それを冷却制御で急激に冷凍することで作り出される人工的な雪嵐。


 これで白兎は炎に加え、水・冷気という相反する属性も扱えるようになった。

 まるでどこかの氷炎将軍か、半冷半熱のヒーローみたい。


 これに時空属性を備えているのだから、白兎の向かう先はどの辺りになるのだろう?

 


 新たな力を得た白兎は飛び跳ねながら、吹雪を口から吐きまくり、『ダイアモンドダスト!』とか、『氷雪系最強!』とかやっている。



「白兎、あんまり燥ぎすぎるなよ!」



 一言白兎に注意してから、次の授与へと移る。



「森羅。飛空艇での銃撃でスカイフローター迎撃と、戦車での砲撃で敵陣突破と神殿防衛戦に貢献。よって、『管理(上級)』と『輜重(上級)』の翠石を授ける」


「天琉。同じくスカイフローターの迎撃と、異空間内での制空権確保に貢献。よって、【射撃(上級)】の翠石を授ける」


「豪魔。神殿防衛戦において、皆を率いて見事犠牲を出さずに守り切ってくれた。よって、『戦術(上級)』と『指揮(上級)』の翠石を授ける」


「秘彗。飛空艇、戦車とオペレーターとして活躍。また、神殿での防衛戦では数々の軍勢を薙ぎ払ってくれた。よって、『拳術(上級)』と『戦略(上級)』の翠石を授ける」


「浮楽。白露を守り、廻斗、ラズリーさんとともに竜種を討伐。よって、『組締術(上級)』と『投倒術(上級)』の翠石を授ける」


「廻斗。自らを省みず、竜種討伐に貢献してくれた。よって、『小型銃射撃(上級)』と『中型銃射撃(上級)の翠石を授ける』


「剣風。度重なる戦闘において、後衛メンバーの護衛の任を全うしてくれた。よって、『大型銃射撃(上級)』と『長剣術(上級)』の翠石を授ける」


「剣雷。剣風と同じく、敵を薙ぎ払い、味方を守る良き戦いぶりを見せてくれた。よって、『大剣術(上級)』と『二刀流(上級)』の翠石を授ける」


「胡狛。飛空艇や戦車の操縦、神殿での防衛戦に貢献。よって、『植物学(上級)』と『心理学(上級)』の翠石を授ける」


「毘燭。参謀としての進言と、メンバーへの被害軽減に貢献。よって、『医学(上級)』と『生理学(上級)』の翠石を授ける」



 それぞれ1機ずつ順番に前へと立たせ、『晶冠開封』を行ってから翠石を投入していく。

 


「次は………ヨシツネ!」


「ハッ」


「スカイフローター迎撃から、緋王討伐まで幅広い活躍をしてくれた。ヨシツネには破損した左腕の代わりとしてヨシツネ自身が切り落とした緋王の腕を授ける」


「ありがたき幸せ」



 恭しく頭を垂れるヨシツネ。

 片腕は無くともその礼儀に一片の隙もない。

 群青色の甲冑武者が颯爽と主に跪く光景は、まるで大河ドラマのワンシーン。



 作業自体は明日以降となるが、緋王の腕ともなればその価値は天井知らず。

 皆と比べ頭一つ抜けた褒美ではあるが、今回の戦いでは一度大破の憂き目に遭うなど、最も過酷な立場で戦いを潜り抜けてくれた。

 決して過分とは言えない褒美。



「ベリアル。緋王戦では頑張ってくれたな。お前には暴竜の牙だ。その角を修繕する部材として使うぞ」


「別に僕はこのままでもいいんだけど、マスターがどうしてもって言うから仕方ないね……………、でも、絶対! 施術中はあのクソウサギを近寄らせないでよ!」



 セリフの最後の部分に特に力を込めるべリアル。

 

 夜空に浮かぶ幾千の星々の光を集めたような輝く美貌。

 あまりの美しさに現実感すらおぼつかなくなる程。

 だが、忌々し気に『クソウサギ』と口にした瞬間、ぎゅっと眉毛が中央によって、微かに歪む。


 その時だけはまるで嫌いなモノを目にした、どこにでもいる少年に見えた。

 超然とした魔王ではあるが、白兎と絡む時だけ、どこか幼くなってしまう。



「分かってるさ……………、で、次は、輝煉!」


 カツンッ!


「空中戦、及び緋王戦にて、重量級の体格を活かし、この度の討伐戦に多大な貢献をしてくれた。よって、『蹴撃術(上級)』の翠石を与え、後日、暴竜の装甲を用いての強化改造を行う」


 スッ


 前脚を曲げて俺に向かって頭を下げる輝煉。


 ヌッと巨大な頭が近づくと、少しばかり威圧感が凄いが、コイツなりの感謝の表し方だと思って我慢。


 こういったメンバー達への地道な配慮がチームの結束を高めるのだ。

 感謝の言葉を信賞必罰が人心掌握には不可欠。



 ふう…………チームリーダーというモノは大変だなあ。











「これで全員に行き渡ったな」



 新たなスキルを投入されたメンバーは思い思いにその力を確認している様子。



「濃淡はあるだろうが、間違いなく戦力強化につながったはず………」



 白の遺跡で発見した大量の翠石の大部分をメンバーに授与することができた。


 投入したスキルはすぐに実戦で役に立ちそうなモノばかり………一部を除いて。

 

 一応、皆に希望を聞いた上での割り振りだ。

 スキルはそれぞれ一つずつしかないから、他の者に配慮したり、遠慮した者もいるだろうが………

 

 



 白兎とともに散らばっている皆の様子を見る為に巡回しようとしたところ、

 


「胡狛?」



 最初に目に入ったのは、会場となった場を動かずにいる胡狛。


 棒立ちとなり、じっと目を瞑って晶脳内に投入されたスキルの確認を行っている模様。



「はい、マスター。ハクトさんも…………、何かご用でしょうか?」



 俺が話しかけると目を開いて返事。



「いや、ちょっとな…………、そう言えば、胡狛は何で『植物学』を欲しがったんだ?」


 

 胡狛が希望として挙げてきたスキルは知識系。

 結局誰も被ることが無いだろうニッチなスキル。


 まだ心理学は分かるのだが…………

 確か、買い出しの時に変な爺に騙されそうになったって言ってたし…………



「えーっと、その…………」



 珍しく顔を赤らめ、恥ずかしそうな素振りを見せる胡狛。

 ちょっと特殊な性癖を拗らせてしまいそうになるくらいの可愛らしい仕草。



「む、無理には聞かないけど?」


「いえ! …………マスターからこの庭園の改造を承った件になります」


「ああ、確かにお願いしていたな」



 この庭園の防衛設備を含めた改造や、俺達が過ごしやすくなる為の改築は胡狛に一任している。

 その為の資材や道具を色々揃えてくれているのは知っていたが………

 


「お城周りが少し殺風景ですので、植物を増やしたいなと思いまして…………」


「ふむ?」



 胡狛は辺りを見回しながら答える。


 俺も釣られて見回せば、視界に入るのは雑草がぽつぽつと生えているだけの乾いた地面。

 少し離れると芝生や草木が生え茂り、青々とした緑が広がっているのだが、お城の周辺は寂しい感じ。

 おそらくは城を建設する時に重機や車のタイヤで踏み固められてしまっているのだろう。



「確かにもう少し緑があっても良いかもしれないな。その為に『植物学』がいると?」


「はい。白の遺跡で見た中庭のガーデニングは大変素晴らしいモノでした。できればここにもあんな風なお庭を造ってみようと思います。本当は『園芸』とかのスキルの方が良いのでしょうが………」



 胡狛はそっとしゃがみ込み、砂と乾いた土で占められる地面に触れる。


 白兎も真似をするように、鼻先で地面をホジホジ。



 ピコピコ

『この辺、緑を増やすには適した地質じゃないと思うけど?』


「そうですね。ハクトさんの言う通り、この周辺はあまりお庭造りに適した地面じゃありませんが、身近な所に緑を増やすことは環境の改善につながります。一度地面を掘り返して、地表の固い部分を取り除けばきっと多少は地質も改善するでしょう」


 パタパタ

『結構広いよ。マテリアル錬成器で一気に耕して見たら?』


「駄目なんです。『畑』や『田んぼ』もそうなのですが、マテリアル錬成器で作業を行うと砂粒が融合して歪な鉱物ができてしまったり、空気が無くなって植物を育てるのに適さない地質になってしまいます。ジョブシリーズ系の農作業系ならその辺を上手くやるみたいなんですが………」



 農作業系のジョブシリーズが以下の通り。


 ノービスタイプが機械種ヒャクショウ。

 ベテランタイプが機械種ファーマー。

 ストロングタイプが機械種グランドファーマー。

 

 この系統の機種を活かせるような土地の確保が難しいことから、ほとんど一般には出回っていない。

 しかし、レッドオーダーの出現率が低い東部領域ではこの機種を使った大規模農園が存在しているという。

 ただし、機械種ゆえ、実や穂になるマテリアルの回収業務はできないから、やっぱり最後は人間の手が必要となる。

 稲刈りといった原始的な作業から、コンバインのような農作業用機械を使うケースはあるけれど。



 ちなみに庭師系という機種もいて、

 ノービスタイプが機械種ガーデナー。

 ベテランタイプが機械種ランドスケーパー。

 ストロングタイプが機械種ガーデン・アーキテクト。


 こちらは庭の管理に特化した屋内職。

 警護もできることから、上流階級ではそれなりに人気のある機種。



 フルフル

『豪魔ならザクザク地面を掘り返してくれそう』


「あははは、そうですね。でも、この地下にはケーブルやパイプラインが通っているんで、あまり大雑把にはできません。それに植物を育てる地質にするには土に空気を混ぜるような耕し方が必要みたいなんです」



 白兎と地面の耕し方ついて語り合う胡狛。

 さっそく植物学のスキルが役に立っている様子。



 フリフリ

『僕も手伝うよ。緑は多い方が良いもんね。それに地面を掘るのは大得意さ!』


「ありがとうございます。でも、これは私のお役目ですので。まずは私一人で、出来る範囲からやってみたいと思います」


「無理をするなよ。お前に仕事を振ったのは俺だけど、全部自分だけでする必要は無いんだぞ」



 チームとして見れば、すでに粒ぞろいの優秀なメンバーを確保しているが、この空中庭園を保有するような組織としてはまだまだ人材不足。

 空中庭園の本拠地化の指揮は胡狛が適任なのであろうが、何もかもを自分だけで行うのは不可能。



「むしろお前に任せた任務を完璧にこなす為に、俺達を積極的に活用してくれ。それに…………俺も白兎もここが美しい緑一杯になった光景を見たい」


「…………承知致しました。その時はお力をお借りしますね」


 

 ゆっくりと立ち上がり、俺を真正面から見つめながら礼を言う胡狛。

 青く光る目は一点の曇りも無く、月明りに照らされたその顔は、思わず見惚れてしまうぐらいに美しい。


 俺の依頼を受けて、全身全霊を以って答えようとする胡狛の意気込み。

 その清々しい態度は、俺の心を強く揺さぶる。



「……………任せろ。俺の術に植物を操るモノがある。植物を成長させたり、癒したりもできるだろう。必要なら言ってくれ。ぜひともここをあの城の遺跡に負けないくらいの素晴らしい庭園にしよう」



 五行の術の1つ、木行の術であれば、植物を如何様にも操作できる。

 植物を青々と茂らせたままで保護することや、あっという間に大きくすることも可能。

 俺単体なら範囲は狭いが、『宝蓮灯』の力を使えば広範囲で行使できる。


 ただ、『宝蓮灯』を使用しての術の行使は、まだ慣れているとは言えない。

 大雑把にやり過ぎて地面ごとひっくり返してしまえば大惨事。

 実行するにはもう少し検証を進めねばならないだろう。


 胡狛の意気込みに報いる為、俺も頑張らねばなるまい。



「ありがとうございます。マスターも、ハクトさんも、私と同じ気持ちを抱いてくれて、とても嬉しいです」



 俺の申し出に対し、照れ臭そうに微笑む胡狛。


 それは今の俺と同じ歳か、ほんの少し下くらいの人間の少女にしか見えない姿。


 そして、夜という時間帯と、朧げな月光が降り注ぐ中の逢瀬。


 それ等が組み合わさった相乗効果は思った以上の効果を上げ、


 

 

 うわあ………

 とんでもなく可愛いな。


 鮮やかな黄色の髪は薄ぼんやりとした月明りの元では、しっとりと落ち着いた感じの金髪に見える。 

 頭の上のゴーグルも、色気を感じるには生活感がありすぎる作業着も、胡狛という少女の特徴を現すアクセサリー。

 決して女の子っぽい服装をしているわけではないのに、なぜか強く異性を感じさせる雰囲気を醸し出している。

 

 

 顔は間違いなくアイドル級。

 雑誌のグラビアでも載れば、店頭から一瞬で売り切れるであろうことが予想される程。

 そんな美少女が作業着を着ているというギャップが堪らない。



 この瞬間、確かに俺は胡狛の魅力に囚われていた。

 俺の好みから少し外れると思っていたけど、そんなこと関係無しに魅力的に見えたのだ。


 もし、もう少し外見年齢が上で、出会う順番が異なれば、胡狛が機械種であるとか関係無しに、女性として好きになっていたかもと思う程に。


 鼓動が激しく鳴り響き、顔が赤らむのを止められない。


 でも、それを見られるのは流石に恥ずかし過ぎる。



「……………で、ではな。また、何かあったら教えてくれ」


「はい、マスター」



 慌てて顔を明後日の方へと向け、動揺を悟られぬよう足早にその場を去る。

 

 俺に遅れまいと白兎も追いかけてくる。



「ふう…………」



 胡狛の視線が届かない所まで離れてから、ほっと一息。


 

 俺って、チョロ過ぎませんか?

 なんでこんなにドキドキしているんだよ………


 

 パタパタ

『マスター、ちょっと顔、赤い』


「うるせえ。急に走ったからだ!」



 下手な誤魔化しを白兎にぶつけ、次へと向かう。










「えぐり込むように打つべし! えぐり込むように打つべし!」


「あいあい! ヒスイ、上手上手!」


「キィキィ!」



 月夜に照らされる庭園を歩き回っていると、秘彗が一心不乱にシャドーボクシングをしているのが目に入った。


 周りには天琉と廻斗がいて、秘彗の練習風景を騒ぎ立てている様子。



「随分な入れ込みようだな。まさか秘彗が『拳術』のスキルが欲しがるとは思わなかったけど……………」



 流石は上級スキルと言った所だろう。

 秘彗のパンチはすでに玄人級。

 

 機体性能は完全に後衛だから、機械種相手には通用しないだろうが、それでも人間相手なら大の大人でもパンチ一発で昏倒させることができそうだ。



「ヒスイは体重が軽いんだから、もっとドンって踏み込んで、ビュッと突かないと威力が出ないよ!」


「こうですか? ………フンッ!」



 ビュッと踏み込みと同時に突き出される秘彗の拳。

 天琉のアドバイスの通り、さっきよりも威力が高そうだ。



「あいあい! 大分上手くなった! あとはねえ…………」



 天琉が秘彗を指導すると言う大変珍しい光景。


 幼い姿の2機が仲良さげにやり取りしているシーンは、実に微笑ましい。



 しかし、



「天琉………、秘彗の拳が振るわれる最初の相手は多分お前だぞ」



 邪魔にならないよう少し離れた所で2人のやり取りを聞きながら、ぽつりと呟く。 


 今までの言動を見るに、その確率が非常に高い。

 何かの拍子に天琉が秘彗相手に失言するのは目に見えている。


 まあ、秘彗が全力で殴りつけたぐらいでダメージは与えられないと思うけど。

 









「あれは……………なんか珍しい組み合わせだな」



 しばらく徘徊を続けていると、視界に入ってきたのはヨシツネと毘燭に浮楽の姿。

 何やら3機で話し合っているようだが…………



「どうした? 何か相談事か?」



 つい、気になって声をかけると、返ってきたのは『浮楽の新技について』という答え。



「へえ? 投入した『組締術(上級)』と『投倒術(上級)』を利用した新たな技か?」


「ギギギギギッ!」


 パタパタ


「フンフン………、ほう? 白兎の宝貝『梱仙縄』を参考にしたのか」



 以前、白兎はラズリーさんとの一騎討ちで、青い飾り紐である梱仙縄を伸ばし、相手を縛り上げることで疑似的な関節技を再現した。

 

 その話を聞いた浮楽が自分が生み出す鎖でも関節技を再現できないかを検討しているらしい。



「浮楽殿の技は多彩なれど、一つ一つの威力に乏しいという欠点があります。故に相手を拘束した上でダメージを与え続ける攻撃方法を編み出すことは有用でしょう」


「なるほどね」



 ヨシツネの説明を受けて納得。

 機械種エルダードラゴンロード戦での勝負も結局、最後はラズリーさんの一撃に頼る必要があったそうだから、ヨシツネの言うことも間違ってはいない。



「折角なのでマスターにも見て頂きますかな? 拙僧が今から標的を作成致しますので………」



 毘燭が杖を構え、前方へ突き出すと、20m程先に出現する人間大の石人形。

 マテリアル錬成器による鉱物操作。

 

 これならば遠慮することなく、全力で新技を試すことができるだろう。



「ギギギギギッ!」



 浮楽が毘燭へと感謝の言葉。


 その後に、標的へと振り向き、錫杖を持つ手とは反対の手の平を向けて、



 ジャララララララララララ……



 浮楽の手の平から飛び出した幾条の鎖。

 いつも現出させる鎖よりも若干、細めの仕様。


 それは蛇のようにくねりながら毘燭の作り出した石人形に絡みつき、その首、胸部、腰を縛り付けたかと思うと、



 ガリッ!!!



 浮楽がギュッと鎖を引っ張った瞬間、石人形の首、胸部、腰部分が両断。


 締め付けられた鎖によって瞬く間に4つに分断されてしまった。



「ギギギギギッ!」



 自身の成した技の結果に満足そうに喝采する浮楽。



「いや! 関節技じゃないだろ!」



 殺意の高すぎる技に、思わずツッコミを入れる俺。



「切断してるぞ! 『組締術』も『投倒術』も関係ないだろ!」


 ピコピコ

『真の関節技とは、0.5秒以内に相手の四肢を破壊するモノ………」



 騒ぐ俺の足元で、白兎が冷静に論評。



 フリフリ

『見事なり。これも天兎流舞蹴術の訓練を積んできた成果』


「どこがだよ! 殴っても蹴っても無いだろうが! …………というか、浮楽は天兎流舞蹴術を覚えてるのか?」



 そういえば、浮楽のスキル構成を見たのは、ブルーオーダーした直後だけだったな。


 気になって、Mスキャナーにて浮楽のスキルを確認してみると、

 



『天兎流鉄鎖絞殺術(仕事人級)』




「やっぱりスキル表記がバグってる! 『組締術』も『投倒術』もどこいったんだよ!」



 入れたばかりのスキルが影も形も見当たらない。

 どう考えても天兎流鉄鎖絞殺術とやらに吸収されてしまったとしか思えない。



 フリフリ

『鎖を投げて、締め付ける。これぞ闇の暗殺拳、『天兎流鉄鎖絞殺術』。流石は天兎流舞蹴術の一派!』


「また新たな流派を増やしているんじゃない!」



 白兎め!

 ラズリーさんの天地鳴動拳だけじゃなくて、さらなる流派を増やしてきた。

 このままでは素手武術だけではなく、近接武器の流派も現れて来そう。



「あと何十年かすれば、機械種の近接系のスキルは全部天兎流に塗りつぶされているかもしれん…………」


 

 起こりうるかもしれない未来に、えも言われぬ恐怖に震える俺だった。








 その後は、互いに投入した剣術スキルを試している剣風と剣雷の模擬戦を見たり、豪魔と輝煉相手に愚痴っているベリアルを宥めたりと時間を潰し………



「マスター、準備が整ったそうです」


「おう、そうか」



 森羅が駆け寄って来て報告。

 

 それはこの場にはいないメイド3機に任せていた仕事が完了したという知らせ。



「森羅、信号弾を」


「はい、お任せを」


 

 パンッ!!



 森羅が打ち上げた信号弾が夜空に閃光を瞬かせる。

 

 これは庭園に散らばったメンバーを再びお城の前に集める合図。



「さあ、向かうか」


「はい」



 城門前に移動し、皆が集合するのを待つ。


 と言ってもたった数分。


 どこまで行っても半径520mしかない庭園内だ。


 城の大きさが半径100m程だから、どれだけ離れても400mも無い。



「よし、全員そろったな」



 欠けたメンバーが居ないことを確認して、後ろを振り返り大きく手を振る。




 すると、




 今まで夜の闇に紛れていた城に明かりが灯りだし………




 ピカッ!




 3つあるうちの本棟だけではあるが、城内の照明が輝き出し、城門前に漂う夜の闇を一斉に洗い流す。



 ピョン!ピョン!

「わあ………綺麗」

「あい! すごーい!」

「キィキィキィ!!」

「ギギギギギッ!」

 


 いきなり煌びやかになった城の風景に騒ぎ出すお騒がせ組達。


 また、真面目組達もお騒がせ組ほどでは無いが、それなりに感動してくれている様子。



 そして、 城の入り口から出てくる影が3機。


 それは新しく仲間になった辰沙、虎芽、玖雀。


 どれも希少なメイド型ストロングタイプであり、戦闘系や補助系の職業を追加されたダブル。



 城の照明器具の点灯作業をしてくれていたのは、彼女達なのだ。


 彼女達は俺達が授与式をしている間、ずっと城の中で作業を行ってくれていた。


 何せ城内の設備の照明は一部を除いて線が繋がっていない状態であり、一部屋ずつ接続していく必要があったから。


 幸い、機械種ウイングメイドと斥候系の機械種ホークアイのダブルである玖雀が僅かながら黄学の知識を持ち、辰沙と虎芽がサポートすることで本棟だけではあるが、作業を完了させることができた。



「さて、次は恒例の新メンバーの自己紹介だ」



 皆の注目を浴びるメイド型3機を見ながら呟く。



 自己紹介と言っても、この場にいるメンバーの大部分とすでに顔見知り。


 旅の帰り道でずっと一緒だったから当たり前。


 さらには俺がずっとガレージで籠っている間にも、豪魔、輝煉、ベリアルとは顔合わせしている…………、まあ、ベリアルはずっと無視していたみたいだけど。


 しかし、こういったことはきちんと場を設けて行うのが俺の方針。


 さあ、今回はトラブルなく終わるといいけど…………

 

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